第20話 ポリス ②
「随分と値が張るんだな……」
18階に到着するとカタミはあっさり手を離し、せっかくなのでアイテムを補充してきます! と言ってどこかへと行ってしまった。
「仕方ない。今は六種類でいいか」
場所は戦士族専用アイテムの売場。その中でも消耗品を主に取り揃えているブース。できれば購入物を誰かに見られる事を避けたかったケイにとって、カタミの思いつきは都合が良かった。
「お買い上げ頂き有難うございます。18000“Dp”です」
アイテムを手早く見繕いレジにて会計。接客を務めたのは女性型NPCであり、無機質な微笑みを浮かべている。
「これでお願いします」
ケイはステータスカードをNPCに渡した。
「はい。精算します。……完了しました。カードをお受け取り下さい」
“Dp”とは、トライデルタ・オンライン独自の通貨である。1Dpは1円、100Dpは100円というように現実の貨幣価値と等しい。
「さてと、探しに行くか」
自身の買い物を終え、カタミの去っていった方向にケイは進む事とした。
「こうも広いと探し辛いな」
所狭しという事はなく、客側がスムーズに買い物をし易いように売場は良く配慮されている。しかし、規模が規模であるため、同じ階と言えど一人の人物を見つけるのは中々に手間取ってしまう。
「はいドーン!」
「うっ⁉︎ ……なんだ、後ろにいたのか」
探す事十数分。対プレイヤー用アイテムの売場ブースを立ち寄った時、突然ケイは背中をどつかれた。衝撃自体は軽めだったが、少しよろける。
「もしかしなくても私のこと探しちゃってました? すみません〜、お兄さん」
カタミはタックルをかました後、申し訳なさそうに手を合わせた。
「別に謝る必要はないさ。どこにいってたんだ?」
「念のためにシュミレーションコーナーに行ってました」
シュミレーションコーナーとは購入予定のアイテムをお試しで使用できる演習場の事を意味しており、トライデルタ関連のフロア全てに存在する。
「ああ、だからか」
アイテム売場から離れた位置にシュミレーションコーナーはあるため、道理で見つからないわけだ、とケイは納得した。
「他にも理由はあるんですけどね〜」
「ん?」
「あっ、いやっ、……そーだ! 何か食べていきませんか?」
カタミは目を泳がせ、誤魔化すように提案する。
「それならフードコートに行くか」
失言をしたのだろう、とケイは察したが、それには触れなかった。
「はい、行きましょう!」
フードコートは21階という割と近いフロアにある。そのため、今度はエスカレーター乗り場を目指す事にした。
「お兄さんは甘いものって大丈夫ですか?」
「どちらかと言うと好きな方だな」
「おっ! ではではクレープなんていかがです? 最近新しくオープンしたんですよ〜」
「じゃあ、そこで」
エスカレーターに乗り、雑談を交える二人。そうこうしている内に21階フロアが見えてきた。
「わー、こんな時間なのにまだ学生があんなにー」
時刻は21時40分頃。ポリスは基本的に24時間営業であり、18歳未満のユーザーであろうと22時半までは来店可能となっている。
「俺達も人のことは言えないけどな」
トライデルタの装備は連結空間内にほとんど持ち込めない。それゆえゲートをくぐる時にケイはブレザー服姿に戻っていた。
「アハハッ、イタイとこ突きますね〜」
サンバイザーは分類上アクセサリーとして扱われるため着用できているが、それ以外はやはり持ち込めず、カタミもまたブレザー服姿である。
「で、クレープ屋はどこにあるんだ?」
「えーと、……あっちです!」
カタミはすかさずケイの手を掴み、先ほどと同じように引っ張っていく。
「またか。歩き辛いだろ、これ」
ケイは呆れたが、ため息はつかなかった。
「そう言いつつ無理に手を払おうとしない所は好印象ですよ、お兄さーん」
クスクスと笑う声がフードコート内に溶けていく。




