西岸 大輝の記憶
長ぇ、今回少しながいので、おきをたしかにヨロシク
10月18日、彼は放課後の部活動を終え、友達と一緒に帰宅した、何気ない会話を交わし、また明日と手を挙げ途中からは一人で道を歩くことになる。
何気ない動作で腕時計を確認、時計の表示では今日は水曜日で、今夜は我が家にあおぎが来る可能性がある、あおぎが家庭用ゲームを持ち込み、自分の部屋でゲームをプレイする、そういつもの光景を巡るうちに、今日はFPSゲームをしたいと思い、家路を急いだ。
「ただいま」
形だけの言葉は悲しく我が家に響く、父母は会社員、一人っ子の自分を待つ家はいつだってこうで、返ってこない返事にも慣れてしまった。
リビングに向かいソファに腰を降ろす、今朝、机に放り出されたスマートフォンを片手にメールをうちこむ。
『今夜は?、もし来るならFPS持ってきて』
あおぎは携帯をもっていないが、PCは持っている、なので二人の連絡手段はいつもメール、電話なんて一度もしたことは無い、再び机にスマートフォンを放り投げリビングをあとに、自分の部屋で制服を着替える、そしてリビングに舞い戻った。
ながれる動きでリモコンを手に取り、ソファに寝っ転がる、リモコンの先端をTVに向けボタンを押した。
『突如として現れた謎の生物は男性を襲い、近づく女性に対しても猛威をふるいます!、もしも生物に遭遇した場合は速やかに逃げてください!』
ボタンを押す
『突如として現れた謎の生物は、東京を中心に――』
ボタンを押す
『森崎アナ!?、どうしました森崎アナ!?』
ボタンを押す
『謎の生物は屋外で発生しており、私たちのように密室の屋内に避難していれば安全なようでs』
『おい!、出たぞ!、逃げろ!』
ボタンを押す
『東京を中心に発生した謎の生物は北へ南へと発生が確認されており』
ボタンを押す
『ついにここ広島も生物の発生が確認されました!、私たちも長くはありません・・・、皆さん、生き残ってください』
どうすればいいのか・・・、たったいま点いているチャンネルでは、馴染みの顔のキャスターが広島にも生物が発生したと言っていた、この家が建つ広島で。
誰もいないスタジオだけの画面が続く中、机の上のスマートフォンを手に取り、そのまま『謎の生物』で検索をかける。
ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――。
気持ち悪い不協和音が聞こえる、そんな状況で検索結果を見る、そこに有益な情報は無く、せいぜい、どこまで謎の生物の影響があるのかが載せられてるくらいで、結果、分かったことは。
「逃げねぇと」
―――(ФωФ)―――
その姿を確認したのは、TVを見てから3時間くらい後だった、全ての戸という戸を閉め、鍵をかけ、食料をかき集めた、しばらくは家に籠り様子を見る、そう考え、二階のベランダで双眼鏡を覗きながら警戒をしていた、けれどその警戒もそろそろ杞憂なのでは無いかと考え始めてた時だった。
「たすけて!、だめだ!たすけてェ!」
一人の男性が走っている、薄い頭と走った影響で崩れたスーツが、オジサン感を漂わせる男性だ、ただ、その形相は必死、まるで死がそこに迫っているような。
「あれが、謎の生物」
男性のすぐ後ろを薄黒い人形生物が追いかける、男性はすぐにその生物に押し倒される、そいつは、うつ伏せだった男性の身体を仰向けに転がし、妙に長い片手で男性の両手首を束縛、口でズボンの股間部分を噛み千切った、開いた穴からは男性の一物がダラリと垂れ下がって顔を覗かせる。
「嘘・・・だろ?」
垂れた一物をもう片方の手で支え顎を開ける生物、その口からは筒状のナニかがヌラリと出て、男性の一物を先端から呑み込む。
「ああぁぁあ!!ぁぁあァァァ――…」
さっきまで恐怖で叫んでいた悲鳴が、どこか快楽を混ぜたものに変化、抵抗していた男性も力を抜き、グッタリとしている、その様子に満足したのか、生物は手首の拘束を解き、口を首を顔を頭を上下させる。
男としてこれほどまでに気色の悪い光景は無い、あまりにも目を背けたくなるような光景なのだが、それは叶わない、なぜなら体が動かないのだから、完全に目はその生物に釘付けになっている、それは体も同じだ。
生物の圧倒的強者の立ち位置が、本能で自分の弱者の立ち位置を認識させ、身体をすくませているのだ。
しばらくすると男性に変化が現れる、急に身体を痙攣させた男性はそのまま・・・。
「あっ、あっああぁぁ」
その声は男の絶頂を表しており、行われるはずの発射行為は全て生物の口に流れ込む。
『ゴクッゴグゴクゴグッ』
流れ込む精を受け入れ、喉をならして生物はそれを飲む、けれども、出せども出せども発射が止まることはなく、 発射をすればするほど男性の顔は痩せていく。
