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第15話:放浪者の話

 改めて住民達の前に立ったリデルは同族に向けて語りかける。


「こちらのお二人が島の外からいらしたお客さま、アニエスさんとフィーネさんです。お二人はしばらくの間この町に滞在して島のことを調べられるということなので、その折にはみなさんご協力のほどをお願いします。……というところで。一族を代表してお二人にお話をうかがいたいのですが、よろしいでしょうか?」


 どうやらリデルは町のみなが気になっている事をまとめて尋ねるつもりらしい。


「もちろん構わないよ」


「込み入った事情もあるので何でもとは言えませんが、可能な範囲でお答えします」


 普段と変わらぬ口調のフィーネと、儀礼を意識した口調のアニエスはそれぞれ了承した。


「ありがとうございます! まず、これはここに集まる全員が気になっていることなのですが……。お二人はどちらからいらしたんでしょう? 島の外……海の向こうにお二人の故郷があるんですよね?」


 当然と言えば当然の、核心を突いた質問だった。


 予想していた疑問に対し、アニエスは事前に考えていたこの町の住民向けの説明をする。


「海の向こうよりももっと遠い所です。遠過ぎてみなさんを案内する事はできないのですが」


「そんなに遠いんですか……そんな場所からどうやってこの島までこられたんですか?」


「少し説明が難しいのですが、私とフィーネの二人だけなら遠くまで移動出来る方法があるからです。そういう道具がある、と思っていただいても構いません」


 (そら)を渡る舟に乗ってこの星に降り立ち、魔法の翼で飛行する友人に抱えられてこの島にやって来た、とは言わなかった。


 アニエスは内心、少し苦しい説明かもしれないと思っていたものの、住民達は島の外にはそういうものがあるのかと納得した様子を見せる。


 やたらと素直な性格なのはリデルに限った話ではなく、島民全員、子供から大人まで変わらないようだ。


「お二人の故郷には同じ一族のかたがたくさんいらっしゃるんでしょうか?」


「大体そんな感じかな。けど、みんながみんなボクたちと似た見た目だったわけじゃなくて、違う種族もいたよ。この島の人たちみたいに毛皮がある人とか、あとは角とかが生えてる人も」


 続く質問には、フィーネが答えた。


 二人の答えに集会所に集まる面々から『おお』と、興味深げな声が重なる。集まった住民達はみな、外界の事情に強い関心があるようだ。


 ここまでアニエスとフィーネが話した内容に虚偽は含まれていない。


 ただ、魔法というこの島に無い力を使える事を隠している点、まさか空の彼方の別の星からやってきたなどとは言えない点から、幾らか伝えずに濁している部分もある。


「先ほど町を案内する途中でも少しお聞きしましたが、今までどんなところを旅されたんですか?」


「私達が旅を始めたのはみなさんの時間で表すと四年ほど前で、そこまで長期間でもありません。なのでそう多くの土地を巡ったわけでもなく。大雑把に言うと、この島よりとても大きな陸地のいくつかの地域に足を運びました」


「この島よりも大きい陸ということは……島の外にはここよりもずっとたくさん人がいるんでしょうか?」


「ボクたちが前に旅したところはそうだね。けど、陸が大きくてもこの町より小さい集落とかもあったよ」


 その後も、リデルから伝えられた質問に二人は答えていった。


 内容は、その毛皮――やはり島の住民には衣服がそう見えるらしい――はどうなっているのか、少女二人で旅をしていて困る事は無いのか。そんな、至って真っ当な関心による疑問。


「今夜はお疲れのところ、お話をありがとうございました! 知らないことがたくさんで、とても面白かったです」


「どういたしまして。このくらいでよければ、滞在中に他にもお話します」


「ぜひお願いします。わたしもそうですが、みなまだまだお話を聞きたいと思っているので。……ちょうどよかったです。夕飯の用意ができたみたいなので、ぜひ召し上がってください」


 リデルがそう言うと、集会所に食事が運び込まれてきた。歓迎会と言っていた通り、会食が行われるのだろう。


「もしも食べられないものがあったら、遠慮なくおっしゃってくださいね。他のものを探してきますので」


 町への道中でアニエスが話した、食べる物が違うという話をリデルは覚えていたらしい。


 二人は彼女らの気遣いに礼を言いつつ、ひとまず一人分ずつ受け取る。


 振舞われた食事は先ほどリデルから話があったように、主に町や近場で採れた果実と畑で育てた作物で作り上げたパンのような食品だった。


 この島の生活における食事としては上等なものなのだろうと、アニエスとフィーネは丁寧に口にした。


「あ、こっちの実は甘くない」


「この実は塩と香辛料の風味がするわね。果汁が多くてスープを飲んでいるみたい」


「果物だけでいろんな味がするのは面白いねー」


 異郷の食事は並ぶ品目こそ物珍しかったが、味の面では思いの外に違和感なく味わえるものばかりだった。


 多少姿形は違えど人型の生命という共通点を思えば、アニエスとフィーネの知る理屈において妥当ではあったが不思議な感慨も湧く。


 そして、他に食事を共にする面々と同じ程度の量を食べた後。


 アニエスとフィーネは集会所の端の方で住民達を眺めながら果実を齧っていた族長を見つけ、二人にとっての本題を切り出した。


「族長殿。ご相談したい事が」


「おお、なんですかな?」


「この島の頂上にある、古いものについてです」


 アニエスは族長に遺跡の調査を希望している旨を伝える。


 すると彼は、孫娘と同じような表情を浮かべた。


「……お話はわかりました。ですが、あそこには」


「ご先祖さんから怪物がいて行っちゃダメって伝えられているんだよね。リデルちゃんから聞かせてもらったよ。そこで、安心してもらうためになんだけど」


 フィーネはシャツの袖を捲りながら、朗らかな表情に似合わぬ事を口にした。


「この町で一番力持ちな人を連れてきて、ちょっと勝負させてもらえないかな?」

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