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第3話

 入学式の時には、満開だった桜も5月下旬ともなれば葉桜に変わり、夏の訪れを予感させていた。放課後、直樹はいつものように部室に向かっていた。最近では、直樹の生活リズムの中に完全に組み込まれてしまっているが、入部したばかりのころは部室に向かうだけでも、息が上がりかけていた。永高(永山高等学校の略称、ながこう)は、古くからある私立の高校というだけあり、校内は広い。また、長年増設を繰り返した結果、普段授業を行う本館と呼ばれる校舎、音楽室や理科室などがある特別棟、体育館、武道場、式典用のホールが併設された永山ホール、食堂兼購買部、運動部の部室がある運動部棟、文化部の部室がある文化部棟とかなり多くの建物が校内に点在している。しかも、一ヶ所にかためてくれればいいものを工事と都合とかで本館と特別棟以外は併設されていないため、建物間の移動には時間がかかる。直樹が所属するボランティア部の部室は文化部棟3階の端にある。建物間の移動に約5分、建物内の移動に約3分、合計8分の移動を今まで部活に入っていなかった直樹には少しきついものであった。

部室のドアに手をかけると鍵が開いていた。空いているということは部長の咲季がすでに来ているのか

とどうでもいいことを考えながら、部室に入った。


「お疲れ様です」


と言ってから直樹は部室に入った。


「おつかれー」


案の定、部室の中から咲季の声が返って来た。ボラ部の部長立花咲季は、2年生で直樹の先輩である。ボラ部には、もう一人の1年生の佳織を含め、3人しか部員がいない。永高では、顧問さえいれば、部員の最低人数に決まりがないので、部員が一人でもクラブとして成立する。

部室中央には、大きな机が置かれている。誰かが決めたわけではないが、部員の間ではなんとなく定位置が決まっていた。


「咲季先輩、今日の活動って決まっています?」


直樹は自分の席に着くと、正面に座る咲季に話しかけた。


「最近、依頼も来ていないし、特に予定はないよ」


ボラ部の活動は、2種類に分類される。一つは、月に一度行っている学校周辺の清掃活動である。もう一つは咲季が「依頼」と呼ぶ位生徒からのお願いを聞いてあげる活動である。前者の活動はボラ部がボランティア部と言われる所以であるが、後者についてはボランティア活動とはかけ離れたものである。誰が始めたのか知らないが、永高ボラ部には「報酬をもらう代わりに生徒のお願いをかなえてあげる」という悪しき伝統がある。報酬は、その時々によって違うが、現金だったり、食堂の食券だったり、部室に置く備品だったりする。もちろん、こんな活動が学校にばれたら、即廃部だろうし、直樹たち自身も何かしらの罰を受けることになると思う。しかし、ボラ部がこんな活動をしているとは誰も思っていないようで、一種の都市伝説のようになっているみたいだった。

咲季曰く、実際にボラ部へ依頼が来るのは、年に数回程との事だった。実質、ボラ部は月に一度の清掃活動しか行っていないので、直樹たち部員は普段部室で、それぞれ自習とか読書をしたり、たまにみんなで遊んでいる。

なぜ、直樹がこの部に入ったのかというと、それは入学前に咲季に出会ってしまったのが原因だろう。


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