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41話 デリートソード

「……そこか」


 ロングマフラーの男がこちらに一歩ずつ近づいてくる。


 このままでは見つかるのも時間の問題だろう。


「……文菜。俺がアイツの気を逸らすからタイミングよく逃げるんだよ」


「え……?」


 わざとらしく大きな音を出して立ち上がる晴葵。


「あらら……隠れきれなかったか……」


 わざとらしくヤレヤレとため息を吐く晴葵。


「……貴様一人か?」


「そうだね」


 ハッキリと顔が確認できる位置になると、ロングマフラー男の横に黒い体力バーのようなものが表示される。


「おや、エネミーかい?」


「俺の姿を確認できるとは……貴様は何者だ」


「俺は黒一晴葵。ただの善良な一般人だよ」


 紳士のように優雅なお辞儀をする晴葵。


 そして、顔を上げる瞬間。


 晴葵は作戦通り、メガネ越しではなく裸眼で敵の位置を確認する。


 が。


「……やはりか」


 裸眼では敵を(とら)えられない。


 いや、正確には『デュアルワールド』用のメガネ越しでないとロングマフラー男が『視えない』のである。


「どうした?」


 ロングマフラー男が怪訝(けげん)そうに尋ねてくる。


「いや、何でもないよ。データ君」


 晴葵が一歩ロングマフラー男に近づく。


「データ……だと?」


「あぁ、実体がない数値の集まりであるデータ君。それが君だろ?それとも……見たまんまロングマフラー男の方がいいかい?」


 わざと(あお)るように晴葵がニッコリと笑う。


 ロングマフラーの男は拳をわなわなと震わせて突進してくる。


 勢いよく横向きに走り出し、みんなからロングマフラー男を遠ざける晴葵。


「ふざけるな!」


 晴葵に殴りかかるロングマフラー男。


 寸前で横に転がり(かわ)す。


 テーブルは真っ二つに割れて周囲に吹き飛ぶ。


「データなら……これが効くはずだ!」


 体勢を立て直し逃げ回るのをやめて、まるで居合抜きでもするかのように構える晴葵。


「あ、あれは……!」


 テーブルの下に隠れる匡也が何かに気づき小さく声を漏らす。


「舐めているのか……貴様ァ!」


 飛び上がって晴葵に殴りかかるロングマフラー男。


 しかし。


「見切った!」


 大きく腕を振る晴葵。


 するといつの間にか晴葵の腕に光る一筋の刃が現れる。


 ロングマフラー男の体に斬撃が入る。


「ぐおっ!」


 慌てて後方へ飛び退くロングマフラー男。


「ふぅ、やっぱり成功したね」


 構えを()く晴葵。


「い、今のは……」


 フラフラと晴葵を睨むロングマフラー男。


 晴葵の手に握られていたのは、黒色のガラケーだった。


「これは『デュアルワールド』で仮想の敵を倒すための武器。ガラケーの先端から伸びる、敵データを消滅させる仮想の刃。その名は『デリートソード』だよ」

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