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ANDOLL*ACTTION魔法使い編  作者: 文丸くじら


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3/26

音の波と硝子の雨ときらめく光

瀬戸海里は自宅用の着物、といっても旅館の浴衣のような姿で皆川万結を家に招き入れる。

精神統一、というより今だに続いている西エリアの袋桐麻耶との交換手紙のやり取りによる袋桐麻耶の悪筆。

それに耐えかねた瀬戸海里が袋桐麻耶を呼び、自宅で習字指導を行っているところである。

それを横目で眺めているのは瀬戸海里の幼馴染で一番の親友、体は大きくも朗らかなせいか森のくまさん扱いされる、鞍馬蓮実である。

皆川万結は顔を墨だらけにした袋桐麻耶に思わず吹き出してしまう。


「笑ってんじゃねーぞ!!!幼女だからって俺の暴言が緩むと思って…」

「麻耶くん。続き」

「…うっす」


瀬戸海里の静かな笑顔の気迫に負けた袋桐麻耶は口を閉じて改めて筆を動かす。

というのもこの数時間で瀬戸海里の習字という名のスパルタ授業を受け続け、本能的に逆らわない方がいいと感じたからだ。

鞍馬蓮実は煎餅を齧りつつ、大変なんよ、と口に出さないまま袋桐麻耶に同情した。

皆川万結はそんな瀬戸海里の静かな迫力に気付かないまま、着物の裾を引っ張る。


「ん?どうしたんだい?」

「海里おにいちゃん、万結ね、カメラかってもらったの」


前よりもはっきりとした言葉で喋るようになった皆川万結は可愛いポシェットから桃色のデジタルカメラを出す。

デジタルカメラと言っても少し型の古いもので、電気屋で安売りされていてもおかしくない代物だ。

子供に少し奮発した贈り物としてはいいかもしれない、と思いつつ瀬戸海里はそのデジタルカメラを見る。

どこからどう見ても普通のカメラで、写真を撮ってデータをパソコンに移動させプリントアウトするような形式のカメラ。

今では普通に流通している、子供の手の平にも収まる程度の小さなカメラである。一眼機能もないので、値段はお手頃な方だろう。


「そしたらこれがとれたの」


そう言って皆川万結は瀬戸海里に一枚の写真を差し出す。

写真はインスタントカメラで撮ったように端に日付と時間が刻印されている。

今ではデジタルカメラにそんな機能はない。写真の画に文字があると大切な物が隠れる場合があるからだ。

瀬戸海里は改めて皆川万結のデジタルカメラを見る。型が古いと言っても、近代的なデジタルカメラである。

間違っても日付や時間が刻印されるようなカメラではない。さらに刻印されている時間と日付がすでにデタラメである。

なぜならその日付と刻印はあと数時間経たないとやってこない、未来の日付である。


「…万結ちゃん、これ誰にプリントアウトしてもらったの?」

「プリントアウト?よくわからないけど、それはカメラつかってたらとれたの」

「えっと…もう少しおにいちゃんに教えてほしいな」


「んー、と…カメラつかってたらまばたきのあとにあらわれたの。めのまえにピラッて!!」


ますますわからなくなったと瀬戸海里は心の中だけで頭を抱える。

外面では皆川万結が困らないように笑顔を保っているが、いつまで続くかわからない。

袋桐麻耶は明らかに胡散臭い物を見るような目で皆川万結を眺めている。

鞍馬蓮実は差し出された写真を覗く。少年が少女をかばうような体勢で、背景には刃のように輝く砕けた硝子。

硝子からの光で見えにくかったが、鞍馬蓮実はその少年少女が見たことある二人だとすぐ気付く。


「これ…悠真と未来なんよ!」

「え?……あ、本当だ!?」


鞍馬蓮実の言葉に導かれるように瀬戸海里も写真を注視して気付く。

袋桐麻耶も筆を投げ捨てて写真を見る。そして二人以上に詳しく見ようと目を細める。

背景にはゲームセンターの看板、中央エリアにしか展開されてない有名な大手のゲームセンターである。

そのゲームセンターの窓ガラスも割れており、床や地面には他の通行人達も頭を守るように抱えてる。

地面に平伏し、身を丸めて危機をやり過ごそうとする通行人達の中に、見知った小さい姿があることに袋桐麻耶は気付く。


「神楽が…ここに映ってんじゃねぇか」


袋桐麻耶の指摘に瀬戸海里はやっと葛西神楽の存在に気付く。

