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第14話:集会所へ

 農耕区画の見学を終えた三人は再び町の中心部へと戻る。


 アニエスとフィーネが島に到着したのはこの地においてちょうど正午の時間だったが、町までの移動に休憩を挟み、その後軽く町の中を見学した事ですっかり日が暮れていた。


 この町の住民は食料の調達や加工をする仕事、家畜の世話をする仕事、生活用品を制作する仕事、子供の面倒を見る仕事のいずれかを持ち回りで分担しているという。


 そこに、さらなる発展を目指すための産業は存在しない。


 健やかに変わらぬ日々を繰り返すための行いを、彼らはずっと続けてきていた。


 飛行中にフィーネが見つけた他に三つあるという町についても、いずれも人口増加に伴って別れただけで元は同じ氏族で、暮らしぶりには特に違いが無いとリデルは話す。


「本当に平和な島だね」


「へいわ、ですか……? すみません、どういう意味でしょう?」


「のんびりしていていいところだなって意味」


「少なくとも私達が今までに行った場所の中では一番穏やかな町ね。いい所だと思うわ」


「お二人にそう思ってもらえるなら嬉しいです。……けど、そうおっしゃるということは、この町とは違う雰囲気の場所にも行かれたことがあるんですね。そのお話も聞いてみたいです」


「平和じゃないところの話はあんまりおもしろくないからナシにして、リデルちゃんたちにはやっぱり帝都とか珍しく感じるかな?」


「人の数だけなら間違いなく珍しいでしょうね。……今どうなっているかは、知らないけど」


「まあ、ボクたちが行ったのも結構前だし」


 町の中央へと向かう道に人通りはほとんど無い。


 住民達は基本的にこの時間帯には仕事を終えているが、今日に限ってはみな帰宅したという事情ではなかった。


 畑の方から歩いて十数分。三人は町の中で最も大きな建物へと辿り着いた。


「こちらが町の集会所です。普段は誰がどんなお仕事をするかとか町のことを決めるための場所なんですが、今日はお二人の歓迎会場になってます」


 集会所には、リデルの同胞がこれでもかと言うほどに大勢集まっていた。


(わー、とがった耳とふわふわした毛皮がいっぱい)


(フィー。言い方が失礼過ぎ)


(だからアニエスにしか言ってない。それに、あっちもボクたちを珍しがってるでしょ?)


(まあ、そうなんだけど……さっきみたいに態度に出さないでよ)


 アニエスが感知したこの町の住民の数を鑑みると全体の数割ほどではあったが、集会所の外で客人を待つ者までいる。それだけみな来訪者に関心があるのだろう。


「リデルちゃん、さっき言ってた伝承者って人はこの中にいるの?」


「それがまだ来てないみたいです。たぶん途中から来ると思うんですが……先に町のものへの紹介をさせてください」


 リデルに集会所の中央へと通される二人。そこには先ほど会った族長がおり、客人の紹介を待つ住民達に声をはった。


「同胞諸君、今宵はよくお集まりいただきました。日々の労働や祖先と島への感謝が実ったのか、今日はとても喜ばしい出来事があり――」


「前置きがなげえ!」


「族長の話はいいから! お客さんの話をはやく!」


 町の若者達からあまりにも直接的な野次が族長の老人に浴びせられた。


 日常茶飯事なのかそこまで気にした様子を見せないものの、彼は若干肩を落としつつ、司会の役割を孫娘のリデルに引き継ぐ。


「……では、リデル。お二人をご紹介なさい」


「はい。お二人がみんなに見えないので、族長はもう少し下がっていてくださいね」


「うん……わかった……」


 アニエスに流れてくる思念は全て二人に対する好意的な興味であり、それが微妙にこそばゆくなるものであったため、彼女は珍しく己の能力を一時的に閉ざす魔法を用いた。


 使用中は数割ほど魔法制御の力を割いてしまうが、これでその間だけはアニエスも普通の人間と同じ状態となる。


 敵意を持った者が近くにいればやや危険が増す行為だが、今はそばにフィーネがいる。


 身の安全に関しては、全く懸念など無い状況だった。

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