出会いと崩壊と嫉妬
出会いと嫉妬と崩壊
第一章 俺と嘉瀬と美影さん
俺は大学二年になり、俺にとって、考え事をするような時期が再びやってきてしまった。
まぁ、世間一般では「五月病」と呼ばれるものだな。
基本的に疲れる感覚と、何事にもやる気が出てこない感覚。加えて、いくら寝ても満足することがない睡眠。そして、何よりも面倒なのは無駄な考えだ。人によって誤差はあるだろうが、俺の場合、「何のために生きているか」が延々と頭の中でリピートしている。
特に、春の終わりから、初夏にかけて始まってしまう・・・。
探し続けても見つからない答えを求める。まったくもって意味のない行為。しかも、日常にも異常をきたしてしまう。
学校にあまり行かなくなるに加え、食欲と食べる時間が安定しなく、就寝時間も夜が更けることも多くなる。結果マイナス成長し続けてしまう・・・。
他人に相談しようにも、相談できるほどの「友人」がいるわけでもない。何かを言いたくても、うまく表現できないのが現状。
「・・・あれ?ちょっと待て。今何時だ?」
そんなことを考え、ベッドから飛び起きる。そして、今まで考えていたことが、夢の中だと知った。その事実よりも、もっと苦い現実が目に飛び込んできた。
「・・・完全に遅刻だ。」
俺の家から、学校まで十分とかからない距離なのに寝坊で遅刻とは・・・。しかも、三日連続。うん、そろそろまずいな・・・。
それよりも、言い訳をどうしようか。一昨日と昨日までは、「風邪」で通ったが、三日目となると怪しまれる危険性が高い。「弁当を作っていました。」なんて言ったら、俺を知る友人に「おまえ料理できないじゃんww」なんて言われ、教授のうるさ・・・じゃなくて、ありがたいお言葉を受けることになる。
そうこうしているうちにも時間は刻一刻と過ぎていく。結果どうするかって?
サボるに決まっているだろ?
まぁ、ありがたいお言葉が×2、いや、×3倍は覚悟だがそれさえ乗り切ってしまえばこっちのものだ。
とりあえず、明日のことはおいといて、今日は何をしようか・・・。
ちなみに、玄関入って目の前にトイレがある。2階の角部屋のため、そうなっているのだ。玄関に入って右側に少し進むと、キッチンがある。ガスはなく、小さめのIH(持ち運び用?)が1つある。そして、キッチンに立って後ろを向くと、三枚の木の扉がある。その奥に一室部屋がある。6畳だが、一人暮らしにはちょうどいい。窓が奥にあり、右側にベッド、左側に、本棚と机、そしてタンスがある。時計はタンスの上に2つあるが、アラームをセットし忘れるのがよくある。
真ん中の空いているスペースは電気カーペットが敷いてあり、ミニデスクがある。
その上に、愛用のPSPやパソコン。携帯やら、WALKMANやらが充電器につながったまんま、放置されている。
パソコンをいじろうにも、今は環境が悪くて使える状態にない。結局、休みの日同様、PSPで「一狩り(以上)行こうぜ!」をソロで進める。
ここまででお気づきかもしれないが、俺はニート予備軍(自称)である。
さすがに、食料は買いにいくし、友達と出かけることもあるが、基本的には、ゲームしかしていない。スポーツは左利きで長身だが、走ろうものなら、5分未満で息絶え絶えになり、投げようものなら、どこに向かうかわからないロシアンルーレットになる。打とうものなら、空振り必須。一切の才能がないのだ。
これはスポーツに限ったことではない。文を書くと前後の関係がめちゃくちゃになり、何回も書き直しを食らう。絵を描こうものなら、小学生にも負けるぜ☆
そんなわけで、ずっとPSPをやって結局その日は終わった。明日が怖いなぁ・・・。
そんなことを考え早めに寝た。
次の日、割と目が早く覚めたため、悠々と学校に行くことができた。
俺の大学は生徒たちが行動しやすいようにと、正方形になっている。一階が食堂兼購買で、二階から三階が授業の教室。四階が教授方の研究室である。だが、正方形のおかげで、新入生は教室がどこにあるかを探すだけで、何週もする羽目になり、あまり評判は良くない。俺も、入った当初は素晴らしい方向感覚で、めちゃくちゃ迷い、結局その授業の教室探すだけで、授業が終わってしまったことが何回かあった。
二年になり、大体校舎の構造を把握したことにより、教室に行くために迷うことは少なくなった。
ゼミが行われる教室に入ると、俺を見た人間の嗤い声や、蔑みの目が刺さってくるが、慣れてしまった自分にとってはどうでもよく、いつもの席に座る。
俺が参加しているゼミは、大学一適当で最も単位が取りやすいと言われている。
何をやるかというと、自分である一つのテーマを決め、それについて、半年に一回文章にまとめ、提出することだ。教室に集まる意味も特にないのだが、このゼミの教授である万見が出席カードを配り、回収して、欠席者を調べるため、行かざるを得ないのだ。
出席については、細かいのだが、提出物に関しては、コピペでも通用してしまうため、謎だ。万見曰く「真面目にやった人とそうでない人の差は一目瞭然だが、どのように課題をやるかはその人のやり方を私は尊重し、コピペをしている人たちはこの先苦労するだろうなという予測を立てている。だから、私はどんな人にもとりあえず出してくれれば点はあげる」というめちゃくちゃ、かつ、よくわからん理由で認めている。
その結果、真面目にやる人などほとんど皆無で、他のこのゼミに参加している奴らはコピペで課題を終わらすため、授業中はまるで動物園のようににぎやかになっている。その中で俺は考えること自体は好きだから自分で考え、それを、パソコンに打ち込み、まとめている。
そんなことをしていたら周りから「あいつ真面目にやってんのマジウケるww」とか、「うわ~、優秀者気取りww」という誹謗中傷が聞こえてきていた。最初のころは苛立ちを覚えたが、人間の習性である順応のおかげで、気にならなくなった。
最近は考えている途中に聞こえてしまうと、思考停止してしまうため、お気に入りのチェリストのCDを大音量で聞きながら、考えるようになった。
そんなばかにされる俺でも、一応友達はいる。
考えをパソコンで打っているときに、急に肩を叩かれた。振り向くと、いつも通りの俺の友達である嘉瀬の顔が目に飛び込んできた。
そいつは、俺とは対照的に活発で、何でも出来、才能の塊である。しかも180センチあり、間違いなくイケメン。そんなやつの唯一の欠点とすれば、俺と絡んでいることだ。俺のせいで、そいつは割と女子に避けられている。まぁ、本人はあまり気にしていないようだが・・・。
そいつが何か言おうとしていたから、耳にあてているイヤホンを取った。
「なぁなぁ、昨日どうしたよ~。すんげぇ心配した。メール送っても返してくれないし。」
「別にどうもしないよ。遅刻確実だったから、サボっただけ。メール気付かなくて悪かったな。」
「マジか・・・。心配して損しちまったじゃねーか・・・。」
「それは、お前が心配しすぎなんだよ。で、わざわざそれだけ言いに来たのか?」
「今から言うことは他の誰にも言わないって約束したら言うぜ☆」
「・・・それはフリか?」
「いや!違うって!真面目な話だよ!語尾に☆つけてふざけたのは謝るから!お願いだから他の人に言わないでくれッッ!」
「何?」
「いやぁ~・・。あのさ、このゼミの美影さんいるじゃん?」
「あぁ、あの美影さんね。」
美影さんとは、このゼミ、いや大学中でナンバーワン間違いなしの美貌と頭の持ち主であるに加え、卓球で日本代表にも選出されたこともある。だが、卓球なんて日陰なスポーツでは、代表にならない限り、有名にはなれない。
だが彼女のファンクラブ(非公式)がブログに美影さんの個人的な情報は除く活躍等の情報を載せているため、この辺りでは割と有名な人である。
「すごく美人じゃない?」
嘉瀬が当たり前な質問をしてきた・・・。
「何をいまさら。ww」
彼女は、「可愛い」というよりも「美人」に間違いなく属すであろう人物だ。身長はやや高めだが、その高さが、まさしく彼女のために存在しているようなピッタリな身長なのだ。
しかし、一つ疑問なのは、その完璧であるはずの美影さんがなぜ、このようなクソみたいな集まりの中にいるのかだ。もっと難しいクラスもあり、そのクラスは、日本でも割とハイレベルらしい。そのクラスは成績上位十名が入る権利を持っている。その権利を持っているであろう美影さんはそれを蹴って、こっちに来たことになる。
「前の顔合せ会あったじゃん?」
「あぁこの前の。」
顔合せ会とはこの学校の伝統行事であり、ちょうど女子と男子が半々であるこの学校で、「男子と女子仲良くなろ」うというスローガンのもと学年が変わるごとに毎年行われている。体育館に集まり適当に男子と女子が話す、という合コンみたいな行事だ。いつも、ビッチだろうと思われる人間と、チャラオがはしゃいでいるのを見かける。
「俺さ、美影さんと話そうとしたんだよね・・・。」
「それで?」
「でも男子に囲まれちゃって、全然話せなかった、つーか近づくころさえできなかったよ・・・。」
「だろうなー。遠目で見てたけど、警備員来るんじゃねーのって思ってたからよ。」
ニート予備軍である俺に他人に話しかけるなどとおぞましい行為はできず、ずっとプラプラしてやり過ごしたのを覚えている。そんな中、男子を中心に、美影さんが囲まれていたのを思い出した。
「でも、男子に囲まれた時のあの発言がさぁ~」
「あぁ、確か、気持ち悪いんだよこの汚らしいハイエナどもめ、だっけ?」
「そうそう、その後の2度と寄るな、のほうが俺は好きだけどな~」
顔合せ会で始まった瞬間に男子に囲まれて、それで2時間もたっちゃあそりゃ、キレるわな。その時の美影さんの発言があまりにも辛辣で、ほとんどの男子生徒を再起不能にしたため、呼び捨てではなく、「さん」付けで呼ぶのが、一種のルールになったと同時に、彼女に話しかける人は誰もいなかった。
「俺・・・彼女に・・・告白しようと思うんだ・・・。」
「ふぅん・・・。あっそう。って、ええええーーーーーー!!!!!」
あまりにも突飛なセリフで、俺の頭の中は訳が分からなくなっていた。
「ちょっと待て。落ち着け俺。え?何?嘉瀬が美影に告白?」
嘉瀬の発言に「さん」付けるのさえもわすれてしまった。
「お、おうよ。そういうことだよ?」
「・・・お前、一生女性に告白することができなくなる危険性を顧みないというのか?」
「いやぁ、だって、言って断れるよりも、言わないまんまのほうが後悔がデカそうじゃん?」
「・・・。」
俺は絶句するほかなかった。何故なら、今まで美影さんに告白した人数は想像を絶するが、それをまったく相手にしてきていない美影さん。確かに嘉瀬もイケメンだが、釣り合うかどうかといったらそれは別の話だ。美影さんに告白した人の中には、多分嘉瀬以上もいるだろう。しかも、告白をした男子全員とも告白した次の日は、心へのダメージがオーバーキルされてしまい、1日がかりで再起動せざるを得ない結果になっている。
そんな中そういう考えを持つ嘉瀬を少なからず感心する俺と、ダメージを考えないそいつを蔑む俺がいた。
「俺だって、断られるぐらい分かってるさ・・・。でも、ここで言わなきゃ男じゃなくね?」
「・・・で、それを俺に伝えて、どうしたいんだ?」
「いや・・・。その・・・。美影さんに・・・ね・・・。」
ものすごく嫌な予感しかしないな・・・。
「嘉瀬が呼んでるから、どこどこに来てって言うのを言えってんじゃないだろうな?」
「ビンゴ!いやぁ~、さすが我が親友よ!」
「断じて断る。」
「頼むよ~。」
「なんで、ニート予備軍で、コミュ障で、女子に話しかけたことがない俺がいきなり美影さんなんていう次元が違う人に話さなきゃいけないんだよ?」
「そこをどうにか!」
「俺は嫌だぞ!」
「じゃぁ、話しかけてくれたら・・・。」
「たら?」
「一万以内の物なら何でも買ってやる!あっ、税抜きで。」
困ったぞ。超大型巨人に挑むために調査兵団になるか、慎ましく駐屯兵団になるか・・・。こうなったら、額を大きくさせるしかない。
「二万五千にしろ」
一万五千を目標なら、多分これぐらいで、スタートさせるのがベストなはずだ。
「それは高すぎるよ~。一万二千は?」
割と大きく譲歩してきたな。よし、目標額を大幅に超えられるかもしれないな。
「二万だ」
「う~・・・一万四千!!」
目標通りになりそうだな。まぁいい。
「一万八千」
「い・ち・ま・ん・ろ・く・せ・ん・は?(怒)」
「よし乗った。前払いな?」
「今は持ち合わせないから、来週でもいい?」
「お前・・・冗談じゃなくて本気でそんな額払うのか?どうせ断られんのに?」
「どうせいうなー!だって、このチャンス逃したら、もうないぞ!?」
「心から尊敬するわ・・・。」
そして、放課後に俺と嘉瀬で、いつ俺が美影さんに話すかと、どこで嘉瀬が告白するかを相談し合い、帰路についた。
自宅に戻ると、まだ一週間先なのにものすごい緊張で、心臓が飛び出しそうになり、吐き気がずっと止まらないその日の夜を満喫する羽目になった。それほど、俺はコミュ障で、尚且つ、ビビりなのだ。だが、嘉瀬のおかげでいちいち無駄な考えをする、五月病とはおさらばしたみたいだ。超大型巨人に俺は挑めるかどうかがすごく心配だが、それよりも、断られた後の、嘉瀬のケアをどうするかを考えよう。そんなことを六日間考える日々が続いた。
第二章 美影家
何もかも面白くない。つまんない。卓球もギリギリのところで、代表になれなかった・・・。私は顔合せ会のことをものすごく後悔している。何故なら、いきなり、自分でもビックリするほどの暴言を吐いてしまったからだ。それ以来他人の会話を聞くたびに私がさん付けされ、誰からも話しかけられなくなってしまった・・・。
私はいつもそうだ。最初が肝心というけど、本当にそうだと思う。高校の時も、いきなり卓球部で、一番になり、練習メニューや、監督なども全部私がやる羽目になった。しかも、そのせいで、私は「先生」呼ばわりされてしまった。
私は別に特別な存在になりたいわけでもないし、他の人とは違うって思われたくない。でも、いつも最初で躓き、友人を作ることもままならず、いつもつまらない学校生活になってしまう。
私に告白してくる男子には厳しい言葉をぶつけるのは否定しない。だって、好きでもない人に好きですって言われても何も思わないのは当然だと思うから・・・。
この考え方でさえ、エゴだというなら、私には居場所がなくなってしまう・・・。
勉学はただ、当たり前のことを、忘れないように予復習していたら、全部覚えていただけの話。別に勉強=趣味ではない。
私がこのゼミを選んだのも、普通に話しかけてくれる人物がいて、友達になれる人がいるという、淡い希望を抱いて、選択したものだ。でも、結果は最悪。動物園みたいに騒ぐくせに、私とは一切の関わりを持とうともせず、くだらない話で盛り上がっている。
私は完璧だと思われがちだが、実際はそうでもないのだ。例えば、女子のくせに、爬虫類が好きということや、中学の時、モンハンで強くなりすぎて、誰も私と協力してくれなかったのを覚えている。
それよりも絶対に他人に知られてはいけない秘密がある。多分私の人生の中で、誰とも、共有できないだろう悩み、いや、天性といったほうがいいのかな?それは、
多分私はレズだと思う・・・。
思い当る節はいくつもある。例えば、男性に興味がない。カッコいいとか、イケメンとか思わないのだ。次に、オシャレな女性を見ると心臓が高鳴るのだ。
私も女子としてはこれ以上にない存在なのは大学にいる人間の雰囲気でわかる。でも、街の中で見かける女性の中で、その人が自分に合ったファッションをしていると、とても心が動き出す感じがするのだ。
誰でもいいから、私の話を聞いてくれる人は現れないのかな・・・。さっきから後ろで話してる嘉瀬君ともう一人・・・。そういえば彼の名前知らないや。時々私の名前が聞こえるからすごく気になるけど、あんまりこういうのは聞かないほうがいいよね?
