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32話 美しき猫

 次の日、晴葵達は複数の生徒から質問攻めにあっていた。


 晴葵と小弓はマイペースに、匡也と文菜はノリノリで、幸大は困ったように迫り来る質問に返していた。


 結局、解放されたのは昼食時、午前の通常授業が終わって質問サイドが下校するまでだった。


「やっと解放された……」


 疲れたように机に突っ伏す幸大。


「ふっ、あの程度の質問というビッグウェーブに乗れなくては、まだまだだな」


 匡也が何やら作業を進めながら話す。


「はいはい。僕の修行が足りませんでした」


 幸大もわざとらしく謝る。


「ところで、何してるの?」


 匡也の手元を覗き込みながら幸大が尋ねる。


 匡也はガラケーと小型パソコンを繋いで何やら作業をしている。


「以前『デュアルワールド』にエラーが起きたからね。その修正さ」


 トイレから戻ってきた晴葵が幸大に説明する。


 すぐさま、文菜が晴葵の隣に座る。


「な、なるほど……けど、このガラケーって匡也のじゃないよね?」


 幸大はパソコンと繋がれている『青色』の回転式のガラケーを指さす。


「これは試作用の原型機、いわば!プロトタアアアアアイプ!」


 普通に『プロトタイプ』って言えないんだろうか。


 匡也の説明は続く。


「しかしプロトタイプと言っても、ただの試作機ではない。この青色は最も最初に完成品に近くなる!いわば、最も完成された最新タイプである!」


「要するに、最初に改造するってことは、最初に完成するってことだから、最新のタイプって言いたいんだよ」


 晴葵が匡也のアバウトな説明を要約する。


「晴葵先輩、わかりやすいです!」


 文菜がさすが!と晴葵に拍手する。


「でもでもー!いくら最新型でも使う人いないんだよね?それってちょっと可哀想……」


 小弓がしょんぼりとする。


「む、確かに。それは一理あるかもしれんな。作られて使い手がおらぬ名刀の気持ちか……」


 そんな時、教室に入ってくる一人の女子。


 颯爽(さっそう)と教室を歩く姿はある意味絵になる美しさだ。


 文菜や小弓を犬やウサギのようで『可愛い』と言うなら、向こうは猫のようで『美しい』。


 そんな印象を与える女子だ。


 午後からの特別授業の生徒だろうか。


 晴葵が考えていると。


 女子が教室を見回し、パソコンとガラケーを繋げて作業をする匡也に気づく。


 そして、晴葵達の所にやってくるとバンと机を叩き匡也を振り向かせる。


 そして、苛立(いらだ)たしげに言い放った。


「あなたかしら?私の完璧なデータを送り返してくれたのは?」

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