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Tridelta Online ー奇弾の射手ー  作者: ナトリウム
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第3話 昼食のひととき

 


「何が『今日はパス』よ! このバカっ!」


「だからそれは謝ったでしょう!?」


 校舎の屋上にある開放スペースは生徒達に利用してもらうための設備が整っている。


「メールでしょうがっ! 誠意が足りないのよ! 舐めてんの!?」


「い、いや、でも、部長に言ったら許してくれたし……」


 今日は屋上でお昼を取らない? と春奏はるかが誘ったこともあり、京輔きょうすけを含む友人達は弁当を携えて開放スペースの椅子とテーブルが密集している区画まで足を運んでいた。











「部長は優しいから許したのも分かるけど、何で朝練を始める時間丁度にドタキャンしてくるのよ!?」


「ご、ごめんなさい……」


「そ、それくらいで許してあげてもいいんじゃないかな。祭里まつりちゃん」


「そうだぞ白部しらべ美緒みおも反省してるって」


「うるさい! 釘島くぎじまは黙ってなさい!!」


 春奏と言い争う少女・白部しらべ祭里まつりは『る』にアクセントをつけて容赦無く大和やまとに怒鳴る。ヘアピン二つの耳掛けショートヘアーに切れ長の瞳。それに加え大人びた顔つきをしている少女は大分気が立っていた。


「ヒデェ、俺だけ……」


「あはは、なんかごめんね、大和くん」


 今この場には五人の学生がおり、二人の口論にその他がフォローする流れになっている。


「あと、あんたも当事者なのよ! 八衛やもり!」


「……っ!? ち、ちょっとやめて! 京輔は関係ない!」


 どうしたものか、と考えていた京輔にもとうとう矛先が向いてしまう。


「ああ。その件は俺にも非がある。悪かったな、祭里」


「えっ、京輔!?」


「分かってるならいいのよ。しっかりしなさい!」


 俺も謝れば事態は収束に向かうだろう、と京輔は思い実行した。しかし、決して最善手ではなかった事にすぐさま気づくこととなる。






「はあッ!? 何京輔に謝らせてるのよ! ふざけないで!!」


「ふざけてない! ていうか前から思ってたけど、あんたはこいつの何!? 犬か何かなの!?」


「誰が犬よ!? 誰がッ!!」


 京輔の謝罪を皮切りに二人の口論は更に拍車がかかり、どうしようもないほどヒートアップしてしまった。


「長引きそうだな。悪いけど鬼崎きざきか京輔。どっちでもいいから俺みたいに張ってくれ」


「あっ、じゃあ私が張るね」


 見兼ねた大和はある提案をする。鬼崎と呼ばれた少女は京輔よりも早くそれに応じ、スカートのポケットからディーコーンを取り出した。


「色々と申し訳ない。乙葉おとは


「ううん、いいっていいって」


 京輔の言葉にひらひらと手を振る少女・鬼崎きざき乙葉おとはは厳つい名字に反して柔らかな物腰と温和な雰囲気を身に纏う、肩の位置よりも長いポニーテールを特徴に持つ少女である。


「こういう時便利だよな。防音シールドって」


 何とは無しに大和は呟いた。トライデルタ・オンライン接続デバイス・ディーコーンは防音効果があるドーム状のシールドを展開することが可能であり、シールド内の音は大分抑える事ができる。


「と言っても、私のディーコーンは旧型だから、ちょっと頼りないかも」


 はにかみながらディーコーンの裏にあるスイッチを押す乙葉。すると微かな起動音のあとに乙葉を中心としたドーム状のシールドが出現した。


「やっぱり大和くんのと比べると小さいね」


「十分だろ。サンキュー」


 防音シールドはディーコーンのVerバージョン.が最新なほど強度が上がる。それに加えおおう事ができる最大範囲も広がるため乙葉のシールドは大和のシールド内にすっぽりと収まっていた。