さらに葛西神楽の周辺を注視すれば、竜宮健斗らしき子供もわずかに映っている。

しかしそれ以上は何もわからない。瀬戸海里は誰が解決できそうか考え、北エリアの天才や未来のロボット達が集まる家を思い出す。

連絡先を登録したデバイスを片手に、袋桐麻耶には葛西神楽への連絡、鞍馬蓮実には時永悠真への連絡を頼む。

皆川万結は目の前が慌ただしくなるのを何度も瞬きして眺める。まるでシャッターを繰り返すカメラのように。





時永悠真からの連絡を受けて玄武明良は何度も頷く。そして苦い顔をする。

柊は相変わらず楓の動作不良を解消しようと奮闘しており、クラカはお行儀よく眺めているだけである。

大体の事情は掴んでいる。皆川万結が持ってきた写真が未来の日付で、そこには硝子の雨にさらされる時永悠真と笹塚未来だと。

背景には中央エリアにしかないゲームセンターと、硝子の雨から体を守ろうとする葛西神楽と竜宮健斗。

玄武明良が把握している限りでは、確かに時永悠真は笹塚未来に誘われて中央エリアに出かけている。

葛西神楽や竜宮健斗も仁寅律音の演奏会に呼ばれているはずなので、同じく中央エリアにいるはず。

もし自然の流れで、皆川万結の持っていた写真が本当に未来の出来事なら、あり得ない話ではない。

だが一つ問題があり、硝子の雨、ということは硝子が大量に割れる事態が起こるということだ。

地震による振動で窓ガラスの歪みか、それとも人為的なものか。一つ言えることは原因もなく硝子の雨が降るということはない。


「明良さん、おそらく硝子の雨の原因は…これかと」


電話の会話を断片的に聞いていたクラカはテレビを指差す。

そこには突然窓ガラスが割れて多くの人が負傷した速報ニュースである。

ニュースでアナウンサーはこのガラスが割れる事件が道を作るように、場所を変えながら断続的に起きているということだ。

まるで誰かが散歩のついでに窓硝子を割っているような気軽さと、経路である。

素材は揃っている。あとはそれを混ぜ合わせるだけの状況になってしまった、と玄武明良は溜息をつく。


「そーいえば…電話向こうのちびっこも遊園地でANDOLL*ACTTIONを聞いていたな」


地底遊園地で玄武明良達は皆川万結に出会った。

そこでは園内中に響き渡る、脳に作用するANDOLL*ACTTIONという楽曲が流れた。

アニマルデータとそのユーザーに多大な影響を及ぼすが、それだけではない。

一般人の脳にも痛覚など感じられないが少なからず影響を及ぼす

それはA*AというANDOLL*ACTTIONを編曲して影響を少なくした歌でも変わらない。


『そこでなんだけど、クローバー博士なら何か知っているんじゃないかな?』


玄武明良達の時代を把握している、未来を生きる天才科学者クローバー。

彼に連絡を取れる方法を時永悠真達は知っており、通信機は玄武明良の家にある。

皆川万結の不安を取り除くためにも早く知りたいと急かす時永悠真の声に、玄武明良は苦々しく答える。


「…ない」

『………え!?壊れたの!?というか壊した!!?』

「壊してないが、ない」

「…楓を介抱している柊の隙を見て、扇動博士と明良さんが仕組み知りたくて解体を…」


玄武明良のデバイスの横からクラカが時永悠真にかいつまんだ説明をする。

一時的な停止をした楓を一刻でも早く復活させ、玄武明良達に魔法使いの弟子について説明しようとした柊。

しかしそれがいけなかった。未来の技術が詰め込まれた通信機はあっという間に工具で解体され、元には戻せるが時間がかかる所まで部品が散らばってしまった。

今は扇動岐路が元に戻しているが、専攻がプログラムなので一般人より少し手慣れた程度のスピードである。


「つーわけで、直ったらこちらから連絡する。じゃあな」

『ちょ、もう時間が…』


玄武明良が扇動岐路の手際の悪さに苛立ち、強制的に通話を終わらせた。

クラカにデバイスを渡し、大股で解体された通信機の元へ向かう。

渡されたデバイスにはない電話番号を入力して、クラカはこっそりある人物に電話をかけた。




青い血の人外に適応する赤い血液の開発。それが青頭千里とマスターが交わした契約である

しかし試験管に並ぶ赤い液体の失敗作を眺める事に飽きてきたマスターは、驚異のコンピュータウイルスAliceの解析に向かう。

青頭千里との契約は無期限であり、マスターの研究を妨げるという契約文書もない。

