表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

少女Aの黒い噂

「君の家って、この近くなの?」


幼い僕が、一緒に遊んでいる少女に話し掛ける。


「うん。」


うなずく少女。


「また明日も一緒に遊ぼうよ!」


「うん、いいよ!」


満面の笑みでうなずく少女。


「バイバイ、また明日!」


何度も振り返り、手を振る僕。


その少女も、笑顔で手を振り続けていた。



僕が少女と初めて出会った日の夢のようだった。


続けて同じ少女の夢を見るということは、僕はその少女に会ったことがあるのだろう。


僕が忘れしまったその少女は、一体誰なんだろう?


親しげに遊んでいた子なのに、忘れてしまった理由はなんだろう?







その日、事件は学校に着くとすぐに起こった。


「ねぇ、青島さんて頭いいんだよね?どこの高校に行ってたの?あとそれから『あかり』って呼んでもいい?」


学校に着くと、愛美は『少女A友達化計画』を実行に移すべく、矢継ぎ早に青島さんに質問をぶつける。


彼女はそんな愛美に、一瞬、眉をひそめた。


愛美は彼女の表情の変化に気付かない。


ヤバイ、キレるかも!


本能的にそう感じた僕は、愛美を制するべく声を掛けようとしたが…。


「……さい…。」


遅かった…。


「え?なに、なに?」


彼女の言葉は、愛美には聞こえなかったようだ。


愛美のバカ!


「…うるさいって言ってんの!気安く話し掛けないで!」


彼女はそう言うと、教室を出て行ってしまった。


「…何よ…、あれ…。」


唖然とする愛美は、やっとのことでそう呟いた。



僕はメンドくさいことになったと、頭を抱えるしかなかった。



彼女は朝のHRには戻ってきたが、しばらくは近付く人がいなくなるかも知れない。


二日目にして僕はもうお手上げだ。


山本さん、後は宜しく…。






「ねぇ、教科書見せてよ。」


その日の授業が始まると、青島さんに声を掛けられる。


彼女は、まだ教科書をもらっていなかった


隣に座っているのに、そんなことにも気付かないなんて、僕は朝の出来事にまだ動揺していたのだろう。


「あっ、ごめん、気が利かなくて。」


慌てて教科書を彼女の方に置き直し、机を少し寄せる。


あっ、また少し微笑んだ!


一瞬だけど、確かに…。


彼女も少し机を寄せてくる。


おっ、…謎のいいにおい!


近付いてきた彼女から、ほのかに香水?のにおいがした。







その日から当然のように、彼女は孤立する。


僕は何も出来ない…。


山本さんも、どうしたらいいか困惑しているようだ。


山本さん、役に立たない僕で申し訳ありません…。



愛美は、いきなり挫折した『友達化計画』を、早くも諦めたようだ。


「ねぇ、和志。いきなりあの態度はないと思わない?」


その日の帰り道、愛美はかなり怒っていた。


「空気が読めないお前が悪い。」


だってあの時、青島さんは明らかに鬱陶しそうだったから。


「ふーん、和志は彼女の肩を持つんだ。」


愛美はそう言って拗ねてしまった。


女ってどうしてこうもメンドくさいのか…。







それから程なくして、青島あかりの噂が立ち始める。



転校して来た理由は、援助交際をしていたのが、学校にバレたからだ。


妊娠して中絶したのが、周りに知られてしまったからだ。


先生と付き合ってたのがバレたからだ。


いや、先生を殴ったからだ。



根も葉もない噂とはこのことだろう。



「なぁ、和志。青島の例の噂どう思う?」


健司は彼女の『黒い噂』が気になる様子。


「どう思うって、あんなの嘘に決まってるだろ。第一、彼女の前の学校すら誰も知らないだろ?彼女は何も言わないし…。」


「…まぁ、そうなんだけどな…。」


健司もどうにも歯切れが悪い。







新学期が始まってから十日ぐらいたった頃、昼休みに、山本さんに話があると呼び止められた。


これってもしかして告白……?


…そんなわけはなく、やはり青島あかりのことだった。


「青島さんは今のままじゃ孤立する一方だと思うの。それで、彼女に武田君からみんなに心を開くように、それとなく言って見て欲しいの。」


山本さん、それは僕には少し荷が重い気が…。


「僕の話だって聞いてくれるかどうか…。」


愛美の時の二の舞になるかも知れないし…。


「多分、大丈夫だよ。青島さんは、武田君には少し心を開いているから。」


山本さんに笑顔でお願いされると…、断れないよ。


「やるだけやってみるけど…。」


僕はどうして頼みごとを断れないのだろう?


「じゃあ、お願いね!」


はぁー、山本さんの笑顔は何て可愛いんだ…。


イヤイヤ、そうじゃない。


メンドくさい…。







その日の午後は、どうやって青島さんに話そうか考えていたが、放課後に思い切って声を掛けた。


「…あのさぁ、青島さん!」


「何?」


返事に少しトゲがあったが、話は聞いてくれるようだ。


「前の学校で、仲がいい子とかいたの?」


ちょっと遠回し過ぎたかな?


「…?少しはいたけど、仲良くなる前に転校したから。」


彼女は、質問の意図を図りかねているようだ。


「和志、帰ろうよ!」


「ごめん、愛美。ちょっと用事あるから先に帰ってて!」


愛美に呼び掛けられたが、今日は青島さんと話をしなければいけないと思った。


「それで話の続きだけど、青島さんは、この学校で友達は作らないの?」


「…あかり…。」


「…?」


「…だから、私の名前。」


「…青島さん?」


「だから、あ・か・り。」


そう呼べってことか?


「あかりさん?」


「…『さん』?」


「…あかり…ちゃん。」


「まあ、それでいいか。」


何で呼び方にこだわっているんだ?


少し顔が紅い彼女。


もしかして、怒らせてしまったか…。


「ねぇ、話…長くなる?私、このあと用事があるんだけど。」


「あー、ごめん。…帰りながらでもいいかな?」


機会を改めても良かったが、先に伸ばしちゃいけない気がした。


「…。」


無言でうなずく彼女。







一緒に帰ることにしたはいいが、僕は困ってしまった。


僕の質問に青島さんは答えてくれないし、どうやって続きを切り出すか悩んでいた。


「…ねぇ、あんたって、高橋さんと付き合ってるの?」


突然、彼女から話し掛けられ、ビクッとする僕。


「付き合ってないけど…何で?」


「親しげに下の名前で呼んだりとか…、一緒に来たり、帰ったりしてるから…。」


「アイツとは小学校からの腐れ縁。そういう色恋沙汰にはならないよ。多分、アイツもそう思ってると思うよ。」


「向こうは違うかも知れないけどね…。」


「…?」


彼女の言葉の意味が理解出来ず、何にこだわっているのかも分からなかった。



その後はまた無言が続く。







「…カズ君…って、動物園に行ったことある?」


「!??」


電車を降り、改札を抜けた時、彼女が再び口を開く。


今までの話の流れと、動物園はどんな関係があるんだ?


それより今、『カズ君』と呼ばれなかったか?


「明日、学校休みだから、動物園に連れてってよ!朝十時、駅の改札前に集合!じゃあね!」


彼女は、そう言い残して走り去ってしまった。


断る余地がなかった…。


女の子とデートすることになったのに、混乱していた僕は全く喜べなかった。


事態は更に、メンドくさいことになった…。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