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1――『隠し事は隠せない』

【1】




「日が登る。ふっ、今日このゴミ山のアジトが奴らの最期の地となるだろう」


 地面に埋めた大型ロボ『サツ・リーク』の起動キーを回すと、液晶パネルがグォン……と鈍く点滅し、待機状態に入った。


『よくやった、スヴァー少尉。さすがは我が帝国が生んだパーフェクト・ソルジャー』


 掌サイズの立体映像――全身をローブとフードで隠した男が、低い声で称賛する。


「将軍。もう一回言ってくれますか」

『さすがは我が帝国が生んだパーフェクト・ソルジャー』

「ふっ、それほどでもあります」


 スヴァーは若干ナルシストだった。


「将軍。タイマーは日暮れ……二〇時でよろしいですか」

『問題ない。二一時には我らの鎮圧作戦が開始される』

「サツ・リークがアジトで暴れ、混乱しているところを制圧すれば……」

『効率的だろう。こいつは動き出せば止まらん。周囲のすべてを殺し、壊し、砕くまで。戦い続けるのだ』


 スクラップの山の合間、偽装したサツ・リークは、首から下までが地面の下に隠してあった。

 頭部だけが地上に出ている形だ。

 発光したメンテナンス用液晶パネルも含めて、サツ・リーク頭部を覆うように防水シートをかける。その上に木製の板を置いて、固定する。

 これなら誰にも気づかれまい。

 誰かが見たとしても、幅一〇メートルの平らな台にしか見えないはずだ。



「レジスタンスめ……首都にここまで近い場所でアジトを築いていたとは」

『灯台下暗し。靴下が一足しかないと思ったら洗濯物の中に絡まってたようなものだな」

「この惑星はレーダーやスキャンを阻害する反射物質の雲が厚い。そこを利用したのでしょうね」

『少尉が奴らの信用をうまく勝ち取ってくれたことで、アジトの場所も判明した。これで奴らも……」

「レジスタンスが不穏な動きを見せたときはどうしましょう。たとえば作戦前に帝国に仕掛けようとしたら……」

『そのときは大きな音を立てろ。銃声が適切だ。サツ・リークはそれでも起動する。ただし距離には気をつけるのだぞ、スヴァー少尉。巻き込まれぬようにな』

「周囲のすべてを殺し、壊し、砕く……ですね」


 スヴァーは黒髪の下で、獰猛な笑みを浮かべた。


「理解しております、将軍。自分は帝国に戻り、パーフェクト・ソルジャーの有用性を示すという使命があります」

『うむ。その暁には、少尉は英雄だ。なんでも思いのままになるだろう。帝国でやりたいことはあるか』

「訓練だけをしてきたゆえ、その辺りはよく解りません。が、死ぬつもりはありません」

『ふ、欲のない男よ。まあ帝国へ戻ってからその辺りは考えればよい』

「了解です」


 そのとき、スヴァーは近づいてくる足音に気づく。ハッと振り向くと、


「おぉ~~い。グロウくん、こんなところにいたのか。ミーティングがあるから、アジトの地下広場に集まってくれや」


 駆け寄ってきたのは、白髪の中年男性である。


「いやー、若者だってのに朝早いな。オジサン起こしに行ったのにいないからビックリしたぞ。なに、筋トレでもしてたのか?」

「ああ、すいませんヴィト隊長。新参なのに勝手に動き回ってしまって」


 穏やかな微笑みでスヴァー……いや『レジスタンスの若きエース』グロウは頭を下げた。


「いいんだいいんだ。グロウには皆がいつも助けられてるからなァ。先週の要塞攻略だって、きみの活躍がなければどうなってたか」

「レジスタンスのトップが、オレみたいな若造にそんなこと言ってしまって、いいんですか?」

「いいのいいの。俺が隊長なんだから。ガハハ」


(部隊の規律について言ったつもりなんだが……これだから劣等種は、話が通じない!)


 それでも帝国軍の兵士は油断することはない。あくまで『グロウ』を演じなければ。


「んん~? グロウくん、もしかして」

「……な、なんでしょうか」


 じろりと背後を覗き込もうとするヴィト。まさか、サツ・リークに気づいたというのか?

 シートはしっかり掛けておいたから、幅一〇メートルほどの平らな台にしか見えないというのに。


 だが、視線は別なところに向けられていた。


「きみ、その手にあるの……立体映像装置か?」


(しまった! 将軍との通信が――!)


