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第57話:諍いの気配

「よいしょっと」


 金の髪の少女――フィーネが林を駆けていた四人の男を無力化し、その場で創ったロープで彼らを引きずってアニエスの元へと戻ると、監視をしていたらしい男二人が拘束された状態でなおかつ顔面にそれなりの怪我を負って気絶していた。


「あれ。その人たち、どうしたの?」


「別に。魔法で引き寄せた時にちょっと手元が狂っただけよ」


「手元?」

「……足元」

「そっかぁ。可哀想だけど、それじゃあ仕方ないね」


 『足元が狂う』とは聞き慣れない表現であり、状況的に怪我の原因はどう見ても足蹴だったが、フィーネはその点を追求しなかった。


「う、ぐ……」


 フィーネが捕えた男達の方も体のどこかしらを一撃ずつ強打されており、後遺症が残らない程度の負傷による痛みで意識を朦朧とさせている。


「とりあえず捕まえたけど、どうしようか?」


「身ぐるみは剥ぎましょう。汚いから直接触らないようにね」


「りょーかーい」


 フィーネが魔法による追い剥ぎ行為を実行に移す直前、命以外の全てを奪われる宣告を受けた男達の一人が抗議の声を上げた。


「お前ら……山賊かよ……」


「うるさい、人攫いの分際でゴチャゴチャと言うな。面倒だから金目の物をどこにしまっているかだけを話しなさい。余計な真似をしたら燃やすわよ」


「はは、俺たちが金になるようなもんなんて持ってるわけねえだろ……」


「そう。じゃあ、死ね」


 アニエスは左手で掲げた杖に高熱を帯びた蒼い魔力を灯す。彼女が得意とする蒼炎の魔法であり、人に向けて放てば生命が焼失する。


 本当に何の躊躇も無く即座に殺意の籠った魔法を発動させようとした魔法使いの少女に対し、場馴れした男達もさすがに動揺した。


 男達の遺灰すらも残らないような魔法を放つ寸前だったアニエスを、フィーネが止める。


「アニエス、落ち着いて落ち着いて」


「だけどこいつら、本当にお金も持ってないみたいなんだけど。これじゃ狙われ損じゃない」


「この人たちを死なせてもお金はもらえないでしょ。それだったら街まで連れて行ったら懸賞金とかもらえるかもよ?」


「……面倒ね。この連中程度で貰える報酬なんて大した事はないだろうし」


 アニエスが渋々納得した事で、フィーネの提案通り男達を引きずって街へと移動する二人。男達をロープで引っ張っているのはフィーネのみだ。時折男達が脱出を目論むもののその瞬間にアニエスが全員即死する威力の魔法を構えたため、実行に移される事はなかった。


 道なりに進む事一時間ほど。

 人口十万人近くあるであろう大きさの街の外縁へと辿り着いた。魔獣や外敵への対策か辺りは高い壁に囲われており、出入口となる大門の前には警備と思われる人間が詰めている。彼らは既にアニエスとフィーネ、そして二人に連行される男達に気づいており何事かと慌ただしくしていた。


 衛兵達に事情を説明する前、フィーネは街に近づくにつれて表情を消していったアニエスへと念話の魔法を用いた。


(アニエス、気分は平気?)

(……まあ、これくらいは)


 他者の思念を自動的に読み取ってしまうアニエスにとって大勢の人間がいる空間に近づくのはそう気安い事ではない。故郷の大地にあった大都市と比べればまだ人口は少ないが、それでも住民の性質次第では居心地の悪い空間となるだろう。既に街中から数多の人々の心の声を聞いたアニエスは、フィーネに注意を呼びかけた。


(……戦いが多いらしくてかなりざわついている。厄介事に巻き込まれないよう気をつけて)


(わかったよ。アニエスこそ、辛くなったら早めに言ってね)


 内密の会話を切り上げたアニエスとフィーネが門へと近づく頃、警備の責任者と思われる鎧姿をした壮年の男性が先んじて二人に声をかけてきた。


「我が街へようこそ。私は都市防衛部隊の南門警備隊長を務める者だ。初対面に不躾な質問から入って恐縮だが、君達は何者だ? それと、後ろの男達は?」


 警備隊長は理解の及ばない状況への疑問と、職務に対する誠実な態度で二人に問いかける。相手の思考を察する事が出来るアニエスがその受け答えをした。


「驚かせて申し訳ありません。私達二人は旅人で、各地を観光している道楽者です。後ろの彼らについては先ほど突然襲われたためやむを得ず捕縛した賊になります。可能であれば私達の滞在とこの者達の引き渡しをさせていただきたいと考えているのですが、いかがでしょう」


 口元を塞がれた男達が異論を申したげな声を上げる。それを聞いたフィーネは『そういえばまだ何もされてなかったっけ』と思ったが、口には出さなかった。一方、アニエスの説明を受けた隊長はある程度は納得したらしい。


「確かに近頃林道を通る隊商が辺境伯の手勢に襲われる事件が頻発していた。装備品からしてその連中に間違いはなさそうだ。……しかし、少女二人でよく無事に通れたものだな」


 驚きと関心が混じったような言葉にフィーネが口を挟む。


「証明に腕試しでもした方がいい?」


「いや、それには及ばない。君は大の男を六人も引きずって息を切らしてもいない。私は魔法には疎いが、帽子の君も魔力を抑えている者特有の気配を感じる。二人とも相当な使い手とお見受けする」


 隊長は一度そこで言葉を切って、どこまでも生真面目に回答した。


「だが、非常に申し訳ない。賊については報酬をお支払いし引き受けすることができるが、ご両人の滞在については私の一存では決めかねる。先ほど言ったように、今この街は乱心した辺境伯の脅威にさらされており――」


 隊長がそこまで口にすると同時、唐突にフィーネが何かに気を取られてあらぬ方向へと振り返った。同じく既に異変に気づいていたアニエスが隊長の言葉を遮って状況を述べる。


「なるほど。それは例えば、あの南西に見える集団のような、でしょうか?」


 アニエスの言葉を聞きその方向を見た隊長が血相を変える。彼はすぐさま部下達に号令を出した。

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