第5話
入学式の時にはあれほど咲いていた桜も散り始め、少しさびしくなったころ、直樹は教室で桜の気とは別に寂しさを味わっていた。最初のグループ作りに出遅れた直樹は、休み時間に話す相手もおらず、休み時間や昼休みの空いた時間には適当に読書をして過ごしていた。教室を見渡せば、同じようにぼっちなのがちらほらいたが、なんとなく声をかける勇気がわかなかったので、直樹から話しかけることはなかった。
それも今日で終わりにすると直樹は心に決めていた。永高(永山高等学校の略した言い方、ながこう)では、入学式から2週間の間は、新入生に学校に慣れてもらうため、部活に所属してはいけないことになっている。今日でその2週間が終わり、いよいよ部活が解禁になる。永高は、運動部の方が活発であったが、直樹はどうも運動部のノリというものについていけないので、どこか文化部に入ろうと決めていた。担任の話では、今日はどの部活も昇降口から校門の間にブースを出して、入部の手続きを行うそうなので、どこか面白そうなところがあればいいな程度にしか考えていなかった。
放課後、昇降口にはかなりの人だかりができていた。主な原因は半ば強引に勧誘をしている運動部(特にラグビー部、アメフト部、柔道部の体の大きな人)が道を塞いでいるせいだった。直樹は、その中をどうにか抜け出し、校門の方へと向かう。やはり、目立つのは運動部の勧誘であったが、文化部もなかなか個性的な勧誘をしていた。
「君、将棋とか興味ない?」
「やっぱ、高校デビューと言ったら、バンドでしょ」
「私たちと一緒にミステリーサークルを作りませんか?」
など様々な文化部があった。最後のやつ、ミステリーサークル自作したら全然ミステリーな要素ないだろ。どこも、少なからず人だかりができて、入部の手続き(と言っても書類にサインするだけ)を行っていた。本を読むのが好きだから、ここはベターに文芸部とかかなと思い、文芸部のブースを探しているとひときわ大きな人だかりができていた。その時は本の出来心であったのだと思うが、それが直樹の高校生活を大きく変えることになった。
「君、どうしてボランティア部に入ろうと思ったの?」
「人の役に立ちたいと思ったからです」
「却下。他の部にしなさい」
人だかりの中では、他のブースとは違うやり取りが行われていた。椅子と机が用意されている点では、他のブースと同じだが、そこに上級生が座り、一人ひとり新入生を座らしては、部に入ろうと思った理由は聞いていた。
「次、君、どうしてボランティア部に入ろうと思ったの?」
「えーと…」
「却下。他の部にしなさい」
「次、君、どうしてボランティア部に入ろうと思ったの?」
「特に理由はありません」
「却下。他の部にしなさい」
上級生はまるで機械のように、同じやり取りを繰り返しているにも関わらず、この奇妙な面接を受けようとする新入生は後を絶たなかった。それもそれもそのはずである。面接をしている先輩が目を引く容姿をしていたからだ。ボブカットの髪に、整った顔立ち、スレンダーな体つき、どこを見ても美人という表現がよくあてはまる人物だった。
「次、君、どうしてボランティア部に入ろうと思ったの?」
「先輩が美人だったからです」
「論外」
中には、正直に不純な入部動機を語る者もいたが、誰も彼女を納得される人物はいなかった。
「そこの君」
彼女はいきなり直樹を指さした。とりあえず、後ろを振り返るが、誰もいなかった。確認のためにも、自分の顔を指さすと、彼女は満面の笑みでこういった。
「そうよ。君に決めたわ。今日からあなたはボラ部員よ。とりあえず、ここにサインしてくれるかしら?」
ここで、逃げ出しておけばよかったのかも知れなかったが、その時の直樹にそこまでの思考力がなかった。周りにいた新入生も驚いたが、直樹はそれ以上に動揺していた。
「えーと、そもそもボランティア部って何する部活なんですか?」
「そうね。ここだと騒がしいから、部室にいって説明しましょうか?」




