38話 待ってる
唯一冷静な晴葵が千弦に事情を説明する。
「つまり、私達は閉じ込められたわけね」
なにか考え事をするかのように千弦が尋ねてくる。
「あぁ、そういうことだね」
「そう……」
しばし口元に手を置いていた千弦が建物から出ようとする。
「ど、どこに行くんだい!」
慌てて幸大が声をかける。
「調べものよ。あいにく私は震えて時が過ぎるのを待つより、自らの力で調べてから絶望する派なの」
自身の『デュアルワールド』セットをポケットにしまい、ドアに向かう千弦。
「なら、俺も手伝おうじゃないか。技術はないけど、女子が一人で行くよりは安全だろう。いざという時は盾にしてくれて構わないさ」
冗談っぽく呑気に笑う晴葵。
千弦は少し考えたあと。
「……お願いするわ」
「待ってるぞ、みんな」
晴葵は頷き、千弦を引き連れ部屋を出て行った。
残された四人。
「な、なんで晴葵と千弦は平気なんだ……帰れるかわからないのに……」
「晴葵先輩……私も行く!」
恐怖は……ある。
けれど、自身の敬愛する晴葵が行くというのだ。
ならば文菜の取る行動は一つだった。
ガラケーとメガネを持って追いかける文菜。
「あ、文菜ちゃん!ど、どうして……」
小弓が震える声で尋ねる。
「……晴葵先輩と女子が二人きりって……私が許せないの。それだけ」
同じく震える声で文菜が小弓に笑う。
そして、晴葵達を追って飛び出して行った。
「……ふっ、負けてられるか!今こそ!拙者の封じられた『音速移動』を見せる時よ!待っておれ!晴葵!千弦殿!」
同じくすぐさま文菜を追う匡也。
「みんな……やっぱり、みんなは強い。僕は……弱いよ」
幸大が震える声でその場に座り込む。
もうダメだ。
膝を抱えて下を向く幸大。
その前に立ったのは、小弓だった。
「行こう!幸大先輩!」
「え?」
「とっても怖いけど!みんなは残ってる私達のために行ってくれたんだよ。だったら、私達も追いかけて並ぼうよ!つらいことも怖いことも伝えてこそ『仲間』でしょ!」
小弓が珍しく真剣な目で幸大を見る。
「でも……」
「待ってるって晴葵先輩言ってたよ!私達が来るって信じてるんだよ!晴葵先輩や文菜ちゃん、匡也くんや千弦先輩だけに怖い思いはさせれないよ!」
励ましてくる小弓。
その顔を見た幸大は驚いた。
まるで、今にも泣きそうな顔じゃないか。
震えるほど怖いのに。
進もうとしている。
なのに、自分は……!
強く拳を握りしめる幸大。
袖で乱暴に涙を拭いて立ち上がる。
「……行こう、小弓。晴葵の……『仲間』の所へ!」
小弓の手を握って走り出す幸大。
その目は『無敵の六人』の一人に相応しい、熱い瞳だった。
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