第100話 会議 ②
ようやく落ち着いてきましたので、久方振りに投稿する事が出来ました。今後は更新ペースを上げる様、頑張っていきます!
「───という様に一般のプレイヤーの前に我々の制限を先に解除する」
「発表前ってことかい? あと数時間ほどだよ?」
「ああ、つまり会議終了後速やかに行う」
「はは、なるほどね」
この場にいる代行者は六名。そして欠席は四名となる。
「そんな簡単にできるものですの? 何か副作用がありそうで気が進みませんわね」
そもそもが少数で行う会議であり、毎度必ずといって良いほど欠席者が出るため、全員が揃ったことは一度も無い。
「まぁ、不安はあると思うが、それも俺達の仕事って訳だから頼むぜ」
「……はぁー、承知しましたわ」
「……で、だ。ここからがメインなんだが───」
ここまでは緊急発表の流れについての話し合いであり、概ねつつがなく事は運んだ。
「───エクレスターについてだ」
しかし、この先の議題はそう円滑に進むとは限らない。
「まずは昨日のイベント中に現れたこの三人からだな。情報を擦り合わせるぞ」
クラミツがテーブルを上から指で二回突くと画面映像が各代行者の目の前に浮かび上がった。
「一人目は狐面と錫杖のこいつ」
映像には現時点での外見や使用していた能力についての情報が記載されている。
「エクレスターの噂はこいつから始まったからな。ネームも分からねーし、便宜上“01”って呼ぶことになった」
当然だがエクレスター・サトミのディーネーム等は判明しておらず、シンプルにそう呼ぶ決まりとあいなった。
「(安直過ぎ〜)それってあれですよね? 確かマキさんを瞬殺した人ですよね」
「うっ……」
「アハッ、ドンマイでーす」
古塔フィールドでの一件は全代行者に周知されており、カタミはそれをニヤニヤしながら茶化す。
「あ、あれは余所見をした不意を突かれただけで、それが無かったらあと数分は抵抗出来てたはず……っ」
「……言ってて悲しくないです?」
余所見の原因、それは急に現れた少年の保護を優先した結果なのだが、今はまだ知る由もないその少年もまたエクレスターになったため、なんとも皮肉な話であった。
「そう言ってやるなよ、相手が悪過ぎたんだ。お前もあんまり責任感じなくていいぞ、マキ」
「……すみません、助かります」
この件に関して、マキは十分過ぎるほどの謝罪を既に重ねている。そのため今更とやかく責め立てる必要は無く、クラミツは気さくにフォローした。
「ただ、まあ、仕事だしな。気分悪ぃと思うがその時の戦闘について、また話してくれないか?」
「……はい、分かりました」
エクレスターとの初遭遇。その内容は報告書として提出されているが、クラミツは今一度口頭で説明する様に促す。
「以前、お話しした通り、あれは───」
決して長くはない交戦時間にあった出来事を、マキは詳細に語り始めた。
「あれ? こんな所で何をしてるの?」
「…………」
古塔フィールドの天辺。そこは通常通りの探索をしている限り中々に気付き辛い隠し要素の様な空間である。
「というか、良く辿り着いたね、君」
それは偶然だった。一応は見回りをしておこうと生真面目な気質があるマキが思い立ったための偶然。
「ふふ、景色いいでしょ、ここ。風も気持ちいいし」
「……おい」
天辺の隅に上背のある人物の後ろ姿が見え、さらに良く見ると自身よりも年下然とした風貌であったため気軽に話し掛けたのである。
「……えっ?」
しかし、それは幸か不幸か代行者にとって重要な人物であったのだ。
「お前こそ良く分かったな、俺がここにいることを」
「あっ、べ、別に索敵系とか使った訳じゃ……ん?」
急に得も言えぬ圧を感じ、咄嗟に言い訳を滑らせたマキはある物に目がいった。
(えっ、ちょっと待って……っ)
「口振りから察するに、お前もただのプレイヤーじゃねぇだろ?」
少年は振り向きながら、素早くそれを振り翳す。
「……さてはお前アレか?」
風の流れに沿って、清涼な音色を奏でるそれとは対極に、少年から放たれる圧はより重苦しいものへと変貌していく。
「しゃ、錫杖……っ、君、まさかっ!?」
