なつのおわり。
初めての投稿です。
超短編になり、あまり濃く書けなかったかもしれませんが、読んでいただければ幸いです。
また、この季節がやってきた。
8月31日。
夏休み最後の日。
母に昨年からの着回しの浴衣を着せられ、髪を綺麗に結い上げた妹に促されるまま庭に出ると、ぬるい空気にじっとりとした雨の気配が混ざり、独特の匂いがした。
母がろうそくを持って来て、地面に少し掘った穴に差し込んで火をつける。
妹と私ははしゃぎながら花火の袋を開け、出した花火をテープからはがし、どれから火をつけるか考え込む。
遠くから、鳴く時間を間違えたあぶら蝉の声が聞こえる。
やがて、妹の手に握られた箒型の花火から、目の眩むような桃色の火がシュー、という音と共に吹き出る。
私も負けじと適当な花火を持ち火をつける。
緑色の火が吹き出て、煙で一瞬涙目になった。
縁側には母が腰掛けて笑いながら私たちを見ている。
縁側から和室を挟んだ台所のテーブルの上には、もうじき帰ってくる父のためにラップのかけてある夕飯の残りが見える。
バケツの中の水に消えた花火を差し込むと、ジュッと大きな音がして、私は一瞬驚いて目を見開いた。
妹は、両手に花火を持ち、振り回して母に叱られている。
私はそれをからかいながら今度は松葉花火を手にして火をつけ、大きな火の玉から出る無数の流星のような雨に見とれた。
やがて、派手な花火はなくなり、線香花火のみが残った。
妹はつまらない、とつぶやき、縁側に腰掛けて母の用意したカルピスを飲んでいる。
私はひとり線香花火に火をつけ、その儚い輝きをじっと見つめた。
夏が、終わる。
明日からまた友達との騒がしい日々が始まるのだろう。
夏休みで真っ黒に日焼けした男子が今年は何人いるのだろう。
友達の旅行のお土産話も楽しみだ。
けれども、どこか胸の締め付けられるような切ない感覚で私は少し泣きそうになっていた。
しゅん、と小さな音を立てて線香花火が燃え尽きる。
私は立ち上がり、ふと庭の外れを見た。
そこには、一週間前まで元気に咲いていた向日葵が朽ちてしおれていた。
私は思わず歩み寄ると、そっと花を撫でた。ポロッと種がこぼれ、地面に落ちる。
来年、この花の子供はこの花のように鮮やかに綺麗に咲いてくれるだろうか。
そして、またこうして朽ちて行くのだろうか。
切ない気持ちに浸っていると、母の呼ぶ声が聞こえ、振り向くと母と妹は既に片付けを始めていた。
私も向日葵の種を
「この夏の記念」として握りしめ、母のもとに向かった。
ー夏の、終わりー