表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/12

10、意外な協力

寝た体勢が悪かったからなのか、俺はいつもより早くに目が覚めた。

首や肩のストレッチをしながら立ち上がって見ると、ホムラとピュレはまだ寝ていた。

子供のピュレはともかくホムラが俺より起きるのが遅いとは……いや、今日の俺が早すぎただけか。


この世界における時計は高級な品らしく、宿では正確な時間を計る術がない。

俺は外の空気を吸いに行って大体の時間を確認するついでに、少々教会の動向を探ってみることにした。

とはいえ、そんなに難しいことはしない。


宿から徒歩10分ほど、町の広場に俺は来ていた。

ここには来た目的は、時計塔と掲示板だ。

時計を確認する限り、今は朝の5時ってとこか。いつもより2、3時間早い起床だったようだ。

となると、ホムラっていつも何時ごろに起きてるんだろ。6時くらいか?


さて、次は掲示板だ。

この世界の紙というのは時計と同様高級で、古代地球のパピルスみたいな粗悪な紙ならともかく、上等な紙はとてもじゃないが大量に使えるものではない。

さて、そんな世界ではどうやって世間のことを知るのか?

答えはここ、掲示板。

地球で言う新聞社のようなものがこの世界にもあり、それらで作られた新聞……というか号外は町中の掲示板に張り出される。

デカい事件があった日の翌日には、掲示板に情報が張り出される。

もし教会が俺を探すなら、このシステムを利用するだろう。


「どれどれ、張り出されてるな……これか」

掲示板にはでかでかと、俺がやらかした内容が書かれていた。

しかし、それも『巨骸蛇神スカル・ゴルゴン』を召喚したという事実のみ。

聖女の件についての号外はなさそうだ。しかし……


「鳥の仮面に黒のローブ、左手に傷がある可能性大、か……

仮面とローブからは俺と特定することは不可能だろうし、この傷さえ隠せれば……」

大々的に取り上げられていることによって、自分が追われる身なのだということを改めて自覚した。

一度宿に戻るため踵を返そうとした瞬間、見覚えのある顔が視界の隅に映った気がして、掲示板をもう一度注視した。


「なるほど……そう出ましたか」

俺の記事がでかでかと張り出されているその片隅に、似顔絵があった。

『行方不明 ピュレ(10) 情報求む』という文章とともに、だ。

「あくまで行方不明者としながらもきちんと探してくる……教会も随分とあきらめが悪そうだな」

恐らく、この記事は俺たちが捕まるまでここに残る。

このままじゃあ、俺はともかく、ピュレが見つかるのは時間の問題っぽいな。

「……癪だが、やっぱあのジジイに頼むか……ぼったくられそうで怖いんだよなあ」

これからに憂鬱になりながら、俺は宿への道を戻った。


「……どれだけ心配したと思っているんですか」

「誠に申し訳ありません……」

宿に戻ると、宿のオッサンと口論している様子のホムラを見つけた。

何事かとホムラに聞こうとすると、ホムラは驚いた様子でこちらを見て、そして抱き着いてきた。

何でも、突然俺が消えて敵に捕まったんじゃないかと思ったらしい。

宿の人にも誰にも外出を知らせなかった俺が……まあ、悪いよなあ……


そして現在、お説教中。俺は正座している。

目が赤かったので、多分泣いてたんだろう。何かすげえ悪いことした気分。

「……まあ、無事だったので良かったです」

「今後の再発防止に努めていきたく……」

「あ、あの、もういいですので。怒ってませんので……」


「しかし、少しの外出で狼狽えちゃうかぁ……こりゃ、俺の指示の意味はなかったかな」

「う……すみません」

「いや、俺を心配してくれるのは素直にうれしいからいいんだけどさ……」

この調子なら、もし本当に俺が捕まったら何人でも殺しそうだな……

まあ、そうそう簡単に敵さんに見つかってあげる気はないがな。


とにかく、情報の共有だ。

とりあえず俺には差し迫った危機はないであろうこと、ピュレの似顔絵が出てはいるが情報の伝達には時間がかかるだろうこと、そして安全なうちにピュレをギュンターに預ける決心をしたことを伝えた。

「ギュンター様にピュレを預けるのは賛成ですが……本当にアルトに危機はないと?」

「まあ、身バレの危険性は極限までない。手の傷はあるが、それだけで俺が指名手配犯だと断定する輩はいないだろ。絶対とはいえないけど」

ホムラはこちらを訝る様子で見てくるが、大丈夫だと言うと諦めたように追及をやめた。


その後まもなくピュレも起床し、三人で出かける準備をしようと宿のロビーにいるとき、何となしにホムラに質問をしてみた。

「……そういえばさ、ホムラ」

「何でしょう」

「何でそんなに心配してくれんの?