「もういい! トライデルタで決着をつけましょう!」


「なんでそうなるのよ!? 絶対嫌!」


 春奏が言い放ち、祭里はそれを拒否する。そうこうしている内に二人の口論はあらぬ方向にいってしまった。






「なあ、先に俺達だけで昼飯食べないか?」


「そうだな。そうするか」


 大和の意見に賛成した京輔はその流れで近くの椅子に腰掛ける。乙葉も引け目を感じながら結局は京輔に続いて座った。


「そういえば、あの二人はどうしたんだ?」


 三人が座る椅子は円形のテーブルを囲むように設置されている。そのテーブルに弁当を置き、京輔は大和に質問した。


「あー、あいつらは生徒会だか部活だかで今日は来れないとさ」


「そうか。忙しそうだな、二人共」


「部活はいいとして、生徒会の方はアレだからな〜」


 しみじみと語る大和。そんな大和に京輔は何も言えなかった。峯横高校生徒会がアレなことは生徒間の共通認識である。


「じゃあ、食うか。京輔は二つ弁当があるんだから、ちょっと分けてくれよ」


「それもそうだな。……よし、お前達。遠慮せずつまんでくれ」


 京輔は一つの弁当を惜しげもなく広げた。弁当の中身はどれも男子高校生が好みそうなラインナップであり、京輔の箸が進まないものは入っていない。


「いいよなー、こういうの。基本パンばっかだからたまに食べたくなるんだよ」


 弁当を覗いた大和はそう言うと唐揚げを二つ素手で掴み、口に放り込んだ。


「んっ、美味っ」


「えーと、じゃあ、私は卵焼き貰うね」


「ああ。いいぞ」


 大和にならい乙葉も広げられた弁当に手をつける。


「わっ、美味しい」


 その後、京輔は二つ目の弁当も広げ、緩やかな昼休憩を嗜もうとした。


「それにしても彩りとかいつもバランス良くて凄いよね。京輔くんの妹さんって」


「本当だよな。おまけに可愛いんだぜ、こいつの妹」


「……んっ?」


 二人の何気ない言葉に対して京輔は背筋に嫌なものを感じる。しかし幸か不幸か、その理由はすぐに分かった。


「あっ、ちょっと箸余ってないか? このアスパラ和えたやつ食べたいんだけど」


 京輔は手元の弁当と二人に勧めた弁当を交互に見る。


「どうしたの? 京輔くん?」


「しまった……」


「えっ? な───」






「ちょっ!? そ、それ私のお弁当じゃない!?」


 いつの間に近づいていたのか、春奏の怒声が防音シールド内に響き渡った。


「はあ? ……もしかしてこれって!?」


「釘島っ!!」


「ヤベッ、マジか!?」


 何間違えてんだ! と大和は京輔に目で訴えかける。


「……け、決着はついたのか?」


 大和の意を汲んだ京輔は状況を打破するため春奏に話し掛けた。


「一応ね。時間前にはいつも来ている私を心配してくれたのは分かったから、ちゃんと謝ったわ」


 どうやらお互いに頭を冷やしたようだな、と京輔は安心する。


「……で、京輔。これはどういうこと?」


 しかし、これは話が別。口元をヒクつかせながらテーブルに広げられている弁当を春奏は指差す。それは紛れもなく春奏が京輔に渡した弁当だった。


「一つも手ぇつけてないじゃない」


「待ってくれ。そんなことはない」


 動揺を隠せず、つい歯切れの悪い嘘をつく。


「嘘つかないで。お弁当食べる時、必ずサラダから食べるでしょ、貴方」


「うっ……」


 あっさりと看破された上に気づかなかった事実まで突きつけられ、どう弁明したものかと京輔は焦った。


「分けるにしても最初は京輔に食べてほしかったなぁ……」


 怒りよりも悲しみに傾いた声のトーンで春奏は呟く。とうとう京輔は観念した。






「零音のと間違えたんだ。すまん」


 簡潔に心の底から謝罪する。


「久々に作ったんだけどなぁ」


「……っ」


 だが、今回の一件は思いのほか応えたようで、春奏はジト目で京輔を睨む。






「ごめんね! 勝手に頂いちゃって」


「わ、悪かったって。ほら、この通り!」


 知らなかったとはいえ申し訳なさそうに謝罪する乙葉と大和。二人共が京輔だけのせいじゃない、と弁明する。


「お前達……」


「……はぁ〜」


 二人の言葉を聞き入れ、春奏は一つため息をついた。


「んー、乙葉のせいじゃないわ。ごめんね。気遣わせちゃって」


 自身を省みた春奏の表情はいつものとは言わないまでも、そこそこの明るさを取り戻している。


「まあ、釘島は許さないけど」


「なんでだよ!?」


 お前が作った方だって知ってたら勧められても食わねえわっ! と大和は内心思ったが、それはギリギリ飲み込んだ。その代わり大袈裟に憤慨してみせる。


「はいはい。……あ、そうだ京輔!」


「なっ、何だ?」


 突然ふられた京輔は声が上擦ってしまったが、春奏は気にせず目を合わせた。


「今日か明日の夜、空けといて。それで許して上げる」


「トライデルタだよな? ……分かった。じゃあ明日で頼む」


「言っとくけど二人っきりよ。いい?」


「了解した」


 話は終わり、何とかこの場を収める事が出来て京輔は安堵する。春奏はというと余っている椅子を京輔の隣りまで持っていき、腰を下ろした。


「ふふっ、残りはちゃんと食べてね」


「分かってるって」


 微笑む春奏に京輔は苦笑いする。











「なんであーなの? あの子」


「あっ、祭里ちゃん」


「よーす、お疲れ」


 ため息をつきながら近づいてくる祭里に乙葉と大和は労いの言葉を掛けた。


「いつもは頼り甲斐があるのに、なんで八衛が絡むとあんなんなっちゃうのかしら、まったく……」


「お、幼馴染だからじゃないかな……」


「それだけかぁ? ま、知らねーけど」


 京輔と春奏の関係を三人は不思議に思う。最早見慣れた光景となっているが、それでも疑問を感じずにはいられなかった。


「あと、こっちは〜」


「ん? ああ、なるほど」


 しかし、疑問が晴れるのはもう少し先の話である。




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