第60話 小手調べ ①
超スーパーいまさらですが、あけましておめでとうございます!
いい加減タイトル回収をしたいと思う今日この頃、これからも遅筆ながら書いていきますので、よろしくお願いします!
「すごいな、あいつは」
控え室に設置されている中継用画面には、各ブロックの予選通過者のプレイヤーネームが表示される。
(恐らくはアレを……)
そこには『カナデ』の名も表示されていた。
「概念系の優位性は健在……か」
ケイは控え室の扉を開ける。
(まぁいい、なんとかしよう)
いよいよDブロックの予選が開始される運びとなった。
『ではラストのDブロックの皆さん頑張って下さ〜い!』
「分かってはいたが、変わり映えしないな」
見渡す限りの木々と僅かに聞こえる小鳥のさえずり。ケイの目前に拡がるのは先の予選全てに用いられた森林フィールドであった。
(さて……)
まずはどうするべきか、とケイは一考する。
(出来るだけ目立つのは避けたい。かと言って、時間切れは論外だ)
「ん?」
自身の装備について、はたと気づく。
(危なかった。トライデルタの姿では最悪瞬殺されるからな)
ケイは特例として参加しているため、イベント出場の制限である『Lv.70以上対象』を満たしていない。
(今更だが65は微妙過ぎるな……)
早速、本来の姿へと変身しようとする。
(……待て、このままだと他のプレイヤーに見られてしまうんじゃないのか?)
他ブロックの中継映像は切り替わる回数こそ多かったが、満遍なくプレイヤーをピックアップしていた。ゆえに目撃されるリスクは低くない。
「……またしても賭けだな」
暫し迷った結果、ケイは掌を上に掲げる。
「鉄血召煙!!」
最上級鋼属性魔法であり、ケイが得意とする法術の一つ。
(最低限度だが、まぁ十分だろう)
ダメージ蓄積量に比例して特殊な黒煙を発生させる魔法。それを自身の身体を中心に漂わせる。
(ここからは……)
黒煙は目くらましとしての役割も担い、この問題に対して打って付けだった。
「エクレスター足る実力で臨もうか」
黒煙は変身直後に霧散。そして前作キュネール・オンラインの装備を身に纏うケイは静かにそう宣言した。
プレイヤーが所有できるスキルの数は基本的に8つ。
「ふっ、よし、大丈夫そうだな」
トライデルタだけでなく、過去・キュネールも同様である。
(“刹鬼夜行”の効力は……)
よって、その限られた数での取捨選択はプレイヤーにとって大いに吟味する価値を孕んでいるのだ。
(我ながら悪くないスキルだ)
「……えっ、ん? なんだろう、なんか違和感が……」
そんな事を、ケイは技法を発動しながら感慨深げに思っていた。
「だ、誰かいるの? でも私の“自動察知”では何も……」
変身してから数分後、ある実験を行うケイ。
「気配は辛うじて感じ取れるといった所か」
自身の存在感を操る闇属性技法“刹鬼夜行”を発動し、ケイは偶然出会ったプレイヤーのすぐ側まで接近していた。
(どの程度まで通用するのか知りたかったが、都合がいい)
この技法の利点は、あらゆる索敵系法術に対しての抵抗力。
「なっ、何? 怖いんですけど……」
その他の法術にも言える事だが、Lv.差があればあるほど如実に表れる結果。
(ここまでは廃墟フィールドで試した。ならば次は……)
「……えっ」
また、刹鬼夜行にはもう一つ利点がある。
「き、きゃああ!? だ、誰!? どこから……っ!?」
それは、存在感を無くすのではなく、操るということ。
「ありがとう。君のおかげで効力を確認できた」
「なな、なにを……!?」
いるけどもいない、いないはずがいる。まさに神出鬼没。
「驚かせてしまってすまない。お礼と言ってはなんだが、君は見逃してあげよう」
「え、えっ!?」
ケイと同年代であろう少女は未だに事態を飲み込めないでいる。
「重ね重ね本当にすまかった。では俺はこれで失礼する」
言うや否や、ケイの姿は少女の目に映らなくなった。
「……き、消え……た?」
突然の遭遇から始まり、一方的な謝罪で終わる。少女にとってはなんとも腑に落ちない出来事だった。しかし、知らず知らずの内に予選即敗退という少々惨めな運命を回避した幸運に恵まれる。
「な、なんだったんだろう今の……」
尤も、少女はその事実すらも認識する事はなかった。
(念のため、あと幾つかは試しておくか)
手始めに行った性能のチェック。それをケイはまだ続けるつもりで森林を彷徨う事とした。




