第23話 ポリス ⑤
「はい、ここで問題です!」
多重連結空間トライデルタ・オンライン自体はゲーム空間ではない。
「妨害系の中でも対象の認識に関わるスキルを行使するための主な発動条件は〜?」
VRMMORPGトライデルタ・オンラインがその役割を全て担い、区別されている。
「それは……、あっ」
「やーっと気づきましたね」
つまり、名称が同様であろうとも、この二種類は勝手が違うという事だ。
「そうでーす。正解は『目を合わせない』こと!」
キまったっ! カタミの顔にはそう書かれている。
「なるほど、だから……」
ポリスに入店してから現在に至るまでの記憶を思い起こし、ケイは合点がいった。
「いや〜、私ってまあまあ有名なプレイヤーなんでこの特権はかなり有難いんですよね〜」
まあ、ファッションっていうのもありますけど〜、とカタミは微笑む。
「一つ聞くが、スキルの発動に制限は?」
「えーと、『中級以下限定』っていう制限はありますね」
「……そうか」
スキルには対象を損傷させる類いのものはごく僅か、それも上級以上にしかないが、有用である事に変わりはなく、その権限力にケイは警戒の念を抱いた。
「アハッ、なんかちょっと安心しました」
ゆっくりと椅子の背もたれに背中を預ける。
「ん?」
「信じてくれたことがですよ〜」
カタミは照れ臭そうにニヤニヤし始めた。
「君は悪いやつじゃなさそうだからな」
「ん〜? それだけですか?」
「あと、強いて言うなら『年下の子には不覚を取らない』という自負だな」
もし、これが何かしらの罠であり、被害を及ぼすものであろうとも、必ず跳ね除けてくれよう。ケイの言葉にはそのような気骨が垣間見える。
「へえ〜、言いますね、お兄さん」
「……どうした、目が笑っていないぞ」
「そんなこと無いですよ〜。やーですね〜」
ワザとらしく口笛を吹き、カタミは自身の思惑を誤魔化した。
「別に君を舐めてるわけじゃない。代行者なんて大役を務めてるくらいだ、その実力は本物だろう」
「……えっ」
「俺の知り合いにも70越えはいるが、生憎スカウトはされていない。……なるほど。選ばれる運も持ち合わせているということか」
「あ、あのっ!」
「それにルックスが優れている点や、癖のある性格も強みだな。今更になるが『ライブもどき』と言ったのは訂正する」
「ちょ、止め、お兄さん、ストップ!」
思わずカタミは声を荒げる。
「話し方から察するに……───ん?」
「ストップです、そのまま!」
リアルだったら変な汗出てますよっ! カタミは興奮した面持ちでケイを責め立てた。
「……悪い。困らせたな」
ケイは苦い顔をしながら視線を逸らす。
「『誰であろうと評価を見誤るな』と、ある人に言われている手前、……いや、ただの言いわけだな。すまん」
「ええっと、そんなショげなくていいですよ〜。私こそすみません。褒められ慣れていないので、ちょっと焦っちゃいました!」
微妙な雰囲気を打ち消す勢いで、カタミは戯けた。
「君がか? そんなことないだろ」
「そんなことあるんです。あっ! アイドル活動中はノーカンですよ!」
表情を次々に変え、とどめと言わんばかりにウィンクする。
「あれカタミちゃんっぽくね?」
「えー? 可愛いけど違うべ」
「でも似てんな。誰だ、あの子」
二人のやり取りが騒がしかったのか、周りがざわつき始めた。
「ほら、こんな感じに、……って、ヤバッ!」
『て』の所から音量を下げ、軽減程度だとやっぱり無理か〜、とカタミは立ち上がる。
「お兄さんも立って下さい。場所を移しましょう!」
「わ、分かった」
スキャンダルですよ、とアイドル。大げさだろ、と男子高校生。
「そうですねー。ここは22階に避難しますか。モチロン奢りますよ!」
「……楽しそうだな」
腕を引っ張られ、よろめきながらケイも立ち上がる。
「あ、バレちゃいました?」
二通りの意味で! カタミは器用に声量を抑えつつ、快活にそう言った。そして二人はエスカレーター乗り場を目指す。
ポリス回とかいうカタミ無双。
次でラストです。




