第9話
直樹と佳織は同じクラスなので、放課後まで待つまでもなく、顔を合わせることになる。今朝、教室に入った時、咲季は小さく手を振っていたが、別段話しかけられることはなかった。佳織がそのようなスタンスであるのであれば、直樹もそれに従うだけだ。放課後、ボラ部の部室に行こうとすると、後ろから声をかけられた。
「萩村君、一緒に行ってもいい?」
「別にいいけど」
目的地も同じなので特に断る理由もないし、部室までは一緒に行くことになった。
「ねえ、萩村君ってどうしてボラ部に入ったの?」
部室への移動中に佳織がそんなことを聞いてきた。
「先輩の術中にはまったからかな」
「何それ、変なの?」
直樹の答えが面白かったのか、佳織が笑う。昨日の様子からもう少しくらいというか人見知りするタイプの子かのかなと思っていたが、そうでもないようだ。笑っている佳織からは明るい少女という印象だった。
「そんな、森田は何部に入ったんだ?ポニーテールってことはどこか運動部?」
「どこにも入ってないよ。特にやりたいこともなかったしね。」
そんな取り留めもない話もしている内に、部室についた。
「お疲れ様です」
「失礼します」
「あ、来たわね二人とも。早速だけど、図書館に行くわよ」
永高は昔からある私立なので、卒業生が本を寄付してくれたりする関係で、蔵書数がすれなりに多い。それの本を所蔵するために専用の図書館がある。昼休みとかにも利用できるように図書館は本館の横にある。つまり、わざわざ歩いてきた道をもう一度戻る必要がある。事前に行ってくれれば、図書館に直接行ったのに…
「どうして、事前に言ってくれないですか…」
「ごめんね。言おうと思ったのだけど、直樹君の連絡先がわからなくてさ。そうだ、これから忙しくなると思うし、連絡取り合うこともあると思うから二人とも連絡先交換しておきましょう」
そういって、咲季は携帯電話を取り出した。直樹と佳織もそれぞれ携帯を取り出した。永高では、他の高校同様に携帯電話の持ち込みは禁止されているが、ほとんどの生徒が持ってきているのが現状だ。全員がスマートフォンだったが、赤外線対応モデルだったので、連絡先はすぐに交換できた。
「さて、じゃあ、改めて図書館に行くわよ。時間ももったいないし、詳しい説明は向こうでするわ」
「さて、とりあえずここで待っていて」
説明するとか言っていたわりに、図書館に着くなりいきなり待機を命じられた。図書館は大きく分けて二つのスペースに分けられている。入って右手は自習室、左手が閲覧室になっており、それぞれのスペースの間には休憩用にソファーがおかれている。直樹と佳織を休憩スペースで置き去りにして、咲季は一人閲覧室の入口にあるカウンターの中にいる司書の先生と何か話していた。
「二人とも、こっちに来て」
司書の先生と話が終わったようで、咲季が直樹たちを呼んだ。
「先輩、そろそろ説明してもらっていいですか?」
「わかったわ。この図書館って自習室と閲覧室しかないように見えるけど実は一部屋あるのよ。そこに、私の目当てのものがあるの」
「そこへ行けば、木下さんのことが分かるんですか?」
「少なくとも、手がかりがあると思ってもらって問題ないわ、森田さん」
「野村先生、それじゃ失礼しますね。二人とも付いて来て」
野村先生というのは司書の先生のなまえだろう。そう言って、カウンターの中に入っていく。直樹たちもそれに続く。カウンターの奥には扉があり、扉の奥には階段があった。咲季はその階段を登っていき、直樹たちも続いた。
階段の先には、本の山があった。
「先輩、ここは?」
「書庫よ。あんまり借りられない本とか、貸し出しできないくらい古い本とかがしまわれているの。本当は生徒は入れないのだけど、野村先生にお願いしていれてもらったの」
「それで、ここに何があるんですか?木下健についての情報があるように思えませんが?」
「ここの書庫には、これまでの永高の卒業アルバムも保存されているのよ。昔は閲覧室に置いていたらしいのだけど、永高の卒業生の先生とかの昔の写真を探したりする生徒が多かったようで、こっちに移されたのよ。木下健が永高の生徒だったのであれば、卒業アルバムに名前と写真が載っているでしょ?後は、その当時からいる先生を当たってみれば、何か情報が得られると思うのよ」
なるほど、一理ある。木下健が永高生だったのはそれほど昔ではないし、その当時からいる先生はたぶんまだ永高にいる。事情を話せば、連絡を取ってくれるかもしれない。
「それで、森田さん。木下健が永高生だったのは、8年前でいいのよね」
「はい、おそらくですけど、それであっていると思います」
「じゃあ、その年代の卒業アルバムを手分けして確認しましょう?」
確認自体はそれほど時間がかからずに終わった。しかし、卒業アルバムには「木下健」という生徒の写真がなかった。佳織があった時点で、すでに永高を卒業していたという可能性も考慮して、少し古いものも確認したが、結局木下健の名前はなかった。
「どうなってんだ…」
数ある高校の中で、わざわざ永高の生徒だということを佳織が覚えていたのであれば、その情報が間違っているとは考えにくい。しかし、卒業アルバムには名前がなかった。咲季もお手上げなのか、先ほどから何もしゃべらない。佳織は佳織でなんとなく申し訳なさそうな様子だ。
捜索一日目にして、早速手詰まりだ。そもそも、名前と永高生というだけで見つけ出すと言うのが無理だったのかもしれない。
「あ、もしかして…ねえ、森田さん、その木下健って人の顔って覚えている?」
「は、はい。なんとなくですが、たぶん写真を見ると思いだせると思います」
「そう、なら…」
まだまだ木下健の足取りはつかめませんね
少しずつ近づいているので、その過程を一緒に楽しんで行ってもらえればと思います。




