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第5話:みえるもの、きこえるもの

 魔法使いアニエス・サンライトには、後天的に学習した魔法の他に天稟として備わっている異能がある。


 その能力が目覚めたのは十年以上前の事だが、未だにアニエス自身力の全容を掴み切れてはいない。


 しかし、発現した当初から否応なしに理解出来ていた効果が一つある。



【やっぱり外にも人っているんだ】【けど、島の外ってどこから来たんだろ?】【この人たちは泳いで海を渡ったのかな?】【旅してるって言ってるけど、その割に荷物少ないな……】【おじいのとこに案内したら、いろいろお話聞かせてもらおっと】



(……思念が静かな子。過ごしている日々もとても穏やかで……羨ましい)


 それは、アニエス本人の意志に関わらず他人の思考を読み取ってしまうというものだった。


 先ほどまだ少女と距離がある時に気配を察知したのもこの能力のためだ。


 個人に集中すればその時に考えている事どころか記憶すら手繰れる異能で以て、アニエスは少女の意識を読み取る。


(名前は、リデル……年は――ああ、なるほど。道すがらの話題は、これでいいわね)


 幼少時のアニエスは大勢の他人の声が四六時中頭に響く責め苦に精神を苛まされていたが、今では当時よりは向き合う事が出来ている。


 また、魔法使いとしての成長に伴い力の制御もある程度は行えるようになった。


 もっとも、完全に他人の思念を遮断するためには異能に対し耳を塞ぐような所作が必要で、そこに意識を割く都合上他の事が疎かになってしまうので普段は常に他人の思考が流れっぱなしになっている。


 この異能と、血統を見た際に突然変異としか言えない巨大な魔力は、かつてアニエスを周囲の人間から《魔女》として恐れさせた。


 そんな彼女が隔たりなく接する事が出来たのは、同じように特異な事情を持つフィーネと、ごく少数の人達だけだった。


「そういえば、まだ自己紹介もしていなかったわね」


 異能により既に一方的に相手の素性は把握しているものの、相手はそんな事は知らない上にフィーネも知らないままなのでそう切り出すアニエス。


 獣のような姿をした少女リデルは『あっ』と声を上げる。声と同時にアニエスに流れた思念も同じようなものだった。


「そ、そうでした。ごめんなさい、よその人が来たのなんて初めてなので、うっかりしてました」


「それもお互い様だから気にしないでいいわ。私はアニエスでこっちはフィーネ。さっきも言ったけど二人で旅をしているの」


「よろしくー。キミの名前はなんていうの?」


「リデルです。普通に島の子供なので、お二人みたいに特徴はないんですけど……」


 そう言って頭の上に生えている耳を少し項垂れさせるリデル。


 その様子を見てフィーネは好奇の視線を向けるが、アニエスから肘で小突かれ制された。


「さっきは驚かせてごめんなさいね。私達の故郷では動物を食べる事もあったの。けれど、この島ではそんな真似はしないと約束するわ」


「そうなんですね……島の外のことは大人もみんな知らないので、勉強になります。……あの、お二人の故郷ではどうして動物を食べようなんて思ったんですか?」


 リデルはよそ者に対して敵愾心を持たず、それでいて未知の風習を理解しようとする姿勢を持つ少女だった。


 また、思考と態度が一致している相手との会話はアニエスにとってストレスが少ない。


 その一点だけ切り取っても、異星で最初に出会った相手が彼女でよかったとアニエスは密かに思う。


「リデル。あなた達は果物とか野菜だけを食べて生活しているの?」


「はい。ヤギからお乳をもらうことはありますが……」


「なるほどね。姿が違うから何となくわかってもらえると思うんだけど、私の種族とあなたの種族では必要な栄養が少し違うみたい」


「栄養……動物を食べないと元気が出ないんですか? ……それは、大変そうです」


 リデルはアニエスの説明を不思議そうに聞きつつも、不審には感じていない。


 会ったばかりの相手の言う事を完全に鵜呑みにしている素直さにアニエスはこの少女が少し心配になったものの、頃合いを見計らって別の話題に切り替える。


「さっきは子供って言っていたけど、しっかりしてるのね。幾つになったの?」


「最近二十六になりました。ふふっ、お友達にはよくぼうっとしているって言われるので、ちょっと嬉しいです」


 リデルの言葉にフィーネは首をかしげる。


 彼女はどう見ても十代前半の外見と精神年齢なため、自分達よりも年上という可能性を想定していなかった。


 だが、すぐにこの星の情報を思い出した事で疑問は氷解した。


「ああ、そういうことか。そういえば、ここは半分くらいだったね」


「半分……? えっと、お二人はおいくつなんですか?」


「ボクたちは二人とも十六歳だよ」


「十六!? そ、そんな年で旅なんてするんですか!?」


 暦を決めるに当たって惑星が太陽の周囲を公転する周期を参考にしている場合は、当然その期間によって一年の長さも変わる。


 この星は、アニエスとフィーネの故郷の星に比べてその周期がちょうど半分程度だった。


 が、この島の文明の状況がまだ定かでない状態でこの説明をリデルにするのは都合が悪い可能性があったため、アニエスは年齢の決め方が違う理由について少し誤魔化す。


「この辺りも文化の違いみたいね。リデルの見た目からして、この島の数え方に直すと私達は三十二歳くらいじゃないかしら?」


「な、なんだぁ……ビックリしました……やっぱりわたしよりお姉さんなんですね」

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