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2、規格外

___最悪だ。

アルトが自身の能力で遊んでいたのと同時刻、キースはそう心の中で呟いた。

キースは同僚10人程と、とある人物の護衛のため森を訪れていた。

といっても、護衛対象について行っているだけなので森に用があるわけではない。


絶対に失敗できない仕事だった。

こうなってしまった以上、自分たちの命を投げ打ってあの方だけでもをこの場から逃げさせなければ。

しかし、それすら叶うか怪しい。

何が起こっているのかというと……


「クソ……!! 何でこんなところに下級竜レッサードラゴンがいるんだよ!!」

「文句を言ってる暇があったら動け!!

馬もやられた! 誰かあの方を連れて逃げろ!! 命令だ!!」


下級竜レッサードラゴン

人間の数倍もある体長を誇り、ブレス攻撃や巨体を用いた突進攻撃など強力な攻撃手段を豊富に持つ。

上位種であるドラゴンには遠く及ばないが、人間にとっては十二分に脅威となる魔物。

本来は訓練を積んだ人間が20人以上のパーティーを組んでようやく倒せるとされている。

相当に熟達したとはいえ本来の必要数の半分ほどしかいないこの状況では、全滅が濃厚だ。

(クソ、私もここまでか……!! 覚悟を決めろ!)

キースは震える手を無理やり押し込め、剣の柄に手を置く。


「キース!!」

死を覚悟した次の瞬間、背後から声が聞こえた。

あの方の声だ。大方、私達を心配しているのだろう。

お気持ちはありがたいが、まず間違いなく私はここで死ぬ。

「お逃げください、セレス様! 我々が足止めを致します故!」

「……!!」


……セレス様はお逃げにならない。

ここで我々が死ぬことに責任を感じているのだろうか。

セレス様をお守りするのが我々の仕事だというのに、自分が情けない。

「グレイル!! 無理にでもセレス様を逃がせ!! 頼ん……」


そこまで言いかけると、突然空気を裂くようなピイイィィィ、という轟音が鳴り響いた。

「な、何だ今のは……鳴き声か!?」

ふと薄暗い森がより一層暗くなり、何事かと空を見上げると……


次の瞬間、ドォンという音と共に、ただでさえ大きな体躯を誇る下級竜レッサードラゴンが巨大な鳥の脚に鷲掴みにされた。

そのままその巨鳥は上昇し、勢いをつけて再び下降。下級竜レッサードラゴンは地面に叩きつけられ、その巨体は無残にも押しつぶされ、絶命する。


「な、なんなんだ……!?」

七色に輝く羽毛を持つその巨鳥は下級竜レッサードラゴンを手放すと地面に降り立ち、キース達を見据えて動かなくなった。

「……味方なのか? 敵なのか……!?」

「ああ、多分味方ですね。そう警戒しないでください」

「!?」

「ラティス、ちょい下ろしてくれ」


返事など期待していなかったが、まさか人が乗っていたのか!?

巨鳥の翼を斜面を滑るかのように降りてきたのは、黒髪の、見たことのない服装をした若い男だった。

まさか、このような者が下級竜レッサードラゴンを一撃で葬るような巨鳥を使役しているというのか……!?




「うーわ、派手にやったね……ぐっちゃぐちゃじゃん」

俺はひどい状態で絶命したドラゴンっぽい魔物の死骸を見ながら言った。

おっと、今はそれより……

「えーと、皆さん大丈夫でしたか? 襲われていた風だったのでお手伝いしたのですが」

「「「……」」」


む、反応がない……

言語が通じてないわけじゃないよな? さっきちょっと会話できたし。

困った俺が頬をポリポリ掻いていると、鎧を着た集団のうち一人がハッとしたように俺に話しかけてきた。


「き、貴殿はいったい……」

「ん? 俺ですか?」

困ったな……馬鹿正直に異世界から来たなんて言えないし。

まあ、ここは無難に……


「は、はあ……他国からこの国に?」

「ええ。色々と用事があって。 そちらは?」

「あ、ああ。失礼した。私はリベリオ王国騎士団近衛、キース・ベルモンドという」

お、王国騎士団!? 随分と大物じゃないか!

そういえばあちらさん皆鎧に同じ紋章が刻まれてるな……


「……ん?ということはまさか、そちらのお嬢ちゃんは」

「ええ。彼女は……」

「セレス。セレス・フォン・リベリオです」

俺たちの会話を聞いていたのか、後ろの方にいたブロンドの髪が綺麗な10歳ほどの女の子がこちらに来て、スカートの端を持ち上げて俺に頭を下げてきた。


「王族の方でしたか……えーと……」

まずい。どう喋ったらいいかわからん。

ちょっと年下くらいなら敬語でも普通に話せるのだが、こう子供相手となると……

俺がおろおろしているのに気付いたのか、セレスはクスッと笑い、

「楽な話し方で構いませんよ。貴方様は私たちの恩人様ですし、私も畏まられるのは好きではありません」


「そうか。じゃあそうする。ありがとう」

王族にそれでいいのかと自問はしたが、まあいいだろ。許可出てるし。

「ところでアルト殿。この巨鳥は……」

「え?ああ、コイツですか?