そんなわけで、私は、自分の課題を進めるためにまたパソコンで、レポートを書き始めた。ちなみに、私のレポートの内容は、人と初めて会ったときはどうすればいいかである。
そうそう、私は、推薦でこの学校に入り、現時点で、卒業証書はもらっているのが現状だ。つまり、時間がとてつもなく余っているのだ。このゼミ以外は何一つ授業に出ていないし、親がお金持ちということもあり、物欲もそんなにわいてこない。
明日は何しようかな・・・。そんなことを考えつつ課題を少し終わらせ、早めに家に帰った。
「ただいまー」
「おう、お帰り」
いつも玄関で迎えてくれるのはお父さん。お母さんが働いていて、お父さんが主夫なのだ。でも、お父さんはイタリアン、フレンチ、旅館で働いていたこともあるため、一般の主婦とはレベルがはるかに違う。
「どうだった?学校は?」
「んー?いつも通りの変化なし。今日も話しかけられなかったよ・・・。」
「そっかぁ・・・。そいつぁ残念だなぁ・・。でもいつまでも、待ってるだけでもダメだぞ?あっ、先風呂にするか?メシにするか?」
「わかってるよ・・・。先お風呂お願いね。」
「がってんだ。」
確かに私はいつも誰かに話しかけられるのを待っている。それは、いつも誰かが話しかけてくれると信じ込んでいる自分と、願っている形ではないにしろ、実際に話しかけられているからだ。まぁ、告白しかないけど・・・。
自室に戻り、着替えといつも聞いているサックス四重奏団の入っているWALKMANと小さいスピーカーを持ってお風呂に向かう。
その途中阿保みたいな声が聞こえてくる部屋の前を中も見ずに、「全部筒抜けだよ」と声をかけながら通り過ぎる。そうした次の瞬間から、音が小さくなった。
ニートで学校にも行かず、外出もせず、ひたすらゲームに熱中している高校二年の弟がいるのだ。ゲームをやっていると、時々テンションが上がりすぎて、多分本人でさえ気づいていないだろうが、大声でわめき散らしているのだ。そのまんま弟が怒るとなだめるのが面倒になるので、先に注意するのだ。そうすれば、怒ることも少なくなり、お父さんの家事の邪魔もしないで済む。
お風呂に入り、音楽を流し、ボーっとする。これが私の楽しみでもあり、一番の癒しタイムなのだ。ボーっとするのを邪魔されるのを恐ろしく嫌う私は、幼いときは、かまってほしくてしょうがない弟に本気で怒っていたことが何回かあった。
もしかしたら、弟が、ひきこもったのは、私のせいなのかもしれない・・・。
今日はあまりリラックスでいきそうにもないなと思いつつ、嘉瀬君と話していたもう一人の名前を思い出すことに結構な時間を費やすことにした。
結局そのもう一人の名前を思い出せず、風呂から上がり、食卓へ向かった。お父さんは、私がお風呂あがるタイミングを完璧なまでに見計らって、晩御飯の準備をするのだ。弟は、呼んでもどうせ「今いいとこだから無理!!」と言って、結局食べずじまいがほとんどだから、お父さんも弟の分の晩御飯の準備をしない。そんな時、玄関のドアが開く音がした。
「お帰り―」というと「あら、今お風呂あがったばっかり?道理でいい匂いがすると思ったわ」などということをいきなり口走るお母さんが帰宅した。
私をいつもこれでもかというほど褒めるのだ。それはどんな時だってそう。でも、その声援のおかげで、今の私があるのは紛れもない事実なのだ。やっぱり人間は褒められるとうれしいらしく、さっきの言葉で少し疲れがとれた感じがした。
「あ、わかる?シャンプー変えたの。」
「そうなの?素敵なにおいね~。何のにおいかしら。ローズ?」
「そう!正解!さすがお母さん」
「お~い、話してないで、温かいうちにご飯食べようよ~」
お父さんの切なる願いのこもった言葉が聞こえた。確かに、あんなにおいしい料理が冷めてしまうのは勿体ない。
「じゃあご飯にしましょうか。」
お母さんが話をいいタイミングで切り上げ食卓へ移動し、一人を除く家族三人でご飯を食べた。
ご飯を食べている間はいっつもお母さんが話している。でも、その話はどれも面白いし、聞いてて飽きない。それよりもすごいのは、同じ話が何一つないのだ。いったい話のネタをどこから仕入れているのかは知らないが、とにかく、為になる話が本当に多い。その話を聞くのは日課となっており、最近ではその言葉を忘れないように、メモ帳と、ボールペンを懐に忍ばせている。今日の話は何だろうか。そんな期待を抱きながら、お父さんの作ったパスタをほおばる。いつも通りのとてもおいしい味。私は弟を除いて家族に恵まれていると思う。
「ごめんね~。今日はいい話がないのよ~。」
え?
一瞬頭が真っ白になった。今まで話が尽きることのなかったお母さん。それなのにいきなり話が尽きるなんて・・・。どこか体の具合でも悪いのだろうか・・・。
「仕事の疲れがね~、一気に押し寄せてきちゃったのよ~。今日の分は明日また話すわね~。」
「お前大丈夫か?たまには休みでもとれよな。」
お父さんがそう声を懸ける。
お母さんの仕事は何かを聞いたことがないが、今までの様子からそんなに大変な仕事ではないと思っていた。
私は何も言えずに、ただただ、頭の整理をするのでいっぱいだった。それほど、私にとってお母さんの存在は大きく、不変的な存在なのだ。一種の信仰に近いかもしれない。
「ちょっと、大丈夫~?」
「あ、うん。珍しいね、お母さんが疲れてるの。」
「今日は予想以上にお客様がいらしてね~。いつもの時間より早く家を出てだのよ~。」
「ふぅん・・・。体には気を付けてよね。」
「あら、心配してくれるなんて、珍しいわね~。」
「そうだっけ?」
そう言われて、誰かを心配したのはいつ振りかと記憶を辿る。そういえば、友達もいないし、好きな人もいないから心配するのは五年ぶりぐらいだろうか・・・。お母さんはいつもこういった私の変化を見逃さない。
「じゃあ、私はご馳走様するわね~お休み~。」
「お休み―」
「おう、お疲れさん。」
やっぱりお母さんはいつもより疲れているような気がする。
「ねぇ。」
「うん?」
「・・・何でもない。」
お母さんの仕事と疲れ具合について、お父さんに聞こうとしたが、私が関わっても多分ロクなことにならないし、聞いても意味がないと思い、あえて聞くのを踏みとどまった。
「まさか・・・恋の悩みか?」
「はっ!?」
「!・・・。そんな怖い目で俺を見ないでおくれよ~。」
「だったら、そんな質問しないでよ。」
「悪かったな。でも、お母さんなら大丈夫だよ。」
「え?」
考えを見透かされた。
「なんでわかったの?」
「いやぁ、だって、お前昔から顔に出るタイプだからな。何を考えてるかなんて顔を見ちまえばわかるもんだ。」
「そう・・・お母さんは本当に大丈夫なのね?」
「あぁ、いつも疲れて帰ってくるが、今日ほど疲れているのは何年ぶりかなぁ~。」
私は知らなかった。お母さんが毎日疲れていることさえ。
「明日からはいつも通りだから、あまり心配すんなよ?心配するのも体に毒だぜ?」
「うん。ありがとう。」
「それはそうと・・・本当に好きな人いないのか?」
「だーかーら、いないってば。そんな人。そもそも私、人に話しかけないし、話しかけられないから人付き合いもないって。」
「そうかー・・・残念だな~。お前そんな美人なのに勿体ないよ。男どもは金づるにでもしておけばいいんだよ☆」
「親が言うセリフじゃないでしょ?それ。」
そんな会話をしていると、足音が聞こえてきた。お母さんかと思ったが、一回出ると帰ってこない。誰だろうと思ったら、珍しく弟が食卓にやってきたのだ。
「あれ?珍しいじゃん。どうしたの?」
「あ・・・ん・・・ちょっとね・・・。」
弟に話しかけながら、顔を見たそこには何かを覚悟している顔のように見えた。
「ねぇ、親父」
「何だい?」
「お・・・俺に料理を教えてくれ!専門学校に行って、シェフになりたいんだ!」
急に何を言い出すかと思ったが、理解はできる。何故なら、お父さんはあちこちで修業した元料理人であるから弟が影響受けるのは予想していた。
「だめだ。」
お父さんがそういった。
「えっ?」
弟よりも先に私の声が出ていた。だって、ニートの弟がそんなことを言うのは二度とないだろうし、お父さんも喜んで賛成すると思ったからだ。
「お父さん?なんでダメなの?」
私が先に聞いていた。
「確かに、俺は料理人の経験があるし、ここで教えれば、外に行く必要もない。だが、それでは、意味がない。料理っつーのは日々進化しているし、何も知らない中から、バイトでやったほうが、料理以外のことも学べる。つまりな、家で古臭い料理方法を学ぶよりも、バイトで未経験者募集のキッチンに入り、一個一個やるほうがいいんだ。」
「ふーん・・・。そうなんだ・・・。聞いてた?少年?」
私が弟を呼ぶ際には少年を使う。特に理由はないが、なんとなくこう呼んでいる。
「・・・つまり、俺がバイトするってこと?」
「そういうことだね少年。Boy`s be ambitious.ってね。」
「俺以外の人間がうようよいる・・・。」
「何バカなこと言ってんの?すでにあんたと私が違う人間じゃん。お父さんとお母さんもそうだし。」
「外に出たくない・・・でも、料理はやってみたい・・・でも、人間は嫌だ。」
そうぶつぶつ言いながら、自室に戻っていった。あの様子じゃバイトする気にはならないだろう。
「俺なんか言ったか?」
「いや、たぶん大丈夫だと思うよ。」
お父さんが心配そうな目で私を見ていたから、そういった。弟に関しては、多分お父さんよりもわかる。弟は考えを振り払うようにゲームをやるだろう。
「わかった・・・。バイト・・・やるよ・・・。」
「「え?」」
部屋に戻ったと思っていたら、また引き返したらしく、そう言っていた。
「ちょっと。自分が何言ってるのわかってる?外の人間平気なの?」
私が知る限りでは、外に出たのは、ゲームの発売日と漫画の発売日だけだ。だから、多分人間とは話せないと思う。加えて料理の腕は全くの0。姉としてというよりも、まともに弟が動けるかが心配だ。
「ちょっと探すわ・・・。バイト先・・・。」
「ちょ、ちょっと!?」
こっちのことが一切頭に入って無いようで、部屋に戻っていった。多分バイトの情報を調べるのだろう・・・。
「「・・・。」」
私とお父さんは呆気にとられたまんまになっていた。特にお父さんのほうがひどく、未だに頭の中が?だらけになっているようだった。
「お父さん。大丈夫?」
幾分落ち着いてきた私は、お父さんにそう尋ねる。
「あ、あぁ・・・。大丈夫だ。」
「まさか、あいつがそんなこと考えているかなんて思いもしなかったなー。」
「確かにな。でも、あいつなら、大丈夫だろうよ。俺はそう思う。」
「どうして?」
「だって、今まで何に積極的に物事やんなかったのに自分から言い出したんだぞ!?しかも、社会勉強にちょうどいいバイト!加えて厳しい世界の料理!・・・多分その覚悟をしたんだと思う。」
「そっか・・・。お父さんが言うなら間違いないね。大丈夫だね。」
お父さんが大丈夫と言うと不思議と安心感がある。いつもは、てきとうな人間なのに、カンだけはずば抜けている。小学生の時、女子にしては長身なので、イジメられていたことがあった。そんなに酷いものではなかったが、やっぱり辛かった。そんな時お父さんに、後二か月で終わるから我慢しろ、と言われた。その言葉を胸に二か月耐えたら、何もなっかたように、イジメは止まった。なんで止まったかは知らない。でも、お父さんの「二か月後で終わる」は見事に的中したのだ。それ以来、お父さんの言うことには、大体賛成するようになった。
「まぁ、でも最初の三か月はつらいだろうから、お前が支えてやってやれよ?」
「なんで私なの?別にお父さんやお母さんでもいいじゃん。」
「あいつは、お前にすごい憧れてるからな。憧れの対象が声を懸けてくれたらそりゃあ、うれしいだろうなぁ。」
「え~?そんな風には見えないけど・・・。」
「一回な、あいつと話し合いをしたことがあってな。話しているうちに、
お前のことを女神だという始末だよ(笑)」
「なんでよ?そもそも私が女神って柄じゃないでしょ?」
「おう、それでな、どうしてそう言うんだ?って聞いたらよ、お姉さんは頭もいいし、運動もできるし、何しろ美人でしょ?そんな人がなんで女神じゃないの?って逆に聞き返してきやがったよ。」
「あのバカ・・・。」
実際、女神と言われて悪い気はしないが、人間以外のものに当てはめるのはやめてほしい。
「その後にな、あいつ、こうも言ったんだ。でも、その女神にも欠点はあるんだよ。料理ができない!だから、もし僕が料理できるようになったら、女神も人間にきっと戻れるよ。ってな。」
確かに私がキッチンに立って料理をすることはないが、高校までの家庭料理実習では、私が全ての料理を作った。だから、別に料理ができないわけではないのだ。でも、弟が、私のことを気遣ってそう言ったのも驚きでしかない。
結局私は家族に支えられ、その恩返しはできていないのか・・・。
「まぁ、俺にはちんぷんかんぷんだけどな~(笑)おっと、もうこんな時間か。明日はどうするんだ?」
そう言われて、時計を見ると、十時を指していた。私の家はテレビを見る習慣がないため、家族全員が寝るのが早いのだ。・・・弟を除いて。にしても、ゲームしかしていなく、生活習慣もままらない弟に心配される私って・・・。今日は久々にあいつと話すか。
「本屋にでも行こうかな。」
「そうか。じゃあ、お休み。俺はもう一仕事あるからな。」
そういって、お父さんは、キッチンに向かった。シンクに洗い物がある。それを手で洗うつもりなのだろう。自動食器洗い機もあるのだが、お父さん曰く、「洗剤の無駄」らしく、手で洗うのだ。
「うん。お休み。」
お父さんに聞こえないように「ありがとう」と言い残し、自室に戻る。
ちなみに、明日本屋に行こうと思ったのは、料理をするときの最低知識の書いてある本を探すためだ。レシピ集ではなく、心得の集まりみたいな本。そうすれば、弟に借りた恩も返せると思うから。
弟の部屋に行き、珍しくドアが閉まっているから、ノックをする。
・・・返事がない。イヤホンをしているか、ゲームに夢中で気づいていないか。もう一度、少し力強くノックをした。
そのすぐあと、ドアが開き、そのあいたドアから、目を真っ赤にした少年がいた。最初はいつも通りの充血かと思ったが、どうやら、泣いていたようだ。
「お姉ちゃん・・・。」
めそめそしながら、普段絶対にしない呼び方。何かがある。私はそうとらえた。
「どうしたの?」
弟が泣いているのはすごく驚いたが、ここで私が挙動不審になってしまうと、弟に安心感を持たせることができない。私は、震えそうになる声を抑えながら、冷静に聞いた。
「俺・・・生きている意味あるのかな?」
心が揺らいだ。
まさかこんな深刻なことを考えているなんて・・・。なんで気づかないんだ!私は!
「さっき料理やるって言ってたじゃん。その料理を生きる意味にすればいいんじゃないの?」
弟の気持ちを落ち着かせようと、そういった。
「俺さぁ・・・今まで何やっても上手くいかなかったじゃん?だからきっと料理もできないよ~・・・。やっぱり、外に行きたくない・・・。それで、このまんまゲームやっても意味がないことはわかってるから、もうごちゃごちゃ何だよ・・・。」
「ふざけんじゃねーよ・・・。」
「え?」
「何もできない!?ふざけてんの!?じゃあ、机にあるあのイラストは何なの!?絵が描きたいんじゃないの!?かっこつけて私のために料理がやりたいなんて言わないでよ!?もっと自分のために人生使いなさい!!」
気付いたら、そう言っていた。目の前でうじうじされるのが一番嫌いなのだ。YesかNo、この二つにしてほしい・・・。本当に・・・。
「・・・。」
呆気にとられている弟を見て我に返った。・・・言ってしまった・・・。即座に後悔が押し寄せてきたが、ここで話を途絶えてしまうと、もっと悪くなりそうだったから、勢いで言うことにした。
「あんた、あんなに絵がうまいんだから、そっちの方面に行って、イラストレーターとかになればいいじゃん。そうすれば、人間ともあまり関わらなくて済むし、もしかしたら、自分の描いた絵がゲームにも採用されるかもよ?」
「あ・・・ありがとう。お姉ちゃん。うん。俺、イラストレーター目指す!専門学校に行かせてもらえるかどうか親父とお母さんに聞いてみるわ。」
「男に二言はないからね・・・。」
「う・・・うん。」
最後に睨みを聞かせ、自分の部屋に戻る。意外と芯のあるやつなんだなー・・・あいつ。そう思いながら、ベッドに入り、目をつむる。今日はひどく疲れていたため、早く寝ることができた。
第三章 勇気
朝、目を覚まし、食卓に向かうと、平日なのにもかかわらず、お母さんがいた。
「あれ?今日仕事無いの?」
「おはよ~。そうなのよ~。店長にね~、昨日よく働いてくれたから、今日は休めって電話があったのよ~。」
「ふ~ん。」
やはり昨日はものすごく大変だったらしい。椅子にすわり、前に置いてあるトーストにマーガリンを塗り(私はマーガリンの方が好きなのだ。)噛みつく。
「お父さんはどこ行ったの?」
姿が見当たらないので、お母さんに尋ねた。
「男子だけの話し合いをするって言ってどこか行っちゃたわよ~。」
「え?少年も出かけたの?」
「そうよ~。」
「変わったね。昨日を境に。」
「あなたが変なこと言ったんじゃな~い?」
「そんなことないですー。」
「冗談よ~。今日はどうするの~?」
「ん~。とりあえずご飯食べ終わったら、本屋に行ってくる。」
「あら、本屋に行くなんて久々じゃない?何買うのよ?」
「少年がイラストレーターになるって言ったから、関係する本でもって思って。」
「それはしない方がいいと思うわよ~。」
昨日からなんでこんなに珍しいことが起こるんだろう・・・。お母さんが意見を言うのは本当にしない方がいい時だけだ。
「なんでよ?」
私には理解できなかったから、お母さんに聞いた。
「だって、誰かが手伝っちゃうと、自分で夢を追ってるというよりも、夢を追わせてることになっちゃうからよ~。夢を本気で叶えたいなら、すべて自分でやらなきゃだめよ~。」
「なるほど・・・。」
さすが私のお母さん。なんでこんなに色々分かっているんだろう。
「でも、助けてって言われたら助けてあげるのも大事よ~。」
「うん。分かった。」
「それとね~、あなたもそろそろ他の人に話しかけた方がいいわよ~。将来に関わってくるんだから~。」
「・・・うん。」
正直、どのように人に話しかけていいか分からない。共通の話題も無いだろうし、趣味も違うだろう。ましてや、ゲームはやるがアニメや漫画を見たり、読んだりしないから、話にもついていけない。本屋に行って、人に話しかけるためにどうするかに関する本を探してみるか。
「結局本屋に行くの~?」
「うん。そのつもり。ご馳走様。」
紅茶を飲み終え、食器をシンクに持っていき、自分で洗う。お父さんがいないときは、自分で洗うのがルールなのだ。
「何時に家を出るの~?」
「少し準備したら。」
「気を付けてね~。」
「は~い。」
部屋に戻り、パジャマから着替える。斜め掛けのバッグを背負い、ネックレスを付ける。そして、忘れ物がないことを確認し、玄関に向かう。「行ってきま~す。」と言うと「行ってらっしゃ~い。」という声が聞こえた。
外に出ると、どこの本屋に向かうか迷った。徒歩圏内に五つほど本屋があるのだ。とりあえず一番大きな本屋に行くことにした。
本屋に着いて、中に入る。てきとうに中を周り、自分の求めていることに関係ありそうな、本を探す。探し回るうちに、その類の本は見つかったが、自分に合うような本を見つけられず、苦労していた。
ふと、通路側を見ると、知っている顔が通ったような気がした。通路に出て、確認すると、嘉瀬君だった。何の本を買いに来たのかがすごく気になり、ばれないように、ついて行った。すると、あるコーナーに立ち止り、真剣に本を探し始めた。恋愛のコーナーだ。しかも、告白に関する本のみ。やっぱり男子ってこういう本読んでから告白しに来てるのかな?
