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第33話:旅先の人付き合い

 頂上を調査した翌朝。アニスとフィーネが星を訪れて三日目。


 一晩しっかりと休息を取ったアニエスは朝日を浴びに外へと出る。


 既に日課のフィーネの髪のアレンジは終えており、ふらりと出かけて行った彼女を見送ってしばらく経った。


(本当に居心地のいい星)


 生命が存在する天体には概ね太陽と呼ばれる恒星が存在するが、この星の環境はアニエスが生まれた星とよく似ていて魔法を使用せずとも過ごしやすい。


 (そら)を旅する少し前にフィーネが得た知識に“原初(げんしょ)言葉(ことのは)”で人型の生命に関するものがあった。


 それによると人間と称される種族は星や創造主ごとに姿や性質に差異があるものの、肉体にも精神にも似通った要素は多いらしい。


 アニエスはその話を聞き、文化や魔法体系によって生活様式が変わっても存在の元となる設計図は同一なのだろうと解釈していた。


(人間以外の生き物が主流になった星もあるのかな)


 アニエスがぼんやりと先の旅路に想いを馳せたのと同時。誰かが町道を歩いて来る。


(……まずはこの星の運命を見定めないと)


 彼女が外に出たのは単なる気まぐれではなく、借りているこの家へ近づく気配を察知したからだ。


 アニエスが察知した気配とはすなわち、他者の思念である。


 状況にもよるがアニエスは通常、感知する他人の思考について詳細な内容までは把握し切れていない。


 アニエスがそれらを聞き分けようという意志を持った場合は本人の気力が持つ限り分析処理が可能となるが、見渡す限りの人全てから声が届くに等しい状況であるため、日頃からそのような努力をしては精神の摩耗を招いてしまう。


 ただし、例外としてアニエス本人や身近なものを対象に向けられた思念については彼女の意識に引っかかりやすい。これが今回来訪の前に気づいた理由だ。


 現れたのは、昨日と同じく頂上の調査を共にした伝承者のレジェだった。


「よお。金色のはまだ寝てんのか?」


「フィーはいつも私より早く起きているわ。今は町を見たいって散歩に」


「ああ、そういやお前らは一昨日の昼間に来たんだったな。昨日も早い内から出かけたし、朝ゆっくりする時間もなかったか」


 当たり障りのない世間話を向けてきたレジェ。


 アニエスの異能は目の前の少年の思考から他意を感じなかった。ただの雑談らしい。


「昨日は町の人達への説明を任せきりにして悪かったわね」


「まったくだ。根掘り葉掘り聞かれて寝不足で、久々に寝坊しちまった」


 レジェはそこで一拍置き、彼にとっての本題を切り出す。


「お前らに聞きたいことがあるんだ。今日は時間あるか?」


 アニエスに流れてきたレジェの思考には疑問が渦巻いていた。


 その内容の多くは頂上の魔法使いやその記録に関連する内容ではあるものの、彼が最も気にしているのは二人の旅人、アニエスとフィーネの事だ。


(……まあ、当然よね)


 レジェは二人がどこからやって来たのか、当人達が詳細を話さなかった点に重大な秘密があると確信していた。


 昨日は先祖の一件で強く衝撃を受けていたためそこまで考えが及ばなかったようだが、今は二人の素性について疑念を抱いている。


 二人が外敵の類ではないという認識もしているため、その内心は純粋な好奇心の割合が強い。


 それらを把握したアニエスは。


「今日は夕方くらいまで出かける用事があるの。だから、そのあとでなら」


「また頂上に行くのか?」


「いいえ、島の外よ。あなたは連れていけない場所」


「……そりゃ残念だな」


 もう一度星の中枢を調査する、昨日フィーネと話し合った予定を優先した。


 とはいえ、アニエスにもレジェの疑問に応じるのとは別に彼への用件がある。


「調べものが済んだらあなたの家へ行くわ。私達もあなたの祖先が遺したという石板に興味があるから。質問への回答は、それと交換という事で」


「わかった。俺も昼過ぎからは家にいるから都合がついたら来な」


 レジェが自宅の場所を伝えるなり立ち去ってから、アニエスは念話の魔法でフィーネに連絡を取った。


 この島ではほとんど意味が無いが一定以上距離が離れた状態での交信には魔法器を介しており、簡単に第三者に傍受されないよう保護をかけてある。


(今どこ?)


(町の真ん中あたり。そろそろ出かける?)


(ええ。東側から出るからそのまま待ってて)


(了解ー)


 アニエスはフィーネの元に向かう前に族長の家へと赴き、彼とリデルに今日は夕方まで不在の旨を伝えた。


 リデルもレジェと同じく聞きたい事がある様子だったため、戻った後はレジェの家へと向かう予定を彼女にも知らせる。


 それからフィーネの元へと向かう道中。リデルよりも少し年が上の若い女性数名がアニエスに話しかけてきた。


「ねえねえアニエスさん、どこへお出かけするの?」


「島をお散歩するならわたしたちが案内しましょうか?」


「今日は仕事を他の人に任せてきたからいくらでも付き合えますよ」


 彼女達は興味の対象に目を輝かせている。昨日二人の旅人が頂上に向かって無事に戻った事は周知の事実であり、その話を本人から聞きたがっているのだろう。


 他の三つの町にも既に二人の噂は届いているらしく、アニエスの異能には大した用も無いのに旅人を見にやって来た島民の気配も感じ取っていた。


 ため息をつきかけた口元を軽く押さえ、周囲の者にも聞こえるように返事をする。


「ごめんなさい。今日は少し厄介な用事があるのでまた今度お願いします」


 なかなか押しの強い住民達に不愛想にならないよう丁重に断りを入れつつ、アニエスは友人を迎えに行く。


(悪い人達じゃないんだけど、好奇心があり過ぎるのも……つかれる)


 アニエスはそう人付き合いが得意な性格ではない。


 借家からフィーネの元までは大した距離でもなかったのだが、同じやり取りが何度も挟まってずいぶん時間がかかった。アニエスは周囲に誰もいない道に入ってようやく一息つく。


 そして、やっとの思いで辿り着いた少し開けた広場にて。

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