57話 君だけの言葉で
昼食をフードコートで食べ、家に戻ってきた幸大達。
晴葵は「少し用事が出来た」と、どこかへ出て行ってしまった。
また無茶するのではと心配した者もいたが、信用して送り出した。
そして、夕食頃になっても晴葵は戻ってこない。
「ちょっと、いくらなんでも遅すぎない?」
文菜が心配そうに呟く。
「ま、まあ安心されよ。もう『デュアルワールド』へ行くことは不可能となったのだ。危険な事はしたくても出来ぬ」
匡也が微妙なフォローを入れる。
「けど……もし晴葵が少しでもプログラミングの技術があれば、新たなガラケーを持っていてインストールし終わっていたとすれば……」
「ち、千弦ちゃん。考えすぎだよ」
全員に不安が押し寄せる。
幸大自身もそうだった。
いつもこういう時は、真っ先に晴葵がなだめてくれる。
自分達を安心させてくれた。
しかし、その晴葵が今はいない。
文菜や千弦はもちろん、匡也や小弓だって晴葵の居ないという事実に怯えている。
自分達の中でいかに晴葵という存在が大きいか改めて実感させられた。
各自の個性、現状、トラウマ。そのすべてを見極めた上で晴葵は自分達を守ってくれていたのだ。
その精神的支えがない今、五人は限界だった。
「……探しに行きましょう!」
文菜が立ち上がる。
「で、でも……どこを?」
小弓が泣きそうな顔で尋ねる。
「晴葵!返事をせよ!晴葵!」
匡也が晴葵のガラケーに電話をかける。
「晴葵……」
呆然と呟く千弦。
全員が壊れかけていく。
「どうすれば……助けてくれ……晴葵!」
幸大が自分のガラケーを強く、祈るように握りしめる。
こんな時、晴葵なら。
晴葵ならなんて……!
その時。
『それは、幸大が決めることだよ』
「え!」
驚いて周囲を見回す幸大。
しかし、そこには今にも壊れてしまいそうな仲間達がいるだけだ。
声は続く。
『俺の真似をしてもダメさ。幸大は黒一晴葵じゃない。君は緑二幸大だ。だから、君は君にしか出来ない、君にしか言えない言葉があるはずさ。俺の『仲間』の幸大は、誰よりも平凡で誰よりも地味で、そして誰よりも優しくて、本当は誰よりも心が強い。そんな幸大自身を、俺は信じてる』
頭の中に響いてくる晴葵が笑った気がした。
「晴葵……!」
幸大はぎゅっと強く手を握った。
不安は、消し飛んでいた。
「みんな!晴葵を信じようよ!僕達は『仲間』だろ!仲間を!晴葵を!信じて待とう!」
幸大が強く叫ぶ。
全員がポカンと幸大を見ている。
幸大に後悔と不安が蘇ってくる。
「ご、ごめん……リーダーでも晴葵でもない、地味な僕が何言ってるんだって話だよね……」
幸大がみんなに謝ろうとした。その時。
「いやぁ、いい言葉だったね。幸大にしか言えないセリフ。少し感動してしまったよ」
幸大の後ろのドアから拍手が聞こえる。
そこに立っていたのは。
「あ、あぁ……晴葵……先輩!」
文菜が思わず飛びつく。
「おとと……遅くなって済まないね。色々と手間取っててね」
「本当に、遅すぎよ……バカ」
「心配したよぉー!」
千弦と小弓もホッとしたのか涙を見せる。
「は、晴葵ー!ぐべぇ!」
匡也も飛びかかろうとするが文菜に蹴り飛ばされる。
「幸大、よく頑張ってくれたね。ありがとう」
晴葵がニコリと笑う。
あぁ、やっぱり晴葵の居る六人が安心するな。
「おかえり、晴葵」
幸大の言葉に晴葵は優しく笑ったのだった。
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