声をかけようか迷っていると、嘉瀬君が私に気付いた。
「美、美影さん!?な、なんでこんなところに!?」
「んー、買いたい本があってね。」
周りから見ても絶対にわかるだろう嘉瀬君のパニックぶりと、別に気にしていない私。どんなにおかしな場面かと思うと、少し吹き出しそうになった。
「か、買いたい本って?」
「人に話すにはどうするか?に関係する本。」
あれ?なんで私まったく話さない人にこんなこと言ってるんだろう?
「・・・え?」
嘉瀬君に驚かれた。まぁ、無理もないだろう。何にせよ、周りから見ると完璧で、欠点が無いように映るからだ。
「・・・、ちょっとお話ししない?」
勇気を出し、そう尋ねてみる。嘉瀬君ならいろいろ聞いてくれそうな気がしたからだ。
「も、もちろん!!」
嘉瀬君はまだ落ち着いていないらしく、とても変な歩き方になっていた。本屋に隣接している、ドトールに入り、私はホッとコーヒーのブラック。嘉瀬君は、アイスコーヒーのミルクたっぷりとガムシロップ沢山。そんなにとったら体に害を及ぼすよ・・・。そんな心配を心の中でした。
「いきなりで、悪いんだけど、どうして私って普通に話しかけられないんだろう・・・。みんないっつも私のことを神様的に扱って、遠目で見て、近づいてこないんでよね・・・。私だって、普通に話して笑いたいだけなのに・・・。」
なんだ、意外としゃべれるじゃん私って・・・。
「そうだったんですか・・・。」
嘉瀬君に敬語で話される。
「敬語やめて。」
「すいませ・・・じゃなくて、ごめん。」
同年代の人に敬語を使われるのはとても不愉快だ。嘉瀬君は呑み込みが早くて助かった。
「話しかけられないのは、美影さんが近づくなオーラ的なのを出してるし、話しかけたら、厳しい言葉で断られそうだから・・・だと思う。」
「私そんなオーラ出てるの?」
「オーラっていうか・・・近づきがたい感じ?」
「ふーん・・・。どうすれば治るかね?」
「それは何というか・・・。美影さんがほかの人に話して、話に混ぜてほしいっていうのを雰囲気で伝えるほかないんじゃないかな?」
「あー・・・似たようなこと家族に言われたわ・・・。」
「でも、美影さんってもっと女性らしく話すと思ったらそうでもないんだね(笑)」
「まぁ、今まで誰とも話してないからね~。」
「今日なんでここに来たの?」
「あれ?さっき言わなかったっけ?人に話すにはどうすればいいかに関わる本。」
「じゃぁいい本知ってるから、教えてあげるよ。」
「本当!?」
そういうと、お互い飲みかけのコーヒーを置いて、嘉瀬君に案内してもらう形で、その本の所に着いた。
「これこれ、この本。」
「んー、どれどれ・・・。」
中身をパラパラとめくる。少ない文字数を一ページの中におさめ、一言集みたいになっている。案外気に入ったので、買うことにした。
その本を携え嘉瀬君に聞いた。
「さっき、告白関係の本読んでたけど、誰かに告白するの?」
ちょっと意地悪っぽく聞いてみる。
「えっ!?うん、まぁ・・・そんな・・・感じ。」
急に照れ始めたのがおかしかった。
「誰かを好きになって、告白するのは当たり前なんだから、そんなに照れなくていいと思うよ。」
「う・・・うん。・・・美影さんは好きな人いるの?」
「皆無だけど?」
「あー・・・そうなんだ。」
嘉瀬君の元気が急になくなったように感じるが、どうしてだろうか?
会計を待っている間、嘉瀬君が聞いてきた。
「もし、よかったらなんだけど。」
「何?」
告白でもされるのかと思ったが、この様子じゃ、違うだろう。
「僕たちと一緒に話さない?」
「え?」
こんなことを言われたのは初めてで、どうしようもないほどの喜びで胸がいっぱいになった。
「いいの?多分、変な噂されると思うけど。」
「美影さんが近くにいるだけで、僕は何にもいらないから。」
そんな会話をしている途中で、会計は終わった。
「じゃ、じゃあね。」
そういうと嘉瀬君はものすごい勢いで出ていった。
「ただいま・・・。」
「あら、お帰り~。どうしたの?なんか元気ないわね。」
「んー、いや、ちょっとね。」
「そ~う。」
「疲れたから寝るね。」
「久々の外出だったものね~。ゆっくり休みなさい。」
「うん。」
自室に入り、嘉瀬君の言葉を思い出す。気付かないうちに泣いていた・・・。あまりの嬉しさに・・・。一人で、時間を過ごさなくていいことに・・・。
第四章 嘉瀬
俺はいつもみんなの中で、嫌われず、かといってそこまで好意を持たせない。でも、信頼は得る。そんな人間として過ごしてきた。でも、今は違う。なぜなら、あいつがいるからだ。
あいつとは一年の時の顔合せ会で知り合った。その時の俺の目標は、全員と話す、だった。それで、誰とも話さず、ただプラプラ歩いていたあいつに話しかけた。そしたら、あいつは意外と面白いやつで、気が合った。その時、友達ならこいつだけでもいいかな、と思った。それ以来ずっとあいつのそばにいる。そのせいか、人は寄ってこなかったけど、一週間に一日は自分が楽しめる学校になっていた。
そういうわけで、俺はエリートクラスではなく、このゼミにしたのだ。そう、ただあいつがいるっていうだけで。
よくいろんな人に「勿体ない」とか、「なんで上に行かなかったの?」と、聞かれる。その答えはいつも「自分の考えを書きたいんだ」で、ごまかしている。確かに俺の頭の良さはこの学校で、トップテンに入っている。でも、俺にとってあいつから離れるなんて想像もできない。「持つものは友達」と言うが俺は最高の友達を手に入れた気分だ。
昨日あいつに美影さんに告白すると言ったものの、どのように告白すればいいか分からない。それを得るために、本屋にでも行くとするか。
そう思い、本屋に行ってみた。この地域で一番大きい本屋に入り、真っ先に恋愛コーナーに行く。そして、告白に関する本を片っ端から順に見た。探している途中、視線を感じたので、顔を上げると、まさかの美影さんの顔があった。
「美、美影さん!?な、なんでこんなところに!?」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。憧れの人が目の前にいる。それだけで、俺の頭は、いっぱいになった。そんなことはお構いなしに、美影さんは「んー、買いたい本があってね。」と言った。未だに美影さんが目の前にいるのが信じられず、うまく言葉が出ない。
「か、買いたい本って?」
「人に話すにはどうするか?に関係する本。」
「・・・え?」
意外というか、驚きというか、衝撃というか・・・。あの完璧であるだろう美影さんがそんなことに悩んでいるのがとても不思議だった。何を言っているのかさえ俺の頭では理解できなかった。
「・・・ちょっとお話ししない?」
「も、もちろん!!」
まさか自分が、あの美影さんから、誘われるとはっッ!そんな下心を持ちながら、二人で隣接しているドトールに入った。美影さんはブラックを頼んでいるのを大人だなぁ~と感心していた。俺は、甘すぎ位じゃないとあまりコーヒーは飲まないのだ。美影さんにきっと将来体に害が及ぶよ?とか思われてるんだろうなーと思いつつ入れまくる。
「いきなりで、悪いんだけど、どうして私って普通に話しかけられないんだろう・・・。みんないっつも私のことを神様的に扱って、遠目で見て、近づいてこないんでよね・・・。私だって、普通に話して笑いたいだけなのに・・・。」
こんなことを考えていたなんて・・・。そんな素振りも見当たらなかったから、なおさら驚きだ。
「そうだったんですか・・・。」
まだ、気持ちが落ち着いておらず、敬語になってしまった。
「敬語やめて。」
鋭い声でそう言われた。多分ずっと敬語で話されてきたのだろう・・・。
「すいませ・・・じゃなくて、ごめん。」
ようやく気持ちが落ち着いてきたから、何とか普通に話し始めることが出来た。
「話しかけられないのは、美影さんが近づくなオーラ的なのを出してるし、話しかけたら、厳しい言葉で断られそうだから・・・だと思う。」
自分が感じてることを美影さんに話す。何か怒られそうだなとついつい身構える。
「私そんなオーラ出てるの?」
美影さんはただそう聞いてきた。真剣な悩みなんだということを理解する。
「オーラっていうか・・・近づきがたい感じ?」
「ふーん・・・。どうすれば治るかね?」
「それは何というか・・・。美影さんがほかの人に話して、話に混ぜてほしいっていうのを雰囲気で伝えるほかないんじゃないかな?」
どうしても、美影さんの手伝いになりたく、頭の中でまとまらない考えを必死にまとめ、伝える。
「あー・・・似たようなこと家族に言われたわ・・・。」
「でも、美影さんってもっと女性らしく話すと思ったらそうでもないんだね(笑)」
イメージよりもとても話しやすく、ついついそんな風に言ってしまった。
「まぁ、今まで誰とも話してないからね~。」
からかったつもりで言ったのだが、そうは捉えられていないらしい・・・。意外と鈍いな・・・美影さんって・・・。
「今日なんでここに来たの?」
改めてもう一回聞いてみる。
「あれ?さっき言わなかったっけ?人に話すにはどうすればいいかに関わる本。」
「じゃぁいい本知ってるから、教えてあげるよ。」
一回自分もほかの人と話すにはどうすればいいかを考えたことがあるため、そういう本には詳しいのだ。
「本当!?」
目がとても輝いている・・・。やっぱり綺麗な人だな・・・。そう思うと急に恥ずかしくなり、それを隠すように急いでその本が置いてある場所に向かった。美影さんは早くいきたいらしく、こっちの表情は気にしていなくて助かった。
「これこれ、この本。」
正直、売ってるかどうかはわからなかったが、割と簡単に見つかった。
「んー、どれどれ・・・。」
中身を見ている美影さんを見ていると、なんだか切ない気持ちになってきた。人と関わらず、自分ひとりの世界しか存在しない・・・。それが、いかに寂しく、辛いものか・・・。美影さんはその辛さに気づいていないのかな・・・。
「さっき、告白関係の本読んでたけど、誰かに告白するの?」
急にそんなことを聞かれ、焦る。でも、隠すのは無意味だから、何とか答えた。
「えっ!?うん、まぁ・・・そんな・・・感じ。」
告白する人が目の前にいて、どうして冷静でいられようか?ばれたかなと思ったが、それは、無かった。美影さんが鈍くて助かった。
「誰かを好きになって、告白するのは当たり前なんだから、そんなに照れなくていいと思うよ。」
「う・・・うん。・・・美影さんは好きな人いるの?」
一番気になる質問をした。
「皆無だけど?」
「あー・・・そうなんだ。」
真顔でそう言われ、Broken heartしたのと同時に、安心もした。だってこれで、好きな人がいるって言われちゃったら・・・ねぇ・・・。告白するのはやめたが、ある一つの案が浮かんだ。
「もし、よかったらなんだけど。」
「何?」
「僕たちと一緒に話さない?」
いつも一人でいる美影さんにも少しは、学校を楽しんでもらいたい。しかも、俺とあいつなら、問題ないだろう。
「え?」
驚かれたけど、目が希望で満ち溢れてるのが読み取れた。・・・顔に出やすいんだな。
「いいの?多分、変な噂されると思うけど。」
もうすでに、変な噂はされているため、気にならない。
「美影さんが近くにいるだけで、僕は何にもいらないから。」
自分が今何を言ったか思い出し、急に恥ずかしくなった。会計は話している間に終わっていた。
「じゃ、じゃあね。」
そう言って自分でも信じられないぐらいのスピードで本屋を後にした。
自宅に着いた。とはいっても、一人暮らしだから、迎えてくれる人はいない。まぁ、いつも通りなんだけど・・・。
これから、一週間に一度美影さんと話せる。そう考えるだけで、とても幸せな気持ちになった。・・・告白するのやめよう。そう思い、あいつにメールを送る。
「件名:美影さんと本屋で遭遇!!
本文:来週から、美影さん俺らと話すことになったぜ!覚悟しておけよ!あ、ちなみに、告白はしないから。」
数分後返事が返ってきた。
「件名:ちょっと待て。
本文:なんでそうなった?俺は話せないぞ!お前が責任とれよな!俺は逃げるぞ!耐えられん!!」
まぁ、普通こうなるわな。特にあいつなら。返信をする。
「件名:大丈夫だ。問題ない。
本文:まぁ、俺に任せろって。お前は、話の内容について来れるときだけ話せばいいよ。」
メールを送り、当分帰ってこないだろうと予測を立て、シャワーを浴びる。シャワーからあがると、タイミングよくメールが来た。
「件名:もう知らん
本文:わかったよ・・・。俺も頑張ってなるべく話すようにするわ・・・。じゃぁ、また次のゼミでな。」
いよいよ他人と話す勇気を出してくれたのをうれしく感じた。「おう」と短く返し、晩御飯何を作るか考える。パスタと、レトルトのホワイトソースがあったから、それにした。パスタを食べながら、美影さんの連絡先聞けばよかったと反省した。食器を洗いベッドに入る。美影さんと何を話そうか?それだけで、次のゼミが楽しみになったのと同時に、時が流れるのが、早く感じた。
第五章 三人組への成長
あいつのメールのせいで、俺は朝から気分が悪かった。しかも、朝ちょうどいい時間に目が覚めてしまっている。学校に行くのをやめようかとも思ったが、単位の関係上そういうわけにもいかない。そもそも俺と嘉瀬の間で雲泥の差があるのだが、それよりも差のある美影さんが来るなんて、考えただけでも吐き気がする。
つーか、なんでそうなった!?あれか!?神様なんて信じちゃいないが、いるとするなら、俺にバツを与えるつもりか!?そんなことを、考えるが、時間は待ってくれない。覚悟を決め、学校に行くことにした。
なるようになっちまえ!!!!