いや、確かに俺はお前の主人ってことになるんだろうけど……

あ、もしかして俺が死んだらお前も消えるとか?」

「…………」

ホムラが呆れたような、腹を立てたような表情で黙る。

「あ、あれ? 怒ってます? よくわからないけどごめんなさい……」

「……もういいですよ」

「……これはアンタが悪い」

「ピュレもそう思います」

お、オッサンにピュレまで……


しばらく勝手もわからずホムラをなだめた後、改めて宿を出発した。

さて、今日の目的は早速あのジジイにピュレを預けに行くことだ。

気は進まんが、善は急げという先人の教えが……

ピュレをあのジジイに預けるってのは善なのか?

教育的には悪だと思うんです、俺。


さて、早速問題発生だ。

昨日と同じルートを使ったのがダメだったな……警備兵がいる。

まさか昨日の今日で既に動き始めるとは……

しかも、よくよく見れば彼ら、王国騎士団じゃないか。

彼らは聖女の件を知っているのだろうか。

もしそうだとするなら、聖女の喪失は国家レベルのヤバい事態ってことだな。

今は物陰から様子をうかがっているのでバレていないが……


しかし、ずっとこうしてもいられない。

仕方ない、あまり能力は使いたくなかったが……

俺は一枚のカードをインベントリから取り出し、対象をピュレに設定。『呪文スペル』を召喚・・する。

「……呪文召喚スペル・カード『木の葉隠れの秘術』」

俺が唱えると、ピュレの姿がスーッと消えていった。

姿は見えなくなったが、触ればそこにいるピュレを感じることができる。

さて……隠密行動スニーキング開始だ。


「ふわぁ……ん? おい、そこの二人、止まりなさい」

騎士の一人がこちらに気づき、欠伸を噛み殺しながら俺たちに近寄ってきた。

そりゃ、こんな人気のない場所で朝っぱらから検問はきついよね。お勤めご苦労様です。

「……何の用ですかね」

「昨日、この裏通りで不審人物が確認された。何か知っていることはないか?」

「さあ、ありませんね……もういいですか?」

「まあ、待て。こんな時間にこんな場所をうろつく理由を教えてほしい」

「この先にある店に行きたいんですよ。通してください」


「ほう……ところで、その左手はどうしたのかな?」

「先日派手にスっ転びましてね……出血が酷かったのですよ。まだですか」

「……取って傷を見せてもらっても?」

……コイツ。疑り深いヤツ……いや、勘が良い、かな、この場合。

仕方ない、大人しく従おう。

「……はい、これで十分ですか」

「この傷を、転んで作ったと? その割には刃物で切ったようですが」

「ええまあ、鋭い石が転んだ先にね。こう、ザクっと」


「……そうか。では、ピュレという少女に覚えは?」

「ありませんね。というか、その子行方不明の子でしょう。俺が知るはずない」

「……よくご存じで。もう少し詳しい話がしたいので、同行を……」

「いい加減に」

「おっと、これはこれは。関係のない一般人を巻き込むんじゃない、ジェイク君や」

俺が少し語気を荒げようとした瞬間、騎士の後ろから声がかけられた。


「……これはこれは、魔法師団第二隊長のギュンター殿ではありませんか」

やたらと『元』を強調して、ジェイクと呼ばれた騎士は言った。

「何の用で?」

「なに、無能な君らの仕事ぶりを見てやろうと思ってね。

これなら現役を退いた今の儂の方が万倍は国に貢献できるな」

「「…………」」


俺がギュンターに何の真似か聞こうとした瞬間、ギュンターは俺にアイコンタクトを送ってきた。

そして顎でわずかに店の方を差し、すぐにジェイクに視線を戻した。

ここは任せて店に行け……ってことか?

意図は分からんが、今は藁をもつかみたい。乗ろう。


俺たちがその場を離れようとしても、ジェイクや他の騎士たちは反応せず、ギュンターに忌々し気な視線を送っていた。

できるだけ刺激しないように、俺たちはその場を離れ、魔道具店に向かった。

……何のつもりだろう?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