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42話 逆転からの反転

「デリートソード……だと」


 ロングマフラー男が距離を取りながら尋ねてくる。


「そう。本来は『デュアルワールド』というゲームで自動生成されるスライムやドラゴンを倒すための武器でね。黒いパラメーターを持つ敵に向かって適切な距離で振ると、ダメージを与えて体力を削るものさ。しかし、君も裸眼では見えなくて、メガネ越しだと見えるという事はデータの塊だ。つまり、この『デリートソード』で消滅させれる相手ということさ」


「き、さまぁ……!」


 (うら)めしそうに晴葵を睨みつけるロングマフラー男。


「悪いけど。こちらに危害を加えてくるなら遠慮はしないよ」


 晴葵が再び居合の構えをとる。


 その時。


「なんダ?一人かと思ったらいっぱい居やがるじゃねぇカ」


 晴葵が慌てて声のする方を見ると、巨大な黒い骨のような手の女が、軽々と文菜達の隠れているテーブルを持ち上げている。


「しまった!」


 ロングマフラー男がニヤリと笑う。


 形勢が逆転した。


「動くなよ。貴様の仲間の安全は保証されないぞ」


 ゆらりと晴葵の目の前までやってくるロングマフラー男。


 そして。


「先程はよくもやってくれたな!」


 ガンッと晴葵の頬を殴り飛ばす。


「ぐぁ!」


 吹き飛ばされる晴葵。


「晴葵先輩!」


 文菜が涙目で叫ぶ。


「テメェらが何しにココに来たかしらねーガ、ウチらの領土荒らしてタダで帰れると思うなヨ?」


 骨腕の女がケラケラと文菜に話しかける。


「拙者達はお主達の領土を荒らしに来たわけではござらん!気づけばここに飛ばされただけ!」


 匡也が抗議するが。


「ありえねぇナ。ココはそう簡単に来れるトコじゃねぇんダ。それも気づいたらココに居タ?冗談よせヨ」


 ケラケラと笑う骨腕の女。


「本当だもん!」


 小弓が大声で叫ぶ。


「……千弦。この女の気を引いて欲しい」


 これまで黙っていた幸大が千弦にポツリと話しかける。


「え?どうして……」


「僕を信じて、お願いだ」


 強い瞳で千弦を見る幸大。


 その目は強い意思で燃えていた。


「……わかったわ」


 背中で幸大を隠すように動く千弦。


「む、テメェ何してル」


「あら、そんなに警戒して私の事が怖いのかしら?本当に強ければ気にする必要なんてないと思うけど」


 少しオーバーな動きで骨腕女の気を引く千弦。


「ケケ、面白ぇ事言いやがル。テメェから引き裂いてやろうカ?」


 ニヤニヤとギザギザの歯を見せて笑う骨腕の女。


 そして、意識が千弦に完全に向いた瞬間、幸大はロングマフラー男に向かって駆け出す。


 その手には『デリートソード』を装備した緑のガラケーが握られていた。


「うおああああああああああ!」


「なに!がっ!」


 ロングマフラー男に体当たりする幸大。


 吹き飛ぶロングマフラー男。


「ナニ!おイ、テメェら!」


「甘い!行かせぬ!(うな)れ!拙者のデリィィィィトソォォォォド!」


 千弦に伸ばした黒い骨の腕を匡也の黄色いガラケーから伸びるデリートソードが弾く。


「みんな!今のうち!」


 小弓の号令で外に出るドアに向かって駆け出す六人。


「もうすぐだ!」


 地下の専門店を抜ければ出口はもうすぐ。


 ドアを視界に捉えた!


 しかし。


「どこへ行く!」


 出口のドアに立ち(ふさ)がるように邪魔をするロングマフラー男。


「中々やるじゃねーカ」


 愉快そうに晴葵達の背後から歩いてくる骨腕女。


 まさに絶体絶命だった。

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