頬がどんどん痩け、隈が深くでき、皺も多くなる、終いには骨に張られた皮すら薄くなり。
「ミイラ」
見るも無惨な一物から顔を離す生物、その首がグルッと回り、目の無い顔が自分を捕捉した、どうやら今のでは満足していないご様子。
「やべぇなこれは」
傍らに置いてあったリュックを背負い、弓と筒を担ぎ準備、部活動が終わったあと、きっちり手入れしておいた弓と矢は今の自分にはかなり心強かった、忘れ物がないか確認だけしてベランダから飛び降りる、庭のプレハブ倉庫に着地、そこから石塀を越え我が家の敷地外へ、辺りにはヤツの姿はない、俺はコソコソと隠れる場所を探して走り出した。
―――(ФωФ)―――
いくつかの疑問
「今日って何日になるんだ?」
「23日、やつらが発生して5日になる」
だらしなくぶら下がるアレを隠しもせず大輝は答える、先の路地裏は危険ということで、八百屋の二階で隠れながら話を聞いていた。
確か、最後に日付を確認したのは17日、ということは青城 泉、この俺は6日間寝続けていた訳だ、人間が一回でとる睡眠の上限は15時間という話を聞いたことがあるが。
「6日間はギネスもビックリじゃねぇのかな。しかしまぁ、寝てる間によくヤツらに襲われなかったもんだ」
「お前、6日間も寝てたのか!?、おばさんとかは無事なのか?」
そうなると、ベニヤ板で部屋を封鎖していたのは家族の誰かということになる、いくらパニックで正常な判断ができなかったとはいえ、その行為は普通ではない。
「次、ヤツらのその行為はなんだ?」
思い返せば嫌な記憶がちらつくので、大輝の質問をスルーして自分の質問を押し付ける、顎で示したのは大輝の一物、なぜヤツらは精液を飲むのか、なぜ精液を飲まれた人間はミイラ化するのか。
「さぁな、俺の予想は摂食行動だと思うが、なにせ精液って栄満点らしいからな、けどあいつらが排泄している所は見たことないんだよな」
まぁ、予想していた解ではある、結局ヤツらの行動はなんなのかよくわからないということだ、なら大輝が知っていることは少ないのだろう、なぜヤツらは現れたのか、なぜ地域ごとに区切られて現れたのか。
「最後だ、大通りの血は」
「女性の血だ」
即答、これも予想はしてた、ヤツらは女性は喰わない、ただ殺すのみ、なら
「死体はどこへいった?」
あるのは男のミイラばかり、殺された女性の死体はどこにあるのか。
「そこが、気味の悪い所だ」
その問に対して大輝は予想してなかった解を返してきた。
「どこぞの組織が、日本で活躍してる」
―――(ФωФ)―――
ヤツが現れてから3日目、隠れていた場所の食料が尽き、食料を求めて既に無人のスーパーに向かった、スーパーの中も、外と変わらぬ惨状で、生物が置いてあるぶん臭いに関しては外の方がまだマシなくらいだった。
腐臭のすごい生成食品売り場を避け、缶詰や菓子をリュックに詰め込む、ライフラインがまだ残っているため、飲料には困らないが一応水も持っていくことにした。
来るときとは違い、そこそこの重みをもったリュックを背負い、スーパーの出入口を目指した時だった。
ガタンッ
「―――!」
外から音が聞こえた、咄嗟に物陰に身を潜め出入口を警戒する、金属同士がぶつかったような音が連鎖的に聞こえ、出入口に人影が現れる。
茶色の服で全身を包み込み、顔にはよく分からないマスクをゲームの中で見るような物をガチャガチャと鳴らしながら近づいてくる、だがそこに害意はない。
「助けがきた」
そこで両手を宙に挙げ敵意が無いことを示しながら集団の前に出る、銃口を向けられ鳥肌がたつが、向けられた銃口はすぐに下げられる。
顔一杯に笑みを浮かべできるかぎり友好的にする、そうすればきっと助けてくれる、そう思うからだ。
「ありがとう、助かった、もうこ―ガチャガチャガチャ―――無視ぃ!?」
武器をガチャガチャさせながらいやはや見事なスルー、数メートル離れた背中に書かれるHCGの白線、おれはそれにさらに声をかけた
「おーーい、キコエテマスかー?」
わざとらしく話かけながら執拗につきまとう俺を集団は全く気にしてないご様子、進行方向に立ち塞がっても強引に突破、その際に手を踏まれ散々な目に。
弓道をやっている俺からすれば手は大切なものd・・・
―――(ФωФ)―――
「・・・それがこんな感じに酷く腫れて、今でも治らない重症に」
「お前のことはどうでもいいんだよ!、早く続きを放せ!」
まったく、少しずつ話が逸れてると思ったらこれだ。
「おお、そうだな――オホンッ・・・」
大輝の咳払いから始まる沈黙、よく考えればこの先のことを話すのは大輝にとっては苦しいことかもしれない、だから必然的に話は別の方向にそれてしまう。それは仕方のないことではあるが、今の俺は圧倒的に情報が足りない、だから大輝には無理をしてまで話してもらわなければ困るのだ。
