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少女Aと初デート

「カズ君は私のこと、好き?」


少し顔を赤らめて問いかける幼い少女。


「うん、大好き!」


恥ずかしげもなく答える幼い僕。


青島あかりとデート?することになってしまった日の夢。


そうだ!


昨日、彼女も僕に、『カズ君』と呼び掛けてきたんだ。


夢の中の少女と、青島あかりは何か関係があるのか?


…そんなはずはないか、と思い苦笑いする。


聞き間違いか、僕の勘違いだよ…、きっと。







その日、僕は憂鬱な気分のまま駅に向かう。


何でこんなことになっているんだ?


同じ学校の奴らに見つかったら、何を言われるか分かったもんじゃない!


それに、山本さんに会ったりでもしたら、また変な誤解をされかねない。



駅に着くと、彼女はすぐに見つかった。


私服姿の彼女は、同年代の女の子に比べてずっと大人っぽく、可愛く見えたから…。


ん?あれ?彼女の隣に誰かいるぞ?


彼女は僕を見つけると、笑顔で小さく手を振る。


何だよ、ちゃんと笑えるじゃん!


彼女の隣にいるのは、小さな少女だった。


彼女の手をしっかり握り、近付く僕に微笑む少女。


なんだ…、二人きりじゃないのか…。


ホッとしたような、残念なような複雑な気持ち…。


「ごめん、待たせちゃった?」


「大丈夫、今来たとこだから。」


待ち合わせていたカップルがする型通りの挨拶をしながら、彼女の横にいる少女が気になる。


この顔、どこかで見た気が…。


こんなに小さい友達なんかいるわけもないから、間違いなく初めて会ったはずなんだが…。


「あっ、この子、私の妹。ほら、ちゃんと挨拶して。」


僕の視線に気付いた彼女が、隣の少女を紹介する。


「青島ほのかです。五歳です。今日は動物園に連れてってくれてありがとう!」


しっかりした子だ。


彼女の妹なら納得だ。


姉妹だけあってよく似てる。


それで見たことがある気がするのだろう。


「この子が、動物園に行きたいって言ったんだけど、ここの近くの動物園の場所がよく分からなくて。小さい頃、行った記憶があるけど、行き方なんて覚えていないから。」


妹が一緒だからか、いつもの刺々しさもなく話す彼女。


ん?小さい頃、行ったって?


彼女は小さい頃、この近所に住んでいたことがあるのか?







動物園へは、電車で二駅先、そこから歩いて十分ぐらいの距離。


ほのかちゃんは、電車の中ではしゃいでいた。


それを注意する彼女も、楽しそうだった。


それにしても、今日の彼女はよく笑う。


今まで、こんな笑顔、一度も見たことないぞ。







「和志お兄ちゃんも、手をつなごうよ!」


彼女、ほのかちゃん、僕、という並びで、手をつないで歩く三人。


はたから見たら、親子に見えたりして…。


…親子にしては僕達は若すぎるな…。


せいぜい、仲の良い兄妹というところだな…。


そんなバカなことを考えてたら、恥ずかしくなり、顔が紅くなった気がした。


チラッと彼女を見ると、目が合ってしまい慌ててそらしてしまう。


「…やっぱり…、覚えてないんだね…。」


彼女が悲しそうに呟く。


「えっ!何を?」


慌てて聞き返すも、彼女は何も答えてくれなかった。







園内を歩き回ると、疲れもするし、腹も減る。


ちょうど売店も見つけた。


「腹減ったから休憩しようよ。売店で何か買ってくる。」


二人に背を向け、食べ物を買いに行こうとすると、


「私、お弁当作ってきたから、一緒に食べようよ!」


と背中で声がした。


「えっ!何を?」


思わず聞き返す。


「だから、お弁当!」


「誰が?」


「だから、私が作ってきた!」


「僕の分も?」


「だからそう言ってるでしょ!」


「…。」


失礼ながら、唖然としてしまった。


「何よ、その顔は!」


「あっ、ごめん。ちょっと意外だったから。」


『意外』って何だ!


何を失礼なことを言ってるんだ、僕は!


「失礼な奴!こう見えても料理は得意なんだから。嫌なら食べるな!」


「ごめんなさい。食べます。…じゃあ飲み物買って来るよ。何がいい?奢るよ!」


「烏龍茶。」


と彼女。


「和志お兄ちゃん、私はオレンジジュース!」


「了解!」


何か、ズキュンってきた…。


すごくドキドキした…。







その日の帰り、動物園の最寄駅の改札に入る前の出来事。


「ちょっとトイレ寄ってくる。」


電車が来るまで少し時間があったからトイレに寄った。


「私も!」


ほのかちゃんもだ。


「じゃあ、そこで待ってるから。」


ここで一旦彼女と別れ、用を足してトイレから出てくると、彼女は二人組の男と話していた。


ん?知り合いか?


イヤ、違う。ナンパだ!


やっぱり、彼女は可愛いから目立つもんなぁ…。


…って感心してる場合じゃない!


助けないと!と思い走りだそうとした瞬間だった。


彼女は腕を掴んできた男の腕をとると、いとも簡単に投げ飛ばしてしまった。


彼女が男達に何か言うと、彼らは逃げるようにどこかへ行ってしまった。



「…つ、強いんだね…。」


驚きを隠せないまま声を掛けると、


「…!見てた…の?…合気道…やってたから…。」


彼女は恥ずかしそうに答える。


別に照れることじゃないのに。







駅前で彼女達と別れると、彼女について分かったことを整理する。



彼女には妹がいること。


昔はこの街に住んでいたかも知れないということ。


妹の前ではよく笑うこと。


料理は得意。


合気道をやっていて、男を簡単に投げ飛ばすことが出来る。



僕の中では、もう謎の転校生『少女A』ではなくなっていた。







寝る前に、ほのかちゃんと二人きりになった時に、少し話をしたことを思い出す。


「ねぇ、和志お兄ちゃんは、あかりちゃんの彼氏なの?」


どこでそういうことを覚えるんだか…。


「違う…と思う。」


何で言い切らないんだ、僕は…。


「そうなの?昨日のあかりちゃん、いつもよりはしゃいでいたし、今日も早起きしてお弁当も作ってたから、一緒に行くのは、あかりちゃんの彼氏だと思ったのに。」


「残念ながら…。」


『残念』てどういうことだよ…。


僕は何をがっかりしているんだ?



その日はなかなか寝付けなかった…。








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