第41話 廃墟フィールド ①
「途中までは回帰する兆しがあったのなら……」
「はい。何か特殊な条件があるのかもしれません」
今にも朽ち果てそうなコンクリートの壁や天井。窓はあるもののガラスはことごとく割れており、無残に散乱している瓦礫がより一層の哀愁を醸し出している。
「せめて、スキルだけでも……」
「“101なる余”や“虚無のヴェール”とかか? 使えれば重畳だったな」
廃墟フィールド。ケイとアマネが訪れたのは、そんないつ倒壊してもおかしくない20階建ての巨大建造物内である。
「いずれは取り戻せるだろ。予定は多少狂いはしたが、目的は変わらない」
「そう仰って頂けるのはありがたいのですが、どこまで通用するかは未知数ですよね?」
星七ミッション『砕屑の魔の手』。初めはエクレスター二人掛かりで挑戦するつもりだった高難易度ミッション。
「未知数か。そうでもないぞ。現にサトミさんの力は顕在だったからな」
作務衣を身に纏い、錫杖を扱うエクレスター・サトミ。戦闘時間は僅かだったが、当時と遜色ない凄みをケイは感じとっていた。
「詠唱破棄に加え、代行者と思しき人物に圧勝。確かに根拠としては十分ですね」
「ああ。それにこの姿になると……」
含みのある言葉につられ、アマネは横目でケイの出で立ちを観察する。上半身は羽織りもの、下半身は迷彩柄。顔面には人相を欺き、覆い隠すマスク。それはトライデルタとは趣きが異なる装備一式。
「この姿になると?」
途切れた先に興味を持つ。しかし、ケイは何故か語る事を中断する。
「……どうやらあと七階ほど上にいるみたいだな」
「はい?」
「スキルも良好。さあ、行こうか」
「ちょ、え? 何を……っ」
独り言を呟いたかと思えば、ケイはさも当然の様にアマネを抱きかかえ、そのまま走り出した。
「あのっ、恥ずかしいのですが……」
「この方が早い」
横抱き。俗に言うお姫様抱っこ。
「えぇー……」
ワタシの羞恥心は無視ですか? と思いはしたものの、効率的である事は否めないため、アマネはケイの首に両腕を回し、体勢を安定させた。
「ほう、随分と身体が軽い。まるで飛んでいるようだ」
不規則な瓦礫等の配置を意に介さず、軽快な足取りで疾走中。
「そんな感じでしたね。キュネールの時も」
キュネール・オンラインでのケイ。その過去。
「大胆以上、不遜未満、と言った所ですか」
「ん? なんだ?」
「いえ、別に」
これもエクレスターになった影響でしょうか、とアマネは結論付け、 ケイの横顔を無表情で凝視する。
「……だからなんだ? 気になるだろ」
「いえ、別に」
ケイからの疑いを素知らぬ態度でかわすアマネ。そうこうしている内に目的の階層まで残り二階となった。
「もしかしてケイさん、妨害系の何かを使用してます?」
「気づいたようだな。と言っても当然か」
廃墟フィールドは二人きりというわけではなく、他のプレイヤーも存在している。しかし、誰一人として走り去る二人に関心を持つ者はいなかった。
「発動しているのは技法だ。あまり魔法は得意ではないからな」
お前も知っているだろう、とケイは聞き返し、自身の速度をさらに上げる。
「ブライン……、いえ、“刹鬼夜行”ですか」
「フッ、想像に任せる」
そしてとうとう二人は到着した。




