第11話:働き者たち
種族の違いからなる文化の異なり方についてはさておき、二人はいよいよこの島、延いては星の歴史を知るべく出かける支度をする。
「そういえばアニエス、さっきリデルちゃんに古い建物の話とか聞いた?」
「トイレの話の流れからそんな事まで聞けないわよ……何度も人の心に踏み入りたくもないし。どうせ町を案内してもらうんだから、途中で尋ねればいいでしょ」
「それもそっか」
そうして、二人は借りた家から出る。
目当てのリデルは呼びに行くまでもなく、自宅の前で待機していた。
「お二人とも、もう休憩は大丈夫ですか?」
「うん、おかげさまで。わざわざ待っててくれたの?」
「先ほどアニエスさんがもう少ししたら町の案内をとおっしゃってたので。アニエスさん、トイレというものが無くて大丈夫でしたか? 結局どういうものなのかもよくわからないままでお力になれず、すみません……」
おや、とフィーネはアニエスを見る。
先ほど『リデルは排泄行為の存在を理解していた』と述べていたが、どうやら抽象的な質問をする事で連想された思考を読んだだけで、自分に必要な事だとは説明しなかったらしい。
「ええ、大丈夫よ。お気遣いありがとう」
澄ました表情のアニエスはフィーネの視線を無視してリデルに礼を言った。
「改めて町の案内をお願いしたいんだけど、今は平気かしら?」
「はい。わたしの今日のお仕事はさっきの収穫で済んだので」
リデルに連れられアニエスとフィーネは町の中を移動する。
住民達には既にリデルや族長から二人の旅人についての説明があったらしく、好奇の視線こそあれど驚き戸惑うような者はいない。
道中、のちほど集会所で二人の紹介をさせてほしいという頼みがあり、アニエスとフィーネはそれを受け入れた。
「リデルちゃんはもう働いてるんだね。あの果物の収穫以外にもお仕事をしてるの?」
「他ですか? うーん……町で飼っている動物のお世話とか、織物のお手伝いとか……」
その他、この島での生活に必要と思われる様々な雑事が挙げられる。
それらは子供が行う手伝いの範疇というよりは、成人した者に割り振られる労働の領分と思えるようなものだった。
「私達よりも年下なのに、偉いわね」
「いえいえ。みんなしてることですし、当然です」
口調通り至って当たり前と思っている様子のリデルの言葉を聞き、アニエスがほんの僅かに眉動かす。
それにフィーネだけが気づいた。リデルの発言や流れてくる思念に何かしら気になるところがあったのだろうと判断し、フィーネは質問を重ねる。
「みんなって、町でお仕事をしない人はいないの?」
「具合が悪い人は調子が良くなるまでお休みしますね」
「じゃあ、普段からお仕事をしない人は?」
フィーネの疑問に、リデルは不思議そうに首をかしげる。
「……? ずっとお仕事をしない人ですか? 体が悪くてできないとかじゃなく?」
「うん。できないじゃなくてしない人。例えば、寝るのが好きだから、とか」
「わたしもお昼寝は好きですけど……でも、ずっとお昼寝してたら退屈じゃないですか?」
「あー、それはボクもそう思う」
「わたしが知ってる中にはそういう人はいないですね」
「そっか。この町の人はみんな働き者なんだね」
フィーネとリデルが話している間、アニエスはほぼ無言で何事かを考え込んでいた。
思案に耽るアニエスに声をかけても反応が悪いため、フィーネは魔法で呼びかける事はせず、そのままリデルとのやり取りを続ける。