Aliceはシステムエッグと言われる消失文明が造り上げた、そして滅びる原因となった小型の演算装置である。

演算装置はあらゆる問題に答えを出す。しかし過ぎた望み、不老不死、などの問題には希望の答えと絶望の答えをはじき出す。

宝石をあしらったインペリアルエッグのような美しい外見だが、その仕組みは六人の魔女が関わっている。

かつてはそれでいくつもの悲劇が生まれた。Aliceというウィルスもその一つである。

Aliceは第三者の意向と現場に合わせた適応変化をする、どこでも発生してワクチンの効かないインフルエンザのようなものである。

しかし絶望にしか見えないAliceは、使い方によって、つまり第三者の意向次第では有効な利用方法がある。

マスターはそれを使ってある問題に取り組もうとした。自己中で、なのに自己が崩壊しかけているある子供のために。


それを遮るようにマスターの通信機、電話に連絡が入った。


「うぃっす、こちら不機嫌真っ只中のマスターでござんすが、面白くない話ならノーセンキューだぜ」

『…少しだけ貴方のことわかった気がします。不機嫌だと芝居口調になるんですね』

「クラカか。どうした?故障か?」

『人間的に言えば健康優良児です。実はこちらの通信機が解体されて…そこでマスターからクローバー博士に連絡してもらえないかと』


クラカの申し出に面白そうな事件の気配を感じ取ったマスターは詳しく話せと言う。

そして聞けば聞くほどつり上がる口角にマスターは喜びが隠せないなと笑う。

皆川万結の未来を映した写真、謎の窓ガラスが割れるという事件、中央エリアに集まる要因。

確かにこれはもっと詳しく聞きたいとマスターの好奇心が疼きだして、声が上ずる。


「よし、いいだろう。こちらから連絡を取ってやる」


電話の受話器を片手にマスターは別の通信機を起動させる。

クローバーの技術を盗んで作った、未来のクローバーにこちらから電話をかけられる通信機。

それを起動させて相手が出てくるのを待つ。すると本の山に埋もれたような声が聞こえてくる。


『うぅ…はい、クローバーですけど…』


声と同時にいくつか紙束が崩れ落ちる音がする。

さらには本の山が崩れ落ちる音と、頭にぶつかる音、机にぶつかって割れ物が砕ける音など様々だ。

そしてクローバーが一歩歩く音と同時に紙が潰れる音や水音が響く。

音だけでわかる混迷さにマスターはクラカの通信をクローバーとの通信機に繋げつつ呆れた顔をする。


「部屋片付けろよ…」

『柊くんと楓くんがいた頃は良かった…あと僕の幼い頃とかね』

『確かに美鈴さんは片付けできますね…どうしてこうなったのかしら』

『え、クラカちゃん!?あ、あー…そちらの座標時期は…うん、わかった』


全てを了承した穏やかな声でクローバーはクラカとマスターに皆川万結の能力を告げた。

百%の未来を写真に映し出す、予知を発展させた能力だと。

説明しつつクローバーはクラカになんでマスターと連絡を取れているのか気になっていた。


『クローバー博士はテル友という単語を御存知ですか?』

「女同士の秘密の繋がりに首突っ込んじゃうか、むっつりくん?」

『…色々口出ししたいけど、止めとくよ』


ちゃっかりというか、男性にはわからない女性の繋がりをクローバーは無視することにした。

下手に手を出したらからかわれるか、酷い目にあうだろうということをクローバーは長い人生の中で学んだ。

性別というのは脳の構造でも見られる違いが確実にあるのだ。完全な理解はできなくとも、察知することはできる。

クローバーは渋い顔をしつつ、自分が知っている未来と変わりゆく未来の違いを計算していく。


『魔法使いの弟子というのはある能力集団の名称だよ』

「能力集団…A*Aで目覚めた子供達のことを指すのか?」

『ううん。それよりもずっと前…隠されてきたとか、排他されてきたとか…そんな子供達のことだよ』


世界中で能力、わかりやすく言うと超能力やサイキックというのは認知されてきた。

予言者という存在から人体発火に至るまで、あり得ないと言われることは事例として知られている。

A*Aやアニマルデータの認知により、世界中で能力に目覚める子供が出てきたから少しずつ公認されつつはある。

しかしそれ以前では化け物ような力として恐れられ、認められることはなかった。PSI研究というのも、科学に基づかなければいけなかった。

クローバーは生まれながらの能力者を先天性能力者、A*Aによって目覚めた者を後天性能力者と分別している。

