第68話 サバイバル・準決勝終了
「……おい」
「うん、見てた」
闘技場中央エリア。イベントの観戦をメインとした空間。
「ケイの奴はなんか言ってたか?」
「いや、聞いてないかな……」
参加者達の動向を映し出す大型スクリーンを前に、二人のプレイヤーが訝しげな表情を浮かべている。
「他人の空似って訳じゃねえよな」
「装備は違うけど、あの時の子だよ」
画面には主に光属性法術を用いて他を圧倒した少女が映されており、ちょうど決勝進出を果たした所だった。
「確か、ケイと一緒に“黄金”をクリアしてたと思うが……」
「私もそうだと思ってたんだけど……」
サトミは更に眉をひそめ、リンは憂いを帯びた視線を向ける。
「何か嫌な予感がする……っ」
この時、奇しくもリンはこの先訪れる未来を予見していた。
「よし! これで二人目だな!」
「はい。あとは一人ですね」
時と場面が移り変わり、ここはイベント真っ只中のC・Dブロック合同の準決勝。
「はっはっは、まさか君がここまで出来るなんて思ってもいなかったよ!」
京輔はガクと名乗るプレイヤーと組み、他のプレイヤーを次々に倒していた。
「そう言うガクさんこそ、俺の立ち回りにしっかり合わせてくれるので動きやすかったです」
「いやいや、俺なんかまだまだ。ついていくのがやっとって感じさ」
残りは三名。あと一名の退場をもって終了となる。
「あんなに多くの最上級法術を使える君なら優勝も夢じゃないね」
「はい。そのつもりです」
初めは罠の可能性を憂慮していた京輔だったが、ガクの人柄が分かってきたため、徐々にその懸念を捨て去った。
「余計な謙遜はしないか。……実に結構!」
ガクは爽やかに笑う。
「では、最後の一人を探しに行きましょう」
「ああ! そうしようキョウ君!」
京輔のネームは本来『ケイ』であるが、この時ガクは『キョウ』と呼んでいた。
(……まだ慣れないか)
それには理由がある。
(奴らに乗せられている感は否めないな)
準決勝二戦目が始まる少し前に京輔は念のため自身のステータスを確認したのだが、そこに何故か身に覚えのないネームが記述されていたのだ。
(意図は掴みかねるものの、要するにこれは───)
それが『キョウ』というネームである。そして『ケイ』と切り換えて利用する事ができる仕様にいつの間にかなっていた。
「───運営からの施しか」
つまり、このイベントには既にケイという名のプレイヤーは存在しない事になっている。
(どうやら奴らにとって俺達エクレスターはただの敵ではなく……)
「……ん? 何か言ったかい?」
「いえ、聞き流して下さい」
二人は残りのプレイヤーを探すため疾走していた。
(まぁいい、今は踊ってやろう。だが、いずれ必ず出し抜いてやるからな)
黒く渦巻くものを秘め、キョウは思考を一旦打ち切る。まずはイベントに専念する事にした。
「“ゼオグランデルス・キャプチャー”ッ!!」
「“ゼオウィンディスト・トリィ・シュート”」
地面から噴き出る様に土砂が溢れ、その土砂が何かを象っていく。
「フッ、こんなもの……」
だが、その土塊が完成する僅かな隙にキョウはそれを蹴り壊した。
「無駄な抵抗だ」
荒々しく唸る風を両足に密集させ、威力が増大した蹴りを三連続で放つ最上級風属性技法“ゼオウィンディスト・トリィ・シュート”。
「く、来んじゃねぇ! なんなんだお前っ!?」
キョウが相手をしているプレイヤーが忌々しげに叫ぶ。
「ん? そうだな……」
掌に何かを握り、キョウはすぐさま相手との間合いを詰めた。
「……っあ!?」
「君よりも強い奴、かな」
スッ、と拳を相手の顔面に当てる。
「いぃ……っ!! ……がぁあぁあッ!?」
すると、爆発音と共に相手は弾き飛ばされた。
(しまった、詠唱をし忘れたな。……気をつけよう)
光の泡の放出を確認。その間にキョウは少し反省をしていた。
「いや〜、あっという間だったね」
「そうですね。思っていたよりも楽にことを進められました」
二人は決勝進出を決め、後はタイムアップを待つばかりである。
「今更だけど、手を組むよう頼んだにも関わらず、あまり力になれなくて済まなかったね」
「いえ、そんな事は……」
キョウは少々違和感を覚えていた。
(そうだな。まるで何かを制限している様な印象を受けた)
先程までの戦闘を振り返るキョウ。Lv.70代にしてはやや級位が低めの法術ばかりをガクは使っていたため、そこを疑問に思ったのだ。
(一応、調べておくか)
キョウは索敵系法術を発動し、ガクの職種を覗き見る。
「おっ、この感覚は……」
(ん? ……これは)
ガクは自身の素性を探られた事に勘づき、キョウは疑問が解けたとばかりに口元を緩めた。
「なるほど、そういうことですか」
「ほう、やっぱりバレたみたいだね」
特に隠し立てしている訳ではなかったのか、ガクからは焦りの色が窺えない。
「中々険しい道のりですよ、その職種は」
「はっはっは、だからこそさ!」
「……正しく挑戦者ですね」
キョウは苦笑しながらも決して皮肉めいたニュアンスを含ませなかった。
「では、また後で。とは言え次こそは敵同士ですが……」
「ああ! 良い戦いにしようじゃないか!」
タイムアップとなり二人の身体が徐々に透明になっていく。
「……所で、先ほど聞き忘れていましたが、ガクさんは何になる予定なんですか?」
「ん? ……あー、アレのことかい?」
この先に待ち受けるはイベントの決勝戦。だが、その前にキョウはガクに尋ねずにはいられない事があった。
「よくぞ聞いてくれた。俺が目指しているのは“マエストロ”!」
ガクは高らかに宣言する。
(……良かった。そっちか)
キョウは何故か安堵した。
「こう見えてもリアルでは君の様な若者に勉学を教える立場でね。そんな事情もあって打ってつけだと思ったのさ!」
自ら志願した理由を述べる。そこには嘘偽りがないと思わせる熱意があった。
「なれるといいですね」
とうとう二人の身体がフィールドから消失する。その直前に出たキョウの言葉もまた偽りの無い本心だった。




