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Tridelta Online ー奇弾の射手ー  作者: ナトリウム
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第28話 報告 ④

 


「俺はそろそろ寝るかな」


 一通りの考察を重ね、夕食も終えた京輔は自室に戻る事にした。


「零音は、……って、その様子だと聞くまでもないか」


「はい。今日は人手が足りなかったこともありまして業務がまだ……」


 零音はノートと日誌の様な物をテーブルに広げ、作業をし始める。


「よし、俺も手───」


「いえ、大丈夫ですよ。と言うより京輔さんはお疲れのご様子。そんな方に助力して頂くわけにはいきません」


 きっぱりとした的確な指摘。京輔はその勢いに言葉を詰まらせた。


「……そ、そうか、分かった。じゃあ、おやすみ」


「はい。おやすみなさい」


 ここで押し問答は得策ではないな、と引き下がり、ダイニングを後にする京輔。その表情は多少なり気まずげであった。


「……ふぅー」


 二階に上がっていく気配を足音で感じ取り、気を抜く様に息を吐く。と同時に椅子の背もたれに身体を預けた。


「休息はしっかりと取って頂かないと、ですね」


 零音は指先でボールペンを遊ばせる。


「全く……」


 無理をされることはあの方も望まない。


(それを理解していらっしゃるのでしょうか)


 と思いつつも、零音の声色に刺々しさは無く、むしろ優しげである。


「まあ、お気持ちは分かりますけどね」


 大切な妹の消息。その手掛かりを掴んだ兄の心境。


「……えっ」


 ふと、零音は違和感を覚え、首をかしげた。


「分かる? このワタシが?」


 まるで幻聴でも聞いたかの様に眉間に皺を寄せ、言葉を反復する。






『ここは蒼昊そうこうの───』


 それは誰かの宣言。


『いいえ。必ず貴女は───』


 これは誰かの予言。






「成長、いえ、向上した、と言うことでしょうか」


 自身の変化に直面し、零音は少なからず動揺していた。


(最近のワタシはどうもむず痒い。ですが……)


 悪くない。気分の高揚を誤魔化さず、素直に受け入れる。


「この兆しがお二人の助けになるのなら、なおのこと」


 そう締めくくると、零音は手元付近に置いていた携帯端末を手に取った。


(京輔さんはあまり気にしていない様でしたが、念のため……)


 まだ就寝されていないといいのですが、と携帯端末を操作し、何者かに通話を持ちかける。






『はいはーい。どしたの?』


 三度目のコール途中でその人物は通話に応じた。


「夜分遅くに失礼いたします。実は───」


『えっ、そんなこと? まあ、確かに───』


「なるほど。それを京輔さんに───」


『いや、そこまでしなくていいと思う。だって───』


 一方は敬語を用いているが、二人の間からは気兼ねのいらない親しみが垣間見える。






「重ね重ねありがとうございます。では、おやすみなさい」


『うん、じゃあねー。また明日〜』


 通話終了。零音は携帯端末をしまい、続いてディー・コーンを起動する。


「問題は無さそうですね。あとは……」


 ホログラム映像の画面内には『トライデルタ・オンライン最新情報』の見出し。


(今だ公式発表は皆無。……ならばこちらは?)


 指を画面に触れ、左にスライドさせる。見出しが変わり、そこには『掲示板』の文字。


「ああ、ありますね」


 掲示板の項目。その一つ『代行者・まとめ』をクリック。偶然見つけ、他よりも信用度が高い事に気づいた零音が稀に活用している投稿サイト。


(仮とは言え、目下障害となりうるものは無視出来ません)


 まとめには現在、代行者と思われるプレイヤー達がリストアップされており、その者達の装備や職種等についての情報が飛び交っていた。


「前に比べて人数が増え過ぎている。もう少し候補を絞って頂きたいですね」


 非公式はこれだから……、と零音はやや落胆する。


(しかし……)


 注目したのはプレイヤー名ではなく、推定Lv.。どの者達も皆一様にLv.75〜79というトライデルタでトップクラスの力量だと暗示されていた。


「これはありがたい」


 前回、零音が掲示板を覗いた時には明記されていなかった情報。


「まあ、当然と言えば当然ですね。そうでなければ、いえ───」


 それを見て。


「───たとえ、そうだとしても」


 零音はかすかに嘲笑った。


「あっ」


 ほんの一瞬であり、すぐさまいつもの無表情に戻る。


迂闊うかつでした……」


 エクレスターへの転身、または本来の姿への回帰。それを京輔から聞き忘れていた事に気づき、零音はほんのりと幸先の悪さを感じた。




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