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第13話:言い伝え

 現在島に暮らす住民が魔法を使えない以上、過去島に存在した者が魔法を使っていたと考えるのは自然な事だ。


 島の来歴を知る上で件の魔法を遺した構造物を探るのは前提として、元よりアニエスとフィーネの視点からすると、この星および島の現状で不可解な点が幾つかあった。


(リデルちゃんは島の外のことは一族みんな知らないって言ってたよね?)


(ええ。私がさっき視た限りだと少なくともリデルはそう思っていたわ)


(けど、彼女も他の人もボクたちを見た時の反応は『とても驚いた』くらいだった)


(島の外に自分達とは違う種族が住んでいる可能性は考えていたみたい。どうも、島に何かしらの伝承が残っているみたいね。さすがにその内容までは追えなかったけど)


(じゃあ、まずその辺から聞いてみようか)


 思念の会話をそう切り上げ、フィーネがリデルに直接疑問を投げかける。


「ねえリデルちゃん。この島に古い言い伝えってある? こう、わくわくする感じのとか」


「はい、ありますよ」


 フィーネの大雑把な質問に、リデルからあっさりとした答えが返る。


 さらに続く話も、二人の興味を惹く内容だった。


「ただ、それをお話しするのは伝承者のお仕事なので。たぶんあとで集会所にも来ると思いますから、その時に紹介しますね」


 《伝承者》なる人物に言及した際、リデルから妙に親しみの籠った思考がアニエスに届いた。


 自身の感覚に響くものとしてそちらも若干気になりつつ、おそらくは個人的な事情だろうと調査対象についての情報収集を優先する。


「じゃあそれについては後で話を聞かせてもらうとして……他に、この島に古い時代の建物とかは無いかしら? あるならそこを見学させてもらえると助かるわ」


「昔話とかも気になるんだけど、実はボクたちが一番調べたいのはそういうものなんだ」


 既に遺跡と呼べる存在を把握しているものの、二人は知らない体裁で話を進める。


 対するリデルの答えは、内容こそ明確だが今までで一番歯切れが悪かった。


「お二人が言うような古いものが島の頂上にあるにはあるんですが……危ないので調べるのはおすすめできないです……」


「危ない? 足場が悪いとか?」


「いいえ。わたしも入ったわけではないんですが、大昔のご先祖さまたちが絶対に入ってはいけないと決めたらしくて。あとは、たまにその決まりを破って入った人の知り合いが残したお話なんかもあって……」


 そこで、リデルは続きを口にするのを少しだけ躊躇する様子を見せた。


 それと同時。この島を訪れてから初めての不協和音が、アニエスの神経を微かに掻く。


「…………決まりを破って頂上に向った人は、誰も帰らないんです。ご先祖さまから伝承者に伝わる話では、そこには恐ろしい怪物がいて、みんな殺されてしまうんだとか」


 これまで負の感情を見せなかったリデルが、初めて明確に恐怖の色を表した。


 彼女の思考から既に内容を一定以上把握していたアニエスだが、あえて続きを促す。


「詳しく聞いてもいいかしら?」


「おじい――族長より少し年上の人が昔何人かで頂上に向ったらしいんです。でも、その人たちはいつまで経っても一人も帰ってこなくて……じゃあやっぱりご先祖さまの言いつけは守ったほうがいいんだって、みんな言っています」


 リデルは耳を垂らし表情を暗くしつつも自分の知る限りのところを正直にアニエスとフィーネに伝えた。


 彼女は純粋に客人を案じているのだと、異能を持たないフィーネでも判った。


「ありがとう。私達の事を心配してくれているのね」


「……せっかく島に来てくれた大切なお客さんです。危ないってわかってるのにそんなところに行かせられません……」


 そんな異種族の少女を見て、フィーネは顎に手を添えて身も蓋も無い結論を出す。


「要するに怪物さえなんとかできればいいんだよね? 別に町の人にとって大事な場所とかじゃない?」


「え……? まあ、はい……あるのはなんなのかよくわからない建物ですから」


「それじゃあ、大丈夫かな」


「私達は、ね。でもさっき決めた島での過ごし方を忘れてない?」


「あー、そっか。むしろそっちの方がむずかしいなー」


「……?」


 リデルには意図が読めない二人の会話が続く。


 困惑した彼女が何が大丈夫なのかと問おうとすると、フィーネはこう言った。


「さっき集会所で町の人を紹介してくれるって言ってたよね。ついでだし、ボクたちがなんで大丈夫かはそこで説明するよ」

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