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8――『生きるためには無責任も大事』

【1】




「さて、これでグロウさんの居場所はリィラとわたし、二人分。しっかり帝国を裏切ってくれる?」

「ああ、もちろんだ」

「よろしい。じゃあ、そのロボット止めないと」

「解った。緊急停止方法があるかもしれないから……確認しよう」

「? 確認?」


 立体映像装置――通信機を取り出し、グロウはスイッチを入れた。

 ホログラムが地面に浮かび上がり、椅子にかけた男の形を取る。


「将軍、連絡が遅れて申し訳ありません」

『おお、スヴァー少尉。心配していたぞ。というより、現状はどうなっている。こちらもそちらの様子はあまり観測できんのだ』

「いえ……キルロボットの緊急停止方法を教えてほしいと思いまして」

『……なに?』

「実はこの場所はレジスタンスのアジトではなかったのです」

『ど、どういうことだ?』

「ダミーだったんです。奴らの罠です。ですので、ここでサツ・リークを起動させるのは我が軍の手の内を明かすことになります。リスクを回避したいのですが、起動キーは事故で失ってしまいました。それで、どうにか止める方法はないかと」


 グロウが紡ぐ嘘に、オランシェは目を丸くする。スパイだっただけに、すらすらと淀みのない発言だ。相手の男も納得したように見えた。


『ふむ。では仕方がない。では、まず――』

『裏切り者め。それ以上は許さん』


 パン! パン! と。銃声が鳴った。


「なに!?」


 ホログラムの男が痙攣し、倒れていく。残された椅子に、新たな男が座った。


『スヴァー少尉。いや、スヴァー。貴様には反逆罪の疑いが掛けられている』

「貴様……何者だ! シルヴェル将軍になにをした!」

『自分はギュール。シルヴェルの副官。そして監視役だ。彼には休暇を取ってもらった』


 ホログラムの男は、淡々と言う。


『元々パーフェクト・ソルジャーなどという胡乱な存在の推進は、彼一人が頑張っていただけ。優良種たる我ら帝国軍はそもそもが優れた血統。遺伝子をいじる必要などない』

「パーフェクト・ソルジャーは、帝国にとって重要な存在だと……将軍は……」

『要塞攻略の時点で、貴様はやりすぎていた。レジスタンスに信用されるためなどと報告していたが、シルヴェル以外の上層部はもはや貴様が制御不能に陥ったものと見ていた。レジスタンスへの関与容疑は十分』

「待ってくれ、オレは……!」

『黙れ。暴走したパーフェクト・ソルジャーは処分するというのが、帝国の決定だ。逃げる時間など与えん。レジスタンスとともにそこで死ぬがいい、スヴァー』


 プツンと消えた立体映像に、グロウは青ざめていた。


「なんということだ……シルヴェル将軍が……」

「うーん、信用されてない、っていうの、ホントだったみたいだね。そのシルヴェルって人は、別だったみたいだけど」


 うっとおしくはあったが、帝国で自分を気にかけてくれていたのは、シルヴェル将軍だけだったのか。グロウが寂しそうに呟いた。

 オランシェは、俯いたグロウの肩にそっと触れた。


「スヴァーさん……ううん、グロウさん。つらいだろうけど、もう時間がないよ。あの様子だと、二一時って言ってた作戦も、もう……」

「ああ。解っている。帝国は、奴らはすぐにでも部隊を送ってくるだろう。だが。サツ・リークの止め方も解らないままだ」


 悩む二人のところへ、騒がしい飲み会メンバーの声が届いた。喧騒はゆっくりこちらへ近づいてくる。


「おおーい! 隊長~! グロウの奴、起きましたかー! とっとと撃ってシメましょうよ―!」

「ヒック、なんだぁ……うるせえな……つか、頭が痛ぇ……二日酔いかぁ……?」


 ヴィトも、もぞもぞと地面でもがき始めた。


「う、やばいよグロウさん。あっちもこっちも時間切れ。みんな銃を持ってる。いまにも空に向けて撃っちゃいそうだ」

「……そうか。オレの居場所。オレの存在が祝砲の合図……」

「まだ悩んでるの? そんな暇……」

「いや――オランシェ」

「え?」

「オレがいたら彼らは祝砲を鳴らす。だがキミならレジスタンスのみんなと顔を合わせても事情を話す時間はあるだろう」

「そりゃそうだけど……もう逃げるのも間に合わないんじゃ……」


 レジスタンスのメンバーが、続々と集合してくる。

 あと二〇秒もないだろう。


「考えがあるんだ! 頼むオランシェ!」

「わ、解った! ……って、リィラ!?」

「グロウ――――!」


 グロウの背後から飛びかかってきたのは、豊満な肢体の少女である。スタンガンの衝撃から目を覚ましたらしいリィラは、オランシェと肩を並べたグロウを見るなり憤怒の形相に変じていた。


