第11話 授業(仮)
「ここからは私が進行させるわ! みんな、いい?」
たちどころに歓声が上がり、教室内は賑わい始める。その様子を見て、凄いな、と京輔は呆気に取られた。
「この前、行われた合唱コンクールで私達は優秀な成績を収めました。そこで先生がスケジュールを調整して明日の五・六時間目を自由時間にしてくれたわ。はい、拍手!」
座っているクラスメート達は皆、労うかのように惜しみない拍手を送る。送られたのは京輔達の担任教師であり、それを先導している人物は春奏だった。
「いやいや、そんな大袈裟な。ちょちょ〜とやったら簡単だったよ〜」
「謙遜しないで下さい。私達のためにありがとうございます」
春奏は学級委員長をやっている。そのため、クラス行事を取り決める際には今回のように率先して動き、黒板の前で代表者としての振る舞いをしていた。
「はっはー、参ったな〜」
担任教師・岸原将子はそう言うと締まりの無い口元で笑みを浮かべる。普段から飄々と掴み所の無い言動が目立つ人物だが、その風変わりな気質や実年齢より若い見た目がウケ、生徒達からの高い人気を誇っていた。
「まー、こっからは好きにやっちゃってよ」
「はい、そうします。……じゃあ、みんな何をするか決めましょうか!」
春奏の提案にクラスメート達は意気揚々と声を上げる。メジャーなスポーツのチーム戦やトライデルタのミッション攻略。果ては学校を抜け出して街に繰り出す等、出される案は様々。それらを春奏は黒板に書いていった。
「んっ、ちょっと大変ね。悪いけど誰か手伝ってくれない?」
将子と同じく春奏も人気がある。女子の平均よりも高い身長に加え、部活で鍛えているためスタイルは抜群。また、学業も優秀であり、教師達からの信頼も厚い。快活な美少女という事も多分に含め、これで人気が出ない方がおかしな話。それを裏打ちするように男子達から多数の挙手が募った。
「そうねー……」
春奏は挙手している男子を見回すかのように装う。実際は手前側に座る京輔を盗み見るためのフェイク。その甲斐あって数秒、二人は視線を交わした。
「では、き……、じゃなくて、釘島にお願いするわ」
「はっ!? 俺、手上げてなっ───」
「ほら、早く前に出て」
「理不尽過ぎる……」
なんだ大和かよ、あいつならしゃーない、など野次やらブーイングを周囲から言われ、大和は渋々立ち上がる。そしてやる気が無さそうに黒板まで歩いていった。
「また、このパターンかよっ」
大和は誰にも聞こえないほどの声で呟く。そんな被害者に京輔は心の内で謝罪した。
「じゃあ、よろしく」
「はいはい、諦めましたっと……」
春奏はできるだけ京輔と行動を共にしたいと思っている。しかし、先ほど視線を交わす事でその心情を主張したのだが、拒否するように京輔が目を逸らしたため、仕方なく大和に声を掛けた。
「お前らホントいい加減にしろよ……」
大和は黒板に案を書き連ねながら小声で文句を垂れる。京輔と春奏絡みのとばっちりを受ける事は初めてではない。巻き込まれる度にフォローしていた。
「こういう時は感謝してるわ」
クラスメート達に悟られぬよう、春奏も同じく小声。事情を察して大和は何かと気遣ってくれるため、その言葉に嘘は無い。
「へっ、それこそホントかっての。まあ、いいけど」
大和の参入により、クラス会議はスムーズに進行していく。結果、クラスのノリと勢いで『トライデルタのチーム戦』という案に決定した。
「いいのか、それで……」
いくら多数決で選ばれたとしても、流石に岸原先生が黙ってないだろう。京輔はそう思い、教師用の席に座る将子の方に顔を向けた。
「あー、いんじゃない? 私も混ざろっかな〜」
間の抜けた揺れるような声。京輔の考えは杞憂だった。
「あ、もうこんな時間……。では、あとでチームを決めるとして、ここで一旦打ち切りましょう。……起立っ! 礼!」
将子の授業時間を丸々使ってしまったクラス会議。その事に関して京輔は何か思わないでもないが、あまり考えないようにした。




