第19話 ポリス ①
「───って感じで厳しい人がいるんですよね〜」
遮断街から出るためのゲートをくぐり、ゲームの方ではないトライデルタ・オンラインの空間を歩いている道中。
「君も大変なんだな」
一本の長い道のりを特徴に持つこの連結空間で。
「そうなんです! 分かっていただけましたか、私の苦労がっ!」
「なんとなくな。……ところで」
ケイは少々困惑する事態に陥っていた。
「どこまでついてくるんだ?」
尋ねた相手は別れの挨拶を済ませたはずのカタミである。
「え? では、逆に聞きますけど“ポリス”に行くんですよね?」
「まあ、そうだが……」
トライデルタからログアウトする事もできたのだが、こうして今なお仮想空間内に留まっているのは大型ショッピングモール“Polis”に寄っていくためだ。
「じゃあ、ノープロです! さあさあ早く行きましょう!」
カタミは笑顔でケイの手を取り、急かすように引っ張っていく。
「はぐらかされている気が……」
「細かいことはいーんですよ! ほら、ハリーハリー!」
お構いなしといった態度でカタミは目的地を指差す。ケイはその場所に顔を向けるなり、もう着いてしまったのか、と若干疲れた表情を見せた。
「満員御礼って感じですねぇ」
ポリスの出入り口付近に到着し、店に行き交う人々を観察する二人。
「ああ。俺達の所が特別とはいえ大したものだな」
トライデルタ・オンラインはユーザーがログインした地域によって様相が異なる。例として表すと、a地区・b地区からのログインであればAのオンライン空間。c地区・d地区・e地区であればBのオンライン空間、といった具合である。
「……って、そんなことよりショッピングですよ、お兄さん!」
そして、仮想空間の数だけポリスの店舗は存在し、遠慈市からのログインであれば本店のあるオンライン空間が割り当てられていた。
「あれっ? そういえばお兄さんは何を買いに来たんですか?」
ポリスに入店して早々。周りをキョロキョロ見ながらカタミは今更な質問を投げ掛けた。
「トライデルタのアイテムだ。……というわけで俺は18階に行くが、君はどうする?」
ポリスは全25階まであり、15〜20階はトライデルタに関連するアイテムや装備の売り場となっている。
「私もお伴しますね。二人で見て回りましょう!」
サンバイザーをより目深に被り直し、カタミはあっけらかんとそう言った。口元はニンマリと弧を描いている。
「……分かった。じゃあ、行こう」
この子は何をしに来たんだ? とケイは気後れするものの、あまり考えない事にした。
「エレベーターは……、あっちか」
現実の百貨店と同じく、ポリス内には移動設備としてエレベーターやエスカレーター、果ては階段まで備わっている。
「それはそうと、いい加減離してくれ」
二人の手は依然として繋がれたまま。
「あっ、すみません。……おやおや〜、顔が赤いですよ〜?」
「訳の分からん嘘をつくな」
ケイの証言が本当ではあるが、何故かカタミはニヤニヤと笑っていた。
「とかなんとか言って少しはドキッとしてません? 私ケッコー可愛いと思うんですけど」
「否定し辛い上に質が悪い」
自惚れではなく、実際カタミの容姿は整っている。その事をちらりと見えた横顔で確認済みのケイは冷ややか視線を送った。
「アハッ、ありがとーございます!」
ケイの視線などどこ吹く風。カタミはニヤつき度をさらに上げる。
「……まあ、いいか」
その後、二人は1階のエレベーターホールまで進み、他の入店客同様、エレベーター到着を待つ列に加わった。
「いや、良くなかった。さっさと手を離してくれ」
「やーです。まだ離しませ〜ん」