「えつと、そのままそいつらを追いかけてたらいつの間にか生鮮食品売場にいて、ほら、生鮮食品売場を避けたって言ったじゃん?、だからそこにそれがあることに気がつかなかったわけで・・・」
―――(ФωФ)―――
そこは素晴らしく気味の悪い場所だった、入り乱れる腐臭に荒らされている「元」食品と、横腹を切り裂かれ、内蔵のようなものが垂れた死体、首から上がない死体、皮一枚繋がった足をしたままそれ以外の外傷のない死体、真ん中にぽっかり穴の開いた死体、口からおびただしい血が流れ、ピンク色の舌を端からのぞかせた死体、計5人の女性の死体・・・。
普通の人間が見れば確実に惨事になる光景、俺が胸糞の悪さをこらえながらそれを見ていられるのは普段からプレイしていたFPSゲームの影響が大きい。
集団は死体と自分達の人数を確認する、死体の数は5つ、集団は5人、丁度ピッタリなのを確認した集団は迅速に作業をする。
一人は垂れた内蔵をねじ込み、よくわからない機械で傷口を塞ぐ。
一人は周囲から頭を探しだし、これまたよくわからない機械で胴体とくっつける、首が不自然な方向に曲がり不気味なことに。
一人は足をちぎり、足と身体を両脇で抱える。
一人は開いた穴をバーナーのようなもので焼き、穴に腕を通して持ち上げる。
一人はこちらに背を向けゴソゴソとなにか作業をして、死体を抱える、抱えられた死体はまるで眠っているかのように綺麗だった。
作業中に集団は一言も発しない、ただ作業の結果に統一性はなく、意味も分からない。それぞれの作業を終えた集団はガチャガチャと外へ向かう、そいつらに続き俺も警戒をしながら外に出る。
外には集団と同じ色のトラックが1台、トラックの荷台には女性の死体が積み上がっていて、5人は荷台に死体を投げ込む。
なんだか朝のゴミ捨て場のような感覚、ただ集めているのはゴミなんかじゃなく死体・・・。荷台に死体を乗せた集団はトラックに乗り込む。
「おい、待てや」
気づけば俺は最後にトラックに乗ろうとするやつの服を掴んでいた、そこでそいつは始めて俺に反応をした、簡単に言えば
「ヴゞ△★♪ΔΧ!!」
「は?、なにいt――がぁっ!?」
俺に意味不明な言葉をなげつけ、思いっきり殴る。
単純明快な暴力。
―――(ФωФ)―――
「意味不な言葉」
「あぁ、多分雰囲気的には英語だと思うが、なんせ俺の英語の成績は地を這ってるからな」
「英語ならワンチャンあるな」
自慢ではないが英語はバリバリ得意、以前外国人観光客の案内を7時間勤めた実績もある。
「なんかめっちゃお礼言われて、すげぇ満足そうにしてたな」
ジャクソンとエミリー、 ボブとベリーにスズキ ヒロシとレックス・・・今頃なにをしているかなぁ。
「あれ・・・今日本人いなかった?、たしかにおもい返せばなんか流暢なんだかカタコトなんだかわかんないやつが」
「いずみ、お前がどんなことを考えてるか分からんが、とりま現実に帰ってこい」
はっ!、昔の思い出にひたってた!。
さて頭を切り替えて、話を元に戻そう。
「じゃあ結論、突如として現れた謎の生物、死体を運び去る謎の集団、これに対して大輝はなにも知らないに等しいと?」
「そゆことだな」
「ちっ、役にたたねぇ」
「6日間眠り続けて自分の立場もわかってなかった奴に言われたくねぇよ!」
大輝の戯れ言を無視して、思考を全力で巡らす。どうすればこの過酷な環境で生きていけるか、その方法を
「そいえば、大輝、おやじさんとおばさんはどうした?」
「さぁな、仕事先で死んでるんじゃないのか」
「家族らしくないなおい」
「ほとんど、一人暮らしも同然だったからな、ここ数ヶ月顔すら見てねぇよ。
そういうお前はどうなんだ?」
「親父が玄関でな、おかんは分からない、行方不明だ」
今朝のことがフラッシュバックする、玄関で倒れていた親父のミイラ、その時はヤツの影響で悲しくはなかったが、今、思い出せば胸の底から熱いなにかが込み上げてくる。
そんな感情を押し殺す俺に大輝はこう言った。
「エミは?」
?、エミ?、誰だそれ?
思案顔を浮かべる俺に対して大輝の顔は険しくなっていく、そしてそれは怒りに変わる。
「お前!、エミちゃんだよ!、どうしたんだ!!、死んだのか!?、生きてるのか!、行方不明か!、答えろ!」
急にまくし立ててくる大輝に俺は困惑する、なぜ大輝は怒っている?、なにが彼をここまで感情的に。
「知らない」
「あぁ!?」
「エミなんてやつを俺は知らねぇんだよっ!!!!!」
小さな部屋に叫び声と鈍い音が重なった。
西岸 大輝、かれはなんだろ・・・、青城 泉とわしの弓道部所属の同級生を足したかんじの妄想かな