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第34話:沈みし祭壇

「あ、来た来た」


 アニエスを待っていたフィーネはたくさんの羊に囲まれていた。


 羊達はフィーネにつかず離れずの距離をぐるぐると歩き回り、中心のフィーネは座ってそれを眺めている。


 まるで魔法の儀式めいた光景だったが、アニエスの知る限りそんな魔法は無い。


「……なにしてたの」


「散歩だけど」


「その羊の群れは?」


「なんかついてきた。町の人に教えてもらったけど、今日はお昼から毛刈りをするらしいよ」


「そう……見れなくて残念だわ」


 アニエスとしてはなぜこの状況に至ったのかの方が気になったが、フィーネは動物と意思疎通が出来るわけでもないため『さあ。知らない』と流されるだけだと事態の解明を諦めた。


 合流したアニエスとフィーネは羊達に別れを告げて町を出る。


 町から視認出来ない程度に距離を取った草原で、フィーネが光の翼の魔法を起動した。


「とりあえず沖まで出るよ」


「速度は抑えめで」


「はいはい」


 飛び立つ場面を住民達に目撃されるわけにはいかないため、姿を隠す迷彩の魔法をアニエスが担い、指定通りフィーネは彼女にしては遅めに飛行する。


 この星の中枢に向かう際の条件はどこであってもそう変わりがないため、念のため島の頂上から見渡せない海域に入った時点で二人は中枢へと向かう準備を始めた。


 以前と同じくアニエスが自らの体を保護する魔法を発動させ、フィーネが星の中枢へと一気に転移する魔法を発動する。


 本来は難行だが二人にとっては手順が整っている。事の再現はたやすく行われた。


「空間転移完了。進入による星の中枢への影響、および周辺環境による此方への影響無し。ついたよ、アニエス」


 アニエスとフィーネが再び訪れた星の中枢は、その全域が水に満たされていた。通常であればこの領域が物質で満たされている事は無いため、これはこの星特有の状況と言える。


 二人は深い海の底であっても活動が可能な魔法を展開しているが、周囲に過度な水圧は無い。それどころか異物である水の分以外は重力も大気も空間内に発生していない。


 これは星の表層とは全く異なる法則が生じているためで、環境に依存せず生命維持が可能な能力を持っていなければ訪れるなり死の危険がある。


「そういえば……中枢への道筋が残っていないのは星が自然治癒したという理解でいいの?」


「そうじゃないかな。星からしたら核に続く孔なんて怪我とか病気みたいなものだし、誰かが維持しなくなったらさっさと塞いじゃうと思うよ」


「なら、ここに残っているものは実害が無いから放ってあるわけね」


 頂上の魔法使いが記した通り、この場所には人間の手が及んでいる。


 星の力を意図的に引き出すための祭壇が組み上げられており、それが年月を経ても朽ちずに遺されている。


 それらの最奥に、この星の核そのものたる魔力の球体があった。


 何の保護も無い状態で直視すれば視力を失う星の光にアニエスは目を細める。


「今回の作業は前より深めに繋がらないといけないけど、本当に平気?」


「大丈夫」


 アニエスは深く息を吸い込んで目を瞑り、星の核へと杖をかざす。


「接続、開始」


 アニエスは星の核の状態を調べるための魔法を起動する。


 彼女が知りたい事柄はこの核にかつて行われた魔法による加工が今でも残っているのか、その加工がどのようなものだったかの情報だ。


 それらが判ればかつて水を生み出すための魔法が暴走させられて起きたという洪水、その詳細を知る事が出来る。


 核に宿る“星の記憶(アストラル・メモリー)”を複写するのではなく、直接触れて求める情報だけを読み取る。


 アニエスの魔法現象に対する解析能力は同程度の魔力を持った魔法使いの中でも群を抜いているが、その才覚を以てしても楽な行いではない。


 それこそ、本来であればかつてここを訪れた魔法使い達のように大掛かりな設備を用意し、多人数で取りかかるのが常道だ。


 しかし。


(……これくらい、できないと話にならない)


 同じ作業はフィーネにも実行可能だったが、彼女は個人的な信条から“星の記憶(アストラル・メモリー)”に触れる事を望まない。アニエスも自身の魔法技能を向上させる訓練になるため互いに合意の上での分担をした。


 だから、彼女は恐れを抱きつつも踏み出す。


(――接続完了。潜行、開始)


 巨大な光に蒼い光が触れると同時。少女の意識が星の記憶へと繋がった。



          ***



 “星の記憶(アストラル・メモリー)”に触れる。


 この星の核に接触するのは二度目だけど、慣れなんてない。


 星の核は天体の魂そのものだ。


 魔力の量で比較すれば私を数万人並べてもまだ足りない。


 それくらい存在の規模が違う。


 その中から、必要な情報だけを抜き出す。


 核に対する改竄の痕跡さえ見つければそれでいい……。



 ――ふと。意識に、違うものがよぎっていった。



 星から生まれた生命は永い時を経てこの核へと還ってゆく。


 だから、ここには多くのものが記されている。


 数多の命が生まれ、死んでいった。


 かつてこの星を巡った全ての魂。


 その記憶――――



          ***



「アニエス、そこまで」


「……っ!」


 フィーネに強く呼び止められ、アニエスは魔法を停止した。


 アニエスの意識にはほんの一瞬の出来事だったように思えたが、疲労など肉体への変化と多くの魔力を消費している事でかなりの時間が経過していたと気づく。


 もしもフィーネが止めていなければ、アニエスの魂は星の魂の情報量に呑まれてしまったかもしれない。


「……ありがとう」


「どういたしまして。それで、わかった?」


「ええ……」


 アニエスは呼吸を整え、“星の記憶(アストラル・メモリー)”に触れて持ち帰った情報をフィーネに告げる。


「前に起きた洪水は湖や川を復活させるための魔法の暴走だった。……遅くとも千年以内に、この星に()()()()()()()()()()()が発動する」

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