 オフにしてただろうか。きっとしてたはず。いやしてたっけ? うわーマジか。変な汗出てきた。

 恐るべき油断であった。

 パーフェクト・ソルジャーとはいえ、いきなり後ろから近づいて来られたらそういうこともある。

 変な汗が出たグロウをじろっと見てから、ヴィトは意味深に笑った。


「いやいや、若者だものな。そういうの観たいよな。いいっていいって」

「……は?」


『ホラ豚野郎! そこに四つん這いになるんだよ!』


 背後のホログラムが流していたのは――ボンテージ姿の女が全裸男の尻を蹴っている映像だった。


「もっと解像度高いやつ俺持ってるぜ? 今度貸してやるよ。でも皆にはナイショな」

「あ……ありがとうございます」

「けどたしかきみ、まだ一七だろ? イイ趣味してんなあ……」


 立ち去っていくヴィトに聞こえぬ音量で、背後から将軍の声がした。


『危ないところだったな少尉。とっさに私が偽装メディアを流さなければすべての計画が水の泡だ』

「将軍……申し訳ありません。しかし、いまの偽装メディアはいったい?」

『ん? 私がさっき使っていたデータだが』

「使っていた? なににですか?」

『あ、いや貴様が知る必要はない。さあ行け。怪しまれぬうちにな。ほら行け』

「了解しました」


 いまのは危なかった。もっと注意深く行動する必要がある。

 相手は歴戦の猛者であり、長年帝国の支配を退けるレジスタンスのトップなのだ。


(それも、今日でおしまいだがな)


 内心ほくそ笑みながら、グロウはミーティングへ向かうヴィトの背についていった。

 サツ・リークの起動タイマーは、すでに動き始めている。

 ――それにしても、さっきのメディアはいったいなんだったのだろう。

 訓練だけをしてきたので、グロウはその辺の知識が皆無であった。

 ただ、もうちょっと見たかった気もする。帝国に戻ったら、将軍からメディアを借りようと思った。

 パーフェクト・ソルジャーに性教育のカリキュラムはなかったのだ。




【2】




「え、祝賀パーティー……やるんすか、ヴィト隊長」

「おう、やるぞ。要塞攻略と、グロウくんの歓迎会も兼ねて。若きエースを祝ってやるのさ」


 朝のミーティングが終わったあと、夕方まで哨戒と訓練予定のグロウが出ていったのを見計らい、ヴィトは言った。


「半年間バタバタしててできなかったからなァ。本人はクールに振る舞っているが……今朝、確信したのさ。俺には解る。彼もなんだかんだで一七歳の若者だ。パーッと騒げば、心を開いてくれる。SM趣味はちょっと解らんが」

「はぁ……?」


 部下たちが一様に微妙な顔つきをしているので、ヴィトは「なんだ、いやなのか?」と無精髭を撫でた。


「そ、そういうわけじゃねえんですが……」

「けど、そ、そう。あんまり騒ぐと帝国の奴らにアジトの場所を感づかれるんじゃ……」

「帝国打倒はもう目の前だ。気づかれたなら一気に攻め込んでやればいい! 主力部隊ごと壊滅させちまおう!」

「そんな無茶な……」

「ま、冗談だがな。夜の間なら多少派手に騒いだってバレやしねえさ。レーダーも衛星も効かねえんだ」


 それでも乗り気ではなさそうなメンバーたち。


「おいおい、おめえらはそれでも大人かよ。あのグロウくんがどれだけ活躍してくれたか。若者を祝ってやろうとは思わねえのか?」

「そりゃあ、助かってますよ。こないだもグロウには命を救われた」

「けど、アイツなに考えてるか解んねえっていうかね」

「こないだなんか、メシ食ってたら急に

『格闘術で敵を殺すのに最も有効なのは、ナイフだ。音がしないのもいい』

 なんて言い出してね。彼はどこか、おれたちとは違う……戦士として生きてるっていうか」

「だからこそだ。彼だって人間。戦士としてだけじゃあなく、仲間として結束を深めてやりてえんだよ俺は。それによ……」


 にやり、とヴィトは笑った。


「酒もあるんだぜ」


 部下たちが顔を引き攣らせたのを、ヴィトは気づかなかった。


「帝国の連中が、要塞の中に隠してあった酒が。たんまりだ」


 曖昧に喜んで、レジスタンスは小声で囁き合った。


「それが問題なんだよ……」

「隊長、今度はなにしでかすか……」

「飲み会で仲良くなるって考えがすでにけっこう……」

「そりゃ飲みてえけど、それ以上にこの人に飲ませたくねえんだよな……」

「あん? なにをブツブツ言ってんだ。とにかくトップの俺が決めたことだ。パーティーはやる。これは確定事項だ」


 仕方ない、こう言い出したら聞かないしな、と腹をくくった様子の部下たちはようやく声を上げた。


「よぉし。もうリィラたち女連中には伝えてある。時間は今夜。日が落ちる二〇時くらいからでいいだろう」

「それで隊長。場所はどうするんです?」

「おお、それなんだが、さっきちょうどいい幅一〇メートルくらいの平らな台を見つけてな。そこをテーブルにしようと思う」

短期集中連載の中編作品です。

毎日20時に投稿予定。


基本的にはコメディーなので、肩の力を抜いてお読みいただければ。

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