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1、アルトの転生

『__WINNER、アルト』


カードゲーム・『ラグナロクブレイク』。

1年ほど前に現れ、大人気を誇るスマホ・PC向けカードゲームだ。

リリース初期からの豊富なカード量、美麗イラスト、ゲームバランス等、あらゆる点で優れている。


そして俺は有田ありだ 悠人はると、『ラグナロクブレイク』のプレイヤーの一人だ。

ハンドルネームは本名を略した『アルト』で、その名はこのゲームの中で一躍有名になった。

なにせ、数多くの強豪プレーヤーが一堂に会した『ラグブレ』一周年記念の第一回の公式大会で優勝したのだから。


「いやー、まさか優勝できるとは思わなかったな!」

大会会場から帰ってきて、優勝賞品をホクホク顔で眺めながら俺は一人で言う。

確かにもともと自分は上位プレイヤーだとは思っていたが、優勝できるとは。まあ、カードゲームだし、運もよかったのだろう。


『ラグブレ』はリリース初期からやっているが、まったく飽きなかった。

普段俺は飽き性で、ゲームなんかもあまり熱中する方ではなかったのだが、このゲームは別だった。

何故かと聞かれると困ってしまうが、何か魅力があったのだろう。


「……優勝しても、明日からどーせ仕事なんだけどね」

自分で言っといて悲しくなってきた。現実って残酷ね。

まあ、今日はこの喜びを噛み締めるとしよう。


「おおおぉ、これがリアルカード……!!」

大会の優勝賞品は、賞金の他にも、ゲーム内アイテムを手に入れられるシリアルコードや、ゲーム内のカードを実際に作ったリアルカードなど、多岐にわたった。


「うわ、どれもこれも強カードだな……ん?」

リアルカードを眺めていると、見慣れないカードが目に入った。

伊達に古参はやっていないため、知らないカードなどないと思うのだが……


「『次元の扉ディメンジョンゲート』……全然知らないな。

……って、カード効果すら書かれてないじゃんか。フレーバーテキストも何か変だし」


俺が見つけたカードには『次元の扉ディメンジョンゲート』というカード名、怪しく発光した扉のイラストに、『キミは選ばれた』という謎のフレーバーテキストが書かれていた。


他のカードの裏には描かれているゲームのタイトルロゴもそのカードにはなく、代わりに魔法陣のようなものが描かれていた。心なしか点滅しているような……?


「運営に問い合わせる……にしても大げさか。まあ記念にとっとこ……!?」

再びリアルカード鑑賞に戻ろうとすると、突然目の前が真っ白な光に包まれた。


(何だ……!? 今一瞬、さっきのカードから何か出たのが見えた……!!)

目を開けていられず、腕で目を覆うと、すぐにその光は収まったようであった。


「……い、いったい何だったん……だ……!?」

目を開けるとそこには、見知らぬ森が広がっていた。

そこら中に見たことのない果実が生っていたり、見たことのない鳥が上空を弧を描いて飛んでいたり……

『異世界』という言葉に相応しい風景が、目の前にあった。


「何だこれえええぇぇぇぇぇぇ!!!???」

俺の叫び声が周囲の森にこだました___


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


「おおおお落ち着け、まだ慌てるような時間じゃななななな……」

有名なセリフを音読して落ち着こうとしたが、言語能力に支障が出るほど自分は慌てていたようだ。

つまるところあれですか? 異世界転生ってやつですか?

さっきから顔が腫れるまで自分で自分に平手打ちしてクッソ痛いからこれは現実なのだろう。


「……異世界転生ものといやぁ、何かしらのチート能力があるもんだけど……」

近くにあった木に寄りかかりながら右手を握ったり閉じたりするも、何も特別な力に目覚めた感はない。

「いや、普通にどうしろってのさ……」

こんな森の中、何日も放置されては心身がもたない。

異世界転生して一人森の中、食料も何もない。俺に野垂れ死ねと?