学校に着き、教室に入ると、いつもと違うざわめきがあった。・・・頼むから俺の予感は当たらないでくれ。
視線をやると美影さんと嘉瀬が俺のいつもの座る席の近くで話し合っているじゃないか・・・。勘弁してくれよ、オイ・・・。
ほかに行く当てもないため、しょうがなくいつもの席に座る。
「おはよう、親友よ。」
「朝からテンション高いな・・・。」
「そりゃそうだろ。だって美影さんがいるんだぜ!?」
「ちょっと、二人とも何話してるの?」
「何でもないよ美影さん。」
そう嘉瀬が言うと、また二人で話し始めた。あぁー・・・。神様・・・どうか俺に安らかな時間が訪れますように・・・。
「で、そっちの彼、好きな時代はいつ?」
「はい???」
いきなり美影さんに訳の分からん質問をされた。好きな時代だって?ねーよんなもん。強いて言えば、二次元が発展した現代だな。
「そいつに聞いてもどうせ二次元が進歩した現代、しか言わないよ。」
ぐっ!嘉瀬め!!いつか後悔させてやる。
「ふーん。」
あきれられた美影さんの溜息を堪能する羽目になった。・・・ありがとうございます神様。こんなに素晴らしい溜息をいただいて!(キレ気味)
「じゃあさ、あんたは何ができるの?」
「・・・何もできないよ。」
今まで、何かできたためしがない。まぁ、試しもしないがな。正直に美影さんにそう言った。
「あんた、うちの弟とそっくりだねー。」
「え?美影さん弟いるの?」
嘉瀬が聞いていた。
「いるよ。今まではゲームばっかで、部屋にこもっりきり。しかも、ご飯も寝る時間もバラバラ。」
おい、何だよ、それ。なんでキャラがかぶってるんだよ・・・。ん?まてよ・・・。
「ねぇ、美影さん。」
「あ、喋った。」
・・・いちいち癇に障るな。
「今までっていうことは今は?」
「あぁー、私がビシっていったら、イラストレーターを本気で目指し始めてね。あんたも見習ったら(笑)」
「ちなみに弟何年生だよ?」
「高2」
完全にやられた。ボクシングで言うなら、ワンラウンドでノックダウンレベルだな。どいつもこいつも羨ましいぜ。夢だの希望だの・・・。
「その辺にしておいてやれよ美影。そいつのメンタル持たないよ。」
「あ、呼び捨てにしてくれた、嬉しい。」
何だあの二人・・・。すごく仲がいいじゃないか・・・。そりゃそうか、万能人間×2だもんな・・・。なんでその中に俺がいるのかが不思議すぎてしょうがない。アインシュタインでさえ、この謎が解けないに違いない。
「いやぁ、ずっとさん付けするのも変だし、何しろ同年代だからねー。」
嘉瀬が鼻の下を伸ばしている。でも、美影さんはそれに気づいていない。・・・鈍いな。
俺はいてもたってもいられなくなり、教室を出た。
「どこ行くんだよ?」
嘉瀬の言葉を無視し、行く当てもなく、外に出た。うん。静かだ。やっぱり、俺は静かな方が好きだ。このまま家に帰るのももったいない気がして、近くの山に行ってみることにした。
綺麗な木漏れ日。心地よい風。誰もいない。なんで山ってこんなに落ち着くのだろうか。その引き替えに体力を消費するけど・・・。
しゃがんで木に寄りかかる。睡魔に襲われて、そのまま身を任せた。何時間たったか、わからないが、俺を起こそうとする声で目が覚めた。
「誰だよ・・・。」
寝起きで焦点が合わないが、何とか目を凝らし、顔を見た。なんだ美影か・・・。じゃあ夢だな。そもそも美影が俺を追ってくるなんてあり得ないからな。
「いい加減起きなよ。」
「これは夢だよな?夢だと言ってくれ・・・。」
認めたくないのと、絶対に起きてほしくない事実で、頭が混乱したままだ。
「じゃあ、こうすればわかる?」
バチッ!
「痛ってー!!」
平手打ちが飛んできた。しかもなかなか強烈だ。涙目になりながら、これが現実だと理解する。
「なんでお前がいるんだよ、美影。」
一回でも話した相手なら、普通に俺は話せる。
「だって、急に出て行っちゃうから、そりゃ心配するでしょ?普通。」
「いや、どうかな。現にお前しか来ていないし、他のゼミの奴らは、俺をバカにする対象として捉えているからな。てか、嘉瀬は?」
「嘉瀬君なら、あいつはあそこに行ったと思うし、特に追いかける必要もないよ。って言ってた。」
「なんであいつ俺のことわかるんだよ・・・。」
聞こえない声で言ったつもりが、美影にも聞こえていたらしい。
「そりゃ、ずっと一緒にいるからじゃない?」
「・・・そういうことにしとくか。つか今何時?」
あたりを見回してもそこまで暗くないので、疑問に思った。
「四時だけど。」
二時間しか寝ていないのか・・・。もっと寝てた気がする・・・。
「で、なんでお前が来たんだ?」
「だから、心配してって言ってるでしょ?」
「・・・じゃぁ、なんで嘉瀬の言うことを信用せずに、周りの目も気にせず、俺の所に来たんだよ。絶対なんかほかの理由だろ。」
人と接することはしないが他の人間の考えてることは、大体見ていればわかるのだ。だから、他の人と話すことを見かけない美影が俺の所に来るのはどう考えても、不自然なのだ。
「鋭いね。」
「まぁな。」
そういうと、隣に、美影が座った。普通の男子なら、昇天するほど喜ぶだろうが、女子に縁がなく、告白をしたことも、されたこともない俺からしてみれば、どうでもよかった。
「なんで、そんなに一人で居たいの?」
不思議な質問だな。そう思いつつ、答えた。
「いちいちレポート書いているときに考えを邪魔されるのが嫌いだからな。後、今まで馬鹿にされることしかなったから、人間に絶望してんだよ。まぁ、嘉瀬は別だけどな。後、お前も。」
「あっそ・・・。寂しくないの?」
「何だよ。もしかして、今まで自分が寂しかったのに気づいてなかったのか?お前は。」
美影にそう聞く。
「・・・そうみたい。本屋で嘉瀬君に会って、話に入れてやるって言われたその日の夜ね、嬉しくて泣いちゃったんだ・・・。」
「俺はお前が羨ましいよ。」
「え?」
「だってよ、人と接しなくて、寂しくて、きっかけをもらったら、泣いた。人間と関われることで泣いた。俺は、なんとも思わない。鬱陶しい感情しかない。有難味もない。時々自分が人間かどうか疑わしくなってくるよ・・・。」
こんなに正直に話せるとはな・・・。自分でも驚いた。
「・・・ねぇ。」
「何だ?」
「あんたって本当に変わってるね。」
「だろ?」
「否定しないんだ。」
「する意味ないだろ。つーか、まともな人間だったら、授業サボらねーよ。」
「これから、二人で作業しない?課題のレポート。」
「俺は問題ないけど。周りがすさまじく騒ぐぜ。後、嘉瀬も。」
「いや、授業外でさ。二人で一つのレポート作ろうよ。なんかいいのが出来そうな気がする。」
「・・・なんじゃそりゃ?まぁいいや。能力の差を見せてくれよ。期待してるぜ。」
「あんたにもバリバリ働いてもらうんだからね。」
おかしくなって、二人で笑う。誰もいないこの山で。
・・・まだまだ人間捨てたもんじゃないな
「じゃあ、そろそろ帰るとするかな。」
「そうだね。周りも暗くなってきたし。」
一緒に山を下りて、分かれ道で「またな。」といい「うん。」と言われる。人間不信の道から一歩遠ざかることが出来た気がする。
バラ色の人生とまではいかないが、いい色になってきたな。そんなことを考えながら、家に着く。・・・真面目に学校に行くとするかな。そう考えながら、卵とピーマンとニンジンを炒めたよくわからん料理を食べた。
「微妙な味だな・・・。」
一人で愚痴をこぼす。
・・・あれ?一人ってこんなに静かだったっけ?時計の音と、電車の走る音、家電製品が動いている音、人の話し声、車の音。
「一人って寂しいもんなんだな。」
美影に言った言葉が、そのまんま自分に返ってきた。
「俺も寂しかったんだな・・・。」
その事実を確認した一日になった。
第六章 課題のテーマ決め
真面目に学校に行くようになってか、この頃は、体の調子がいい。決まった時間に起きられるようになり、ゲームする時間も減った。美影のおかげだな・・・。最近はそう思うようになった。
今日はゼミの日だから、あいつに会えるのか。そんなうれしい気分で登校する。今までの自分だったらあり得ない話だ。
教室に入り、美影と嘉瀬のいるとことに行く。この頃はこの三人で固まることが多くなってきた。
「おはよう我が親友よ。」
最近嘉瀬はこれが口癖になっている。もう慣れた。
「おはよう、美影。」
無視して、美影に挨拶する。
「おはよー。」
「スルーすんなよ!」
「俺のことを親友と呼ぶ限りスルーするぞ。」
「いーや、親友と認められるまで、俺は呼び続けるぞ!」
「毎回傷ついてるの誰よ。」
そう言いながら美影が笑う。
「ところで、課題のテーマどうするか決めた?」
そろそろアイディアを出さないと間に合わないから聞いてみた。
俺は他の人と話せるようになったから、テーマを別の物にする必要があった。
「俺は、もちろん。恋愛関係だな。」
最近、嘉瀬は恋愛心理学にハマっているらしく、すぐこの手の話になる。・・・まぁ、やつのことだから、どうせ美影を落とすにはどうすればいいかを勉強してるんだろうけど・・・。
「美影は?」
「んー。あんたら二人の研究?」
「「マジで!?」」
喜びの声と、絶望の声が入り混じる。
「なんで、俺らの研究されなきゃいけないんだよ。」
「ぜひ俺らの研究をしてくれ!!」
「じゃぁ、研究させてもらおうかなぁー。」
「いいよ!!」
「断る!」
嘉瀬が一方的に承認している。嘉瀬一人なら問題ないが、俺を巻き込まないでくれ・・・。研究なんてされたら、授業中気になって、作業どころじゃなくなっちまう・・・。
「研究って言っても、二人が日々どんな風に関わってるか、会話から読み取るだけだけどねー。」
「・・・それなら、問題ない。」
本気で研究されると思っていたため、この言葉を聞いてとてつもない安堵感が押し寄せてきた。
そのあと、会話もしつつ、自分の課題のテーマを考えていたら、あっという間にその日は終わった。帰り際、美影に引き留められた。
「メアドの交換しない?」
「そうだな。」
二人で何かの課題をやることは決めていたので、お互いの連絡先を知っておいた方がいいだろう。携帯をポケットから取り出す。
「まだ、ガラケーなんだ。」
「親が許してくれなくてよ。」
俺はまだスマホではない。高校の時に親に言ったら、「自分で全部払いなさい」と言われた。バイトしない俺は、そんな金があるはずもなく、どうしようもないのだ。
連絡先を交換し合い、「また連絡するね」と言われ「おう」と答える。その直後、同じゼミの男子に話しかけられた。
「美影様と知り合いなのか?」
この言い分からすると、ファンクラブの一員だろう。
「一応。」
「恋人では・・・。」
「ないよ?てかそれだけ?」
「羨ましいなー。美影様の知り合いなんて・・・。連絡先を教えてくれないか?」
あぁ、なるほど。自分で聞く勇気がないから、他人にすがるクソどもか・・・。
「自分で聞けよ。」
そう言い放つ。
「う・・・。」
何も答えられなくなったのか、しょんぼりした感じでそいつはそのまま教室を出ていった。
自宅に帰ると、早速、美影からメールが来ていた。
「件名:今ヒマ?
本文:ヒマなら私の家に来て。」
ずいぶん短い文章だな。言いたいことしか書いていない。メールに慣れていないのだろうという予測を立て、メールを打つ。
「件名:ヒマだけど・・・。
本文:そもそもおまえんちどこだよ?」
そんな文を書いている途中に、美影からメールが届いた。
「件名:住所
本文:東京都〇〇区△△町□□」
・・・鋭いのか鈍いのかよくわからん奴だな。
準備をして、その住所に向かう。幸い自分の家からあまり遠くなく、分かりやすい場所だったため、迷わずに済んだ。でかい家だな。東京にこんな大きな家があるとは思いもしなかった。美影家って金持ちなんだな。そう思った。チャイムを押して待つ。
少しした後、玄関のドアが開き、美影が出てきて、家の中に入れてくれた。
「いきなり呼び出したりしてごめんね。」
「ん?いや、特に問題ねーよ?どうせヒマだし。」
靴を脱ぎながら、言った。人の家に来るのはいつ振りかなとも思っていた。でも、美影の家に来ても、女子の家に来た感覚とは違う感じがした。
「今、誰もいないの?」
靴が俺と美影の分しかなかったから、気になった。
「お母さんは仕事で、お父さんは買い物。」
「主夫か・・・。」
「そういうこと。」
そんな会話をしつつ、部屋に案内してもらい、「なんか飲み物いる?」と聞かれたので、「お茶があれば頼むわ」と言った。
美影の部屋を見回してみる。特に女子らしいものも無く、かといって、男っぽいものもない。ネックレスが机に何個かおいてあるぐらいだ。
お茶とお菓子を持ってきた美影に「ありがとうと」言い、早速お茶を飲む。
「で、呼んだ理由はあれか。レポートか?」
「そ。私個人のは、あんたら二人の研究だけど、あんたとやる課題はいろいろ考えてみたけど、二人で相談する方がいいと思って呼んだの。」
「美影はどんなことやりたいんだ?」
「ヘビの観察日記。」
「え?何?ヘビ・・・の?観察日記?」
美影が何言っているのか理解は出来たが、こいつ本当に女子なのかということを疑った。爬虫類なんて言ったら、大抵の女子は甲高い声をあげて気味悪がるものだ。それを・・・美影は観察するとか言い始めた・・・。
「うん。実はどの飼育ケースがいいかとか、エサやりの方法とかは調べてあるんだ。後、飼いたいヘビの種類もね。」
淡々としゃべる美影を前に言葉を失った。頼むからもう少し女子力を持ってくれ。
「どう思う?」
急にこっちに振ってきた。
「どうって・・・。別に、俺も爬虫類好きだし、一度は飼ってみたいと思ってたからな、案には賛成。でも、ヘビ売ってる場所なんてあるのか?」
実際、ヘビは好きだ。ヘビに限らず、爬虫類全般が好きだ。だから、美影の案には賛成だが、ペットショップとかでヘビは見かけたことがないから気になった。
「うちのお父さんの昔の知り合いがね、爬虫類扱ってるんだ。だから、コネを使って、手に入れるってわけ。エサやケージなんかもね。」
二人で相談というよりかは、美影の中ですでに決まっており、それを伝えたかったらしい。
「・・・お前ひとりでできるんじゃない?」
俺が参加する意味がなくなってきたような気がするため尋ねてみた。
「確かに私一人でもできるけど、一緒に盛り上がってくれる人がいないと面白くないじゃん?」
「確かにそうだな・・・。なぁこの研究、俺の課題として提出してもいいか?」
まだテーマの決まっていない俺からしてみれば、願ってもないチャンスなのだ。
「問題ないよ?だって私あんたらの研究するんだから。」
「助かるわ。じゃぁ、もう帰るとするかな。」
「ん。」
玄関まで下りて、靴を履き、ドアを開けようとしたら、ちょうどドアが開き、そのドアから日本人にしてはダンディーな顔つきの男性が入ってきた。
「あ、お帰り。お父さん。」
「おう、ただいま。この人がお前の言ってた同じゼミの人か?」
「そうだよ。嘉瀬君じゃない方ね。」
「よろしく。」
そう言うと美影のお父さんは手を差しのべてきたが、初対面の人にどうすればいいか分からない俺はパニック状態になり、ただ、立ち尽くすだけだった。
「あれ?大丈夫?」
美影にそう言われ、何とか現状を理解して、差し出されたままの美影のお父さんの手を握り返す。
「・・・よろしくお願いします。」
何とかそう言えた。
「もしよかったら、今度からうちで食べてもいいからな。一人じゃ寂しいだろ。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えて、そうさせていただきます。でも、今日はあまりお腹がすいていないので、次回お願いしますね。」
「もちろんだとも。とびっきり旨いものを作ってやらぁ(笑)」
「じゃあね。」
「あ、うん。」
美影とお父さんの言葉を最後に美影の家を後にした。・・・羨ましい家族だな。俺はそう思った。
自宅に帰り、どんなヘビを飼うのかとか、噛みついてきたりしないだろうかとかを考えた。
だが、恐怖よりも楽しみの方が大きく、その日はニヤニヤするのを我慢できなかった。
第七章 嫉妬
会話の途中で、あいつをからかいすぎたせいで、あいつは教室から飛び出していってしまった。美影さんに「大丈夫なの?」ときかれ「どうせ近くの山に行ってるだろうから、追う必要もないし、心配しなくていいよ。」と答えた。
授業が終わると美影さんが急いで教室を出ようとしていたから、「何を急いでいいるの?」と聞くと、「あいつの所に行ってみるわ」と言った。「急いで、けがしないようにね。」そう言うと、「大丈夫だよ」と言われた。
表情には出していないが、心の中では疑問しかなかった。なんであいつの所に行くんだよ・・・。俺の方が話してるじゃん・・・。あいつより絶対俺と話している方が面白いはずだ・・・。
そう思っていたら、体が勝手に美影さんを追っていた。俺はまだ授業があるのだが、そんなこと知ったこっちゃない。
いつもあいつが向かう山の頂上で、二人が見えた。ばれないように近くの茂みに隠れ、二人の会話を聞く。
会話をしている美影さんを見ていると、俺と話しているときよりも楽しそうな表情をしていた。
・・・なんで?
それだけが頭の中でグルグル回った。
俺が、美影さんと最初に話したのに・・・。俺の方が頭が良くて、スポーツもできるのに・・・。俺の方がイケメンなのに・・・。なのに・・・なんであいつなんだよ!!!!!????
俺はその場にいることが出来なくなって、逃げ出そうとした。そんな時、「二人でレポート作らない?」っていう感じの言葉が聞こえた。その言葉に引き留められた。はっきり聞こえたわけではないから冗談だと思ったが、話を聞いているうちに冗談ではないことが分かった。
それだけで、暗闇に落ちていくような感じがした。
二人が山から下りた後も、その茂みから、動くことが出来なかった。周りが暗くなっていたのを気づき、家に帰った。
それから俺の日々ははただ美影さんとあいつの関係について、考えることが続いた。
しばらくして、またゼミのある日がやってきた。この日は早く来た。教室に入り、美影さんとあいつがいないことを確認する。
教室にいる中の美影さんのファンクラブの一員であろう男子を呼び止めた。
「ねぇ。」
「む。なんだ?お前も美影様のファンクラブに関わりたいのか?」
美影様・・・か・・・。以前の自分と重なった。
「いや、そうじゃなくて、美影さんと俺といつも一緒にいるあいつの関係について調べてくれない?」
「何を言うんだ貴様!!美影様は触れてはならない領域なのだ!!触れることはおろか、喋るのでさえ、するべきではない行為なのだ!!不可侵領域なのだ!!それを貴様は・・・」
話が延々と続きそうだ。
「写真撮って、あげようか?」
「ッッっ!?」
こいつにとって絶対に断れないだろう取引をする。
「・・・まぁ美影様ではなく、貴様の友達に聞けばいいのだろう?」
「そういうこと。」
「その条件を飲もう。しかし、写真は絶対に撮ってもらうぞ。」
「はいはい。じゃぁ、連絡先交換しとこう。あいつと話して、何か分かったら、すぐにメールすること。」
「うむ。無問題。」
そのやり取りをし終えて、自分の席に戻ると同時ぐらいに美影さんが入ってくる。美影さんに手を振る。
手を振り返してはくれないものの、近づいてきて、バッグを置き、イヤホンを外す。
「おはよー。今日は早いんだね。」
「まぁ、課題のアイディアを出すために早く来たんだ。」
嘘をつく。あいつとは、どんな関係なのか。俺より仲がいいのか。どんなことを二人でやるのか。そんな質問が浮かぶが、顔には出さず、いつも通りの自分を演じる。
「ふ~ん。で、課題はどうするか決まったの?」
「恋愛関係にするつもりだよ。」
「ジャンルが決まるだけでもなんか羨ましいわ(笑)」
なんであいつと話しているときよりも、顔が暗いんだ?