魔法使いの弟子集団は先天性能力者の集まりと伝える。


『僕の過去でもその事件はあったね。でも発生時期や内容は大きくずれている。そんな人を傷つける事件では…』

「…つまり確実にお前が過ごしてきた過去と変化しているのか」

『…対抗策はないでしょうか?』

『あると思うよ。というか…違う未来世界の僕がなにか行動しているかも』

「複数世界理論による未来派生か」


マスターは冷静に言う。クローバーがタイムマシンを作る際に提唱した複数世界理論。

同じ魂は同じ時間に存在することはできない。未来とは選択によっていくつも世界を生み出す複数未来。

過去扇動美鈴であったクローバーは、扇動美鈴がいる時代に存在することはできない。だが未来世界はいくつも平行に存在している。

世界は混じることないが、経歴の違う魂は他の未来に存在することになる。

つまり今クラカ達が体験している時間線上の先にも違うクローバーは存在しているはずで、過去に対してアクションを行っているとクローバーは推理する。

クラカ達と会話しているクローバーはなにもアダムスと時永悠真達だけのことで長生きしたわけじゃない。

様々な要素の中であらゆることに手を出そうとクローバーは名前を変え、体も機械化してまで遥か先の未来まで生きてきたのだ。

だからこそ他の未来世界で自分が長生きして、タイムマシンを作り、過去に手を出していることに確信を持てた。

どんな過去を味わおうが同じ自分の存在を、クローバーは成長しないなと思いつつ理解していた。


『もしかしたら…粋な計らいがあるかも。とりあえず見守ってればいいんじゃないかな?』

「だとよ」

『で、でも…』

『クラカさん。貴方が知ってる僕達はそんなに弱いですか?何も解決できない、ですか?』


昔の、扇動美鈴の頃の口調でクローバーは尋ねる。クラカは首を横に振る。

竜宮健斗達は今まで多くの事に巻き込まれてきた。苦しんでは、進んで、解決してきた。

だからこそクラカはクローバーの問いにこう答えることにした。


『はい。では私は柊さんの通信機が直るのを見守ってます』

『うんうん…うん?こ、壊れた、いや違う!!明良さんと父さんが解体したのかぁああああああああああああああ!!?』


未来とクローバーの技術が詰め込まれた通信機の存続に、珍しくクローバーは声を荒げた。



中央エリアで窓ガラスが割れる事件現場を追いかける存在がいた。

一人は大量のダンボール箱を乗せたL字台車を押し、もう一人は次はあっちだと先走っている。

ダンボール箱は荒々しい運び方により、時たま中身が零れ落ちている。黒い粉末が足跡のように、二人を追いかけているかのように。

L字台車を押している者は文句が言いたくても息を吸うのが精一杯で、苛立ちだけをつのらせる。

とりあえず立ち止まって一段落したら目の前を先走る馬鹿に対して、手に入れた紙製の哲学辞書の角を頭にぶつけようと決めた。


早く北エリアに戻りたいという時永悠真に対して、笹塚未来は愛らしい顔を膨らませる。

どう見ても外面は美少女なので通りすがる人達は可愛いと目を惹かれるのだが、内心ではふざけてんじゃねぇぞこのやろーという暴言の嵐である。

そこで少しでも長く引き留めたい笹塚未来はゲームセンタープライズ新商品のポスターを指差す。


「これ!!これ欲しい!!!」

「はぁ?これって…路地裏ニャルカさんのぬいぐるみ…特大サイズねぇ…」


子供が腕一杯に抱けそうなアニメキャラクターの賞品である。

取るにはそれなりの金額と時間、そして運が必要なUFOキャッチャーでもある。

路地裏ニャルカさんはちなみに子供向けアニメの大人気キャラクターで、新商品のぬいぐるみは三種類。

黒猫で二つの尾を持つニャルカさん、ひよこで頭に毛が三本生えてるピースケ、ニャルカさんのライバルであり親友の白猫ハクヤン。

時永悠真は初めて見るアニメキャラクターだが、笹塚未来を始めとした多くの子供達が知っている、大人も大好きニャルカさんである。


「ニャガミさんじゃなくて、この時代ではニャルカさんが流行ってる予感…」

「なんだよニャガミって」

「知らないの!?ユルキモカワ代表マスコットキャラクター、人の頭に齧りついて脳味噌啜る猫型帽子ニャガミさんだよ!!」

「知らねーし、流行ってたまるかそんなキモイの!!いいからニャルカさんぬいぐるみ取るまで北エリアには帰らせねーぞ、ボケェ!!!」