はぁぁぁ、と深いため息を吐き、そのまま地面に座り込む。

俺はここで死ぬのかね……別に未練はないけど、餓死は嫌だな。あともっとラグブレしたかった。

そこで俺はふと思いつき、虚空を指さして呟いた。


「……ステータス、オープン」

俺がそう呟くと、目の前に半透明の液晶画面のようなものが現れた。

俺は飛び起き、最後の希望にすがるかのように液晶画面に目を通した。


「名前、アルト……職業、『大召喚士グランドサマナー』……?」

俺のステータス画面には、名前と職業、MP、攻撃、防御、魔法威力、魔法耐性というステータスが書かれており、名前は俺のハンドルネーム、アルトになっていた。

職業は大召喚士グランドサマナー

説明はないが、強いのか? 『グランド』と付いているからには強いとは思うが……

その他ステータスは、MP以外は恐らくレベル一といっても通用する低さだ。

MPだけ、文字通り桁違い。


ステータスをすべて開示すると、こんな感じだ。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


名前:アルト


職業:大召喚士グランドサマナー


MP:5000/5000

攻撃:9

防御:10

魔法威力:14

魔法耐性:11


___保有普通スキル


解析スキャン…直接視認した物体の情報を見ることができる。


___保有特殊スキル


・カード召喚…カードを介してあらゆる物を召喚する。ある程度自身で能力を決定できる。

また、召喚した物は自在にカード化させることができ、召喚後ある程度の時間が経つ、或いは召喚した物が無力化された際でもカード化する。一定時間後、再召喚可能。


・召喚効果無効…自身の召喚した物によって生じる弊害を無効化する。


共鳴レゾナンス…召喚中の物の力を一部共有できる。任意発動。


・服従の誓い…召喚した生物は主の命令に従う。


・永従の誓い…召喚した物の存在を世界に固定する。

召喚した物の能力は上がるが、カード化が不可能となる。任意発動。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


「よくわからないな……カードって何だ? 何も持ってないんだけど」

HPがないのはこれが現実世界であるということから意味をなさず、表示がないのだろうと納得はいったが、特殊スキルとやらが分からない。


「カード……カードといえばラグブレだけど」

一通りステータスを読み終えると、俺はステータスウィンドウの端に『インベントリ』の欄があるのに気が付いた。

「……まさか」

期待を胸にインベントリを開くと、そのまさかだった。

ラグブレのカードが大量に……いや、すべてのカードが入っていた。

「マジで? こいつ等全部召喚できんの……?」


俺は試してみたい衝動に身を震わせていた。

「……よ、弱いやつなら周囲に被害はないよな……?」

インベントリから一枚のカードを取り出すよう念じると、そのカードが手元に現れる。

「『一角兎ホーンラビット』、召喚サモン!!」


一角兎ホーンラビット』。

普通の兎に一本の角が生えたような見た目のラグブレ界のザ・雑魚モンスター。

とはいえ、弱いカードしか使えない序盤ではよく使う機会のあるカードの一つだ。

そんなファンタジー生物が、今俺の前にいる。


「おお、おおおおおぉぉぉ……!!!」

カードが変形するように出現したそれは、紛れもなく『一角兎ホーンラビット』だった。

恐る恐る撫でてみると大人しいもので、そのまま無抵抗に俺に抱きかかえられる。

か、可愛い……!! めっちゃモフモフ……!!


暫くモフモフを堪能した後、俺は一つだけ持っていた普通スキルを思い出した。

「『解析スキャン』!」

一角兎ホーンラビット解析スキャンしたのだ。


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


名前:一角兎ホーンラビット


解説:温厚な草食動物。頭の角に殺傷能力はない。


MP:10/10

攻撃:1

防御:2

魔法威力:1

魔法耐性:1


保有スキル なし


♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


わお、絵に描いたような雑魚。

戦闘能力は期待できないが、愛玩動物としては素晴らしい。

チラッと自分のMPを確認したが、全く減っていない。

この程度では減らないのか、それとも召喚にMPはいらないのか……


一角兎ホーンラビット、戻れ」

その後しばらくしてそう命令すると、一角兎ホーンラビットは光の塊になり、次の瞬間には俺の手元にカードとして現れた。

そのカードには『RCリキャスト:1min』と書いてある。

一分後に再召喚可能ということだろう。


「さて、ある程度俺の能力は理解したが……こんな森の中にはいられないな」

鬱蒼とした木々の隙間から僅かに見える太陽は今が昼頃だと俺に教えてくれている。

そういや昼飯もないのか。せめて人のいる場所に行きたいが……


「____、______!!」

どうしたものかと頭を捻っていると、かなり遠くから地鳴りと、人の声らしきものが聞こえてきた。

「……悲鳴っぽかったな。少なくとも穏やかではなさそうだ」

胸騒ぎがしながらも、これはいい機会ではないかと思い、とあるカードをインベントリから出した。


「実験の延長ってことで……『神鳥・ラティス』、召喚サモン!!」

俺の目の前に現れたのは、軽く数十メートルはある、虹色に輝く羽毛を持つ巨鳥。

『神鳥・ラティス』。ラグブレでは最高レア度を誇る強カードの一つだ。


「ラティス、俺を乗せて向こうに飛んでくれ!!」

ピィィィィ、という鳴き声が承諾の返事なのか、ラティスはその羽に乗るよう俺に促す。

羽を伝い背中に乗ると、ラティスは力強い羽ばたきとともに飛び上がった。


「よし、行くぞ!!」



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