マキは少年の正体に思い当たり、すぐさま腰に携えている武器に手を添えた。
「まぁ、丁度いいか」
相対して間もない二人のプレイヤーは、ここで初めて相手を敵として認識する。
「代行者がどんなもんか知りたかったしな」
「もしも君がエクレスターなら、私は君を拘束しなければならないっ!」
一人は興味、もう一人は職務として、その戦闘は開始された。
「───と、この様な感じで後は為す術もなく……。それと───」
事の顛末を、マキは自身がデリートされるまでを語り終える。
「責任のある立場にありながら、この様な失態を冒し、重ね重ね本当に申し訳なく……」
「あ〜、いいって、いいって、そんな謝んなって。お前は良くやってくれたよ」
萎縮するマキを、クラミツは軽く手を振りながら宥めた。
「その通りですわ、マキさん。むしろ素性の知れないチーター相手によくぞ奮闘しました。貴方は立派です」
なんの皮肉も交えず、テルも落ち込むマキを気遣う。
「……ありがとうございます」
マキは二人の心遣いに感謝し、静かに礼を言った。
「それにお前はアレを使ってないだろ?」
「……っ、は、はい。迷いましたが、まだ使うべきではないと判断したので」
(……ん? ああ、確かにー)
クラミツの補足とマキの返しに、カタミはすぐにピンとくる。
「我々の概念系は奴らに対しての確固たる抑止力だ。それを温存できたのは大きいと自分も思う」
アオトも察し、自らの率直な見解を述べた。
(抑止力ねぇ〜、それはどうかな〜)
だが、アオトの力強い断言に、カタミは心中で疑問に思う。
(そりゃあ上のお三方……あー、あとクラミッさんあたりのだったらどうにかやれそうですけどー……)
ちらり、とカタミは盗み見る様に全体を見渡す。
(ぶっちゃけ五位以下の人には厳しいと思うな〜。私とか論外でしょ)
代行者は他の代行者の使用する能力や戦闘スタイルを加入後に知る事ができる。
(なんとなくだけど、あの黒い羽の人はまだ……)
カタミは既に見聞きしている情報と、実際に戦った相手との経験を元に分析を始めた。
「じゃあ次はこのコートと仮面付けたこいつだな。こいつも便宜上“02”って呼ぶことにすっから」
クラミツがまたテーブルを突き、映像が切り替わる
(……おっ)
話題が移り変わると同時にカタミも思考を中断。
「正直、こいつに関しては良く分かってねー」
クラミツは後ろ手に頭を掻きつつ苦笑を滲ませそう言った。
「確かアオトはこいつと話したんだろ? どんな奴だったんだ?」
「どんな奴か……。そうですね、強いて言うならば……」
イベントの見回り中、アオトは二人目のエクレスターであるケイに接触している。無論、その時は正体を知らない状況で。
「普通の少年でした」
そして、それがアオトの第一印象であった。
「あん? おいおい、またお前は自分を基準に考えて……」
「いや、失礼。少々言葉足らずだった」
クラミツの指摘に、アオトも尤もだと思い、すぐに訂正を付け加える。
「普通の少年が、実力を超えた虚勢を纏い、己の糧としている」
「……んん?」
ただし、その訂正はまたもクラミツを悩ませた。
「あの、もう少し掻い摘んで説明して頂けますか?アオトさん」
テルも理解が追いつかず、アオトに聞き返す。
「むっ、そうか、中々難しいな」
「……ようは無理して頑張ってるって感じですよねー?」
するとカタミが何を思ったか、助け舟を出した。
「ちょっとっ、分かった風に勝手に出しゃばらないで下さる!」
毎度の事ながらカタミの態度が癇に障ったらしく、テルは声を荒げ、カタミを睨む。
「いや、カタミ君の言う通り、概ねそんな印象だ」
「……なっ!?」
本人がそうだと言うならば、最早テルが反論する余地など無かった。
「(ざまぁー)ほらほら、テルさん落ち着いて下さい〜」
「くっ……」
「アハッ、ウケる」
勝ちが確定した小競り合いのため、カタミはここぞとばかりに煽る。
「まぁそれはあくまでアオトの見解ってだけで、今はまだなんとも言えないけどな」
「そうですね。それにイベントの進行妨害や闘技場を破壊したことは紛れもない事実だ。到底看過できることではない」
心情がどうであれ、犯罪者に他ならない。その認識はクラミツもアオトも同じであった。
