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Tridelta Online ー奇弾の射手ー  作者: ナトリウム
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第81話 避難



「ね、ねぇ! 本当に止めなくていいの!?」


 京輔が春奏との決着をつける少し前。


「慌てんな馬鹿、あいつにも考えがあるんだろ」


 観戦席にいるリンは酷く動揺していた。


「どんな理由があったらあの二人が戦うことになるの!? こんなの駄目に決まってるよ!!」


 食ってかかる様にサトミに向かって叫ぶ。


「おい、てめぇよ……」


「今から私も出るから、サトミ君は───」


 居ても立っても居られない。ガタッ、とリンは立ち上がった。


「頭冷やせっつってんだろッ!!」


「……っ!?」


 リンが行動を起こそうとしたその時である。サトミは見兼て一喝した。


「これもあいつの作戦かもしれねぇだろッ!」


 幸い、周りにいる他のプレイヤー達は戦いに見入っている。故に二人のいさかいを気に留める者はいなかった。


「……ご、ごめん。また私、熱く……」


 当時の姿に変身しかけていたが、すんでの所でリンはそれをキャンセルする。


「……チッ」


 サトミは舌打ちをする反面、内心安堵していた。


「お前が仲間大好きキチガイなのは結構だが、タイミングを考えろ。どう見ても今じゃねぇだろうが」


 悪態を含みつつ、サトミは正論を吐く。


「その衝動が原因で“深海”の時にやらかしたって言ってただろ。少しは学んでから───」


「……っ」


「───お、おいコラ」


 気付くとリンは重苦しい表情で下を向いていた。


(メンドくせぇなぁ……)


 これまでのつき合いにより、リンの胸中が大体察せる様になったサトミは不本意ながらも言葉を探す。


「まぁ、でもよ……」


 いつの間にか、ある物がサトミの手元に握られており───。


「……えっ?」


 ───サトミはそれをリンの頭めがけて軽く振り下ろした。


「痛っ!? えっ、さ、刺さっ……!?」


 ゴンッ、と鈍い音が鳴る。その棒状の物の先端は角張っており、痛みが無い筈がなかった。


「な、何すんのー!? よりにもよ……って、あれ?」


「準備くらいはしとくか」


 サトミの手にあったのは錫杖。世間一般でエクレスターというプレイヤーを印象付けた要素の一つである。


「どうせ出番はあるだろうから、それまで待っとけ」


「う、うん!」


 二人は二人の行く末を見守る事とした。











『あの〜、えーと、い、今なんて言いました?』


 カタミは恐る恐るといった具合に尋ねる。


「俺がエクレスターだ、と言ったんだ」


 偽創領域・闘技場の中心部にて周囲の叫喚や喧騒の中、京輔はただそう告げた。


(うへー、やだー、どうしよっかな〜)


 それに対し、次に取るべきリアクションをカタミは必死に考えている。


(……ま、いいや。アハッ)


 しかし、結論はすぐに出た。


「み、皆さーんッ!! 緊急事態でーすッ!! あの噂の危険人物であるエクレスターが現れましたッ!!」


(えーと、あとなんて言うんだっけ?)


「……これは余興ではありませーんッ!! なりふり構わずこの場から避難して下さーいッ!!」


 マイクの音量を最大に。カタミは早口で捲し立て、まずは責任の一端を果たす事にした。


「後のことは警備システムと我々にお任せ下さいッ!!」


 カタミの警告に触発され、出口に向かって一目散に逃げ惑うプレイヤーの数が増えていく。


「わわっ! 気持ちは分かりますが、危険なのでもっと周りを見て避難して下さーいッ!!」


(あちゃ〜、やっぱ避難訓練って大切なんですね〜)


 出口付近で混雑するプレイヤー達とは裏腹に、カタミは呑気にそんな事を思っていた。


「さて、じゃあ私は……んんっ!?」


 だが、その時、少々予想外な事が起こる。


「おいエクレスター! 勝負してくれー!!」


「いいや、俺だっ! 頼む、手合わせをっ!!」


「うっせぇなっ! 俺から先にやんだよっ!!」


 なんと数人のプレイヤーが力試しとしてエクレスターに挑んでいくのだ。


(ヤバーンッ!? ……じゃなくてヤバーイッ!?)


 責任問題、後々の始末書等が脳裏を過る。カタミは血相を変え、ステージに降りる事を急遽決断した。











「……君達に用は無い。大人しく帰ってくれないか?」


 参ったな、と京輔は表情にこそ出さなかったが困惑する。


「悪いが俺達にはアンだよっ!」


「こんな機会滅多にねぇんだわ、つー訳でヨロっ!」


 一般のプレイヤーが四人、京輔を囲う様に間合いを詰めていた。


(被害は最小限に抑えたかったんだが……)


「仕方ない、だが、恨むなよ」


 京輔は腰を落とすとともに腕を前方に向け、独特の構えを見せる。


「これは断じて勝負などではない」


「おっ! やる気に───」


 それは無音、否、限りなく無音に近い状態で遂行された。











「───ガッ!?」


「一方的な蹂躙だ」











 挑んできたプレイヤーの一人。その頭部が一瞬にして消し飛んだ。


「まだ鈍っているな」


「……えっ、ええ!?」


 京輔の拳から何かが射出されたが、それを把握できた者はいない。


「な、なん───ぐぁっ!?」


 続け様に二人目。またも頭部が消し飛び、数秒で光の泡となった。


「もういいだろう、これで理解した筈だ」


(やはり気分の良いものじゃないな)


