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第10話:花を摘むのは一人だけ

 フィーネがユニコーンという魔獣について知見を深めた十分ほど後。


 アニエスがあまり浮かない顔で部屋へと戻ってきた。


「おかえり。どうだった?」

「……『トイレってなんですか?』だそうよ」

「あらら」


 リデルに質問をした後の返答が先ほどの言葉であった。


 悪い予感がしたアニエスがその後も幾つか問いを重ねた結果判明したのは、この町には水洗式の便器が無いとかではなく、そもそも便所という概念が存在しないという事実だった。


 しかし、その理由は町の住民の衛生観念が薄いからではない。


 単純に、この町に暮らす住民にはそういった施設が必要無かったからだ。


 この町の住民は、全員が生体活動として排泄を行わない人型の生命体だった。


 これは魔法によって変異した魔人と呼ばれる種族においても珍しい特徴である。


 さらに埒外な構造の身体を持つ前例の存在も知っていたため、借りた部屋に便所が無かった時点で薄々そうではなかろうかと思ってはいたアニエスだが、微妙な落胆は否めない。


「けどさっき見たヤギとかヒツジはその辺にしてたよね?」


「そうね。リデルも排泄行為の存在自体は理解していた。動物を食べる食べないの話と一緒よ。あの人達、自分達と似た形の生き物がそんな事をするなんて想像もしてなかったんだわ」


「へー。食べた物は跡形も無く消化してエネルギーにしてるのかな。便利な体だね」


「……フィーが言うと、本当に白々しい」


 アニエスからの苦情を、フィーネは小さく舌を出して聞き流した。


 そのとぼける様子を見たアニエスは内心『昔はこんな事しなかったのに』と思う。


 遥か遠い故郷の星にいる影響を与えた人物に軽い呪詛の念を送りつつも、それはそれとして、仕草自体に対し文句を言う事はしなかった。


(…………なにしてもかわいいの、ずるい)


 などと、無表情のアニエスの心の内ではささやかな懊悩があったのだが、それはそれ。


 アニエスと違い心を読む異能など持たず、友人の性格はよく理解していてもその細かい機微にはとても疎いフィーネは、何も気づかずに自分の興味の対象を追求した。


「それで、結局どうしたの?」


「自分で造った」


「なんだ、ならいつも通りじゃない。というか仮にこの町にトイレがあっても、アニエスは魔法使ってたでしょ」


「…………まあ、そうなんだけど。最初からそういうためのスペースがあるのと無いのでは気分が……」


「今さらだなぁー」


 二人が元いた星のある程度発展した街では魔法技術によってこの手の生活基盤は整っていたため、水道が無い町は珍しくはあるが驚くほどの事でもない。


 ましてかつて徒歩で旅をしていた頃には道中その手の設備などあるはずもなく、アニエスも旅人としてその手の不便をしないための魔法は多く覚えていた。


 また、迂闊に排泄物などを残すのは魔法の観点から見て危険でもある。


 生体情報の塊と言えなくもないそれらは、腕のある魔法使いならば呪いの媒介などに悪用する事も可能なのだ。


 そのため、周囲から見えなくするための囲いや事後に残る物を消し去るための処理魔法など、その辺りの対策は当然完備していた。


 加えてアニエスにはやや潔癖の傾向があるため、少なくとも当人が安心を得られる程度にその手の魔法は錬度を上げてある。


 フィーネが口にした通り、町の設備が整っていてもせいぜい『そういう場所』として利用するだけでしかない。


「前にも言ったかもしれないけど、アニエスってアレだよね」


「なによ」


「ヘンなところで乙女? っていうか、繊細すぎ」


「……言わないで。自分でもちょっと気にしてるんだから」


「ふふ。別にそのままでもいいと思うけどねー」


「…………からかわないでよ」

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