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第43話:ゆめのなか、わかれみち

 どこかで、何かが切り替わる音がした。

 眠りながらそれを認識して、こう思う。


 私はまた自分の都合で大勢の人の運命を捩じ曲げた……と。


 確かに、私は何も知らない善良な人達が死ぬのを見殺しにしたくない。


 だけど、それ以上に。

 あの人達があそこで終わってしまうのは、も(・)っ(・)た(・)い(・)な(・)い(・)と(・)思(・)っ(・)た(・)。


 あの人達は、優れていた。きっといつか大いなる魔法に辿り着く。


 それなのに何も成さず滅んでは世界の収支が合わない。


 …………眠っているのに、吐き気がする。

 身勝手に。せめてあの子達の進む道に苦しみが少ないよう願った。


 ――ふと。遥か遠くから、声が聞こえた。


【これ……石板と同じだ。俺たちにも中身が読めるぞ……!】


【もう一度洪水が……それに……わたしたちが、魔法を……?】


 ……自分の力がさらに強くなっているのを感じる。


 ヒトの域を踏み越えて。私の心よりもずっと強く。


 けど、それは私に魔法の才能があるからじゃない。


 人の心の声……思念が聞こえるようになったのは六歳の頃。


 当時、私は祖母以外の家族を殺された。

 父と、母と、弟。みんな大好きだった。


 大切な人達を喪って、私の心は一度壊れた。

 砕けた精神に生まれつき強かった魔力が呼応し、異能が目覚めたのだ。


 初めは、聞きたくないものが聞こえるくらいだった。


 あの子と出会ってからは、時折耳を塞げばなんとか耐えられた。


 けれど、今は視たくもない光景までも魂に刻まれる。


 何時か訪れるそれを。

 その形を私に知らしめようとしていた。


【――それじゃあ、ボクは行くね。アニエスも元気で】


 ……これは、避けて通れない分かれ道。

 あの子は、その時が来れば迷わずに行ってしまう。


【大丈夫。ボクがちゃんと終わらせてくるから】


 そう言って、いなくなってしまう。

 どうして、笑顔なんだろう。

 もう会えないのに。



 ――どこかへとつながる。

 わからないものがみえる。

 しるべきではないものが。


 輝く神星(しんせい)。

 照らす星雲(せいうん)。

 切り裂く巨光(きょこう)。


 そして。

 全てを呑む、虚(うつろ)の孔(あな)。


 二つの光(きぼう)が閉ざされた。

 それでも厄災は祓われる。


 わたしはきっと、そこにいない。

 つらくて、いたくて、かなしい。


 ゆめみたこともわすれてしまう。

 こどものころのように、いのる。



 ―――かみさま。

     どうか、おねがいです―――



          ***



「おーい、アニエスー。そろそろ起きたらー?」


 部屋の外から響くその声で、アニエス・サンライトは目を覚ました。


 体に残る強い疲労感と見ていた夢の残響からすぐに起き上がる事が出来ず反応が遅れる。


 呼びかけている少女はフィーネ=ノヴァ・コスモス。アニエスが自分では不釣り合いと思う親友だ。


「アニエスってばー。起こしてって言ってた時間は過ぎたんだけどー」


「……聞こえてる。もう起きたわ」


 体を起こし、アニエスは部屋の隅に設置してある鏡を見る。


 いつもと変わる事は無い。蒼色の髪、人よりだいぶ整った顔立ち、友人から女性らしくなったと言われた体つき。家族の事を思い出す以外は特に誇らしくもない、よく知る自分の姿が映った。


 アニエスは魔法で最低限の身だしなみを整える。傍から見ればそれで充分だったが。


 一応もう一度鏡を確認してから、アニエスは部屋を出る。


 支度をしている間、フィーネはずっと部屋の前で待ち続けていた。


 彼女は笑顔で友を迎える。

 アニエスはその笑みを見て少しだけ胸が痛んだ。


 その傷を隠して、いつも通りに振る舞う。


「おはよう、フィー」


「おはようアニエス。って言っても外は真っ暗なんだけどね」


「それはそうでしょう。宇宙なんてそんなものよ」


「でも恒星のそばを通る時もあるじゃない」


「それなら今度は外を見ないから関係無い」


「日光浴とかしないの? サンライトなのに」


「……ちょっと。その面白くない冗談、どこで覚えてきたの?」


「~~♪」


「やめて。フィーのそんな下手な口笛聞きたくない。もっと上手に吹けるでしょっ」


「えー。怒るとこそこなの?」


 一つの星を後にしても魔女と御子と呼ばれた少女達は旅を続けている。


 “星を渡る舟(プラネテス)”の中。二人の少女は次の行き先を決めるべく動き出した。

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