第8話
本格的に話が始められます…クラスメイトの依頼をめぐって、ボラ部員の二人が奔走します。
入部5日目
直樹は初めての活動に参加することになった。4月の第二木曜日はすでに過ぎていたので、本来ならば、初めての活動はもう少しあとになるはずだった。そうならなかったのは、今目の前に座る少女が咲季の言うところの「依頼」を持って来たからだ。
「それで、森田さんはボラ部にお願いがあって、ここに来たってことでいいのかしら?」
少女は先ほど、咲季に森田佳織と名乗っていた。ちなみに、直樹とはクラスメイトであったので、特に自己紹介はなかった。クラスメイトと言っても、特に話したこともなく、お互いに苗字を知っているだけだった。
「はい、友達にここなら生徒のお願いを聞いてくれるって教えてもらって…それで…」
「そうなの、森田さん、一つだけ訂正させてもらっていいかしら?」
「は、はい」
佳織は委縮しているというか、ビビっているというかどうにも落ち着きがない様子だった。その証拠に、さっきから俯いていた。咲季が話している時は、顔を上げていたが、彼女が話している時は再び下を向いていた。そのたびに、佳織のポニーテールが直樹の目の前で揺れていた。
「その友達の話はおおむね正しいとおもってもらって構わないわ。ただし、お願いを聞いてあげるのだから、当然タダというわけにはいかないわ」
「お金が必要なんですか?」
佳織は先ほどよりもさらに自身がない様子で、咲季に聞いた。
「そうね。お金をもらう時もあるし、そうじゃないときもあるわ。大体は依頼を完了してから、決めることになっているの。それでもかまわないなら、依頼を受けるけどどうする?」
咲季は佳織をまっすぐに見つめてそういった。これはかなり無理難題を言っているように直樹には思えた。要するに「お願いを聞いてあげて、断れない状態になってから、何を要求される」ということだろ?その場合、依頼する側としては何をさせられるのかわからない恐怖がある。佳織もなんとなくそのことに気付いたのか、先ほどからオロオロしている。
「先輩、いくらなんでもそれは森田さんに酷じゃないですか?」
「いいから、直樹君は黙っていなさい。それを決めるのは直樹君ではなく森田さんよ。それで、森田さん、どうするの?」
「それでもかまいません」
今度は佳織が咲季をまっすぐに見つめてそういった。
「合格よ。ボラ部はあなたの依頼を受けることにするわ」
「先輩、これは一体どういうことなんですか?」
咲季は「合格」と言った。それはつまり咲季が佳織を試していたということになる。何を?おそらくは、本当に依頼する気があるのかどうかだと思うが、そんな事をする必要があったのだろうか?少なくとも、この部室に来た時点で、佳織の考えはまとまっていたのではないだろうか。
「これも、ボラ部の伝統の一つなのよ。今の条件って森田さんにとってはかなりギャンブルよね?そこまでして、ボラ部に依頼したい内容なのかどうかを試したのよ。もちろん、森田さんが断るのであれば、それでもボラ部としてはいっこうにかまわないことだしね。まあ、今後のために覚えておきなさい。それで、森田さん、何をお願いしたいの?」
「実はこの手紙の送り主を探してもらえないですか?」
そういって、佳織は一通の封筒を取り出した。
「見てもいいかしら」
「はい、どうぞ」
一応確認してから、咲季は封筒を受け取った。直樹も咲季の方を覗き込み封筒を確認した。封筒には佳織の名前と住所が書かれていた。裏には「木下健」と書かれていた。咲季は封筒を軽く確認してから中の手紙を取り出した。一読してから、咲季は直樹に手紙を手渡した。
「一応、直樹君も確認しておいて」
手紙にはこう綴られていた。
森田かおり さまへ
おひさしぶりですね。
とつぜんの手紙でおどろいていることと思います。
どうしても、かおりちゃんにかんしゃの気持ちを伝えたくて、この手紙を書きました。
かおりちゃんにとっては、あの2週間はどうということはない日々だったかもしれませんが、ボクによってはかけがいのない時間でした。ボクはかおりちゃんのおかげで生きるゆうきがわきました。
だから、言わせてください。
ありがとう。
木下健
一通り読み終え、手紙を封筒に戻した。
「森田さん、さすがにこの手紙だけで送り主を見つけることはできないわ。もう少し詳しく話を聞かせてくれないかしら?」
「あ、すみません。そうですよね。順番に話しますね。その手紙が来たのは2週間くらい前なんです。手紙が来たときは、その木下健って人に全然心あたりがなかったんですが、中を読んでみたら、昔お祖母ちゃんが入院していた時に、そんな名前の人によく遊んでもらっていたことを思い出したんです。それでも、なんとなくしか思い出せなくて…でも、手紙の内容から気になって、この人に会わないといけないような気がしたんです。思い出そうとしても、全然思い出せなくて、それでも思い出さないといけないような気がするんです。そしたら、友達がボラ部のことを教えてくれて、もしかしたらって思ってここに来たんです」
「大体わかったわ。とりあえず、森田さんにその木下さんのことを思い出してもらってかつその人と会わせるっているのが依頼内容で問題ないかしら?」
「はい。お願いできますか?」
「さっきも言ったけど、依頼は受けるわ。ただし、内容が内容だから、必ずしも成功するわけではないと思っておいてね」
「はい、ありがとうございます」
「それで、森田さんがこの木下って人のことで分かっていることを教えてもらえるかしら?直樹君はメモっておいて」
そう言って咲季は直樹にノートを手渡した。
「手紙が来てから、お母さんとかに聞いてみたんですが、病院で遊んでくれていたお兄ちゃんがいたってことくらいしか覚えてないみたいで、私が覚えていたのはその人が永高生だったということしかなくて…」
「その人と会ったのって具体的にいつぐらいなのかしら?」
「お祖母ちゃんが入院していた時だから、ちょうど8年前だと思います」
「分かったわ。他に覚えていることはある?」
「すみません、これだけしか思い出せなくて…」
今のところ木下健という名前と8年前に永高生だったことしか情報がない。これで送り主を見つけることなど可能なのだろうか?
「そう。とりあえず、今日はもう遅いから色々調べるのは明日からにしましょうか。明日から放課後はボラ部の部室に来てもらっていいかしら?」
「はい。大丈夫です」
この情報から一体何を調べると言うのだろうか?少なくとも、咲季の様子からは何かあてがあるようだが、直樹には想像もつかない。