「まぁ、きっと急に出てくるよ。」
そんなことを話しているとあいつが来た。
課題の話になり、互いのテーマを言い合う中で美影さんが「二人の研究」と言ったときはものすごく嬉しかった。だって、美影さんが好きだから。
美影さんを呼びに捨てにしたら、「嬉しい」とも言ってくれた。
・・・絶対に俺の方が好かれているんだ。あいつよりも!!
そうこうしているうちに授業は終わり、教室をでる・・・意図的にだ。写真で買収した奴からの連絡を待つ。十分ぐらいするとメールが来た。
「件名:二人の関係
本文:恋人ではないようだが、かなり親密な関係っぽい。連絡先の交換もし、今日は美影様の家で共通の課題をやるらしい。」
あいつが・・・美影の家に・・・?
あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得なあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない・・・。
その考えを振り払い何とか返信する。
「件名:ご苦労
本文:約束の写真を添付しておく」
会話の途中で、美影さんを盗撮した。その中からベストショットだろうと思われる一枚を選択して、添付し、送信。
・・・あいつと美影の仲が俺よりいいのが気に食わない。どうやって仕返ししようか。そういう考えで頭がいっぱいになる。別に美影さんに問題があるわけじゃない。あいつが俺より美影さんと仲がいいのが理解できない。なんでだよ美影さん・・・。
そのまま家に帰るのが腑に落ちなく、近くのゲーセンに向かった。こんなところに来るのはいつ振りだろうか。懐かしい気持ちが出てきたが、やっぱり、あいつが許せない感情がどこかに消えてくれるはずもなかった。
ゲーセンの中をうろつき、物色する。ある一つのクレーンゲームに目が留まる。
それは、俺も好きだが、それ以上にあいつが好きな漫画のキャラクターのフィギュアがあった。しかも、そのフィギュアはゲーセンでしか獲ることが出来ず、ネットオークションで高値で取引されているものだった。
そのクレーンゲームに行き、自分の持っているお金を確かめる。財布の中には一万円札一枚と千円札四枚が入っていた。すぐ隣にある両替機で千円札を崩す。
四千使う覚悟で挑む。
結果三千五百円と割と格安で手に入れることが出来た。それを背負っていたリュックにしまい、家に帰る。
家に着くと、早速そのフィギュアを飾る。うん。悪くない。ゲーセンに行ったのは高校三年終わり以来だったが、その時とあまり変わらない腕前だった。
高校三年生の時、受験を推薦で受かっていた俺は時間とお金が有り余っており、友達とよくゲーセンに行っていたのだ。最初は全然獲れなくて文句ばっかり言っていたが、やっていくにつれて上達し、俺以上にうまくできる奴は学校にはいなくなった。大学に入り、最初の一年間はやることが多く、ゲーセンに行く機会もなくなった。・・・あいつのそばにいるだけでよかったのもある。それで今に至る。
ゲーセンに行ったのは効果的だったようで、大分落ち着くことが出来た。
・・・もしかしてさっきのが嫉妬っていう感情なのだろうか?
もしそうだとしたら、俺は最低な人間だな。自嘲しつつ晩御飯の準備を始める。冷蔵庫を開けて中身を確認する。卵が四個と、チーズが目に留まった。「今日はチーズオムレツにしよう。」そうつぶやき、卵二つとピザ用のチーズを取り出す。そして愛用のフライパンを取り出し、油を敷き、火にかける。フライパンがあったまったところで溶いておいた卵を流し込む。
卵のにおいが食欲をそそる。中心が固くなり、端がまだ完全に焼き終えていないタイミングを見計らい、チーズを大量に入れる。そして、フライパン返しと箸を使い半分に折る。
半月状になったチーズオムレツの両脇を内側に畳み込む。一分ぐらい放置して完成。
お皿に乗せ、ケチャップをかける。ナイフとフォークで切って食べる。うん。さすが俺だ。美味い。あっという間に平らげ、食器を洗う。食器を洗いながら、自分がパニックになっていたことを理解する。洗い物をしている途中で「美影とあいつはただの友達」「俺も美影と友達」「何も心配することないよ、俺」と、独り言を言っていたが、それに気づいたのはベッドに入ってからのことだった。これから俺は大丈夫なのだろうか・・・。
自分で自分の心配をしたところで、疲れが一気に押し寄せてきた。その疲れに抗えず、目を閉じると、勝手に眠っていた。
寝るギリギリのところで、チーズオムレツ美影さんに食べさせたいな~・・・。と口走っていた。
第八章 心配性?
あいつが教室を飛び出していった後、私はどうしようもなく気がかりになっていた。嘉瀬君に聞いたら、「行く必要はない。心配しなくても大丈夫だよ。」と言われたが、自分で確かめるまで、信用できなかった。なぜこんなに心配しているのかは理解できないが、もしかしたら初めてできた友達だからかもしれない。でも、嘉瀬君よりもあいつの方が話しやすそうと思う自分もいたのは事実だ。
授業が終わり、嘉瀬君に聞いた場所に向かう。ある山の頂上に着くと、寝ているあいつがいた。走ってきたため息切れがひどい。加えて、あいつに話すという緊張で、その場に立ち尽くしていた。五分後、ようやく落ち着いてきて、流れに任せて、話す。
落ち着いてきたというものの、緊張は途切れることはなく、自分がどんなことをしたり、話したかはあまり覚えていない。でも、あいつは思っていたよりもずっと面白く、他の人には無い何かを持っているような感じがした。
その日は何もかもが上の空でお母さんの話さえ耳に入ってこなかった。ふわふわとした足取りで、親からは「・・・なんか変だぞ?何かあったか?」と聞かれたが、「別にー」と適当に流した。
あいつは最近、このゼミしか知らないけど、真面目に学校に来るようになり、私もあいつと話す時、そこまで緊張しなくなった。
そろそろ課題のテーマを決めないと仕上げるのが難しい期間になってきた。
会話をしているうちに、私はこの二人の研究をすることにした。・・・まぁ、メインはあいつだけど。
嘉瀬君はものすごい喜び、あいつは絶対に嫌だ的な反応をした。「会話だけ」と言うと納得してくれたが、もちろん私がそんなことを守るはずがない。
授業が終わり、あいつを引き留める。一応二人の課題は決めてあるのだ。それを伝えるために私の家に来てもらう必要があり、連絡先の交換をしたかったからだ。
自宅に帰り、メールする。自分の住所を書き忘れたのを思い出し、二通目を送る。
今日は両親ともいない。お父さんには二人の課題の要である「ヘビ」を買いに行ってもらっており、弟は高校を中退して、イラストレーターの養成学校みたいな専門学校に通っている。母はいつも通り仕事。そんなわけで、珍しく家族がバラバラなのだ。
しばらくするとチャイムが鳴った。玄関を開け、あいつを入れる。・・・そういえば、家に誰かを招いたのは初めてだったかな。そんなことが頭をよぎった。
私の部屋に行き、「なんか飲む?」と聞く。「お茶があれば何でも。」と答えた。お茶を準備し、お菓子と一緒に持って行った。
お茶を渡すと味が気にったのか、一気に飲み干した。
あいつが課題のことに関し聞いてきたので、説明する。
正直あいつも言った通り、一人でもできるのだが、一緒に共感してくれる人がいないのを嫌う私にとって、一人でヘビの世話をするのはあまりしたくなかった。
あいつは気に入ってくれたようで、賛成してくれた。
玄関で、お父さんと遭遇してあいつがパニックになったのを見てると、あまりにもおかしくて、吹き出しそうになった。
それをこらえ、あいつを現実に引き戻す。後半は、丁寧な敬語で挨拶をし、帰って行った。
あいつが帰った後はお父さんが無駄にうるさくなった。
「もしかして・・・、お前・・・、恋してんのか?あいつに」
「なんでそうなるの?好きだという感情もないし、あいつはただの友達。ただ最初の友達で、他の人には持ってないものを持ってるような気がしたの・・・。」
「いいやつに出会ったんだな。」
「まぁ、ニート予備軍だけどね。あっ、でも最近はそうでもなくなってきたんだよね。」
「そうか。・・・なんであいつなの?もっといいやついるだろ。それともあれか、他の男子は告白しかしてこないのか?未だに。あっ!なぁ、知ってるか?お前のファンクラブあるんだってよ!?知ってたか!?」
「だから何?もう勝手に何でもやってよ。いちいち関わりたくない。」
「やっぱり、お前はすごい人間だな。」
こんな会話がずっと続き、晩御飯の時間も遅くなった。おかげで、私はその日は不機嫌になり、部屋にこもる結果になった。
ずっとこもってるわけにもいかず、弟の部屋に行ってみた。
ノックをすると「どうぞ~」っていう声が聞こえ中に入る。
「飲み物持ってきてくれたの?お母さん?」
作業に集中しておりこっちを見ていない。
「・・・やれば出来るじゃん。少年。」
正直に思ったことを口にする。
「あっ!?お姉ちゃん!?どうしたの?急に・・・。恥ずかしいよ・・・。」
お、弟が・・・照れてる・・・だと?
あまりの豹変ぶりに少し怖くなる。
「そんなキャラだったっけ?」
「んー・・・。自分に嘘をつかないで生きようって思って生活してたらこうなっちゃった。そんなに変かな?」
「そんなことないよ。安心した。」
安心したといったことで今まで心配していたんだなと認識する。
「羨ましいなー・・・お前・・・。」
「え?なんでよ?お姉ちゃんの方が頭もいいし、運動出来るじゃん。」
「・・・でもね、完璧すぎるのも辛いもんだよ。」
そう言って自分の部屋に戻る。弟が羨ましいなぁ・・・。私には夢や希望がない。何かを目指そうにも卓球はもうやっていない。何かを始めようにもきっかけが無い。
「・・・私はこの先どうなるんだろう?」
そんな心配しか浮かばない。私って意外と心配性なんだな・・・。他人に対しても、自分に対しても。
その日の夜は中々寝付けなかった。寝ようにも寝れない。時計を見ると一時を指していた。私は外に出ることにして、玄関に向かう。鍵を開け、外に出て、家のドアを閉める。特に行く当ても無く、走ることにした。
久しぶりに走ったのは心地よく、二十分ぐらい走った。いつも電車で来ているスーパーの辺りに着いていた。引き替えし、走って戻る。家に帰り、自室に戻り、ベッドに入る。
走ったのは効果的だったようで、すぐに寝ることが出来た。
第九章 転校生
今度の学校はどんな所だろうか・・・。車の中でそう考える。私は有名な会社の社長の子供であり、教育も他の人とは違うものを受けてきた。
マナーを重点的に置いた、いわゆるエリート教育。そのせいでどの学校とも相性が合わず、その度に親が違う学校にすると言い、編入を繰り返しているのだ。高校までは専属の家庭教師がおり、一日のノルマを終わらせないと、自分の時間が与えられず、ずっとその問題集をやらされ続けた。センター試験を受験したこともあったが順位は五位で、一位って獲れないもんなんだなって思った。
心の中では、言葉遣いは普通だが、話すとなると、親が厳しかったため、お嬢様なしゃべり方になる。・・・気に入ってるから別にいいんだけどさ。
車からボーっと外を眺める。東京にしては緑が多いなー。そんな風に思った。大学になってから、住所が安定しなく、場所を詳しく覚える気はとうに失せていた。
新しい家に着き、中に入る。綺麗な家・・・。私はとっても気に入った。今までこんなにきれいな家はなかったからだ。荷物は業者に頼んでいたため、段ボールが山積みになっている。段ボールを開け、中身をいつも置いている辺りの場所に置く。すべて出し終え、二階にある自分の部屋に向かう。
部屋に入ると一人には十分すぎるスペースと目の前に大きな窓があった。カーテンが着いており、そのカーテンを開ける。目の前に、山と空と隣の街並みが見える。文句なし!心の中でガッツポーズをする。ここまで私の要望が通ったのが珍しかった。その分とても嬉しかった。今度の大学こそ自分の居場所がありますように・・・。そう心から願った。
ある程度落ち着いたところで、その編入先の学校に向かう。学校長と話し、どのゼミに入れてもらうか話し合った。結果、今からでも単位が取れそうなゼミである万見ゼミになった。だが、そこの人達は二人を除き、頭が悪いらしく、最初のうちはつらそうだなと思った。
他の授業は出なくてもかまいませんと言われた。どうやらここの大学は学力が高いとゼミ以外の授業を受ける必要が無いらしい。
新しい我が家に帰り、ゼミのある日まで地域の散策をし、ある程度何がどこにあるのかを把握した。近いところに山を見つけた。気に入りそうな場所・・・。何かをするときはあそこに行こう。そう思った。自宅に帰り、ご飯を食べ、お風呂に入りながら歯を磨く。お風呂から上がり、パジャマに着替え自分の部屋に行き、ベッドに入り目をつむる。どうか私の居場所でありますように。再び強くそう願った。
さて、今日から学校か・・・。ため息が出る。もしまた合わなかったら、あの素敵な家と部屋から移動しなければならないからだ。
授業が始まるよりも割と早く学校に行き、万見先生の研究室に向かう。途中私を見たこの学校の生徒であろう人たちはポカンとした顔になった。
それもそのはず、今まで私以上の美人な人物を見たことが無い筈だからだ。それは自他ともに認めていることである。とても長い黒髪。しかも手入れは完璧なため、見た目、さわり心地ともに最高。身長、大きすぎずかといって小さすぎもしない。胸の大きさ、大き過ぎず、小さ過ぎない。顔、小顔。顔のパーツ、左右対称。目、若干釣り目だがそれが逆にお嬢様を醸し出している。口、顔に合った大きさ。耳、長い髪からギリギリ見える大きさ。眉、目元を強調してくれるが、太くはない。服装、ザ、お嬢様。
詰まる所、私は完璧なのだ。ただ、柔道を除く運動は出来ない。柔道が出来るからといって、体に筋肉があるわけでもない。
万見先生の研究室に行き、ノックをする。
「どうぞ・・・。」
控えめな声でそう言われ、中に入る。万見先生は何かを書いている途中で、こっちを見ていない。
「適当にかけて。」
そう言われ、近くの席に座る。机を挟んで私と先生が向かい合う形になる。先生は何か書いている途中だけど。
やっと書き終えたのか顔を上げる。私を見た瞬間一瞬だが固まる。あまり反応しなかったな・・・。そう思った。
「え・・・と・・・天女さん・・・ですよね?」
「そうですわ。」
「ようこそ我がゼミへ。どうせ今単位が取れるのはここしかないって言われたんでしょ?」
「あら、よくご存じでして。何故そう思われたのか理由を聞いてもよろしくて?」
「まぁ、今までの経験だな。ところで、一つ提案がある。」
「何ですの?」
「このゼミは美影と嘉瀬以外を除くやつらはみんな動物に近い。むしろ授業中が動物園になっている。だから、君には合わないと思うから、特別にこの研究室で課題をしてもいいが、どうする?」
「お気持ちは分かりましたわ。でも、この私、作業が出来る場所はどこでもよくてよ?」
「ふーん。そうか、余計な心配して悪かったな。」
「お気になさらず。」
「じゃぁ、そろそろ授業開始時間だから行くとするか。・・・まぁ自己紹介してもらうけど、問題ないよな?」
「勿論ですわ。」
先生について行き、教室に入る。教室の全員の視線が集まる。教室が物音ひとつしない空間になった。
「あー、新しくこの大学に編入してきた天女さんだ。仲良くするように。じゃぁ、天女さん。」
「天女と申します。あまり固くならずに、話しかけていただいて構いませんわ。」
「ちなみに、天女さんはセンターで五位にもなったことがあるから、油断しないように。以上。じゃぁ、自分の課題を進めろ~い。」
先生はそう言ったが、誰も動かない。いや、動けないのだろう。みんな私を見たまんま硬直している。まるで、神様がこの世に下りてきて、視線を外せないのと似ているかのように。
ふと後ろを見ると動いている人間が三人ほどいた。一人はイケメンだと名高く、女子の間で人気のある嘉瀬だろうと思われる人物。もう一人は非公式のファンクラブがあるほどの人気を持つ美影。彼女を見た瞬間、私と同じぐらいにキレイな人だなと思った。その天才&イケメンな嘉瀬と完璧な美影のなかに、パッとしない人物がいた。そいつが私に魅入らないのは疑問に感じたが、美影がいるからだろうという予測を立てた。
私はその三人組の所に向かう。周りも私を追うように目が動く。その三人組は私が来たのを驚いたが、嘉瀬が「よろしくね、天女さん。一緒に活動する?」と聞いてきたので「そうさせて頂きますわ。」と答え、三人組の輪に加わった。
周りもだんだんと現実に戻り、会話を再び始めた。
「このゼミ何をやるか分かる?天女さん。」
嘉瀬が聞いてきた。こいつおしゃべりだな。
「ええ、心得ていますわ。」
「よろしくね、天女さん。もう知っていると思うけど、私が美影でこいつが嘉瀬。で、これは・・・これだよ。」
うん。美影は察しが良くて助かる。これと言われた人間は視線が泳いでいる。私の美貌に正気の沙汰で居られないのか、それともただ単に、人間が苦手なのか・・・。
「あんたも自分でなんか言ったらどう?」
美影にそう言われると正気に戻ったらしく、「呼び方は何でもいいんで、よろしく・・・。」
と縮こまった感じで挨拶をした。
「わかりましたわ。では、彼と呼ぶことにいたしますわね。」
「うん。」
彼はそう言ったきり、作業に戻ってしまった。・・・どこまで人間が苦手なんだ・・・彼は・・・。
それとは対照的に嘉瀬は色んな質問をしてくる。
「天女さんは普段家で何してるの?」
「基本的には読書ですわ。でもたまに家族でお出かけもしますわ。」
「食べ物の中で何が一番好き?」
「ヨーロッパに行った時のチョコレートの味が忘れられませんわ。」
「兄弟姉妹いるの?」
「いませんわ。」
「お気に入りの映画は?」
「映画自体あまり見る機会が少ないのよ。」
流石にイライラしてきてるゾ☆
「もうやめなよ嘉瀬。結構しつこいよ。」
・・・美影は神様か?
