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6、良い先輩

さて……魔法の模索だが、これに関しちゃアテがない。

昨日の夜色々と振り返っていた時に偶々『俺でも魔法使えるんじゃね?』と思い立っただけだしな。

事前情報が一切ない。せめて手掛かりだけでも今日は手に入れたいところだ。


とりあえず、ギルドに行ってみる。

同業者からも何か情報が得られるかもしれないし、どんな仕事があるのか下見ができる。

別に冒険者として大成したいわけではないが、ノルマがあるからな。

ここにいる限り俺は冒険者として『無職』は防げる。さすがに無職はマズいだろ。

いや、大召喚士グランドサマナーは職業であって仕事じゃないから。


ゴルドーの店に行ったため少し時間がかかったが、冒険者ギルドにやってきた。

俺がドアを開けると、中にいた人たちがこちらをチラチラ見てくる。

下級竜レッサードラゴンのことがバレた……? そんな馬鹿な。


「……おっ、君達、昨日冒険者登録に来た人だろ?」

「……っ、お、お前は……ッ!」

そう、コイツは……

「……変態的観測サイズスコープ先輩!!」

「ふっ、覚えててくれたか」


「さて、今日は何をしに来たんだ? 仕事をしに来たって感じでもないけど」

俺の突然な遠回しの変態呼ばわりを軽く返したこの冒険者は、シュタインと名乗った。

無駄にかっこいい名前しやがって。

「いや……俺は召喚士なんだが、普通の魔法も使えるんじゃないかって思って……

要するに魔法の情報収集だな」

「……む? 君、『聖別の儀』受けてないのかい?」

また、大層な名前が出てきたな……


「『聖別の儀』を知らないとは……君、どんな田舎から出てきたんだい?」

「失礼な」

「ハハ、まあ怒るな。せっかくだから教えてあげるよ。『聖別の儀』っていうのはね……」

シュタインの話を纏めると、この世界の人間は10歳になると『聖別の儀』なる儀式を街の教会で受けるそうだ。

そして『聖別の儀』では、自身に適性のある職業が神から示されるらしい。

……まあ、『解析スキャン』を発展させた魔道具を使っているだけという話だが、普通の『解析スキャン』持ちが将来に向いた職業を調べられる訳でもなく、受ける側は自身の将来設計の指標になるし、協会側は『儀式代』という名のお布施が入るWIN-WINの関係があり、これがこの世界における常識らしい。


そしてその『聖別の儀』で分かることがまだある。

『適性のある魔法属性』と『特殊スキルの有無』。

おすすめ職業が剣士であろうと魔法使いであろうと、それこそ召喚士であろうと、その時適性のある魔法属性が判明するのだとか。世の中に少ないながら『魔法剣士』がいる理由である。