時永悠真の胸ぐらを掴み、揺さぶり、そして下から睨むような上目遣いで笹塚未来はお願いをする。

しかし時永悠真からしたら脅迫であり、敵わないだろうなと諦めた時永悠真はゲームセンターの扉前に設置された目玉商品UFOキャッチャーに挑むことになる。

お店の方でも簡単には取れない配置工夫がされているUFOキャッチャーに、悪戦苦闘しており時間が経つのも忘れてしまった。

そしていけるかとおもっては落ちないぬいぐるみを見て悲痛な声を出す二人に、竜宮健斗が気付いた。


「おーい、悠真と未来じゃん。どうしたんだよ?」

「うげっ!?お邪魔虫…」


最近では嫌悪は減ったが苦手に変わりない竜宮健斗の顔を見て、笹塚未来は苦い声を出す。

明るくて考え無しで前向きなその性格が、笹塚未来には将来のこと何も考えてないように映るのだ。

なにより最初から考え方が真逆なのだ。女関係や乙女心にも鈍い竜宮健斗は見てて苛立つというのもある。

そして竜宮健斗以外には崋山優香や葛西神楽に錦山善彦、そして不機嫌そうな籠鳥那岐にじゃれつく御堂霧乃がいた。


「うぃーす、なにそっちもデート?」

「え?霧乃ちゃんと那岐くん付き合ってたの?」

「世界が崩壊してもあってたまるか、そんなこと」


そこで偶然にもあったのだとじゃれつく御堂霧乃を引きはがしながら、籠鳥那岐は面倒そうに言う。

実際に本当に街中でケーキバイキングに入ろうとした御堂霧乃が籠鳥那岐を見つけただけなのだ。

そして嫌がらせ半分、からかい半分という本気のほの字も見つからない接触をしたのだ。

籠鳥那岐と御堂霧乃はお互いに死んでしまった少女が好きすぎて、そしてお互い理解することはあっても交際はあり得ないと断言できる仲だった。

錦山善彦は短くないつきあいの中でそれを十分に知りながらも、そんだけ体密着させといて付き合ってないとか頭おかしいのではないかとも思ってしまうのだ。

また崋山優香からしたらその大胆な触れ合いに少しだけ羨望を抱くが、真似できないと顔を真っ赤にさせる。

葛西神楽は俺も早く彼女ってものを作ってみたいというが、誰もがその小さな体の頭の頂点の高さを見てしまう。


「僕は未来ちゃんに脅されて、景品取ってる最中」

「脅しじゃねぇ、お願いだ!」


あまり説得力のない笹塚未来の言葉に崋山優香は苦笑いをする。

すると時永悠真が集中して見ていたUFOキャッチャーのガラスケースが唐突にひび割れる。

時永悠真は驚いて思わず身を引いてしまい、笹塚未来の体にぶつかってしまう。


「いってーな!」

「あ、ごめん…じゃなくて、なんか急にひび割れて…」


時永悠真の言葉と同時に遠くから小さな悲鳴が聞こえてくる。

竜宮健斗達が振り向けば、慌てた通行人達がなにかから逃げるように走っている。

すると曲がり角から一人の少年が現れた。インナーイヤホンを耳に詰めた音楽を聞いている少年だ。

目の前で割れたUFOキャッチャーのケースに悲鳴、そして鼻唄を歌う少年が近づいてきたのを見て錦山善彦は自分の中に流れてくる情報を確認する。

その感覚は錦山善彦にとって能力が作動した時のそれで、集まった情報を元に目の前の少年が能力者であることと、次に出る行動が目に見えた。


「あかん!!全員屋根の下か硝子から離れるんや!!もしくは頭を守れ!!」


そう叫んだ次の瞬間には少年が口を開く。喉を震わせて音にもならない声をだす。

正確には人間の耳には捉えられないほどの高周波の音である。聞こえなくとも音は空気を振動させる。

空気の振動によって空気に触れている物は全て震え、窓ガラスが高周波の代わりに振動音を出す。

そして耐え切れなくなりひび割れ、弾けるように吹き飛ぶ。窓は人間の生活範囲内に多く存在する日常品だ。

ビルでもガラス張りの構造が多く、ゲームセンターでは商品を入れて遊ばせるガラスケースが多く存在する。

そして運悪く竜宮健斗達はそのゲームセンターの近くにいた。時永悠真は庇うように笹塚未来を抱きかかえる。

竜宮健斗もとっさの判断で崋山優香を包み込むように抱き、錦山善彦と葛西神楽は頭を守るように腕を交差する。

籠鳥那岐は近くにあったダンボール箱を素早く御堂霧乃に被せ、自分の体の下に位置するように跪かせる。

硝子はいくつも割れて雨のように子供達の上に振ってくる。音楽を聞いていた少年はそれを見て笑うだけだった。


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