ほうちょうをもった手(女の子視点)
母さんは、兄さんたちのことは可愛がるくせに、あたしには何にもしてくれない。それどころか、毎日、荒れ地に行かせて泥炭を採らせるんだ。泥炭は固くて、あたしの手は、傷だらけになるのに。
「ほら、ヘザー。とっとと泥炭を採りに行きな。」と、母さん。
「早く行けよ。お前がいると空気が悪いや。」
「そうだ、そうだ。早く行け。」
「早く家から出て行けよ。」と兄さんたち。
仕方ないから、あたしは家から出ていく。母さんも兄さんもみんな意地悪だ。あたしばっかり、そんなに当たらなくってもいいじゃない。
家の近くの丘にさしかかった時、ふいに声を掛けられた。
「お嬢さん、どうしたんだい?しけた面してさ。」
あたしは、いきなり真横にいた男の子にびっくりした。しかもこの子、小さな角が生えてる。
「あなた、誰?」あたしは、聞いた。
「そこの丘の住人さ。君、毎日ここを通ってるよね。そんな顔して、どうしたの?」
「どうもしてないわ。ただ…、毎日固い泥炭を採るのがつらいだけ。」
「そんなことしてるの?そんなの女の子の仕事じゃないよ。」
「しないと怒られるんだもの。」
「そいつは、ひどいな。おいら、妖魔のホーサンっていうんだ。よく切れるハサミを持ってるから貸してあげるよ。」
「本当に!?ありがとう!!」めちゃくちゃ嬉しくて、あたしが言うと、ホーサンは、照れくさそうに笑った。
それからしばらく、すごく簡単に泥炭を切り出せるようになった。朝、丘まで行くと、ホーサンが包丁を手渡してくれる。終わって丘まで行くと、ホーサンが出した手に、包丁を返す。
「ホーサン、あなた優しいのね。あたしすごく助かってる。」
「やめてくれよ、ヘザー。こんなこと何でもないって。」
ある朝、いつもの通り、家を出て泥炭を切り出しにかかった。
そこに、
「包丁をよこしな!」物陰から現れた母さんと兄さん三人が、いきなり包丁を取り上げた。
「やめてよ、何するの。」兄さんに捕まって身動きが取れない。
母さんが丘まで行って、あたしの振りをして、ホーサンを呼び出した。彼の手が出る。
「やめて…!!!」
彼の手はきれいに切断されてしまった。
「あんまり、簡単に泥炭を採ってくるからおかしいと思ったんだよ。」と、母さん。
「妖魔に頼るなんて、バカだなぁ。」
「ははは、あいつの腕をちょん切ってやったぞ。」
「きっとお前がやったと思うだろうな。」と、兄さんたち。
あたしは、こわくてたまらなかった。
次の日、丘に彼を探しに行った、だけど見つからなかった。
それから二度、彼の姿を見ることはなかった。