「えっ・・・マジか・・・。」
「お気になさらないで。」
まったくだ。何故嘉瀬はこんなにもウザいのだ?謎。理解できん。一回○ね。(丸の中身はご想像にお任せします。)
そんなことより、中々口を開かない彼が気になり、質問をする。
「彼?実家暮らしなの?一人暮らしなの?教えてくださる?」
「一人暮らしだよ。嘉瀬も。」
なんだ、まともに話せるじゃん。
「一人暮らしは大変でして?」
「料理ができないからな~、俺の場合。だからたまにおいしい料理が食べたくなる。」
「そうですの。」
ふーん。料理苦手でも、一人暮らしって出来るんだな。そこに関心がいっていた。一人暮らしか~・・・。考えてもみなかったな。
「嘉瀬は料理うまいよ。一回俺も食わせてもらった。一回は食っても損はないな。」
嘉瀬はどうでもいいんだよ。
「ほんと?じゃぁ、一回食べに行かせてもらおうかな。」
・・・美影が分からない。
「是非おいでよ!!美影!!」
・・・嘉瀬は美影のことが好きなんだな。それ気付いていない美影。鈍すぎる。本当に美影がつかめない。
よし、課題は美影の観察にしよう。なんせ、一番つかめないキャラだからだ。謎があまりにも多すぎる。
その後も会話をしながら、各々の課題を進める。そうして、その授業は終わった。・・・なんか、楽しいのかどうなのか自分でもわからない感じで終わった。でも、今までの大学の中では一番自分に向いていそうだ。
パソコンをしまっていると、美影が話しかけてきた。
「連絡先交換しない?」
「ええ。喜んで。」
そう言い、自分のスマホを取り出す。お互いの連絡先を交換した。にしても、妙に美影のテンションが高いのが気になる。まぁ、深い意味はないだろうから、無視しておこう。
「じゃぁ、ちょくちょく連絡するかもだから。」
変な言葉の使い方。若者言葉を使わない私にとって、新鮮な言葉の使い方が多い。
「わかりましたわ。またこのゼミでお会いしましょう。」
「うん。じゃあね。」
「ごきげんよう。」
そう別れの挨拶をかわし、教室を出ようとすると今度は、よくわからんチャラオに声をかけられる。
「あんたなんでそんなしゃべり方なの?うぜぇんだけど。」
こういうタイプか・・・。気に障るな。私の逆鱗に触れたことに後悔するがいい・・・。
耳元に口を近づける。
「おめぇみたいなやつはチャラチャラした人生になって、いずれ自滅の道に足を踏み入れるんだよ。それが分からないお前が何故、私に話しかける?一回死ね。ちなみに、これを他の人に伝えたら・・・殺すから。本気だからね。じゃあ、二度と近づかないで。」
そう言い終わり、最後に不敵な笑みを浮かばせそのまま教室を出る。
たまに罵倒するのはいいものだな。スッキリする。
学校を出て、まだ行ってない山に向かう。道を歩いていると、やっぱり視線を集める。優越感と鬱陶しさを感じつつ山の頂上に着く。うん。気持ちのいい場所だ。視界は開けており、街を一望できる。私の家も結構近くに見えた。
一人でベンチに腰掛け、本を読む。あぁ、素晴らしい時間だ。顔のにやけが止まらない。それを隠すように口を手で覆いながら本を読む。周りから見ると難しい本を読んでいて、悩んでいるかのように見えるだろう。
しばらくすると足音が聞こえた。ふと顔を上げると、彼がいた。
「あら。こんなところで会うなんて。奇遇ですわね。」
「・・・この場所どんどん広がっていくな。」
聞こえないつもりで言ったつもりだろうが、丸聞こえだ。
「聞こえてますわよ?」
彼に言うと、愚痴をこぼし始めた。
「だってよ、俺が大学に来て一年の頃に誰もいない場所を迷いながらも探して探して探しまくってようやく見つけたんだぞ?この場所。それを美影といい、天女といい・・・なんか悲しくなってくるぜ・・・。」
要は極端な方向音痴なんだな、こいつ。
「隣座ってもいいか?」
!?こ・・・こいつ。今なんて?私の隣に座っていいか・・・だと?
断ることもできず、条件付きなら許すことにした。
「私との間にスペースを開けるのならばいいですわよ。」
「別にいいよ。」
どうやら、私の隣に座りたいよりも、ただ単純に座りたいみたいだな。
彼は私が言った通りある程度のスペースを開けて、隣に座った。
「なぁ、天女もここに頻繁に来ようと思ってんのか?」
「そのつもりですわ。」
「まぁ、いいか。一人で居るよりも二人の方が楽しいし?」
何故最後疑問形にした?誰に聞いてる。変な奴だなこいつ。
「それは分かりませんわ。彼と私の相性の問題も入れてくださる?」
「あぁ、軽率な発言失礼。」
丁寧なのか、馬鹿なのか、変なのかよくわからん奴だな。
そのあと、特に会話もなく、私は小説を読み、彼はボーっとしている。本当に私のことなどどうでもいいみたいだ。まぁ、私も似たようなものか。でも、男子が密接するぐらい隣に来るのは死んでも嫌だ。女子も無理。
夕暮れ近くになり、ふと本から顔を上げる。どうやら彼は先に帰ったようで姿が見当たらない。相当読み込んでいたことに気づく。
本に栞を挟み、バッグにしまい、山を下りる。帰ってる途中で、背後に気配を感じる。ストーカーかな。こういうのは慣れている。最初のうちはどうしようもなく怖く、親に泣きつき、防護術程度の柔道を習った。それが意外と面白く、二段までは上り詰めた。なので、腕には自信がある。
・・・一泡ふかしてやろう。この辺りの地図は完璧に頭に入っているため、複雑な路地にあえて入り、何人に尾行されているかを確認する。三回ぐらい確認したところで、一人なのを理解する。次の角で決着をつけるとしよう。
少し足早にし、角を曲がる。そこで待機。
ストーカーは慌て、大きな足音とともに、近づいてくる。タイミングを見計らい、足をひっかけ、目標を倒す。そしてすぐさま腕を押さえつけ、自由を奪う。
「私を尾行するなんて随分な度胸じゃん。このまま警察に来てもらうから。もし少しでも変な動きしたら、今以上に絞めるから。その前に顔見して。」
ストーカーを成敗するときは口調が変わる。あと、顔を見るのは趣味だ。どんな阿保面が私を追っていたのかが気になるのだ。
顔を見て驚く。
「は?嘉瀬?」
「わ、悪かった!!許してくれ!!まず手を放してくれ!!」
同じゼミということもあり、放してやる。
「なんで、私を尾行したの?気持ち悪いんだけど。」
正直にそう言う。どんなイケメンであろうとも、ストーカーをしたやつは私から言わせてみれば、みんな同類だ。ただの犯罪者だ。
ある一つの考えたくもない予測が頭の中に浮かんだ。
「お前・・・美影にも同じことしたよな?多分美影の時は、見てただけか、誰かとの会話を聞いていた。で、たまたま上手くいき、今度は私を標的にした。でも、追うのが下手で、足音を立てて、私にばれた。ストーカーにしては下手だと思ったよ。」
何も答えられないところを見ると本当にその通りらしい。
「なんか言ったらどうなの?このまま黙ってると本当に警察呼ぶよ?」
スマホを取り出し、電話をかける用意をする。それを見た嘉瀬が、追ってきた理由をわめき始めた。
「だ、だって、美影も天女さんも俺が最初に話しかけたのに、あいつの方に行くんだもん。そんなの絶対におかしいよ。なんであいつの方に行くのかわからないんだよ・・・。」
そう言うと泣き崩れた。・・・ほんっっっっっっっっとうに呆れるわ。
「わかって無いようだから、はっきり言ってやるよ。下心が見え見えなんだよ。しかも、こっちの気を引こうとし過ぎて、ウザったくなってんの。いい?あのね、本当に気を引きたいのなら、一気にいろんな質問しちゃだめなんだよ。相手の立場になって物事を考え、発言する。分かった?」
「・・・はい。」
これはこれとして一つ大きな問題が残っている。
「でさぁ、あんたはストーカーっていう犯罪を犯したんだから、その罪は償えよな。お前が自首するならこの場で警察には引き渡さない。自首しても、即逮捕には至らないはずだよ。証人居ないし。自首しないなら、今、この場で警察に電話して、逮捕してもらう。言っておくけど、私、被害者役はうまいからね。」
今まで何回か、被害を受ける前に全部対処したが、被害を受けており、何回も被害者になる内に、演じることもできるようになったのだ。
「う・・・。自首・・・します・・・。」
「そうしろ。もし、自首しなかったら・・・お前の人生ぶち壊してやるから覚悟しておけ。」
最後に釘をさし、あいつは警察に向かった。・・・多分。
ちなみに、自首すれば逮捕されない可能性があるのは嘘だ。警察にとって最も有効な手掛かりは、証人よりも、実際の行動を起こした犯人なのだ。つまり、この手の知識がある人間なら、私が言った言葉は、「自分で逮捕されるか、私が逮捕の手伝いをするか。」に聞こえるのだ。
我ながら上手い言い回しだな。そう思いながら、上機嫌で家に帰った。
家に入ると珍しくテレビがついており、見る。番組はこの地域の特集番組だ。速報らしく、ニュースキャスターが慌てながらも落ち着いて、現状を伝える。
「今日、午後五時二十分頃、ストーカー行為を自首してきた男子大学生を警察が逮捕。詳しい動機や事件の信憑性、前科などは調査中だということです。」
ニュースキャスターがそこまで言ったときにテレビが消される。
「お前が捕まえたのか?」
珍しく口を開くお父さん。そういえばこの手のニュースになるとお父さんはいつも聞いてきたな。
「そうですわ。お父様。」
当たり前かのように話す。何故なら、こんなことは引っ越した先でしょっちゅうだったからだ。
「また人間のゴミを排除したな。よくやった。」
「そんなに褒めることも無くてよ?」
お父さんに褒められると照れる。誰に褒め言葉言われても照れないのに、お父さんに言われるとどうしても照れる。・・・まぁ、ファザコンだからな。私は。
照れ隠しをするかのように、二階に上がり自分の部屋に入る。
「よくやった。」だって~。自分でも信じられないほどデレデレしまくる。今日は機嫌がMAXに良くなった。そのせいで、自分の部屋にいるときは訳の分からんテンションになっていた。
第十章 衝撃
天女さんの顔を思い出すだけで、胸が熱くなる。これが恋かっ!
その日のゼミはただ天女さんがいるだけで、私にとって楽しくなった。嘉瀬君のしつこさにも呆れ、注意した。
その日は天女さんと連絡先交換できたのがあまりにも嬉しく、家に帰った私を見たお父さんに言っていた。
「私、好きな人が出来た♪」
「あ!!え?お?おう。」
お父さんは言葉にならない言葉を発していた。
「で、好きになった人はどんな人なんだ?」
私は正直に答える。
「天女さんって言って、私より綺麗で、お嬢様で、話し方も素敵な人。」
天女さんの口調を思い出すだけで顔が真っ赤になる。天女さんにも若干気づかれているかもしれない。それよりも喜びが勝り、自分が自分じゃないぐらいにテンションが上がっていた。
「でね、笑顔がステキで、男子も女子も釘づけになる顔立ちとスタイルで歩き方も素晴らしいの。きっと彼女こそ私の運命の人に違いないっっっっ!!」
「・・・。」
お父さんはもう何が何だがわからない顔になっていた。そんな顔を見つつ、「お風呂お願いしま~す。」と上機嫌で言い、自分の部屋に戻る。
寝巻の準備をして、お風呂に向かう。途中少年とすれ違い、「元気か?少年。」と問いつつ肩を叩く。少年は絶句して、硬直した。そんな少年を置き去りにし、お風呂に向かう。
お風呂に入り、WALKMANに入っている好きなアーティストの歌を大声で歌う。今日は機嫌が良すぎるぞ!!この興奮をどうやって抑えようか?大声で歌い続けるうちにやっとテンションが少し減少した。
お風呂から上がり、食卓に向かう。
テーブルに三つのお皿が置いてあり、一つにホワイトソースがかかっているハンバーグと、野菜の盛り合わせが乗っており、もう一つのお皿にはティラミスがある。三つめのお皿にはパンが乗っていた。
「おっ、今日はハンバーグだ~。やったぜ☆(with横ピース)」
「今日・・・おかしいぞ・・・お前・・・。」
「気にしないでー。」
お母さんが帰ってきた。
「あら~今日はテンション高いわね~。好きな人でもできたの?」
「さすがお母様ですわ。」
「それになんかおかしいわね~。ご飯にしましょう。」
家族四人でわいわいがやがやと話す。私のテンションが落ちることはなく、その日は寝るまで落着けなかった。テンションが高かったせいか、すぐに寝ることが出来た。
次の日、昨日騒ぎ過ぎたせいで疲れが残っている。特にやることは無く、今日一日は寝ることにした。
また目が覚めると時計は十二時辺りを指していた。どうしようかと考え、新しいネックレスを買いに行くことにした。着替え、「新しいネックレス買いに行くね。」と親に言い外に出る。近くの複合型施設に行き、売り場に向かう。
どんなネックレスがいいかを迷う。そんな時、店員に話しかけられる¥
「何をお探しですか?」
「あぁー、なんか自分に合うネックレス無いかなぁと思いまして。」
「それなら、長めであまり派手じゃなく、モチーフが一つの物が似合うと思いますよ。」
「ありがとうございます。」
その店員のアドバイスを参考にいくつか手に取って付けてみる。あまりいいのが無く、次々と候補が無くなっていく。最後の一つになり、付けてみる。
鏡を覗く。自分では無い自分がいた。あまりにもそのネックレスが私に似合っているのだ。蝶々をモチーフにした長めのネックレス。気に入った。レジに並び会計を待つ。その後ろで、カップルが入ってきた。会話が嫌でも耳に入ってきた。
「ねぇねぇ、どれが似合うと思う~?」
「お前ならどれでも似合うよ♡」
「え~、そんなことないよ~。」
・・・目障りすぎる。会計が終わり、すぐその店を出る。他に何か面白そうなものが無いか探す。地元のことを取り上げた新聞に目が行く。新聞を見て目を丸くする。
男子大学生ストーカーで逮捕。
その新聞を買い、椅子に座り、記事を読む。そこには嘉瀬の顔写真もあった。
私はその無邪気に笑う嘉瀬の写真から目が離せなかった。なぜなら、頭もよくて、運動もできて、女子にもモテる嘉瀬がストーカー?それが信じられなかったのだ。どうにかその写真から視線を外し、記事を読む。
「昨日、午後五時二十分頃、〇〇大学二年生の嘉瀬罪丘が、ストーカー行為を自首。警察によると、初犯であるという。動機を聞いても言おうとはせず、黙秘権を行使している様子だ。だが、初犯で黙秘権を使うのはあまりよくないと、☆☆大学の麗美教授は言う。「そもそも黙秘権と言うのは、事件の真相があまり掴めておらず、その時に犯人が逮捕され、その犯人が黙っている限り、証拠が出てくることは無く、裁判でも有利に進めることが出来るものなのである。今回のケースでは、その犯人である男子大学生が引け目を感じ、追っていた人の名前が出ないようにしているものと思われる。だが、これから行われる裁判では、懲役が長くなるのは間違いないだろう。」この男子大学生は、周りの友人からの印象だと、頭脳明晰でスポーツ万能。加えて、女子に人気があったという。今回の事件では人間は見かけによらないという教訓が具現化されたもののようである。
この事件を起こした大学の教授は「全ては私の責任です。私が生徒一人一人に目を配っていなかったばかりに起きてしまったことです。このような事件を起こしてしまった私にはここにいる資格がありません。」と言い、辞職。このゼミの後任も未だ決まっておらず、生徒の中に混乱が起きる。」
ここまで読んだところで机に突っ伏した。嘉瀬・・・。あいつは確かに私と天女さんに話しかけていたけど、ストーカーをするまで女子に飢えていたのか・・・?でもなんかおかしい。だって、女子に人気がある嘉瀬がなんでストーカーをしていたのだろうか?もしかして、自分に合いそうな人がいなかったのか?でも、私と言い天女さんと言い美人な人が二人もいるじゃないか・・・。
ここまで考えたところで、ある一つの考えが浮かぶ。・・・私と天女さんは嘉瀬に興味なかったから、もしかしたら、天女さんをストーカーしていたのかな?じゃあ、なんで捕まったの?仮に犯罪者と言っても、嘉瀬なら注意深くやると思うのに・・・。もしかしたら、天女さんが嘉瀬を捕まえた?でも、新聞だと自首って言ってるし・・・。
訳が分からくなり、頭を抱える。これ以上考えても何も浮かばないと思い、家に帰る。家に帰った瞬間にお父さんに話しかけられる。
「おい!聞いたか!お前の同じゼミの嘉瀬君が捕まったそうじゃないか!しかもストーカーで!ストーカーされてたのか?」
「私じゃないよ。でもなんでかなぁ・・・。なんで嘉瀬がストーカーなんて・・・。」
私の中ではもう友達としての嘉瀬君ではなく、犯罪者として扱っているため、呼び捨てになっていた。
「まぁ、お前じゃないのは良かった。ストーカーする理由ねぇ。まぁ、俺が言えるのは完璧だからこそ、ストーカーしたんじゃないかなぁ・・・。だってよ、今まで女子から絶対の人気を集めていたのに、無視する人物が現れた。しかも、自分より他の男子と話している時間が多く、自分とあまり話してくれない。それがつもりに積もってやっちまったんじゃねーのかなぁ。」
「完璧すぎるが故に・・・か・・・。」
お父さんの言うことを聞いていたら納得することが出来、ある程度気持ちの整理もついた。
「まぁ、こんな陰気くさい話ししないで、なんか食べるか?おやつの時間だ。(スマイル)」
お父さんもこの手の話から早く抜け出したいのだろう。もちろん私も。お父さんの案に乗ることにした。
「おやつなにー?」
「なんとなくアイスクリーム。」
「いいね。」
お父さんが自家製だろうと思われるアイスクリームを取り出し、お皿に乗せる。それをわたしの所まで持ってきてくれた。アイスを食べながら、少年の最近についって聞く。
「ねぇ、お父さん。最近少年どうよ?」
「あぁ、今じゃ一年の中で一番うまくなりすぎて、来年は飛び級かもって噂もあるぞ。」
「あの少年がねぇ・・・。」
「しかもだ、他人に話しかけられた時の反応が可愛いってのも評判だ(笑)」
「少年がモテてんの?なんか笑える。なーんか私より大きな存在になってきてるね。」
「確かにそうだなー。でも、お前がいないと、あいつ何もできないけどな。お前が今、まだ近くにいるから、こうやって頑張ってるんだよなー・・・。」
真剣なお父さんの顔を見て、冗談ではないことを読み取る。
「なんで少年はそんなに私を頼りにしているのかね?」
「・・・まぁ、シ・・・ンだか・な。」
「何?」
そう聞くとお父さんの顔が微妙な表情になっていた。意を決したのか、深呼吸して、私に言った。
「あいつはシスコンだからな。」
「#%&#$@□$%‘☆!@&%?>¥!?」
驚きで声がよくわからんことになった。
「え?ちょっと待って・・・あいつがシスコン?何それ?いやいやいや無いって、あり得ないって。」
認めたくなかった。他人に好きなられるのは理解できるけど、家内で好きになられるのは非常に困る。そんなこと言われたらこれからどう接すればいいか分からないじゃないか!
