上巻 第2章7部 特等席
上巻 第2章7部 特等席
僕達がホームを出て真っ先に思ったのが、「町田で遊んでおいて良かった」だ。
もしここに一日いたら、彼女とももう終わりな気がしてならない。
「うーん…空気が新鮮ーっ。うぇっ、ゴホゴホ」
「そういうのはせめてバスの排気ガスがない所でやろうか」
むせている彼女の背中を擦りながら、二人で笑いあった。
長い踏切をやっとの思いで抜けると、十字路に出た。
「この近くに中学校があるのかな」
前から歩いてくる部活帰りの中学生を見て、僕は彼女に言う。
「そうかもねー…。それよりさ、あれ!」
彼女が指さす方を見ると、小さな和菓子屋が見えた。
「遅めのおやつにしようよー!」
柿がデザインされたお店に入り、栗ようかんを二つだけ買って店を出た。
「ここらでさ、少し散歩しない?ようかんも食べたいし。」
「うん。いいよ」
答えがあっさり帰ってきたので、僕らは二人で駅から離れるように散歩をした。
「この辺って高台だよね」
「ねー…。あっ、あれ見て!」
「イチッニッサンッシッ…!」
学校の前の大きな坂で坊主頭の学生達が遠くから見てもわかるような熱気を
放ってトレーニングをしている。なんて場所なんだろう。
「すっごいね…」
彼女は苦笑いしながらそう言った。
しばらく歩くと大きな階段が見えたので、チラッと彼女を見ると、彼女はとっ
さに走り出し、階段をヒョイヒョイと登り始めた。
「さっきの分のダイエットー!」
すると、彼女が階段の途中でピタッと止まった。そして、僕に向かって言った。
「ねぇ証士。ベンチがあるよー」
そこは中学校の裏口付近、裏山の登山口に設置されたベンチだった。
植えてあったアサガオは散ってしまっていたが、そこそこ涼しかったので、ここ
で遅めのおやつにすることにした。
「このお菓子、柿関係ないけど美味しいね」
「うん。柿関係ないけどね」
僕らはそう言ってお菓子にパクつく。
「えっ、嘘でしょ?何分待ってたんだよ」
「うーん…2時間ぐらい?」
「そんな…バカじゃないの!?」
「まあまあそんなこと言わないでさぁ…」
見知らぬ二人の中学生の会話を聞き、僕は彼女を見る。彼女は少し引き気味だ。
「まあいいけどさ、早く帰ろうよー」
「なんで?2時間も待ってたのに…」
「まあいいじゃん、早く早く…」
「あ、わかった。前に好きな人が…?」
「うるさい!声がでかいよ…!」
「あの二人…なんか面白いね」
「変な二人だったねー」
「じゃあ…僕たちも行こっか」
そそくさと帰っていく二人組を背に、僕たちもそろそろ駅に向かうことにした。
忙しくて投稿が遅れました。
次話投稿は4月24日(水)です。
次回は今回より文量多めにします。