『特殊スキルの有無』は言わずもがな。

俺が召喚したチート級の奴らは当然のように特殊スキルまで持っていたが、この世界での特殊スキル持ちはごく一握りで、そのいずれもが非常に強力。

10歳時点で将来の軍属を約束される場合もあるらしい。


「……長ったらしい説明になったけど、理解できたかな」

「ああ。参考になった。ありがとう」

しかし、昨日の発言で完全に変態認定してしまっていたが、面倒見のよさそうな人柄だ。

ノリもよさそうだし、知り合いの少ない身としてはこれからも仲良くしたいね。


「……じゃあ、教会に行けば適性のある魔法属性が分かるわけか……だが……」

そう、俺は特殊スキル持ちだ。教会を通して噂が広まるのは避けたい。

「何か教会に行きにくい理由でもあるのかい? その魔道具を購入するって手もあるけど」

「それだ!!」

「い、勢いが良いね……でも、高額だよ。安くても金貨5枚程度する。だからこそ皆『聖別の儀』を受けるのさ」


「金貨5枚か……まあ許容範囲内ではあるけどな」

「太っ腹だねぇ。でも、冒険者やってるとお金って結構使うよ。壊れた武器や防具の修理とかにね。

あんまり無計画に使うのは推奨できないよ」

「心配どうも。だが、実際金はあるし、行きたくない教会に行かずに済むんなら利のある投資さ」

「頑なだなぁ……まあ、君がそれでいいなら止めないよ。教会に行きたくない理由も聞かない」

やだ……シュタインさん優しい。めっちゃええ人やんけ。変態扱いしてごめんな……


「今すぐ行くのかい? だったら魔道具店も紹介するよ?」

「今すぐではなくていいが教えてくれ……何から何まですまん」

「いーよいーよ、人間助け合いが大事ってね」

まだこの世界に慣れていない身としては、シュタインのような人間は非常にありがたい。

シュタインには迷惑をかけるが、今のうちに色々と聞いておこう。


「今日はありがとう。色々とためになったよ」

「どういたしまして。俺も君のような前途有望な新人に頼られて嬉しいよ」

今日は収穫が多かった。シュタインと知り合えたのがとても大きい。

「ところで、アルト」

「何だ?」

「俺だけじゃなくて、彼女にも構ってやれよ!」

「なっ……違!!」

「ハッハ、遠慮しなくていいよ!! ほら、彼女も満更でもなさそうだ」

「ハルちゃんみたいなこと言いやがって……そんなんじゃないって俺たちは」

「んー……君はあれだね。魔法よりも乙女心を理解した方がいい」

違うってのに……まったく、困ったもんだ。


「今日はこれからどうするんだい? せっかくギルドまで来たんだし、今ある依頼でも見ていくことをお勧めするよ」

「ああ、元々そのつもりだ。最悪でもノルマ分は働かないといけないからな。小遣い稼ぎ程度には頑張ろうと思うよ」

「あんまり依頼を舐めるのも危険だけどね……最初は弱い魔物の討伐か薬草なんかの採取がお勧めだよ」

「忠告どうも。気をつけることにするよ」


「俺たちが受けられそうな依頼は……この辺りかな」

依頼書が所狭しと貼られている掲示板の前に陣取って、依頼内容を確認する。

『青月草』の採取、『ゴブリン』討伐、『コボルト』討伐……他にもあるが、似たようなもんだ。

解析スキャン』は持っているとはいえ薬草の心得などない俺達にはきつい作業になりそうだな。

やはり実戦経験を積む為にも弱い魔物の討伐を受けるべきか、それとも安全を取るのか……


「あの、そこどいてくれる? 依頼書見れないでしょ」

「ん? ああ、すまん。邪魔だったか」

俺にそう言ってきたのは、赤髪の大剣を背に担いだ女性だった。

スレンダーな体にはミスマッチだなァ、大剣。


シュタインのところに戻ると、シュタインは先程の赤髪の女性を見ていた。

「アルト、運がよかったね。彼女、特殊スキル持ちだよ」

「え、そうなのか? 確かに体形に見合わない大剣担いでるけど」

「うーん、それは単に彼女が鍛えてるだけだと思うけど。

彼女はAランクのソロハンター、マリベル。またの名を『逆境の戦士』」

二つ名て……俺なら恥ずかしくて堪らんですわ。


しかし、特殊スキル持ちか。

この世界の住民で持っているのは初めて見るな。

「Aランクってことは、やっぱり強いのか?」

「うーん、平時はCランクくらいの強さなんだけどね。

相対する敵が自分より強かったり、自身がピンチの時には強くなるっていう特殊スキルを持ってるみたいだよ。あんまり詳しいことは知らないんだけどね」


「まあ、今の俺には関係はないか」

「そうだねぇ、ランクの関係もあるし、彼女自身ソロだ。何なら冒険者人生でもう縁はないかもだ」

まあ、そんなもんか。

そもそもパーティを組んだり合同で依頼を受けない限り冒険者同士の関わりはほとんどないしな。



「……こんばんわ」

「ん? あら、昼間の……」

その後、シュタインと別れ、忘れていた普段着の購入などを済ませ、夜。

相変わらず『春一番』に来た俺たちが見たのは、昼間の女性冒険者、マリベルだった。

……世界って狭いね。


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