「う・・・ん・・・。デモコノママダマッテイテモイミナイトオモッテ・・・。」
お父さんが片言で言う。
「私これからどうやって少年に接すればいいのよー・・・。」
半ば泣きながら、そうお父さんに尋ねる。
「い、いつも通りで頼むわ。」
「う~・・・。」
いつも通り接すれる自信はなかったが、努力はしてみようと思った。頭の混乱を振り払うかのようにアイスを食べる。アイスはすぐに無くなり、お皿をシンクに持っていく。
「ご馳走様。う~私が頑張らなければ・・・。」
他人に対しても自分に対してもと思い口にしていた。
「つらくなったら、遠慮しないで、俺に言えよな。」
「誰のせいだと思ってるの?」
「・・・ごめんなさい。」
「まぁ、つまらない日常はもう無いみたいだから、これはこれで有りかな。」
「・・・変わったな、お前。」
「そうかな?」
「うん。いい意味でな。」
その短いやり取りの中でも、私の頭は過去の自分と今の自分を比較させていた。考えてみれば、過去の私は毎日をつまらなく、くだらないものだと思っていた。でも、今の自分は毎日が変化に富んでおり、満足とまではいかないものの、楽しい日々を過ごしている。
「そうだね。・・・でも、この日常が壊れるのが怖いなー。」
本心が口に出た。
「それは、無理な話だな。どんな日常も何かしらの原因で崩れる。現に嘉瀬君が捕まったのもそうだ。いつ、どこで、どのように日常は崩れるのかは誰にも分からん。でもな、その日常を愛することに目が行き過ぎるのもよくない。もしそうなってしまうと、その日々だけを振り返る人間になっちまう。そうなると、ずっとあの頃が良かったって言う羽目になる。そうじゃなくて、周りの変化を受け入れろ。常に変化し続ける現状に目を向け、受け入れていけば自然と楽しい“日常”になるはずだぜ。・・・あー、こんな堅苦しいことを言うのは柄じゃないな。」
お父さんはそう言い、頭を掻く。
「うん。分かった。」
「ん。そうか。」
シンクにお皿を置き終えた後、再び食卓に戻る。
椅子に座り、お父さんと向かい合う。
「ねぇ、今日事件が二つもあったなー・・・。」
「お前にとってはな。」
「もう少し落ち着きたい。」
「今日はもう寝ろ。顔に疲れてるって書いてある。」
「そうするわ。」
そう言って自室に戻る。
「今日は色々あったなー・・・。」
そうつぶやく。頭の整理がまだついていない。嘉瀬がストーカーで捕まって、少年がシスコン・・・。頭がどうにかなりそうだ。今日買ったネックレスを取り出す。ネックレスの蝶々を見ていたら幾分か落ち着いてきたと同時に猛烈な睡魔が襲ってきた。夢うつつにパジャマに着替え布団に入る。晩御飯を食べていないが、気にならなかった。
「いい夢見たいなー・・・。」
それを本心で願った。
第十一章 混乱
「よし。」
生活のリズムが戻ってきた俺は朝起きて、チーズトーストとミルクティーを食べ終わり、悠々と学校の準備をして学校に向かう。そのおかげで学校には早く着くことが出来た。教室に入り、見渡す。うん、人が少ない。少し気分が良くなりつつ自分の席に着く。
その数分後、美影と天女が楽しそうに話しながら入ってくる。天才同士だけが分かり合える何かがあんのかな・・・。
「彼、今日は早いのですね♪」
天女の機嫌がなんかいいぞ。
「まぁ、最近は生活のリズムが出来て、朝起きられるようになったからな。」
「そうでしたの。」
「嘉瀬はまだ来てないのか?」
そう言った瞬間、美影は顔が曇り、天女はわずかだが目が輝いた。
「・・・まさか、お前知らないの?」
「知らないって何をさ。」
「まぁ、たぶん先生が話すと思うけど・・・。一つだけ言ってあげる。覚悟しておいた方がいいよ。」
「私にとっては愉快ですわ。」
「えぇー・・・天女さん・・・。」
「そんな怪物を見るかのような目をしないでくださる?美影。」
「だって、あれを愉快って・・・。意外と怖いんだね。」
「そういうわけでもなくてよ?」
「えー、嘘だー。」
「少しお黙りになって。」
「あ、怒った。ゴメンナサイ。」
「・・・仲いいな、お前ら。」
「「そう?」」
「うん・・・。」
「今日は重大なお知らせがあります。」
いつの間にか先生が教室に来ており、教壇に立って真剣な顔をしていた。
「え~新聞やニュースで見たり読んだりした人はいると思うが、嘉瀬がストーカーで捕まった。」
教室がどよめく。と同時に俺も一瞬先生が何言っているのか理解できなかった。
「静粛に。もう一回言うぞ。嘉瀬がストーカーで捕まった。で、責任は俺に押し付けられて、結果辞職する羽目になっちまった。お前らには申し訳なく思ってる。」
「・・・先生。俺たちどうすればいいんですか?」
頭より先に口が動いていた。嘉瀬が捕まったのはまだ信じたくないが、それよりもヘビの世話について書いた渾身のレポートが一切の無駄になってしまう・・・。
「まぁ、前期がもうすぐ終わるから、学校長が代理の教員を務めることになった。で、後期で正式な教員が決まる。レポートは全員分読んで、返すから、それは心配するな。すまんな。そういうわけで今日が俺の最後の授業だ。じゃぁいつも通り作業進めろ~い。」
そう言われても誰も動けるはずがなかった。
「あぁ、それと美影とお前と天女ちょっと研究室に来い。」
そう言われて三人と先生で教授の部屋に向かう。先生がドアを開け、それに続いて三人とも入る。
ずいぶんきれいになったな・・・。
荷物は段ボールに詰められており、部屋にあったのは机と椅子だけとなっていた。
「呼び出してすまんな。」
「大丈夫ですわ。」
「私も。」
「・・・俺も。」
「まぁ嘉瀬と親しそうにしてたお前らだから呼んだ。俺がこの事実を言うかどうかは大分迷った。結論言うことにするわ。別にいいよな?天女。」
「勿論ですわ。」
俺と美影はこれから何が言われるのかがまったく理解できなかった。
「あのな、嘉瀬は天女をストーカーしてたんだ。で、たまたま俺が見てたってわけ。そのあと直接天女と話して経路を聞いた。でな、一回美影もストーカーしたことがあるそうだ。あくまで天女の推測だがな、そのことを問い詰めたらだんまりを決め込んだらしい。さらに、俺は手紙で嘉瀬とやりとりしているんだが、どうもお前のことが気に食わなかったらしい。」
そう言って俺の方を見る。
「それはどういう根拠で?」
先生に聞く。
「嘉瀬が言うには、美影も天女も最初に話しかけたのが自分なのに、二人ともお前の方に行ってしまうから。だとさ。それで嫉妬して追ったわけだって。まぁ、天女はストーカーには慣れている上に、柔道二段だからな。一般人にも引けを取らないよ。まぁ、俺が知っていることは以上だ。何か質問等あるか?」
「何がなんだかさっぱりです。」
正直こんな馬鹿げた話が頭に入ってくるはずもなかった。だって要は嘉瀬が俺が美影と天女に話しかけられたから嫉妬してストーカーって・・・。信じたくないのと、受け入れなければならない現実が入り混じる。
「・・・今日は家に帰ってもいいですか?」
「ん?ああいいぞ。落ち着いたらまた来なさい。今週いっぱいなら研究室にいるからさ。」
「アザッス。」
そう言って俺は教室に戻り、荷物を片付け、家に帰る。まだ頭の整理がつかず、混乱したままだ。その考えを振り払おうと、ゲームしたりシャワーしたりといろいろ試したがどうにも離れてくれない。諦めて、紙とペンを取り出し、紙に書く。
「嘉瀬が最初に美影に話しかけた。→美影は俺に話しかける。→嘉瀬が嫉妬。→嘉瀬が美影をストーカー。→天女が編入。→嘉瀬が話しかける。→天女は俺に話しかける。→嘉瀬が嫉妬。→嘉瀬が天女をストーカー。→天女に返り討ちにされる。→万見先生が辞職。」
全体の流れを書き、何回も読み直す。読んでいくうちにやっと現実だと理解していった。読んでいる途中、俺の頬に液体が伝わる。嘉瀬との思い出が一気に頭を駆け巡る。
最初の顔合せ会で、一人で四年間を過ごす覚悟をしていたのを、あいつは俺を一人にはしないでくれた。俺が二人の女子と話せるのもあいつのおかげだ・・・。
嘉瀬への感謝は感謝したりないのになんで嘉瀬が犯罪者になるんだよ・・・。
俺のせいか?
俺が二人に話しかけられたばっかりに・・・。俺が嘉瀬を無視したから・・・。俺が・・・俺が!!!
「ピンポーン」
急に玄関のチャイムが鳴り現実に引き戻される。玄関に向かい、ドアを開ける。
「美影!?」
「・・・中に入れて。」
美影の顔は目の辺りが少し赤くなっていた。
「まさか・・・お前泣いて」
「中に入れて!!!!」
今までにない言われ方に半ば驚き、半ば同情して中に入れる。
「何か飲むか?」
「・・・紅茶お願い。」
「分かった。」
紅茶を二人分用意し美影の所に持っていく。
「急にごめんね。」
「特に問題ねーよ?」
「てか、あんたも泣いてたんだね・・・。目が赤いよ。」
「信じたくないのと今までの嘉瀬との思い出がな・・・。」
また涙が出そうになる。でも、涙が出るということはその現実を受け入れて悲しんでいることだから、自分の中では嘉瀬がストーカーしたのを認めたことなのだ。
「私も知ったばっかりの時は泣かなかったけど、先生に改めて言われるとね・・・。」
「あぁ・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
沈黙が続く。いつもなら会話しなくても平気なのだが、今はどうすればいいか無駄に考えてしまう。
「・・・ねぇ。」
「何だ?」
「自分が自分じゃなくなりそう・・・。」
意味が理解できず頭をかしげる。
「どういうことだ?」
「いろいろあったから、本当の自分が無くなりそうなの。もしかしたらもう無いのかもしれない。最初からなかったかもしれない。そういう意味。」
「お前は今どんな心境だ?」
「悲しい・・・かな。」
「だったらそれが本当のお前じゃないのか?つーかそもそも本当の自分なんて時間と場所とテンション、もしかしたら天気も関係してくるかもしれない。だから本当の自分なんて無いんだよ。感情を感じて、一喜一憂しているときが本当の自分だ。要は、本当の自分なんて、自分次第だな。何言ってんだ俺?」
正直自分が何言ってるのか後半理解できなくなっていた。
「あんたって意外と考えてるんだね。」
「まぁ、一人だとそれしかやること無いからな。」
「なんかあんたに話したら落ち着いたわ。じゃぁ帰るね。紅茶ありがとう。」
「そうか。どういたしまして。じゃぁまたな。」
「うん。」
そう言うと美影は帰って行った。机を見るとあの紙が無くなっていた。美影が持っていったのだろう。別にどうでもよかった。
お腹が鳴り、冷蔵庫を見る。中には冷凍のハンバーグがあった。それを取り出し、鍋に水を入れ、火にかける。沸騰してきたお湯に冷凍のハンバーグを入れる。少し待ちお皿に盛る。そのまま一人で食べる。特に何も考えられなかった。
ネット環境は相変わらず悪いままで、何をしようか考える。近くにPSPがあったから手を伸ばす。起動し、モンハンをやる。すぐに消す。面白味が無かった。ダメだ。どっか行こう。
街に出る。特にこれと言って何かしたいわけでもなく複合施設に入り、見て回る。いつも通りの人の流れ。いつも通りの賑わい。いつも通りの人達。・・・いつもと違う自分。周りと自分の違いに苦笑いをする。
「・・・なんだかなぁ。」
そうこぼしても、誰も気に留めない。当たり前のことだが、この時だけは不思議に感じた。輸入食品を専門的に扱っているコーナーに向かった。そこでお気に入りのお菓子を買う。
それを食べよう思い席を探して腰掛ける。「ふぅ・・・。」とため息をつき辺りを見渡す。
あぁー・・・。知っている顔が見える。なんだ天女か・・・。そう思いお菓子を食べようとする。
ん・・・?俺、今なんて思った?天女?え?ちょっ・・・なんで?
