44話 内緒の晴葵
七月七日、七夕。
幸大達は朝から教室の飾り付けを手伝っていた。
「っていうか、晴葵は?」
幸大が最も仲が良いであろう文菜に尋ねる。
匡也でもいいだろうが、彼の場合理解に時間がかかる言い回しをするため、遠慮した。
「なんでも『用意する物があるから先に七夕の準備をしていてくれたまえ』とのことです」
七夕用の短冊を作りながら文菜が言う。
「たいへんたいへーん。家のドア閉められてて入れないよー」
家にサイフを取りに行った小弓がえーんと戻って来る。
「カギまで閉めるなんて……どうせまた私たちを驚かせるようなものを作ってるんでしょ。放っておけばいいわ。小弓、食事代くらいなら貸しておくから。後で返してくれればいいわ」
「ホント!千弦ちゃんありがとー!」
女子に対しては年上でも『ちゃん』づけの小弓。
恐れ知らずというか天然というか。
「ふっ、しかし千弦殿よ。お主も中々に晴葵のサプライズを楽しみにしているようであるな。口では文句を言いつつも嬉しそうにソワソワしておる」
七夕用の笹を持った匡也が決めポーズで呟く。
「なっ!べ、別に期待なんてしていないわ。勝手なこと言うと暗黒の泉に落とすわよ!」
顔を真っ赤にして千弦がムキになる。
「ふっ、残念であったな。拙者は暗黒の泉から復活するための聖なる翼を持っておる!」
「へぇ、残念なのはそっちね。暗黒の泉では聖なる翼は枯れ果て、天界の力が使えないのよ」
「なに!くぅ、ならば封じられたあの力を使う時なのか……」
「あなた、いくつ封じられてるのよ!」
ワイワイと匡也と千弦が話し合っている。
「あの匡也に対抗できる千弦って……すごいなぁ」
幸大が呆れ半分で二人のやりとりを見ている。
「でもでも、晴葵先輩って企画担当だから、何かを作るなら匡也くんも一緒に残すと思うのに、何をする気なんだろうね?」
小弓がうーんと考える。
確かにそうだ。
以前の話を聞いても晴葵は直接物作りをするエンジニアには向いていないと思う。
匡也という相棒も共に連れていくだろう。
なのに、現在は一人で何かをしている。
「……ねぇ、まさかとは思うけど一人であの『閉鎖空間』に向かったなんて事はないよね?」
文菜が緊張したように立ち上がる。
全員に緊張が走る。
「なっ、まさかそんなこと……何のために!」
幸大が立ち上がり慌てて否定する。
「そ、そうだよー。あんな危険な場所に一人で行くはずないよ……」
小弓が心配そうに立って呟く。
「いや、逆かもしれないわ。あの世界で私達は危険な目にあった。あの男なら私達に危険が及ばないように一人で向かったのかも。それなら、匡也を連れず一人で残っていることや家に入れないことも説明がつくわ!」
千弦も慌てて席を立つ。
「晴葵ならそれくらいの無茶はあり得る!」
匡也も椅子を倒さんばかりの勢いで立つ。
「家に戻ろう!」
幸大の提案で全員が慌てて教室を出ていく。
「え、ちょっと、みんなー。七夕の用意はー!」
女先生の声が背後でするが、今はそんなことに構っていられない。
校舎を飛び出し、五人は家に向かって全速力で走っていった。
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