「破壊行為の規模はでかいが、肝心の武器も分からんし、謎が多いんだよな」
と、ここで区切る様にクラミツはため息を吐く。
「……で、だ。俺としては次のこいつの方が問題だと思うぜ」
(うわ、出た)
次に映像が切り替わった時、カタミは一瞬顔を顰めた。
「他の二人に比べてこいつは単純にやべぇ」
黒い翼を持つ少女の映像を前に、クラミツは強く断言する。
「01や02はまだ過信や甘さがあったが、この“03”からは敵意しか感じねぇ……」
実際に戦闘を繰り広げたクラミツが三人目のエクレスター・リンの解説を始めると場の雰囲気が徐々に緊張感に包まれていった。
「よくもまぁ、初対面であれだけの敵意、つーか殺意を剥き出しにできるなぁ、と関心したぜ」
おーこわいこわい、とクラミツはおどけながらも真に迫る口調で語る。
「使ってた法術も容赦のねぇもんばっかで、相手を苦しめることに関しては別格だ」
「……つまり嗜虐的なプレイヤーだったと?」
「ん? ……いや、俺の勘だがそれはなんか違ぇんだよな」
テルの質問に、首を傾げつつクラミツは否定的に返した。
「なんつーか、こう必死感みたいな、楽しんでる感じじゃなく……」
俺もアオトにとやかく言えねーな、とクラミツは自身の説明力不足を痛感する。
「まぁ、もし戦闘になったらこの翼の動きに注意してくれ、としか現段階では言えねぇな」
これは他の二名のエクレスターについてもそうだが、今はまだ不確かで不明瞭な敵対者としての側面が強く、情報に乏しい。
「こういう奴は近いうちにまた何か仕掛けてくるはずだから、お互いに共有すべきことは逐一報告していこうぜ」
したがって、不要な先入観を持たせる恐れもあるため、あまり的確な指示は出せず、打開的な一手を考えあぐねているのが現状だった。
「それにひょっとしたら、今夜の発表の時にも襲撃してくる可能性は十分あるしな」
暫しの沈黙。それだけリンが危険視されているという事である。
「えっ? それは別に余裕じゃないです?」
急に軽い調子でカタミがそう言った。
「皆さんちょっと考えが固いですって。相手はたった三人ですよ?」
カタミはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる。
「……全く。貴方は何を呑気な……」
「あらら、無理なんですか〜?」
テルが呆れた様に苦言を呈するも、カタミは飄々とし───。
「厄介で面倒くさい概念系がウリの“惨面鏡”さーん」
「……ッ!」
───明らかに舐めきった態度でテルのディーネームを呼んだ。
「うゲェッ」
「度が過ぎませんこと? 貴方」
一瞬でカタミは胸倉を掴まれ、強制的に立ち上がらされる。
(おー、ナマで見るの久々だ〜)
無論、それを実行したのは直前まで言い争っていたテル。
「やっぱり変な感じしますね、これ」
ではなく、カタミであった。
「私より実力が下であるにも関わらず、一向に改善されないその態度。目障りで仕方ありませんわ」
カタミがカタミに捕まっている。そして日頃から積もっていたであろう苛立ちを吐き出しているのも掴んでいるカタミ。テル本人は席についたままその様子を眺めている。
「理解されていないのかしら? 概念系同士の戦闘ではその格差が明確に表れる。つまり格下の貴方が私に勝てるはずがないのです」
「アハアハ、試してみますぅ〜?」
カタミとカタミはお互いに睨み合った。その一触即発の雰囲気は場に緊張をもたらす。
「……ま、それはまた今度! 今はエクレスター達の対策を話しましょうか。実際に戦った私の話は割と参考になると思いますよ」
「……っ」
パッ、ともう一人のカタミの姿が消失。
「……いいでしょう。では、またいずれ」
この声は様子を眺めていたテルから発せられた。しかし、その面持ちは不満げなものである。
(なんで毎回絡んでくるんですかね〜)
(ほんっと、憎たらしいですわ)
奇しくも、その時二人の心境が重なり、同じ事を思った。
((いつか、泣かす))
これにて一応の収まりは見せるものの、それは表面上の話。以後もクラミツやカタミの証言やあらゆる事態を想定しての対策等の会議は続いた。




