第63話 サバイバル・準決勝
毎日更新どころか、週一更新も危ういとは……。
「がぁッ!?」
予選Dブロックは残りあと一人の退場で終了する。
「……もしや、と思ったが違うようだな」
そんな矢先、ケイの銃声は一瞬、だが、確実に的を貫く。
(過信ではなかった)
「あ……っ、あぁ……」
相手プレイヤーは自身の状況に混乱する隙もなく、ただ速やかに光の泡となった。
「これがキュネールの……、過去の残響か……」
キュネール・オンラインでの事故、それを乗り越えた能力。ケイは本戦出場を果たしたにも関わらず、物憂げな表情を浮かべた。
「ここを潜ればいいのか」
各ブロックと同様に、予選通過者は指定された場所にあるワームホールまで辿り着かなければならない。
(面倒だと思ったが、案外近かったな)
幸い、ケイはそう遠くない位置にワームホールが出現したため、他の勝ち上がったプレイヤーに遭遇する事はなかった。
(そういえば、本戦のルールを聞いていなかったが、何をするんだ?)
疑問を抱きつつ、入口に足を掛ける。
(まぁいい、すぐに分かる)
迷いはしたが、ケイは不必要な警戒心を持たず、前に進んだ。
『お疲れ様でした〜! インターバルの後に勝ち上がった皆さんは本戦に参加してもらいますので、心の準備をしておいて下さいね!』
ワームホール内を移動中にカタミのアナウンスが流れる。
(本戦……。ここからは春奏とぶつかる可能性があるのか)
Bブロックの予選を通過した幼馴染。お互いに駒を進めたという事は、その確率が極めて高い。
(だが、その気掛かりは杞憂だった。あいつは賢い、引き際も弁えてくれるはず)
ケイは楽観していた。何故なら優勝までの目処がもう付いていたからである。
「……で、ここはどこだ?」
ワームホールの終着点。ケイは見慣れない場所に辿り着いた。
『は〜い、C・Dブロックの皆さん! 本戦準決勝の舞台にようこそっ!』
周辺には輸送等に使われる大型のコンテナがいくつも置かれている。
『今から再度ルールの確認をしま〜す! まずはこの場所についてっ!』
背後は金網で区切られており、その向こうには大型船が停泊していた。
『ここは“港湾フィールド”の普段は立ち入り禁止になっているちょっとレアな場所です』
“港湾フィールド”では本来、用意されている大型船に乗り込み、海面から現れるモンスターと戦闘を行うのが一連の流れとなるが、イベントでは趣きが異なる。
『あと、お伝えした通り今回は船に乗りません! そして狭いです!』
「あれはプレイヤー……か? 確かに狭いな」
ケイがコンテナとコンテナの僅かな隙間を見ると、他の勝ち上がったであろうプレイヤーの姿を捉えた。
(俺のいる位置とあのプレイヤーの位置がフィールドの端だとすると、間隔は大体150くらいか)
『え〜と、正方形のフィールド内に五人のプレイヤーさんを配置させて頂きまして、割合はCが三名でDが二名、またはその逆になってます』
「……ん? CとDだと?」
ケイは聞き逃しを疑ったが、そうではない。
『ちなみについ先程、AとBの準決勝は終わりました〜』
「なっ……」
待ち時間の短縮を図るため、この様な進行になっているのだ。
(は、春奏はどうなったんだ?)
しかし、ケイはその事実を知らず、静かに動揺する。
『公平にするため、結果についてはまだ教えられません! お楽しみにっ!』
(くっ……、小賢しい)
『おっと、話が逸れましたね。で、ルール説明の続きですがー……』
(あいつのことだから特に心配は───……ん?)
幼馴染の身を懸念した所で、ケイは自身の心中に違和感を覚えた。
『CとDを混ぜて、それをさらに二つのグループにしてる訳ですが、ここで勝ち上がれるのは両グループ合わせて四名まで!』
(まてよ、春奏がいない方が都合がいいのか……)
『つまり、そこにいる他のプレイヤーさんを三人倒しちゃえばいいんです!』
(いや、よそう。あいつに悪い)
元はと言えば俺の責任だ、とケイは違和感を拭い、考えを改める。
『手当たり次第でも良し、共闘しても良し、裏切っても良し。とにかく二人になるまで戦っちゃって下さーい!』
(まずはこの場を切り抜ける。それだけだ)
『では、5分後に開始します! 少々お待ちを〜』
結局、ケイはルールをほとんど把握出来ず、アナウンスは問答無用で途切れた。
『ではでは、準決勝第二戦目、開始ですっ!!』
「さて、どうするか」
まだ目立つには早い。そう判断し、ケイはひとまず目の前にあるコンテナの上に登る事とした。
「プレイヤーは……」
コンテナは縦に3台積み上がっていたが、なんの労もなく登りきり、辺りを見回す。
「まぁ、いるよな」
戦闘はすでに始まっていた。
「ゼ……ウィ……ト・……ザーッ!!」
「……イミカル・ツイ……ブレッ……ッ!!」
気流が吹き荒び、ケイがいる場所にまで届く。続いて猛火が唸りを上げ、コンテナに衝突する音が響き渡った。
「索敵は得意じゃないんだが……」
法術を発動したプレイヤー達はコンテナの陰に隠れ、その姿はケイには見えない。
(“掌握射界”で……)
プレイヤー達がいるであろう地点をじっと睨む。すると障害物となるコンテナがケイの目からは徐々に透けていくのが見て取れた。
「三人か。いい法術を使っているな」
スキル・“掌握射界”。指定された型の武器を使用している場合に所有ができ、発動条件は、その武器の攻撃範囲を限度として睨み続けること。
(だが、それもLv.70前後の域を出るものではないか……)
スキルの効果はプレイヤーまたはモンスターを透視し、姿を看破するというもの。よって、あらゆる障害物も意味をなさなくなる。
(脅威となるプレイヤーはいなさそうだな。後は……)
ケイは一安心し、残りの一人を探す。
「お〜い、そこの少年〜」
と、そこで。
「ん、なんだ? ……下からか」
ケイが見下ろした先、何者かが声を掛けてきた。
(スキルを使ってたとは言え、ここまで接近を許すとは……)
「お〜〜い、聞こえてるか〜?」
鈍ってるな、とケイがブランクを痛感しているのを余所に、探していた四人目のプレイヤーはしきりに叫んでくる。
(面倒だが、仕方ない)
嫌々ながらもコンテナから飛び降り、ケイはプレイヤーの元に着地した。
「どうしました? 一応敵同士ですよ、俺達は」
当たり前の疑問をプレイヤーに投げ掛ける。
「はっはっは、まぁ、そうなるよね」
見た目は20代半ばほどの男性で、手には魔導士族が愛用する棒杖型武器を携えていた。
「回りくどいのもなんだし、単刀直入に聞くよ」
(まさか、また代行者か?)
勘弁してくれよ、とケイは思ったが───。
「俺と組んでくれないか?」
───読みはあっさり外れた。
「……えっ」
拍子抜けも含め、ケイは面食らい、反応が遅れる。
「まず、俺のネームはガクだ。よろしく!」
ガクは爽やかに挨拶し、手を差し出す。
(悪い印象は受けないが、……どうしたものか)
事態を飲み込んでなお、ケイは躊躇する。
「……俺はキョウです。お見知りおきを」
結局は不審がられる事を恐れ、握手に応じた。