 京輔はひっそりと溜め息を吐く。


「はあ!? マジかよ……っ!?」


「あ、ぁあ……っ」


 宣言通りの一方的にして圧倒的、雲泥以上に開きのある差を見せつけられた残りのプレイヤー二名。


「はっきり言うと邪魔だ。さっさと───」


 しかし、その振る舞いが悪手となる。


「やべぇええ! マジかっけぇええーッ!!」


「な! ホントそれ! 今のどうやったんだよ!」


 返って好奇心を刺激し、より一層の興味を持たれてしまう結果となった。


(……全く、血の気の多い奴らだな)


 二度目の溜め息。京輔は配慮する事を止め、多少なりとも雑にあしらう事も検討し始めた。


「もう何も言わん。来るがいい」


「良し! じゃあ行くぜっ!!」


 二人のプレイヤーが各々武器を構え、戦闘態勢に入る。実力の差を測り損ねたのか、表情にはある程度の自信が見てとれた。


「ちょっとちょっとストーップ!! 何してるんですかッ!!」


 準備が整い、いざプレイヤー達が動き出そうした時である。大声を上げ、走り寄って来る少女が現れた。


(あの子は……)


 京輔も最近見知ったディーネーム持ちプレイヤー。


「ひ・な・んッ! して下さいって言ったじゃないですかッ!!」


 イベントの実況兼進行役にして運営の代行者・カタミである。


「とっとと闘技場から出て下さいッ! さもなくばこちらとしても強行手段を取らなくてはいけませんよッ!!」


 京輔と二人の間に割って入り、運営側のプレイヤーとしてその職務を全うするカタミ。


「あん? 女が水差すんじゃねぇよ!」


 しかし、それを受け入れるほど彼らは素直ではなかった。


「見て分かんねぇのか、コラッ!」


「いいからそこどけやっ!!」


 こんな強敵と巡り会う事はこの先無いのかもしれない。そんな考えもまた興奮に繋がり、気性を荒くさせている。


「あ、痛っ!」


 カタミは押しのける様にどつかれた。


「すまん、待たせたな。じゃあ始めようぜ!」


 今度こそまともな戦いになる。少なくとも二人のプレイヤーはそう思っていた。


(俺からすれば、カタミの方には用があるんだがな)


 京輔はやれやれといった気持ちが高まりつつ、前方を見据える。


(……ん?)


 だからだろう、それを視認出来たのはその場で京輔だけだった。











「あのさー、出てけっつってんじゃん」


「……は?」


「あ、あれ?」











 それは鋭利で蛇腹状にしなる刀剣型武器。


(……ほう、それが君の武器か)


 京輔は見た。その剣先がまるで生きているかの様に伸び、二人の腹部を連続で穿つ所を。


「うぐぁッ!?」


「なっ、なん……っ、ガッ!?」


 剣に貫かれながら空中に浮いている二人。悶え苦しむ姿は中々に痛々しい。


「女だからって舐めないでもらえますー?」


 数秒後、光の泡となって消え去った。


「はい、おーしまいっ! アハッ!」


 カタミは清々しい笑みをぱっと京輔に向ける。


(……彼らのLv.はそこまで低くなかった。にも関わらず、これほどあっさり排除するとはな)


 京輔とカタミ。これがエクレスターと代行者としての初の対峙となる。


「すみませんね〜、色々お騒がせしました〜」


 だが、カタミはその事を気にした素振りを見せず。


「まずはこれをお渡ししますよ〜っと!」


 何かを軽く下手投げで放った。


(なんだ? ……こ、これはっ!?)


 緩やかな弧を描き、手元に着地した物を確認した京輔は驚愕する。


「どう考えてもあなたの優勝ですので、持ってっちゃって下さい」


 それは京輔が欲した捜索の手掛かりである零音のペンダントだった。


「いいのか?」


 京輔からすればこれ以上ない好都合な展開。しかし、それが返って怪しく、懐疑的な視線をカタミに向けた。


「どうぞどうぞ。これも私の仕事ですので〜」


「……君は俺が恐くないのか?」


 単純に疑問に思った事を京輔は口にする。


「そう見えます? これでも結構緊張してるんですよ」


 そう言いつつ、カタミは無防備にも京輔に歩み寄って来た。


「でも、なんと言いますか、そんな悪い人だと思えないんですよね」


「……そうか」


「……そろそろ警備システムがここに到着します。次はどうするんですか?」


 小声でカタミは忠告する。それは代行者からのあり得ない助言。


(『拘束する』でも『逃げろ』でもなく『どうするのか』か。この子は一体……」


 カタミの真意が読めず、京輔は若干の困惑を余儀なくされた。


「アハッ、ちょっとまどろっこしいかな。では私は好きに動きますね!」


(……ん?)











「イェーイ、スキありーッ!!」


 伸び、そしてしなる刀剣が京輔を襲う。


「おっと、これは……」


 至近距離に加え、その伸びる速度も高速であり、故にいとも容易く京輔の首元に迫り、刺し貫く。


「なるほどな、Sランクの武器か。悪くない」


 かと思われたが、数cmの所、京輔の指先によって止められてしまった。


「ですよねー。というかエクレスターさんのLv.ってどのくらいなんですか〜?」


 不意打ちが失敗したにも関わらず、カタミはさして動揺していない。


「君よりは高いとだけ言っておこうか」


 まだ隠蔽しておく価値のある情報だったため、京輔は言葉を濁す。


「え〜、超気になりますね! 勿体振らず教えて下さいよぉ」


(やり辛い。……いや、それよりも随分と楽しそうだな、この子)


 初の代行者との戦闘はなんとも言えない雰囲気と違和感を含み始まった。




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