ラティスっていうんです。かっこいいでしょ?」

「か、かっこいい? いや、そうではなく、何ですかこの化け物は!!

下級竜レッサードラゴンを一撃で葬るなど……!!」


「え、一撃でやっちゃまずかったですかね……」

「違う!! この常識はずれな、もはや魔物と呼称していいのかすら分からない巨鳥をどうやって従えているのかと訊いているんだ!!」

興奮しているのか、語気が荒くなるキース。

「き、キースさん、落ち着いて。ラティスは俺が召喚したんですよ」

俺がそう言うと、暴走気味のキースさんを止めようとしていた他の騎士やセレスの動きまで止まった。

「……えーと皆さん、どうかされましたか……」

「「「「何だ(ですか)それはあああぁぁぁぁ!!!!」」」」


その後しばらく、俺は10人以上から同時に質問攻めを受けた。俺は聖徳太子じゃねぇ!!

これが召喚獣!? ありえない!」

「いや、そう言われましても、実際召喚できちゃったので……」

「そんなノリでできることじゃねええぇぇぇ!!」

何だかキースさん、言葉遣いがだんだん遠慮なくなってきてない?


「み、皆さん落ち着いてくださいよ。

第一、俺何かを召喚したのラティスで2体目なんですよ?

そんな初心者の召喚でそんな、化け物とか……」

そう言ってラティスを見ると、周囲の木々より遥かにデカい体躯に、虹色に輝く羽毛。

………………んー。

「『解析スキャン


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


名前:ラティス


称号:神ノ遣・参


解説:神の使いたる『神聖生物』、その一体。大空を駆る姿は正に疾風はやての如し。

その羽ばたきは善き者には祝福を、悪しき者には裁きを与える。


MP:235000/235000

攻撃:3570

防御:2500

魔法威力:4980

魔法耐性:4620


___保有普通スキル


・魔力感知・極…物体の放つ魔力を感知できる。どのような魔法的隠蔽も無効化。


・風魔法・極…風魔法の極致。その風は万象を切り裂く。


・光魔法・極…光魔法の極致。その光は万象を照らす。


___保有特殊スキル


・神ノ加護・其ノ参…神に寵愛を受けし神聖生物の持つ特殊スキル。

近くにいる生物の善性に応じてその生物のステータスを強化する。


・神獣ノ威容…自身を視認した生物を威圧し、動きを止めることが可能。

威圧対象の恐怖耐性が高くなければ対象は死亡する。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


あっコイツ化け物だわ。間違いない。

何?神の使いって?

たしかにラグブレでもそーいう設定だったけども!!


ん?待てよ?

キースさんやセレスの反応からして、この召喚能力は完全にチート能力だ。

そして彼らは全員王族もしくはその部下だ。

ここから導き出される結論は……

俺、王族貴族に囲われてヤバいことになるんじゃね?


いやいやいやいや、それはマズい。

さすがにこの力を戦争に使えとかなったらシャレにならん。

俺も俺で調子に乗ってたけど、まさかここまで強いとは思わないじゃん!!

「……アルト殿、顔色が悪いぞ」

「へっ!? あっああ、大丈夫です。ご心配をおかけしました」

平静を装おうとするが、多分今も顔面蒼白だと思う。


「あ、そっその、俺はそろそろお暇を……それと俺の能力は口外しないようにお願いしたく……」

「む……貴殿がそう言うのなら構わないが」

お? 意外とあっさり?

いや、こういうのは口約束だけで反故にするなんて簡単……考えすぎか?


「しかし……そうなると困ったな。馬がやられてしまって馬車も使えん。

王都まで馬車でおよそ……半日か。とてもセレス様を連れて歩いて行ける距離ではない」

キースがこちらをチラチラ見ながら言ってくる。

クソ、黙ってる交換条件でなんとかしろってか? 足元見やがって……というのは言い過ぎか?

だがまあ、いい。この人たちを連れて行くということは、俺も人のいる場所へ行けるということだ。

「……わかりました。王都まで送りますよ。ラティス、それでいいか?」

ラティスはピイイィィ、という鳴き声を肯定の合図のように響かせた。

よしよし、いい子だ。


「んじゃ、適当に乗ってください。

あ、方角の指示は自分でお願いしますよ。多分言葉通じるので」

「あ、ああ……しかし暗にねだっておいてなんだが、いいのか?」

「何をいまさら。俺も困ってる人をほっとけるほど腐っちゃいないつもりですし。よし、出発!!」

俺の言葉を合図に、ラティスが上昇を始めた。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


___とある森にて。

上空を凝視して固まった冒険者一行がいた。


今現在その姿はないが、彼らの目をくぎ付けにしたのは、自分たちの何十倍の巨体を誇る鳥だ。

その鳥は七色に輝いており、その羽毛はどんなお宝になるのか想像すらできない。

だがそんな邪推は意味をなさない。

その鳥は、あまりに神々しすぎた。あの姿に畏怖しない生物などいないだろう。


「えー……と、今日はもう、帰るか」

「「「おう……」」」

狩りの成果もそこそこに、冒険者達は王都に引き返した。

後に、『メメント森林地帯の神鳥』の噂が王都の冒険者の間で語られることになる___

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