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Tridelta Online ー奇弾の射手ー  作者: ナトリウム
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第1話 登校

 


  キリカが零音あまねとして生きることとなった原因の事故から今日で約一年の月日が流れていた。


「今日は早めに帰れそうだが、お前はどうだ?」


「すみません。ワタシの方は生徒会がありますので少々遅くなります」


 近代化が進み、VR技術が他の産業に比べて顕著に発展を遂げていく昨今。その技術は大都市から地方にかけて人々の生活に浸透していった。


「分かった。じゃあ俺は先にログインしているから帰ってきたら手伝ってくれ」


 八衛やもり兄妹が住む都市の名は遠慈とおじ市。発展の先駆けとなった大都市の一つである。






「はい。喜んで」


 閑静な住宅街にある通学路を歩きながら放課後の予定を確認し合う二人。一人は中学生、もう一人は高校生であるため自然と早め早めに予定を組むようになった。


「では、ワタシはこちらに」


「じゃあな。頑張れよ」


 分かれ道に差し掛かると零音は律儀に一礼して京輔きょうすけもそれに応える。


「さてと……」


 零音を見送り京輔も歩を進める事にした。






「京輔ぇー!」


 学校まで続く緩やかな坂道を上っていると、後方から京輔を呼ぶ何者かの声が響く。


「……ん?」


 するとその人物は坂道を駆け上がり始め、ものの数秒で背後まで接近した。


「おはようっ!」


「……痛っ!」


 挨拶と同時に京輔は背中を強めに叩かれる。


「お、おはよう。春奏はるか


「うん。おはよう、京輔!」


 長めのツーサイドアップにキリッとした瞳。外見は端麗であるとともに生き生きとした活発な印象を受ける。そんな美少女が名前を呼ばれて二度目の挨拶を返した。


「ふふっ、今日も寝不足? 最近多いんじゃない?」


 挨拶を返してくれた事に満足したのか、足並みを揃えて春奏はにこやかに話しかける。京輔は何がそんなに嬉しいのか不思議に思ったが、それは心の内に留めた。


「そんなことより部活の朝練はどうしたんだ?」


「えっ? ええっと……、今日はいいの! 早く京輔に伝えたいことがあったから」


 京輔に疑問が湧く。伝えたい事があるのならば朝練をサボらずとも携帯端末を使えば良いからである。


「会って話したかったの。……駄目?」


 スクールバックを後ろ手に持ちながら上目遣いで理由を述べる春奏。


「何かあったのか?」


「あっ! そんな大袈裟なことじゃないわ。……その、出たんだって、また」


「……まさか」


 言葉の続きに勘づいた京輔は春奏の話にようやく興味を持った。






「“エクレスター”か」


 “エクレスター”とは現在、京輔が最も関心を寄せる事柄。






「部活の後輩から聞いたんだけど、“トライデルタ”で難易度が高い“ミッション”ばかりに出没してるって」


 “トライデルタ・オンライン”。VR世界に革命を起こした仮想空間の総称。または空間内にあるVRMMORPGの名称でもある。区別するためRPGは“トライデルタ”と呼ぶのが一般的。


「それは俺も知っていることだな」


 そこまでは少し調べるとすぐに分かる事であり、京輔も驚かない。


「うん、そうだと思った。……で、その話の続きによるとね。『ブレザーを着た男性で武器は先端に輪っかがついた棒状のもの』だったそうよ」


「輪っか?」


 暫し京輔は思案する。


「……もしかして錫杖しゃくじょうじゃないか?」


 武器の特徴から京輔はそう推測し、それに対して春奏は、多分ね、と答えた。


「でも、それだと変じゃない?」


「そうだな」


 トライデルタの運営は武器や防具を含む全てのアイテムを更新の度、目立つように告知してくれる。しかし、錫杖という武器の情報が出た試しはない


「じゃあ、最初から手に入れることができる武器ってことかしら」


「それはどうだろうか……」


「んー、分からないことだらけね。エクレスターって」


 トライデルタに突如現れた素性を掴ませない謎多きプレイヤー。それがエクレスターである。






「いや、待てよ。だが、そんなはずは……」


 ふと、一つの答えを導き出したが、それはありえない、と京輔は呟く。


「私が聞いたのはここまで。……どう? ちょっとは役に立てた?」


「充分だ。ありがとう春奏」


「ふふっ、どういたしまして」


 その後も二人は話を二転三転させながら坂道を上っていった。






「……ん?」


 坂道は学校まで続いているがそれもあと少し、といった矢先。ある疑問が京輔に浮かぶ。


「結局、朝練をサボる必要は無かったんじゃないのか?」


 話の内容は特に焦る事ではなかったため春奏の行動を不可解に感じた。そもそも同じクラスであり、教室で手軽に話す事ができる。


「うっ、……えーと、最近一緒に学校行けてなかったじゃない? だから偶にはいいかな、と思って」


「お前、そんな理由で……」


 春奏の暴挙に慣れているつもりだった京輔でもこれには呆れた。


「……痛っ! またかっ!」


 冷やかな目を向けていた京輔の肩を春奏は先ほどよりも強めに叩く。顔はニヤけており、照れ隠しであるのは明白だった。


「がっ、学校は目の前よ! 早く教室に行きましょう!」


 いつの間にか坂道を上り終え、学校の敷地まであと数歩ほどである。春奏は京輔の片腕を掴み、じゃれつくように急き立てた。その顔はほんのりと赤い。


「ほら京輔、早く!」


「……ふっ、まあ、待てって」


 京輔は手を振り払わず素直に従った。これから学校の一日が始まろうとしている。




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