「浮気者めぇ……あたしと、キスを……しろぉ……!」

「リィラ! 待ってくれ、いまは時間が――」

「うるさーい! 一回ちゅーをしろ! 意識があるグロウのファーストキスは、あたしがもらう!」

「あ、それもう、わたしとしたよ」

「なにィィィ!?」


 プシュ、と。空気が抜けるような音がリィラの首筋に刺さった。


「今朝言ったねリィラ。これ、わたしが研究した記憶を消すクスリ。一日分。ごめんね……あなたやっぱり恋愛するには早いみたいだから。告白、ナシにしちゃおっか」

「オラン……シェ……」


 ぎょっとするグロウの目の前で、リィラが再び気を失った。


「さ、これでいいでしょ、グロウさん。それとも……わたし以外とも、キスしてみたかった?」

「……オランシェ。キミ、すごい娘だな」

「褒めてるの、それ」

「もちろん。最高のメガネっ子だ」

「ありがと」


 レジスタンスのメンバーのもとへ駆けていく少女の背に、グロウは笑うしかなかった。




【2】




 レジスタンスアジトへ進軍したた帝国軍は、スクラップエリアに転がる酒瓶に鼻を鳴らした。


「いまのいままで飲み明かしていたらしい。スヴァー少尉も迂闊なことだ」


 地下トンネルも静かで、レジスタンスは装備や食糧もほとんど持たぬまま逃亡したと見られた。


「つまり、奴らにはロクな反撃手段も作戦もない」

「ギュール少佐。いかがなさいますか」

「全軍、進め。我らは先頭部隊の報告を待って、後方の各部隊にも状況を通達。追えば奴らの背に食らいつく。そう遠くへは行けんはずだ」


 帝国軍の主力がこのエリアに集まっていた。各方面へ散開し、しらみつぶしにレジスタンスを発見すれば、全滅させることも可能だ。ギュールはそう判断した。


「裏切り者め。キルロボットの起動すらまともにできんとは、なにがパーフェクト・ソルジャーだ。ただの失敗作ではないか」


 そのとき、酒瓶を蹴飛ばした兵士の一人が、


「そういえば、スヴァー少尉が失敗したという作戦のキルロボットは?」


 と上官へ尋ねた。


「サツ・リーク。帝国の最終兵器として開発された画期的な試作機体だ。強力なエネルギー兵器――ビームやバリアを搭載し、正面から我が主力とぶつかっても対等に戦えるだけの戦闘力を誇っていた。それがどうした」

「いえ。せっかくの戦闘力がある機体なのに、どうなったのかと思いまして」

「ふん、スヴァーが失敗したということは、機能を停止させられたのだろう。停止状態では通常のロボット兵と変わらんからな。破壊されていたとすれば、このスクラップのどこかにあるはずだが」


「おや? なんだこれは」


 別の兵士が声を上げた。ギュールがそちらの方向を見ると、幅一〇メートルほどの平らな台があった。空いた酒瓶や食事のゴミが乗ったテーブルである。

 テーブルの側面、埋込み型の液晶パネルに表示されているのは、時間だ。


「なんでしょう。さきほどから動いていまして……タイマーでしょうか?」


 残り時間、一〇秒。と表示されていた。


「?」


 再設定されたタイマーは、きっかり一〇秒後に起動した。

 帝国軍主力部隊の、ちょうどど真ん中である。




【3】




 背後――グロウたちが逃げてきたスクラップエリア。元アジトだった地域で爆発が起こった。

 次いで、閃光や銃声が聴こえてくる。


「だからね。リィラも悪い子じゃないんだよ。ちょっと思い込みが激しいだけで」

「だが、もうオレはこりごりだ。これからはちゃんと……ちゃんと皆とも話せるようになりたいし、軽率に付き合うとか、言わないようにしたい」


 振り向けば、巨大なキルロボットが暴れ回っていた。気絶したリィラと酔っぱらいのヴィトを背負いながら走るメンバーらは「ひぃ!」と悲鳴を上げながら必死で足を動かす。

 レジスタンスの面々が突然の出来事に困惑しながら逃げる中、二人だけが無関係なことをくっちゃべっている。


「ふーん、じゃあリィラじゃなくて、わたしとは付き合わないの?」

「え? ええ? いや、それは、リィラに悪いんじゃ」

「わたしはどっちかというと悪い子だからね。あの娘記憶なくしちゃってるしノーカンノーカン」

「……キミには敵わないよ」


 動き出したサツ・リークは止まらない。

 ビームやバリアで周囲のすべてを殺し、壊し、砕くまで。戦い続けるのだろう。

 どこまで被害が広がるのかは解らない。帝国の首都まで壊れてしまうのか、スクラップエリアだけで留まるのか。

 とりあえず、走っている二人には関係がない話だった。

 ともかくとして、キルロボットの話はここでおしまいである。

『SF作品でコメディーっぽいものを書こう』

 そんなコンセプトから書いた作品。

 短編で終わるつもりが中編まで伸びてしまった……!

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