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第70話:■■邂逅

 ――星月夜。


 人里から遠く、街道からもずいぶんと離れた森の中。辛うじて進むべき先が判る程度の印だけが残っている道の名残で、それぞれ逆方向から歩いてきた少女と男が対面した。



 少女は白く色が抜け落ちた長い髪に、

    赤血じみた光を帯びる瞳という

        妖麗な姿をしている。



 一方、男の方は死人のような印象を抱く以外はこれといった特徴が無い。


「あら。こんなところで■■(だれか)とお会いするなんて」


 すれ違う少し前で白髪赤眼の少女が足を止め、男に話しかける。


「どちらに行かれるのですか?」


 少女と異なり、男は歩みを止めずに答えた。


「家族のところへさ」


「そうですか。それはお疲れさまでした」


 そのまますれ違いになりかけたところで、男が突然少女へと振り返った。


 少女の後ろ姿を見て、男は目を細める。


「…………オマエ。どこかで会ったか?」


 男の奇妙な問いかけに、向き直った少女が応じる。


「いいえ? これが最初で最後になるかと思いますが」


 少女の答えに男は俯き、しばし沈黙し、考え込んだ。


「頭がおかしい廃人の戯言として聞き流してもらっていいんだが――」


 そう前置きをして、男は少女を強く睨む。


「なぜかはわからないが……私は、オマエに対してこれまでの人生で抱いた事が無いほどの憎しみを感じる。オマエは、()()()()()()()()()()()()()()


 男が発したのはおよそ初対面の相手にかける言葉ではなかった。


 一方。男から烈しい憎悪を向けられた当の少女は。


「まあ。それはそれは」


 特に気にした様子も無く、自らの調子を崩さない。


 とはいえ男の話を一笑に付したわけではないようで、発言を汲んだ提案をする。


「そのようにおっしゃるのでしたら、ちょうどいいかもしれません」


 男は黙って続きを促した。


 少女が柔らかい笑みを浮かべながら、おぞましい提案を口にする。


「殺めるのにお好みがなければこちらをお使いください。大丈夫ですよ、何の仕掛けもありませんから」


 そう言って、少女は懐から取り出した短剣を男に手渡した。


 あろうことか。この凶器で、己を殺せと宣っている。


 虚ろな瞳の男は受け取った短剣と、それを受け入れるべく両手を広げる少女を見比べた。


 少女は朗らかに、茶でも勧める程度の気軽さで男の背を押す。


「遠慮なさらず。用も済んだところでしたので。わたくしをあなたの怨敵と定めるのであれば、どうぞ最期にその想いを晴らしてください。……ああ、ご興味がおありならわたくしの死体はお好きなようにしていただいて構いませんよ。それから途中で痛かったり怖かったりで泣いてしまうかもしれませんが、それも無視して結構です」


 星灯だけが周囲を照らす森の中、二つの人影があった。


 唸るような鳥の鳴き声と、木々の葉が揺らめく音のみが囁く。


 数舜の後、刃物で柔らかいものを抉る音が響き渡った。


 何度も、何度も、何度も。


 何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


 すぐに、二つある人影の内の小柄な方が倒れた。


 それに大柄な方の影が覆い被さる。

 二つの影が倒れても、まだ抉る音は続いた。


 声は無く、森の調べと、荒い息遣いと、異音の協奏が織り成される。


 そうして、しばらく経って。


 大きな方の影は立ち上がり、少女だったもの(自身の行いの結果)を眺めていた。


 静寂が訪れる。

 だが、それも長くは続かず。


 観取し、錯乱し、絶叫し――何かを抉る音が再び響き始めた。


 先に斃れた者の後を追うように、残っていた者も地に伏す。


 もはや誰も、二度と立ち上がる事は無い。


 大地には二つの肉塊が転がり、辺りに赤い液体が広がっていった。






 ――――(これ)を以て。

 ■■なるものが去り。

 今度こそ、(ほし)は平穏を取り戻した。






 二人はそれを知らぬまま、次の星へ。


 次の物語は『■■■と■■■な星』。

 アニエスには理解不能な星での話で、更新は次週から(の予定)。


 それでは、今後とも二人の旅をよろしくお願いします。

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