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第39話:島での日々

「あったあった」


 アニエスとフィーネが星を訪れて七日目。アニエスは変わらず籠って作業を続けている。連日の疲労に加え残り日数の少なさもあり、今の彼女の姿は鬼気迫るものがあった。


 特に八つ当たりをされるわけでもないのだが、フィーネも日に数回顔を見せる以外は借家に戻らず、代わりに島のあちこちを探検するようにしていた。その方がアニエスにとっては集中しやすい環境だろうと考えての事だ。


 そんなフィーネは現在改めて頂上の魔法使いの拠点を家探ししており、館の敷地から少し離れた島全体を一望できる場所でささやかな発見をした。


(やっぱりここにいた人、腕は確かだね)


 彼女が見つけたのはかつて頂上の魔法使いが蓄えて秘匿していた魔法器やその材料だった。中には島に多数生息しているユニコーンの角もある。


 フィーネが軽く検分したところ、それらは幾らか老朽化しているものの素材として流用する分には問題の無い状態だ。


 しかし、物珍しい素材を含め、彼女は何も持ち出さずに見つけた品々を片付ける。


(どのくらいがいいかな。早ければ二年くらいでやれちゃうだろうし)


 少しの間考え事をしたフィーネは彼女が発見する以前からあった秘匿の魔法とは別の魔法を使用する。


 魔法を使えない者では百年かけても見つけられない。しかし、魔法を覚えているのならその内気づける、そんな違和感のある魔法を。


 魔法をかけた後、フィーネは辺りで拾った石くれに『やったね、お宝だよ! 大事に使おう!』と記したものを混ぜ込む。


「これでよし、と」


 仮に誰かがこの場面を見ていたとすれば何が『よし』なのかと問いたくなるところだが、ともあれ彼女はその作業が済むなり満足げにその場を後にした。


 フィーネは頂上から麓へと続く林を徒歩で進む。歩き出してすぐ、彼女の知覚は接近する生物を感知した。


「やあ、キミたち。また来たの」


 彼女の前に現れたのはユニコーンの群れだった。


 ここ数日フィーネは島で単独行動をしている事が多かったが、町を出ると必ずと言っていいほど彼らが傍に来る。


 やはり頂上には魔法の痕跡があるために近寄らないようだが、こうして彼らが警戒する領域から外れればこの通りだ。


(アニエスに話したらまた怒るだろうな)


 そのやや特殊な習性からアニエスは非常に毛嫌いしているが、フィーネにとっては特に何をしてくるわけでもない馬だ。


 そのため放置しているが、魔獣から少女に対してはともかく、少女から魔獣に向く関心もあった。


「うーん。やっぱりキミたち、おいしいお肉が取れそうな気がするなぁ」


 島を訪れた直後、フィーネは群れの一頭をアニエスの食料にしようかと思案したが未遂に終わった。


 実害が生じず透明な殺意を感知出来なかったユニコーン達は特に警戒した様子も無い。フィーネは一角の魔獣を魔法で観察する。


「ふーん、ちょっと甘めなお肉かぁ。なるほどー」


 第三者が聞けば不穏な発言も今は咎める者がいなかった。


 だが、そう言いつつもフィーネはユニコーンを狩ろうとはしない。アニエスが初日に島では動物を口にしないとリデルに約束しており、フィーネもそれをルールとして受け入れたからだ。


 とはいえ、旅をする中でのアニエスの食糧事情を軽視出来ないと考えるフィーネはユニコーン達の肉体情報を寸分違わず記憶した。


 それを終えて。フィーネは友人に邪険にされていた角の魔獣達に語りかける。


「島のみんなと仲良くね。この島の人たちならきっとキミたちのことを大事にしてくれると思うよ」


 別れの言葉じみたものを向けても特にユニコーンの行動は変わらない。フィーネが町に辿り着くまで彼らはずっとついてきた。


 町の入り口ではリデルがフィーネを待っており、大量にユニコーンを引き連れた客人を見て引き気味に動揺している。


「あの、フィーネさん……その角馬たち、どうしたんですか……?」


「なんかついてきた。追い払った方がいいかな?」


「いえ……ちょっと驚いただけです。今日一緒に行くのは全員女の子なので移動にはちょうどいいかも。町には入ってこないと思うので、みんなを呼んできますね」


 その日、フィーネはリデルに案内されて滞在する町とは別の町へと足を運んだ。


 島に合計四つある町の生活を見せてもらい、代わりに旅の話を聞かせ、魔法は見せないものの生活に役立つささやかな知識を提供した。


本来はアニエスと二人で回れればと考えていたフィーネだが、友人が自ら他にやる事を見出してしまった以上、彼女にその行動を止める意志は無い。


 日が暮れ、辺りが暗くなり始めたところでフィーネはアニエスが作業する家へと戻った。


「ただいまー」

「おかえり」


 アニエスの様子は変わらずだ。ひたすら手と魔法を動かし続け、書き物を続けている。


 変化と言えば、魔法を用いているとはいえ日を追うごとに幾らかやつれている事だろう。


 魔法使いであってもアニエスは人間だ。回復に努めず消耗する一方の行動を取っていてはいずれ限界が訪れる。


 しかし、フィーネはそれには触れず今日あった出来事を伝えた。


「今日は他の町を見てきたよ。明日と明後日で残りの二つも案内してもらうんだ」


「そう」


「最初の日に調べた通り他の町の人たちもやっぱり魔法は使えないけど、素質はみんな同じくらいみたい。リデルちゃんとかもそうだけど、鍛えれば今のアニエスと同じくらいに魔力が強くなりそうな子もいたよ」


「それは何よりだわ」


「それと最後の日だけど、島のみんながお別れ会をしてくれるらしいよ。夕方には出ちゃうと思うって話したら、じゃあお昼くらいからにしますってさ」


 それまで淡泊な反応だけを返していたアニエスが、そこで一瞬手を止めた。


 アニエスはすぐに書き物を再開し、微かに俯き返答する。


「……フィーだけでも出てあげて」


「わかったよ。アニエスが間に合わなかったらね」


 そう答えたのち、フィーネは既にアニエスが書き終えた(ページ)を眺める。


 数日前に宣言した通りの内容であり、問題は何も無い。


 その努力の結晶にフィーネは一言の感想を述べた。


「役に立つといいね」

「…………そうね」


 そうして日々は過ぎてゆき。

 二人がこの星で過ごすと決めた最後の日が訪れた。

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