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68話 窮鼠、猫を噛む

「さて、これでわかってくれたかい?『ボス』に反旗を(ひるがえ)したのは君の方かもしれないんだよ?」


 ニッコリと笑って晴葵が言う。


「そんな……バカな……」


「裏切りを疑いすぎて、自身が裏切り者に堕ちかけている事にも気づけぬとは……愚かであるぞ?」


 匡也も晴葵の横に並んでサンピに声をかける。


「ま、敵である俺達には関係ないけどね。さっさとその三人を解除してあげた方がいいんじゃないかな?」


 ガックリと膝をつくサンピ。


 同時にサン、ヘータ、ショーの拘束が解除され、地面に降り立つ。


「……ん」


 うっすらと目を開くヘータ。


「わ、吾輩たちはどうなったのだ!?」


「うるせぇゾ……ケッ、アイツらに助けられた見てぇダナ」


 自身の拘束が解かれたこと、サンピが膝を突き、晴葵達がニヤニヤしている事から、だいたいの事情を察するサン。


「さて、んじゃ俺達はとっとと退散させてもらおうかな」


 呑気に屋上から去ろうとする晴葵達。


「……ない」


「ん?」


「逃がさない。『ボス』に(そむ)いた行動をとってしまったのなら……なおさら!お前達は逃がさない!」


 叫び、突進してくるサンピ。


「そう来る……か!」


『デリートソード』で突進の威力を逸らす晴葵。


 しかし唐突だったため、攻撃を流しきれず吹き飛ばされる。


「晴葵先輩!」


「次はお前!」


 サンピの槍が文菜に向かって突き出される。


 目を瞑る文菜。


 しかし、彼女が貫かれることはなかった。


「え……?」


 目を開けると。


「やれやれ、急にキレるとは恐ろしいねぇ……せっかく、いい谷間の持ち主なんだけど」


 晴葵がサンピの槍を『デリートソード』で受け止め、彼女の谷間を覗くように見つめていた。


「消えろ!」


 槍を振り上げるサンピ。


「おっとっと……さて。向こうの三人の誤解も晴れたし、俺達は再び緊急脱出と行きますかね。『デュアル・コマンド』音声認識!」


 晴葵が叫ぶと、ピピッとガラケーの『デュアル・コマンド』が起動する音が聞こえる。


 そして。


「さて、さらばだ『生真面目女』!緊急脱出用『エラー・プログラムVer.2』!発ど」


 う。


 晴葵が発音する寸前で。


「止まりなさい」


 空から女の声が聞こえると同時に、晴葵のガラケーがピタリと止まる。


「これは……!」


「晴葵、緊急脱出でごさる!」


 匡也が叫ぶ。


「出来ない。くそ、どうなってるんだ!」


 慌てる晴葵達。


「今の声が俺達の言う『ボス』だ」


 気だるげで暗く、面倒くさそうな声が遠くからやってくる。


 そこに現れたのは、黒色の髪をした一人の男だった。

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