もう一回見ると間違いなく天女が席に座って誰かと話していた。話している人物をみるといかにもジェントルマン風の男性がいた。もしかしてお父さんか?あぁー、見つかりませんように。そんな俺の願いなど通じるはずもなく、天女が俺に気づき、手招きをする。
覚悟をして、天女とお父さんらしき人物の所に向かう。
「あら。こんなところで奇遇ですわね。こんなところで何をなさって?」
「家にいるのが落ち着かないから、なんとなくな。つーかなんで天女がここにいるんだよ。ゼミはどうした?」
「私はもう既に課題を終わらせてしまいましたのよ。」
あぁー・・・行動が早いな。
「お話し中に申し訳ない。これが例の彼か?」
「そうですわお父様。」
あぁーやっぱり天女のお父さんか・・・。
「初めまして。」
「こちらこそ。天女が学校を気に入ってくれたのを私は嬉しく思っている。もしかしたら貴殿のおかげかもしれない。感謝する。」
天女はお父さん似か・・・。そんなこが頭をよぎる。
「い、いえ。自分も楽しく(?)学校を過ごさせてもらってます。」
「そうか。なら安心した。ところで、具合でも悪いのか?顔色があまりよくないように見えるが。」
「あぁー、まぁ体は大丈夫なんですけど・・・その・・・嘉瀬っていますよね?彼に結構支えられていたのでその彼が犯罪者だなんて考えたくないのと、まだ納得しきれてないんです。」
「ふむ。そうか。いいか、まだ小さなことしか知らない彼よ。世界なんて自分中心に回っているのではなく、周りが自分を動かしているのだ。それを心に刻んでおきなさい。」
「分かりました。」
「物分かりが良いのだな。そしてこのことをよく考えてみよ。その暁にこの言葉の真意の意味が理解できるはずだ。」
「助言ありがとうございます。では、私はこれで失礼しますね。」
「そうか。ごきげんよう。」
「ごきげんよう。またゼミでお会いしましょうね。」
「おう。じゃあな。」
そう言って自分の最高速度で家に帰る。そしてひたすら考えた。
自分が中心で無く、周りが中心。つまり、周りを見ている人間が俺を創り出し、俺の存在を認識している。その中で俺は嘉瀬という、俺の周りの人間の中でも比較的強く俺を認めていた人物によって大部分が成り立っていた。それを喪失したのだから、俺が変化した。その変化に自分が追いついていないのか。
一回で天女のお父さんの言っていたことが理解できた。
「しょうがないか・・・。切り替えるとしよう。」
そう決めた。段々と気持ちの整理がつき、レポートを片手に学校に向かう。もうすでに辺りは暗くなっていたが、まだ先生が残っていると信じて走る。今日既に走っているため息切れがすぐに起こる。
それでも無理をして走る。肺がちぎれそうに痛む。心臓が飛び出しそうに脈動する。
何とか学校に着き、研究室に向かう。
明かりがついていた。
ノックをしようとしたら中から声が聞こえてきた。
「この先俺どうしようかなぁ。こんなことになっちまったら再就職するのは大変だろうなぁ。あ~あどうしたものか。なんで嘉瀬に気づけなかったかなぁ~。なんであいつは大丈夫って思ってたんだろうな~。」
先生の後悔。とこれから。それを聞いていると、先生のこれからについて自分も勝手に考えてしまう。
犯罪を犯した生徒の教授・・・。その肩書きのせいで就職は困難を極めるだろう。加えて、就職難の現代。さらには教授は専門的な知識だけでいいが、一般社会となると、全体的な教養面や実績を重視される。
先生の将来が心配だ。ノックしようとした手が自然と下がる。
そのままノックをすることが出来ない。なんて声をかければいいのかが分からない。覚悟を決めノックする。どうにでもなれ。
「えぇ!?こんな時間に誰だよ?入れ。」
研究室に入る。
「あぁ、お前か。こんな時間にどうした?」
「レポート持ってきました。」
「おぉ、そうか。ご苦労さん。で、他になんかあるか?」
「・・・いえ、特にないです。」
何言ってるんだよ俺。もっと言いたいことあるだろうが。なんで口に出せない。
「ん、そうか。じゃぁ気を付けて帰れよ~。」
「・・・はい。」
最後の最後まで俺は・・・。
言葉が出ず、感情も入り乱れる。もしかしたら自分を創ってくれている周りが消えてしまうのかもしれない。仕方なく研究室を出て、とぼとぼと家に帰る。
家に着き足への疲労が溜まっていたのを実感する。
久々にお風呂入ろう。お湯を入れ始める。待ち時間の間に寝てしまいそうだったが、冷蔵庫にたまたま残っていた缶コーヒーを飲む。
パジャマの準備をしたぐらいでちょうどよくお風呂にお湯が溜まる。お湯につかり、ボーっとする。次からは二人もいないのか。そう考えると学校がまたつまらない場所になりそうな気がした。お風呂から上がり晩御飯の準備をする。今日は長芋を使ったステーキにしよう。
冷蔵庫から長芋を取り出し、よく洗い、1.5~2cmの大きさに切る。それで、油を敷いたフライパンに入れて焼く。両面が黄金色になったら、塩コショウで味をつける。醤油を入れそれを飛ばすまで待つ。お皿に盛り付けマヨネーズをかけて出来上がり。
やっぱりこんなもんか。いつもと変わらない自分の料理の腕前。
珍しく早い時間帯に眠気が来た。何もする気も起きずそのまま寝ることにした。
「せめてあの二人に何も起こらないでくれ・・・。」
俺の願いよ。神がいるなら今度こそ叶えてくれ。そう思い夢の中へと落ちていく。
第十二章 ブラックアウト
あいつと話し終えた後、家に帰った。玄関を開け、中に入る。
「ただいま~・・・。」
「あり?元気ないな今日。」
「ん~ちょっとね。」
「そうか。」
「あいつはヘビの観察終わったの?」
「あぁ、何回か家に来てレポート終わらせていたよ。」
「そう・・・。」
結局、時間的にあいつと会えなかったため、親にあいつなら入れていいと伝え、観察は結局各々になってしまった。だが、自分以外の誰かがいたことにより、助かったのも事実だ。世話がおろそかになりつつあった私の代わりにあいつは良く世話をしてくれたらしく、私の愛らしいヘビは順調に成長していた。
「これ以上何も起きなければいいなぁ~・・・。」
「確かにな。いろいろ起きたからな。まぁもう何も起きんだろ。・・・多分。」
「あれ?今回は断言しないんだね。」
「正直今回だけは分からん。犯罪が起こるとまでは思ってなかったからな。俺はお前が無事ならそれでいいよ。」
「私は大丈夫だよ。」
「そうだな。まぁ無理しないで辛くなったら言えよ。」
「うん。分かってる。」
「じゃぁご飯にするか。」
「うん。」
お腹がすいていたため、お父さんの案に賛成した。食卓に入り、今日のメニューを確認する。今日は揚げ物がメインだった。から揚げと、イカリング、それにコロッケがあった。サラダももちろんある。デザートはゼリーが置いてあった。
「ただいま~。」
お母さんが帰ってきた。
「お帰り―。」
「あら、今日は元気ないのね。」
「あー、やっぱりわかるんだ。」
「もちろんよ~。今日は揚げ物ね~。油のにおいがするわ~。」
「お、お帰り。」
「じゃぁ、食べるか。」
「そうしましょ~。」
「ただいま~。」
「おう、お帰り。これから食べるから、席についとけ。」
「はーい。」
家族四人で机を囲む。少年は積極的な人間になったため、最近はお母さんよりも弟の方が話すようになった。その姿を見ると安心した。・・・シスコンは除いて。
いつも通りおいしいご飯を食べ終え、自分の部屋に戻る。ヘビは自分の部屋にはいないお父さんの部屋にいるのだ。様子を見に行った。うん。愛くるしい。
見た後、再び自分の部屋に戻り、何をするかを考える。そんな時ドアをノックされた。
「誰~?」
「ぼ、僕だけど。」
なあんだ少年か。半ばどうでもよく、半ば焦る。
「どうぞー。」
少年を入れる。
「なんかあったの?」
「うん・・・。それがね・・・。告白されたけど、どうすればいいか分かんなくって。」
「えぇー・・・。あんた告白されたんだ・・・。いろいろすごいな。」
「そうなの?」
「私から見ればね。告白されたのはいいとして、少年はその人のことどう思うの?」
「んー・・・。何というか・・・。あんまり興味ない。」
あぁー・・・まぁ、シスコンだからな・・・。そりゃ興味持たないわな。うーん・・・。どうしたものか・・・。
「じゃぁ、その人はどんな感じ?」
「んーとね・・・。周りは学園1可愛い女子って言ってる。でも、性格が分からないから、なんとも言えない。」
「じゃぁ、『まずは友達から』でいいんじゃない?」
「うん。ありがとう。」
少年は部屋を出ていく。今思ったのだが、少年がシスコンだからと言って、何にも変わらない自分がいたのにホッとする。
さて、今日はもう寝るとするか。そして布団に入り寝る。
目が覚める。時計を見ると、まだ二時半を指していた。何故か分からないが目が覚めてしまった。
もう一度寝ようにも寝れず、なんとなくあいつにメールをしてみた。
「件名:起きてる?
本文:なんか寝れない。どうしよう。」
そうメールを送る。数分後メールが帰ってくる。あいつこんな時間にも起きてるのか・・・。
「件名:俺も寝れない。
本文:俺も目が覚めちまってどうにもこうにも寝れん。ヒマだしこれから会うか?」
少し考える。
「件名:いいよ
本文:じゃぁどこで待ち合わせする?〇〇公園でいい?」
送信。
「件名:いいよ。
本文:じゃぁ公園で。」
そう言って準備をしてWALKMANを耳に当て、公園に向かう。公園の目の前まで来て、あいつを見つける。なんとなく急ごうと思い、信号を無視して、渡る。それを見たあいつが危険を伝えるジェスチャーをする。なんで?そう思って横を向こうとし―――――
第十三章 自責
俺は美影の病室から離れることが出来なかった。いや、出来るはずもなかった。あの後、美影の親に正直に話したら、君が救急車を呼んでくれなかったら、多分助からなかっただろう。本当にありがとう。と感謝してくれた。俺が、でもこうなったのは俺があいつを夜に呼んでしまったせいでって言ったら、最悪のことが回避できただけでも大きいんだよ。だから、気にしないでくれ。とも言ってくれた。俺は何度も礼をした。
最近俺は学校に行っていない。自責の念を振り払うことが出来ず、美影が起きるまでは買い物と食事以外は付き添うことにしている。医者によると、運次第らしく、俺はただただ祈った。・・・この願いが叶ったら、神様を信じるとしよう。そうも思った。
その付き添ったまんま二年過ぎた。未だに起きる気配はなく、いつも傍にいるだけだ。大学はとうに退学処分となっている。お金は正直底をつきそうにもなっている。
ダメもとで美影に話しかける。
第十四章 光
―――――誰かが話しかけてくる。私は暗闇にいた。その暗闇の進むべき道が見つからず、迷っていた。でも、その声のする方に歩いて行った。その先に広がっていたのはお花畑。
「綺麗・・・。」
今までこんなにきれいな景色を見たことは無かった。そのまま進んで行くと、川があった。
向こう岸にいたのは私の祖先と思われる人々だった。
「早くこっちに来なさい。」
そう声をかけられる。
「でも、あいつがまだ来てないから、もう少し待って。」
そう返事をした。
なんて言ってるかは分からないが、声の主は多分あいつだからきっとこっちに来てくれるのだろうと思った。そのまま時間が過ぎる。
第十五章 An ARISTOCRACY 貴族
正直彼が来なくなったのは驚いたが、まぁ無理もないか。彼は美影が好きだからな。私は大学四年生になり、就職先も決定している。就職先と言っても、イギリスのロイヤルファミリーの一員になったけど?(ドヤ)
親と一緒にいったパーティーに隠れでイギリスの皇太子が来ており、私に一目惚れ。外見が悪くなかったのと、安定した生活を手に入れられたから良かった。でも、それ以降、私の周りには取材陣(主にイギリス)が集まるようになり、授業どころではない日々が続いた。
大学は、取材の謝礼金目当てに、私の授業を受けている姿を公開してもいいと言い、その結果大学の設備がおぞましいまでに変化した。しかも、私のおかげで知名度がグンと上がり、今では行きたい大学№1になった。そのおかげで、学力も向上。要は私が大学の偉人になった。私の銅像も飾られている。
卒業したら、愛しの(?)ダーリンの所へ向かうのだ。そこで貴族の暮らしを満喫する人生を送るつもりだ。
Good bye Japan!! Have a nice day. I will never come back to Japan!!
第十六章 復活
やっと出所できた。とにかく俺は親にめちゃくちゃ謝り、暮らしてもらっている。でも正直親は俺が帰ってきたのが嬉しいらしく、楽しい毎日を送っている。でも、あいつだけは許せなった。・・・俺より先に話しかけやがって。後悔させてやる。今はあいつへの復讐計画
考える日々が続いた。
第十七章 目覚め
私はまだ動けずにいた。でも、ある一つの疑問を抱く。ここはどこだ?私の祖先がいるっていうことはここは現世ではない。分かった。私、死にかけてるんだ。そう思うと、なんか悔しく思い、ここからどうすれば脱せるかを考えた。しかし、それに気づいた瞬間目が開いた。そこには、天井があった。顔を傾げるとあいつがいた。
「ただいま。」
「お帰り。」
あいつは私が起きたのを驚く様子も無く、ただそう言ってくれた。それがとても嬉しかった。
「あれ?なんか老けてない?」
「まぁ、二年経ってるからな。」
「えぇ~、嘘だー。」
「じゃぁ、新聞見てみなよ。」
近くにあった新聞に手を伸ばし、日付を見る。2016年。
「私の二年を返せ(笑)。」
焦ることもなかった。非常に落ち着いていた。多分、あいつがいるからだろう。話していたら、看護婦が驚いた表情をしてこっちを見ていた。でも、その後笑顔になり、会釈をしてくれた。私も会釈を返した。その数分後親が来て、わんわんわめき散らした。
ふと気が付くとあいつがいなかった。不思議に思った。きっと私と家族の対面のためにわざわざ席をはずしてくれたのだろう。・・・あいつのことが好きになった。結局、私はレズでは無く、一人の「女」だったのだ。ただ周りに私と普通に接してくれる男子が居ないだけで・・・。
第十八章 発見
家族の水入らずの時間を作ろうと、病室を後にした。我が家に帰ろうにも家はなく、大学を辞めてしまったせいで、家も無い。あるのはテナーサックスのみ。それを使って、ジブリの曲集を駅前で演奏。
たまにお金をもらい、たまに警察に捕まり、たまに一切お金が集まらなかったり・・・。そんなことを繰り返す日々が続いた。
そのまま半年が過ぎて、気が付けば常連さんも出てきてくれた。それがとても嬉しかった。でも、貧乏なことには変わりなく、段ボールで作ったマイホームも無い。いつも通り、ベンチでテナーサックスを抱えて寝る。
急に肩を叩かれ、目を覚ます。なんだ美影か・・・。じゃあ夢だな。美影が俺を見つけるなんて不可能だからな。頭の中で言ったつもりだが、向こうにも聞こえていたらしい。
「私がやっと見つけたと思ったのに何寝ぼけてんの。早く起きなよ。」
「あぁー・・・。夢だなこりゃ。美影がいるなんてあり得ないもん・・・。」
「じゃぁ、こうすれば分かる?」
唇に急に美影の唇が重なった。その瞬間頭は猛スピードで駆け巡り、一瞬で目が覚める。美影を突き放し、赤面する。
「ちょっ!?おまっっ!!!!なっ!!」
「これが私の気持ち。分かったら早くついてきて。」
「えぇー・・・。何その雑な感じ・・・。」
あいつの気持ちは分かったため、ついて行くことにした。
第十九章 結婚
私とあいつは結婚した。私からのプロポーズで。名前は美影でいいって言ってくれたから、美影家の一員にあいつが入ってきた。あいつはハローワークに通いどうにか仕事を見つけ、就職。ニート時代の経験がビデオ編集に繋がったのだ。私は子供を授かり、家でのんびり暮らしている。ニュースでは、天女さんがロイヤルファミリーの一員になったのを大々的に放送しており、子供を出産していた。お母さん・・・か。そう思い、自分のお腹をさする。幸せな日々が私を待っている。そう考えると自然と笑みがこぼれた。夕ご飯の準備をしようと台所に行き、テレビを見る。その瞬間体が固まる。
「今日午後七時ごろ東京駅で社会員の男性である美影さんが通り魔に刺された模様。犯人は未だ捕まっておらず、美影さんは救急車で病院に運ばれましたが、死亡が確認されました。さて次のニュースです。」
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
考えたくもない事実とも捉えたくない。私は泣き崩れた。ただただ泣きじゃくった。自分の非力さを嘆いた。あいつに恩返しをしていないのを後悔した。
あいつの子供だけは必死に育てよう。そう強く思った。
第二十章 自殺
あいつを殺してやったぜ。ざまぁ見ろ。快感が体を駆け抜ける。でも、俺には復讐し終えた後など考えていなかった。故に、今橋の上に立っている。この先の目標とかも無く、もうどうでもよかった。
「君、危ないから降りなさい。」
警官が声をかけてくる。
「俺、今から自由になるわ。」
「は?」
警官に向かってにやけ、そのまま飛び込む。何も抵抗せずただただ沈んでいく。意識が遠くなる。最後の最後であいつに謝った・・・。
最終章 お母さん
「ねぇ、ママー。なんでうちにはお父さんいないのー?」
そう無邪気に話しかけてくる。結果犯人は嘉瀬らしかったが、自殺してしまい、結局真実は暗闇。これをなんて子供に説明すればいいか分からなかったが、ありのままの言葉にしてみた。
「うちのお父さんはね。嫉妬されちゃったの。そのせいだよ。まだ難しいよね?お父さん居なくて寂しい?」
「まだ分かんないや。お父さん居ないのがふつーだから寂しくないよ?お母さん。だって、おじいちゃんもおばさんもいるもん。」
「そっか・・・。」
「あれ?お母さん泣いてるの?」
「うん・・・。悲しくなっちゃった。でも、元気出すもんね。今日はチーズオムレツだよー!!」
「やったー!!!」
私はあいつがよく作っていたと言っていたチーズオムレツを作った。あいつを忘れないために。私を女性にしてくれた人として、尊敬を含めて・・・。この子だけは絶対に守り通す。そう強く思いながら、暮らしていこう・・・。あいつのためにも・・・。
あとがき的な何か
この小説を読んでいただきありがと~!!ひゃっはー!!イエイイエイ。
まぁ、この小説を書き始めたきっかけは友人が文芸部にいてその課題で小説を書くというものがあり、それで自分もやってみようということになったわけです。はい。
でも、文芸部でも何でもないんですけどね、私は。
この小説を通して伝えたいことは特に無いのですが、この小説は私がふんだんにちりばめられています。私の妄想が100%いや150%ぐらいの割合で投影されています。
にしてもよくここまで読みましたね。みなさんさようなら~。




